神無悠月side
「……ここか」
目の前に立ち並ぶ石畳の階段の先を眺めた。
ここは幻想郷であるはずなのに、この先に感じるのは外の世界とほぼ同じ空気。まるであっちにあったものをそのままこっちに持ってきたような、そんな雰囲気を感じた。
妖怪の山の頂上に幻想入りしてきたと云う神社と神、一体どういうモノなのか。
でも、それ以上に………………。
「どうかしたのか?」
隣にいた魔理沙が俺の顔を覗き込んでいた。
俺は息を吐いて心を落ち着かせ、階段を上がっていく。
「いや、何でもない」
「そうか? ここに来てから月美も引っ込んじまうし、なんかおかしいぞ」
「コイツはある意味神社が苦手なんだよ。いや、神社というより神様にか」
「だったら博麗神社は…………ああ、そう言えばいなかったっけ」
「だろうな。居ればこいつがすぐに発狂してる」
「なにそれ、怖いな」
「まあ、俺もその方が気が楽でいいんだけどな」
階段を登り切り、境内へと足を踏み入れた。その時、俺の目の前に御柱なるものが飛んで来た。
とりあえず俺はそれらを軽く避けていくが、魔理沙は慌てながらもそれらを避ける。
「ったく、参拝客に優しくねえ神社だな」
「まったくだ。まだ霊夢の神社の方がましな対応してくれるぜ」
「何だかんだ言ってお茶や煎餅を出してくれるんだよな」
「素直じゃない奴だぜ」
「アンタたち、随分と呑気だね」
そう言って、神社の上に座る女性は頬杖をした。
サイドが左右に広がった紫がかった青髪のセミロング、白色のゆったりとした長袖の上に赤い上着と臙脂色のロングスカート、背中に、複数の紙垂を取り付けた大きな注連縄を輪にしたものを背負っている。どこか神らしいと思えば、そうでもないような気もする。
女性は俺の方を見て一瞬眉をひそめたが、すぐに目を閉じた。
「こんな所に人間と魔法使いが何のようだ?」
「私はただ霊夢に喧嘩を売った無謀な神様がどんなのか見に来ただけだぜ」
「霊夢? ああ、早苗が譲渡しを言いに行った神社の巫女か」
「お陰で霊夢は御冠だ」
「知ってるよ。さっきウチの巫女を引っ張ってどっか行ってしまったからな」
「なんだ。霊夢の奴、もう来てたのかよ」
魔理沙は箒を担いで溜息を吐いた。
怒りが有頂天に達している霊夢の相手か、ご冥福を祈るしかないようだな。
「とりあえず、葬式はそっちでやっておいてくれ」
「勝手に殺すな。まったく、アンタは相変わらずだな」
「どういう意味だよ?」
「いや、こっちの話だ。それより、アンタは何でここに?」
「さっきの鬼巫女の件もあるが、何よりそっちの巫女に用事があるんだよ」
「それはまた、なんでだい?」
「つい最近まで忘れていた友達によく似てるんだよ」
俺がそう言うと、彼女の瞳が一瞬揺らいだ。
間違いない、この人は何か知っている。
「それを確かめてどうするんだ?」
「さあな。単なる物忘れならそれでもいい。だが、それ以外となると話が違ってくる」
「事と次第によっては、容赦しないと言いたいようだな」
「ご理解いただき、恐悦至極」
俺は彼女に向けて口元を吊り上げた笑みを浮かべる。
互いの間に火花をちらつかせ、一歩踏み出そうとしたその時。
「血気盛んだね~お二方」
その声はやけに大きく境内に響いた。
陽気で人をバカにするような声、それは忘れたくても忘れられないバカの声だ。
「よりにもよってお前かよ…………星哉」
俺が視線を上げると、そこには一人の少年が御柱の上に立っていた。
後ろで長くまとめて一本結びした金髪、黒いシャツの上に猫耳の白いパーカーを羽織り、下にはハーフパンツを履いている。少女とも少年とも見える外見は、二十歳を過ぎても健在のようだ。
少年はそんな俺を見てケラケラと笑う。
「久しぶりだね。ユウキ」
「ああ。二年ぶりだな」
「素っ気ないな~せっかくの再会だというのに」
「黙れ盗人。そういう台詞は過去に俺にしてきたことを思い出してからにしろ」
「そんな~。女装させたり、寝顔撮ったり、着替えを撮ったりして稼いでただけですよ?」
「それだよ‼」
俺はアイツ、天宮星哉に向かって怒鳴った。
コイツとは咲妃たちと同じく元の世界で一緒の部に所属していた仲間、いや腐れ縁だ。
初期のメンバーで、主に情報に長け、部長からは咲妃の次に信用できる人間と思われている。
今は部長の探偵事務所で働いていると聞いたが、どうやら今回もそれに駆り出された模様だ。
そんな俺らのやり取りを見て、隣で空気になっていた魔理沙が口を開いた。
「えーと、誰だ?」
「おっと、これは失礼しましたお嬢さん。自己紹介が遅れましたね。
俺は天宮星哉、外の世界でしがない探偵家業の一員として働いている普通の人間ですよ」
「ご丁寧にどうも。私は霧雨魔理沙、普通の魔法使いだ」
「へえ~魔法使い…………いい趣味ですね」
「お前、また変なこと考えてるだろ」
星哉は口元を吊り上げて笑っている。
ちなみにコイツは外見子整っているが、中身は常人がドン引きするほど残念なイケメンだ。
「やれやれ、冗談が通じない。つまらないね」
「お前がやってきたことは冗談じゃ済まされねえぞ」
「まあまあ、そう怒っていると聞きたい話も聞けないよ?」
「なんだよ、聞きたい話って」
「東風谷早苗」
「――ッ!?」
アイツがそう呟いた瞬間、俺の頭を鋭い痛みが走った。
俺は近くの柱に手をつくが、未だ頭にはさっきの痛みが残っていた。
「ユウキ‼」
「やっぱり凄いですね。神様ってのは」
「どうことか説明しろ……星哉‼」
「教えてもいいですよね。八坂神奈子さん?」
星哉はそう言って彼女の方を見た。
「……いいよ。どうせすぐに思い出す羽目になるんだし」
「というわけだから、簡単に説明するけどいい?」
「いいから早く始めろ」
「はいはい」
星哉はそう言って俺の目の前に飛び降りてきた。
「単刀直入に、ユウキはその人のことを忘れています」
「そんなの言われなくても分かってる」
「なら、どうして忘れてしまったのか? それは幻想入りと深く関係しています」
「幻想入り…………なるほど、そういうことか」
「いつもの超高速理解、ありがとうございます」
「どういうことだよ?」
「幻想入りということは忘れ去られること、それを意図的にするには記憶を消す事」
「そう。幻想となったモノはここに流れ着く、つまりはそういうこと」
神社の記憶の記憶ごと消す、それはここの巫女であるあの子のことを忘れることと同意義。
無理矢理記憶を消されても、欠片だけはどこかに残ることがある。それを今朝の夢として思い出した。そして今、その記憶が蘇ろうとしている。
「ったく、バカげたことをしてくれたな」
「馬鹿げたこととは何だい。これでも私たちの死活問題が」
「そんな話はどうでもいい。とりあえず、行ってくる」
「どこにだい?」
「折角思い出せそうなんだ。本人に会ってスッキリさせようと思ってな」
「そう。なら、一つ警告があるよ」
「なんだ?」
星哉は口元を吊り上げる。
「あの子の心の闇に呑まれないようにね」
「……ああ、わかってる」
「フフ、さなちゃんなら裏の湖だよ」
「ありがとな」
俺はそう言うとその場を後にした。
心の闇、やはり今回もそういう風な展開になる運命なのだろうか。
???side
「やっぱり、所詮この程度ね……」
少女は刀についた血を振り払い、地面に横たわるモノを見下した。
そこには白狼天狗に鴉天狗が、それぞれ血を流して倒れている。ただこの山に入ったというだけで攻撃してきた妖たちは、たった一人の人間によって全滅させられた。
少女は自身の身長よりも長い刀を鞘に納めると、彼女のスマホから単調な着信音が流れた。
「私よ」
『そちらはどうだ?』
「剣崎ね。こっちはもう少しで着くと思うわ」
『狗と鴉は?』
「口ほどにもないわね。ワンワン、カーカー煩かったけど」
『それくらい口が叩けるなら心配ないな』
「当然よ」
少女は電話越しには見えない笑みを浮かべる。
『とろで、そっちに紅白と白黒、あと神無が向かったようだ』
「異変でもないのに、毎度ご苦労な事ね」
『アイツ等にはこれ自体がお遊びなんだろ』
「なら、こっちも同じようなものよ」
『――軽率な発言は控えろ。黄昏』
「怖いわね。女王様の命令がそんなの大切なのかしら?」
『ああ』
「正直ね」
『「破壊」「死」「永遠」は手に入れたんだ。後は……』
「『奇跡』を含めた五つだけ……」
『くれぐれも奴等に感付かれるなよ』
「任せなさい。……それじゃあ」
少女はそう言って電話を切った。
「久しぶりに顔でも見ようかしらね。ユウキ……」
空亡「ということで、新キャラは星哉くんです」
美羽「ようやく男性キャラだと思ったら……」
空亡「キャラが濃いですね。しかもこれでも男の娘ですし」
美羽「猫みたいに気紛れな奴なのよね」
空亡「その所為で神奈子さんの存在が空気になりかけでしたね」
美羽「こいつが場に出るとほとんどの奴が空気にされるわ」
空亡「恐らく、部長さんの次に厄介な方です」
美羽「早くもユウキの胃に穴が開く予感ね」
空亡「それ以上にこの異変も厄介なことになりそうですけどね」
次回予告
徐々に思い出すかつての記憶、湖の上では二人の巫女の弾幕が彩っていた。
東方風神録、ミーニングワスフェイス、どうぞお楽しみに。