東方絆紡録   作:空亡之尊

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フォールオブハウンド ~鯉の滝登り~

神無悠月side

 

 

「……これはきつそうだな」

 

 

俺は目の前に流れている滝を見上げながらそう呟いた。

天まで届きそうなほど高く、まるで土砂降りでも降っているかのように滝水が降り注いでくる。

この下で滝修行なんてしてたら、寒さというより身体のほうが持たないだろうな。

隣に立つ月美はそれを見上げて目を丸くしている。

 

 

「うわあ……凄いですね」

「ああ」

「これを登るとなると大変ですね」

「そうだな」

「どうする気ですか?」

「気合で登るしか選択肢がないだろ」

「それもそうですけど」

「念の為、お前は中に入ってろ」

「はーい」

 

 

月美がそう言ってスマホの方に向こうとしたその時、滝壷の水面に影が見えた。

俺と月美は咄嗟にそっちを向くと、それは湖面を揺らめかせながらこっちに向かってきているようだった。

 

 

「なんでしょう……物凄く嫌な予感がします」

「奇遇だな。俺もだ」

 

 

俺たちが口々にそう言うと、水飛沫を上げてそれは浮上してきた。

目の前に降り注がれる水飛沫、その先にいたのは湖面に揺蕩う一匹の大きな鯉だった。

月美はそれを見て呆気にとられていたが、俺はコイツの事を微かに覚えていた。

 

 

「久しぶりだな。霧の湖で釣り上げた時以来か」

『よくそんなことを覚えていたな。神無』

 

 

目の前の怪魚は上機嫌に尾ひれをユラユラと揺らした。

霧の湖の怪魚、少し前に噂になっていたので一目見ようと釣り上げたことのある。と言っても、見たの一瞬だけで、すぐに逃げられたけどな。

その時にコイツが俺に話し掛けたのを聞いたが、未だに俺はそれが気になっている。

 

 

「とりあえず、何で俺のことを知ってるんだ?」

『さあな。昔私を食べようとしたバカによく似てたものでな』

「理由になってねえぞ」

『蛙の子は蛙ということだ』

「どういう意味だ」

「あの~」

「なんだよ」

「普通に会話してますけど、気にならないんですか?」

「いちいち気にしてたらきりがないだろ。それくらい察しろ」

「アッハイ」

『……そっちも相変わらずだな』

「え?」

『気にするな。老いぼれの戯言だ』

 

 

怪魚は誤魔化すようにその場で泳ぎ回る。

 

 

『しかし、お前達も厄介な時にここに来たな』

「知ってるのか?」

『そこらじゅうに狼(いぬ)どもが喚いておる。嫌でも聞こえてくるさ』

「大変だな」

「いや、むしろこっちの方が大変ですよ」

『そうだな。どこの山道も群れを成している。戦えば無駄に消耗するだけだ』

「だからこっちに来たんだよ」

『なるほどな……』

 

 

怪魚はそう言って滝を見上げると、俺を一瞥して言った。

 

 

『よし。任せろ』

「なに?」

『この程度の滝、登りきれるだろう』

「まさか……」

『そのまさかだ。早く背中に乗れ』

「「やっぱりそうなるのかよ…………」」

 

 

展開的にそういう事だろうとは思ったが、まさか本当にこうなるとはな。

月美はスマホの中に入り、俺は怪魚の背中へと飛び乗った。……意外と乗り心地はいいな。

 

 

『それでは、準備はいいか?』

「こっちは大丈夫だが、登れるのか?」

『見縊るな。伊達に長生きはしておらんよ』

『まあ、ここはこの方の言葉を信じましょうよ。えっと……』

『竜鯉(りょうり)だ。呼びにくければ鯉でも構わん』

「わかった。よろしくな、竜鯉」

『フン……』

 

 

竜鯉は体を滝の方へと向けると、飛び上がって滝へと突っ込んだ。

滝と垂直になるように泳ぐ竜鯉の背中の鱗に掴まる。俺は降り注ぐ水飛沫に目を抑えながらその先を見つめた。なんとも新鮮な光景だな。

 

 

『うおおおお!!!! 凄い光景‼』

「うるせえ。少し黙ってろ」

『防水加工済みだからこそ見れるこの光景、感激ですね』

「能天気だな」

『そうも言ってられないようだぞ』

「なに?」

 

 

竜鯉の見つめる先、そこには一人の少女が待ち構えていた。

白髪のショートヘア、霊夢に似た腋のない白衣と紅葉の模様が描かれた黒い緋袴、頭には天狗が被るような頭襟がみえる。その他には白い犬耳と尻尾が見える。

少女の姿を捉えた竜鯉は滝の流れに逆らうようにその場に留まる。

 

 

「まさかこっちに一人残ってたとはな。驚いたぜ」

「こっちの台詞ですよ。まさかここに来る輩がいたとは」

「それだと、他の連中は霊夢と魔理沙に向かってるだけか」

「そうですね。まあ、もう突破されているようですけどね」

 

 

少女は遠くを見てそう呟いた。

まるでその光景を直に見ているような、そんな風に感じた。

 

 

「ところで、人間が鯉に跨ってどこに向かう気ですか?」

「ちょっとそこの神様に用事があるだけだ。通してくれないか?」

「無理です。不法侵入する輩には回れ右して帰っていただきます」

「悪いな。俺はいつでも一方通行なんだよ」

「それはこっちも同じですよ」

 

 

少女はそう言うと背中に備えていた大剣を俺に向ける。

 

 

『神無、どうするつもりだ?』

「決まってる。押し通すまでだ」

『でも、この状態だとまともに戦えませんよ?』

「しがみ付いてでも戦う。できれば上まで全速力で登ってくれ」

『わかった。お前も無理はするなよ』

「言われなくても。行くぞ、月美」

『はい‼』

 

 

月美を刀へと変えると、ポケットから長い紐を取り出してそれを竜鯉に巻き付け、右手でそれを握ってその場に立つ。随分と無茶な姿勢だが、今はこうする他ない。

完全な垂直での戦闘、昔は校舎の壁走って戦ったことがあったが、この滝じゃできそうにないな。

ここは竜鯉にまかせて、俺は目の前のアイツに集中するか。

 

 

「一応聞くが、名前は? ちなみに、俺は神無悠月だ」

「犬走椛、この妖怪の山の監視役です」

「椛ね……結構可愛い名前だな」

「な、何を言って///」

「気にするな。少し思った事を言ったまでだ」

『……女たらしめ』

『無自覚ですから、相当たちは悪いですよ』

「お前ら、後で覚えてろよ」

 

 

俺は再び椛に向き直ると、彼女は真剣な面持ちで剣を構えている。

その迫力はそこらの妖怪とは比にならない、強い信念が見えた。

 

 

「ふっ……どうやら貧乏くじを引いたみたいだな。こんな強そうな奴に当たるなんてな」

「無駄口はそこまでに、行きますよ‼」

「ああ。行くぜ、お前ら‼」

『『おう‼』』

 

 

互いの掛け声と共に水飛沫を上げながら距離を詰める。

距離が零になっとき、俺の月美と椛の剣がぶつかり合う。竜鯉は泳ぎ続けるが、彼女の力に押し戻されるのかなかなか進まない。

俺は鍔競り合いから剣を弾くと、その場で回って椛に蹴りを喰らわせ、上へと飛ばした。

 

 

「今だ‼」

 

 

俺の掛け声で竜鯉の泳ぐスピードが一気に加速する。

紅葉は上空で体勢を立て直すと、すぐに折り返して俺たちへと向かってくる。

 

 

「だったら」

 

 

俺は左腕に力を込めると、そのまま椛に向かって月美を放り投げた。

回転しながら飛んでいく月美は真っ直ぐ彼女へと向かい、剣によって弾かれるが、一瞬だけその動きを止めることができた。

俺の元へと帰ってきた月美を手に取ると、一気に間合いを振り下ろす。椛はすぐにそれを防ぎ、互いに刃をぶつけあいながら斬り合う。

 

 

「くっ……なんて無茶苦茶な戦い」

「悪いな。“俺たち”のルールは、格好が悪くても勝ちに行くことだからな」

「その心意気は感心しますが、生憎と私も一人の剣士です。負けるわけにはいきません‼」

 

 

紅葉は大上段に剣を構えると、俺に向けて振り下ろした。

俺はそれを紙一重でかわすが、運が悪いことに手に持っていた紐切れてしまい、落ちてしまった。

 

 

『神無‼』

「お前は先に登ってろ‼」

 

 

俺はそう叫ぶと、竜鯉は俺を一瞥して滝を登っていく。

滝壷に向かって真っ逆さまに落ちておく俺と月美、俺は冷静だったが、月美の色々な感情が流れ込んできた。

 

 

『いやああああああああ‼‼‼‼‼』

「うるさい。静かにしてろ」

『だって‼ 滝ですよ‼落ちてるんですよ‼ 真っ逆さまですよ‼』

「言われなくても分かる」

『なら‼』

「……策は練ってある」

 

 

俺はそう呟くと身体を翻して上空へと視線を移した。

そこには剣を構えてこっちに向かってくる椛の姿が見えた。容赦がないな、まったく。

 

 

「お覚悟を‼」

「そうこないと……」

 

 

月美を流れる滝へと突き立てると、水飛沫が身体を濡らしていく。

椛は徐々に俺との距離を詰めてくるが、俺は口元を歪ませてそれを待ち構えている。

 

 

「面白くないよな‼」

 

 

椛を視るように顔を上げた俺は滝の流れに逆らうように月美を振り上げた。

巻き上げられた水飛沫が椛の視界を遮ると、彼女は剣を振るってそれを払いのける。

…………しかし、そこにはすでに俺の姿などなかった。

 

 

「……え?」

「甘いな」

 

 

水を巻き上げた瞬間、近くの突き出した岩を踏み台にして背後に周った俺はそう囁いた。

椛は瞬時に振り返ろうとするが、この距離ならその前に仕留められる。

 

 

「――皐月『五彩』」

 

 

月美を振り上げると、その勢いのまま椛に向かって振り下ろす。

無防備となった背中に斬撃が打ち込まれると、そのまま滝壷へと真っ逆さまに落ちていった。

一応倒したが、峰内だったからすぐに回復して追ってきそうだな。

俺は近くの岩にしがみつきながらそんな事を考えた。

 

 

『大丈夫でしょうか?』

「妖怪だから大丈夫だろ」

『そうですね。……とりあえず登りましょう』

「そうだな」

『それにしても、ずぶ濡れで寒いです』

「後でちゃんと拭いてやるから、それまで辛抱しろ」

『はーい』

 

 

俺は月美を鞘に納め、自力で滝を登っていった。

 

 

 

 

 




空亡「やっぱり戦闘描写が入ると長くなりますね」
美羽「元から会話パートが苦手だからね。そういうのを挟まないとこんなものよ」
空亡「でもいいですよね。犬耳」
美羽「原作設定だと耳出てないってなってるけど、そこはどうなの?」
空亡「犬耳あったほうが可愛いに決まってるじゃないですか!」
美羽「…………そういえば、あの鯉、本当に再登場したのね」
空亡「スルーですか……。まあ、このために前の話がありますから」
美羽「詳しくは『新月五重奏』を見てね」


次回予告
幻想郷最速の名を持つ天狗、意地とプライドをかけた弾幕ごっこの始まり。
東方風神録、彗星少年、前後編同時投稿!
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