神無悠月side
「……これはまた、凄いことになってるな」
神社の裏にある湖、そこにはまるで似合わない御柱が幾つも突き刺さっている。
その合間を縫うように二つの影が鮮やかな弾幕を展開しながら戦っていた。
一つは霊夢、持ち前の御札や針を使って相手を追い詰めていき、新作でもある妖怪バスター(紫色に光る陰陽玉)からは広範囲に弾幕を撒いている。彼女の表情を見る限り、どうやらかなりご立腹の様子だ。
もう一つはおそらく東風谷早苗、こっちは霊夢に比べてスペカを多用している。五芒星を描いた弾幕が幾つも展開されると、それらが形を崩して周囲にばら撒かれる。こっちは霊夢に比べて必死さが見え隠れしている。
そんな戦いを見つめながら、俺が真っ先に思った事は、とても在り来たりなことだ。
「綺麗だな……」
『そうですね。何だか花火みたいです』
「これでも殺し合いみたいなことやってるってこと、未だに実感できねえな」
『まあ、あくまで遊びですからね。楽しんだ者勝ちですよ』
「魔理沙みたいな事を言うな」
『それだけここに慣れてきたってことですよ』
月美はそう言って笑みを浮かべた。
こいつはこいつで、どこに行ってもすぐに適応できるのが長所だな。
まあ、それ以上に傍迷惑な短所も持ち合わせているのが月美の悪いところでもあるな。
「無理して平然を装うとかな」
『な、何をいきなり……』
「恍けるな。居るんだろ、近くに」
月美が無闇に笑う時は大抵何かを隠している時だ。
この場合、無理して殺人症状を抑えてるとみていいかもな。
「というわけだから、出て来てくれないか?」
「仕方ないね~」
声と共に草むらが揺れると、そこから一人の少女が出てきた。
金髪のショートボブ、青と白を基調とした壺装束によく似た服とミニスカート、頭には蛙の目玉のような物が付いた市女笠的な物を被っている。見た目は幼く見えるはずなのに、なぜかこの子には逆らってはいけないと本能がそう告げている。
少女は俺の下へと歩み寄ると、俺の顔を覗き込むように見上げる。
「へえ~いい男になったじゃない」
『失礼ですね‼ ユウキはいつでもいい男です‼』
「落ち着け。無理しすぎて訳が分からねえぞ」
「あははっ。面白いね」
少女は俺たちを見て笑う。
その姿を見て、俺の微かな記憶が蘇った。
「……洩矢諏訪子」
「お? どうやら思い出したみたいだね」
「……名前だけだ」
「それだけでも私は嬉しいよ」
そう言って諏訪子は本当に嬉しそうに微笑んだ。
思い出したことは、守矢神社の祭神であるここと、俺が二番目に出会った神だという事だ。
そんな彼女とは裏腹に、月美は画面の奥で我慢するように震えている。
「そっちの娘は?」
「ああ、コイツは夢燈月美。簡単に言えば、刀に変化できる式神かな」
「刀に変化できる、ね……」
「珍しいか?」
「いや。ただ、私は随分嫌われているように見えるだけだよ」
諏訪子は懐かしむような眼で月美を見つめている。
そういえば、彼女は崇り神として恐れられた過去もあるし、それもあるのだろうか。
そんな事を考えていると、月美がスマホの中から飛びだし、諏訪子に抱き着いた。
「ああ~神様だとしても可愛いです~♪」
「忘れてた」
「え? 何、どういうこと?」
「こいつが神様に対する考え、殺したくなるのと同時に愛でたくなるんだったな」
「それじゃあ……」
「さっきまでのは殺したいのを抑えてたわけじゃなくて、ただ悶えてただけか」
「だって~こんな可愛い子を殺したりしたら一生後悔しちゃいますって~♪」
「……とりあえず、良かったな」
「こんな時、どういう顔をすればいいのか分からないよ」
「笑えばいいと思う」
「笑えないわよ」
「だろうな」
月美に抱き着かれて困り果てている諏訪子を見て、俺は少し微笑ましく思った。
しばらくして、満足げな表情で諏訪子を膝に乗せている月美の姿があった。
「……姉妹に見えるな」
「むしろ妹に欲しいくらいです」
「これでも私神様なんだけど?」
「諦めろ。コイツがこうなると手が付けられない」
「あーうー」
諏訪子は何とも言えない顔で唸った。
ここまでくると、神様の威厳もあったもんじゃないな。……いや、元から皆無か。
「ところで、一つ聞きたいんだが」
「なに?」
「なんでまた博麗神社の譲渡なんて無謀で馬鹿な事を考えたんだ?」
「バカな事とは失礼だよ。これでも私たちにとっては死活問題なんだから」
諏訪子は真剣な面持ちでそう答える。
神様は人からの信仰で生きているような物、今は形の見えぬ神より科学の方が信用されている時代だ。そして、徐々に信仰が失われていく神の末路は消えるのみ。
「まあ、元からウチを信仰してる人も少なかったからね。
それでこのまま消えるの癪だからって、神奈子が柄にもない博打を打ったのよ」
「幻想郷で信仰を集める。そういうことですか?」
「最初聞いた時はバカげてると思ったけど、私だって消えるのは嫌だからね」
「それで自分たちに関わる記憶を消すことで幻想入りを果たした」
「ここの天魔とは話をつけて居座らせてもらってるし、信仰もそこそこあるから十分なんだけど」
「その神徳がこの山に集中して妖怪の力が増し、力のバランスが崩れてしまう可能性がある。
それを防ぐには麓の住人からも信仰を得る必要があった。そこで邪魔なのが博麗だった」
「神奈子はその気になるし、早苗も妙に気合が入っちゃって、正直疲れるよ」
諏訪子は深い溜息を吐いた。
まあ、博麗神社も一応信仰の対象だが、営業停止されようとそう変わらねえんだよな。
ここ最近なんて、則藤上げて、神社の掃除して、参拝客を待って、お茶飲んで、寝ただけだしな。
話し合いでもすれば霊夢が適当にそれなりの案でも考えてくれそうだったのにな。
「まあ、これはこれで楽しめるからいいか」
「それより気になったんだけど、なんで君まで幻想郷に?」
「謎の失踪事件を追っていたらいつの間にか幻想入りさせられた」
「もう誰もこの事を覚えてないですけどね。初期はあんなに頑張っていたのに」
「部長の存在なんて、もう誰も覚えてないだろうな」
「気が付けばこの作品も一年になるんですよね……」
「何の話?」
「「メタい話、作者の今の心境」」
「……聞かなかったことにするよ」
諏訪子は苦笑を浮かべながら目を逸らした。
その時、上空で大きな爆発が起きた。どうやら遊びは終わったようだ。
「さて、ウチの鬼巫女でも抑えてくるか」
「あ、できれば早苗にも会ってやってよ。きっと喜ぶよ」
「……考えとく。行くぞ、月美」
「はーい」
月美は諏訪子を離すと俺の後についてくるように歩み寄ってくる。
今まで忘れてたってのに、どんな顔して会えばいいんだよ。ったく………………。
天宮星哉side
「……面倒な事をしてくれましたね。神奈子さん」
「あはは。ごめん」
俺は境内に突き刺さった御柱を片付けながら神奈子さんを睨みつけた。
傍ではまりちゃんが手伝ってくれているので案外早く終わりそうな気がする。
「ところで、星哉ってユウキの仲間なんだよな?」
「そうだよ。これでも男同士ってこともあって、意外と仲は良いほうなんだけどね」
「なんだか嫌がられてるようにも見えたけど」
「いつもの事。でも、話し掛けて存外に扱われるけど、意外と構ってくれるんだよね」
「何だか霊夢と似てるな。そう云うところは」
「でも男のツンデレで需要はないんだよね。むしろ女子のツンデレなら嬉しい」
「……やっぱり、お前もそう言う奴なのか」
まりちゃんが俺の事を冷めた目で見つめている。
そういえば、咲妃ちゃんも椿希ちゃんも来てるんだっけ。って‼
「もしかして、俺もあの人達と同じに見られてる!?」
「……ユウキがああいう風な反応するんだ。なんとなく察しはついてるぜ」
「まあ、私の目から見ても、アンタは普通じゃないよ」
「神奈子さんまで…………なんで、俺は……」
「あ、いや、言いすぎた。初対面の相手n」
「俺はただ、二次元とコスプレをするのが好きなごく普通の人間なだけなのに‼」
俺は膝を着いて石畳の地面を叩いた。
その間、二人からゴミを見るような眼で見つめられていたが、俺は気にしなかった。
空亡「神様も大変ですね」
美羽「どこもそんなものよ」
空亡「それよりも、ユウキって面識が多いですよね」
美羽「駄作者のアンタが言うんじゃないわよ」
空亡「過去に一回迷い込んだという設定がありますからね」
美羽「無駄な設定増やすからよ」
空亡「とほほ……」
美羽「でも、ようやく今回のも終盤ね」
空亡「そう容易く終わらせる気なんて僕はありませんけどね」
美羽「性格悪いわね」
空亡「いつも通りです」
次回予告
再会するかつての友人、しかし、物語は”筋書き通り”に進む…………
東方風神録、少女が視た幻想の殺風景、どうぞお楽しみに。