東方絆紡録   作:空亡之尊

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解放されし神々

神無 悠月side

 

 

「……やれやれ、またか」

 

 

俺は頭を掻きながら溜息を吐いた。

久しぶりに見る明晰夢、幻想郷(ここ)に来て四度目にもなるが、今回は何かが違う。

目の前に見えるのは、俺の実家である九十九神社、手水舎や鳥居の他に何もないクセに無駄に広い境内、賽銭箱の前には、幼い頃の自分が静かに寝ていた。

 

 

「なんともかわいくないガキだな」

 

 

俺は幼い自分の寝顔を見て自嘲するように笑った。

昔はあまり人付き合いも得意ではなく、専ら神社の蔵にある本を読んで過ごしているか、こうやって昼寝して過ごすことが多かった。そう思うと、俺の周りは賑やかになったものだ。

 

そんな事を思っていると、ページを捲るように場面が変わり、幼い自分の前に一人の女の子が現れた。その子は自分に対して明るい調子で話しかけているが、当の本人は無関心そうな目でそれを見つめている。

 

 

「……誰だったっけ」

 

 

俺はその光景を眺めながら、頭の中でその子の事を思い出そうとしていた。

しかし、いくら記憶を辿っても、その女の子の事が思い出せない。いくら関心がなかったあの頃だったとしても、あんな子なら嫌でも記憶に残っているはずだ。

 

奇妙な違和感を抱きながら、俺はその光景を眺め続ける。

すると、女の子が強引に自分の手を引いて走りだす。その時、二人は俺をすり抜けるようにして過ぎ去っていく。

 

 

「あれは……」

 

 

俺は振り返って通り過ぎた二人を眺める。

一瞬見えた蛙の髪飾り、何故かそれを見ると昔の記憶が朧げ蘇ってきた。だが、まだそれ霧が掛かっているようにはっきりとしない。

 

 

「一体なにが……」

「――人なんてその程度だ」

 

 

俺は咄嗟に聞こえてきた方へと振り向くと、そこには一人の少女が居た。

長い緑髪、黒と蒼を基調とした巫女服、蛙と白蛇の髪飾りを付けている。その表情は、今まで見てきた堕ち神と同じ雰囲気を漂わせていた。

俺は身構えもせずに、その少女を見つめる。

 

 

「今度お前か」

「――人が神に抗うなんて、バカの考えること」

「堕ちた神風情が」

「――私を倒してみせろ、人間」

 

 

少女はそう言ってムカつくような笑顔でそう言った。

しかし、その言葉とは裏腹に、少女はそれ懇願しているように見えた。

 

 

 

少年祈祷中

 

 

 

「……という事があってだな」

「これまた奇妙な夢ですね」

「ああ、俺もそう思う」

 

 

俺は庭に落ちた葉を箒ではたきながらそう言った。紅く染まる葉は綺麗な物だ。

縁側に座る月美はそれを眺めながら俺の話を聞いている。

しかし、月美の興味は堕ち神の事ではなく、夢で見た女の子の方に向いているようだ。

 

 

「でも、ユウキの幼い頃に『もう一人』友達がいたんですね」

「おい、その言葉だと俺に友達がいなかったみたいになるじゃねえか」

「実際にはそうでしょう?」

「……否定することも出来ねえな」

 

 

俺は話を逸らすように掃除に戻る。

確かにあの頃の俺には友達と呼べる人間なんて『あいつ』しかいなかったからな。

 

 

「……でも、ユウキは憶えていないんですよね?」

「ああ。思い出せることと言えば、目の前にいるバカと同じくお節介だったってことだ」

「バカはともかく、結構優しい子だったんですね」

「当の俺は他人を見るのと同じだったけどな」

「その辺は相変わらず、と言ったところでしょうか」

「残念ながら、そういう事だ」

 

 

俺は呆れるように笑い、集めた落ち葉をまとめて境内へと向かう。

すると、そこには如何にもご立腹な霊夢とそれを宥めようとしている魔理沙の姿があった。

 

 

「どうしたんだ、賽銭でも盗まれたか?」

「ここには盗むほどの賽銭もないだろ」

「それもそうですね。あははは」

「アンタたち、新しい装備の練習台にするわよ?」

 

 

霊夢は振り向くと、正に鬼のような顔で俺たちを睨みつけた。これは完全にキレている。

彼女がさっきまで見ていた方を見てみると、向こうに見慣れない人が飛んでいくのが見えた。

 

 

「あれは……」

「それが、最近幻想入りした人間なんだけど、この神社を譲り渡せって啖呵切ってきたんだよ」

「霊夢さんにそんな事を言うなんて、怖れ知らずですね」

「まったく。お陰で霊夢はこの調子だしな」

「あの緑巫女、舐めたことを……‼」

 

 

ご立腹な霊夢を尻目に、俺は飛んでいく人影を目で追う。

遠くからでもわかるような緑色の髪を風になびかせながら、それはとある山へと飛んでいく。

 

 

「霊夢、あの山は?」

「妖怪の山よ。あそこには天狗やら河童が住んでる事で有名よ」

「へえ~そんな所があったんですね」

「でも、あそこの連中で閉鎖的な上に外部の奴には容赦がないことでも有名よ」

「一度はいれば殺すほどの勢いで追い返さられる。嫌な奴等だぜ」

 

 

二人は口々にそう言うが、その表情は違っていた。

 

 

「でも、行くつもりですよね?」

「もちろんよ。私も、ただ言われるだけってのは癪以外の何物でもないわ」

「私も行くぜ。どうせだ、河童の技術にも興味があるからな」

「相変わらずだな」

「そういうアンタも行く気でしょ?」

「……あの巫女が気になるからな」

「そう。気を付けなさいよ」

 

 

霊夢は聞き流すと、俺を一瞥して神社の裏へと消えていく。それに魔理沙もついて行く。

 

 

「月美」

「わかってますよ。さっきの人、夢で見たそのと同じですよね」

「ああ。それに、記憶にない友達の面影もあったからな」

「流石、視力2.5ですね」

「最近は3.0まで上がった」

「天井知らずですね」

「そんなことはどうでもいい。行くぞ」

「はいはい。精々、追い返されないように頑張りますか」

「そうだな」

 

 

俺は鳥居の下からから妖怪の山を臨んだ。

この先、何か嫌な予感がするが、いつもの事だろう。

 

 

 

???side

 

 

「あ~らら、さなちゃんも無理するな」

 

 

俺は鳥居の上に座って博麗神社方面から飛んでくるさなちゃんを見つめる。

信仰を得るために博麗神社の譲り渡しを言いに行ったけど、あそこの巫女って『鬼巫女』って言われるほど怒らせると怖いって噂だからな~。

 

 

「このままだと殴りこんできそうだね」

『呑気ね』

 

 

楽しそうに笑う俺に、手元のスマホから呆れたような声が聞こえた。

 

 

「いいじゃないか。人生楽しまなきゃ損だ」

『相変わらず、楽天家ね』

「君もだよ」

『アンタには言われたくない』

「ははは。……さて、ということはアイツも来るんだろうな」

 

 

俺は博麗神社をじっと見つめる。

そこには予想通り、アイツがこちらを、妖怪の山を見つめている。

 

 

『ユウキの事?』

「どうせアイツの事だ。来るに決まってる」

『どうするの?』

「当然、お楽しみは見物するに限る」

『趣味が悪いわね』

「まあ、久々の再会を楽しむのもまた一興だ」

 

 

俺は鳥居の上に立って指鉄砲の構えをして悠月へと向ける。

この先、面白そうな予感がするが、どうやらそれ以上の事が起こりそうだ。

 

 

 

 

 




空亡「久しぶりに書いたので文章力が……」
美羽「いつものことよ。気にしたら負け」
空亡「そうですね」
美羽「それより、私がここにいるってことは出番がないのね」
空亡「余裕がないので仕方ないです」
美羽「別にいいわ。今は博麗神社の騒動を見て楽しんでいるから」
空亡「性格悪いですね」
美羽「前からよ。まあ、バカ騒ぎなんていつものことだけどね」


次回予告
妖怪の山へと足を踏み入れた一行、秋の彩りに目を奪われる。
東方風神録、現人神様を叱りに行くから、どうぞお楽しみに。
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