神無悠月side
「厄日だな」
俺は道なき道を歩きながらそう呟いた。
秋姉妹と別れた後、俺は自分の勘を信じて進んでいたが、どうやら道を外れて樹海に紛れ込んでしまったようだ。方向音痴にもほどがあるだろ。
そんな風に彷徨い歩いていると、スマホの奥から月美が顔を出した。その目はすっかり疲れ切っている。
『ユウキは相変わらずですね……』
「無理して出てくるな」
『無双系のゲームをして気が紛れませんし、このままじっとしておくと億劫になりますから』
「それで暴走するなよ」
『しませんよ。私を何だと思っているんですか?』
「無駄にテンションが高いお節介」
『ヒドイ‼』
そんな話をしながら歩いていると、俺の耳に川の流れる音が聞こえてきた。
聞こえた方へと歩みを進めると、太陽の日差しと共に綺麗な小川が俺たちを出迎えた。
『川がありますね』
「ああ」
『これを辿れば山頂まで行けそうですね』
「そうだな」
『どうしたのですか? そんなに嬉しそうでもないですけど』
「見てみろ」
『え?』
俺はスマホを川の方へと向ける。
俺たちの視線の先には川のほとりに流れ着いている雛人形があった。
『流し雛、ですか』
「随分前のが残ってるんだろうな。ったく、縁起が悪い」
『そんなこと言ったら悪いですよ』
「わかってるよ」
『でも、こんな時期に見かけるなんて……』
「珍しいこともあるもんだな」
俺は川辺まで言って雛人形を手に取りながらそう呟いた。
「あら、人間がここに来るなんて珍しいわね」
そんな声が聞こえ、ゆっくりと振り返るとそこには一人の少女が居た。
後ろからサイドにかけて胸元で一本にまとめた緑髪、ゴスロリ風の赤いワンピース、頭にはフリル付きの暗い赤色のヘッドドレス、腕にはそれと同じリボンが巻かれている。なんだか落ち着いている感じがする。
少女はにっこりと微笑みながら俺たちの方へと歩み寄ってきた。
「ここは人間には危ないから帰った方がいいわよ」
「そうかもな。でも、手ぶらで帰るのは何かと物寂しいんだよな」
「あら、どうやったら帰ってくれるのかしら?」
「山頂にいるっていう神様を拝みに行くだけだ」
「そう。一応止めておきたいけど、心配ないようね」
少女は俺を頭から爪先まで見るように視線を巡らせるとそう呟いた。
『その根拠は何ですか?』
「貴方から漂う“厄”を見ればわかるわよ」
『厄?』
「私は厄神だから、そう言うのがよく見えるのよ」
「それはそれは、結構大変な種族だな」
「その口振りだと、知ってるみたいね」
「大体な」
厄神、厄をもたらすか取り除くかを得意とする神様の事を指す。しかし、月美の様子を見るに、どうやら妖怪の一部だと考えた方がいいだろう。
『ちなみにユウキの厄はどんな感じですか?』
「はっきり言って、普通の人だったら生きてるのが不思議なぐらい強力ね」
『まあ、ユウキは厄介事によく巻き込まれますからね』
「おい。そこで納得してんじゃねえ」
俺はスマホを弾いて月美を小突く。
「こんな厄に憑りつかれてるのに平気でいられるのなら、この先に進んでも大丈夫でしょう」
「納得できなねえ」
『ユウキだったら厄なんてもろともしないでしょ?』
「まあな」
「仲が良いわね」
「こいつが馴れ馴れしいだけだ」
『こう言ってますけど、まんざらでもないんですよ』
「うるさい」
「うふふ」
少女は俺たちのやり取りを見て笑う。
「そういえば、自己紹介がまだだったわね。私は鍵山雛よ」
『夢燈月美です。一応ユウキの相方です』
「神無悠月、見ての通り普通の人間だ」
「『嘘』」
「お前らな」
「まあ、おふざけはこのくらいにしておきましょうか」
『そうですね。霊夢さんたちが来る前に山頂には行きたいですからね』
「なら、この先にある滝の近くに近道があるわ」
『それはいいことを聞きました。早速向かいましょう』
「ああ。……それじゃあ、またな」
俺は雛に手を振ると、川上に沿って歩き出した。
明星美羽side
「まーた厄介なことが起こりそうな予感がするわね」
「そんな予感より、今は掃除に専念しなさい」
「はーい」
「……そういえば、妖怪の山に神様が引っ越してきたらしい」
「へえ、神様も幻想入りするものなんですね」
「……事情はあるみたいだな。新聞にそう言う風に書いてたし」
「またあの新聞読んでるのね。処分に困るからよしなさい」
「アンタたちも相変わらずね」
「それも長くは続かないと思うわよ」
「なんで?」
「なんでも、今回幻想入りさせた“部活メンバー”が――らしいわよ」
「ってことは、もしかしてあの人が来るってことですか?」
「そういうことになるわね」
「この時期に来るのね…………」
「「「「生徒会風紀委員長…………か、はあぁ」」」」
空亡「文章力ェ……」
美羽「いちいち嘆かないの。それより、ユウキの厄ってひどいのね」
空亡「C4の地雷原を裸足で一直線に走るものですよ」
美羽「普通だったら死んでるわね」
空亡「それくらいすごいってことですよ」
美羽「いや、それ以上に厄介な事がこっちで起ころうとしてるんだけど」
空亡「当然ですよ。今回のオリキャラのライバル役も登場させないと」
美羽「だからって、なんであの堅物が来るのよ!?」
空亡「気分ですよ」
美羽「気分でこっちのパーティ全員頭抱えてるんだけど……」
次回予告
河童が住むといわれる河、見えない視線は気のせいか、それとも河童の好奇か?
東方風神録、名も無き作者の御伽話、どうぞお楽しみに。