東方絆紡録   作:空亡之尊

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在り来たりな奇跡は誰の為 前編

神無悠月side

 

 

「……お前は」

 

 

俺は目の前に立ちはだかる“ソレ”を見て唖然としていた。

緑髪のロングヘアー、黒と蒼を基調とした巫女服、頭には蛙と白蛇の髪飾りを付けている。“ソレ”は早苗の姿とよく似ているが、何かが決定的に違っていた。

“ソレ”は足元に倒れている早苗を軽蔑するような眼差しで見つめている。

 

 

「――これだから、人間は」

「お前は」

「――また会ったな、神無の御子。今朝の夢以来か」

 

 

“ソレ”は友人にでも会ったかのように話し掛けてきた。

堕ち神だというのは頭で分かっているはずなのに、なぜか奇妙な親近感を覚えてしまった。それが何よりも不気味に思えた。

そんな俺を尻目に、少女は“ソレ”を興味深そう女で見ている。

 

 

「今度のはやっぱり特殊なのね」

「……てめえ、何をしやがった」

「思ったよりも心の闇が少なかったものだから、少し強引に引きずり出させてもらっただけよ」

「なんでそんなことを」

「どうしてもこの先に必要なものだから。それでいいかしら?」

「納得できるわけないだろ‼」

 

 

俺は迷いを振り払うように言い放つと、少女に向かって走り出した。

 

 

「月美‼」

「は、はい‼」

 

 

月美の姿を刀へと変えると、それを手に取って少女に斬りかかった。

しかし、その攻撃は“ソレ”が持っていたお祓い棒によって受け止められた。

 

 

「怖いわね。いきなり斬りつけるなんて」

「ほざくな。洗いざらい吐いてもらうまで帰さねえぞ」

「それは残念ね」

 

 

少女が口元を吊り上げると、“ソレ”がお祓い棒を振るって俺を弾き飛ばした。

その衝撃で月美が手元から離れると、光となってスマホの中へと戻った。

 

 

「私の役目はここで終わりだから、後はこの子の相手でもしてて」

「てめえ……‼」

「油断しないことね。この子は東風谷早苗の“現人神”の部分なんだから」

「“現人神”の、部分?」

「ふふ、それじゃあ」

 

 

少女がその場を去ろうとしたその時、霊気を纏った御札が彼女に向かって飛んでいった。

一直線に飛んでいくそれは少女の身体に触れることなく、空中で真っ二つに斬り裂かれた。

少女が振り返ると、そこには御札とお祓い棒を構えた霊夢が立っていた。

 

 

「どこに行くのかしら?」

「邪魔しないでくれるかしら、博麗の巫女」

「悪いけど、面倒事を増やしてくれた相手をそう易々と帰らせる気なんてないわ」

「面倒なのはどっちもどっち。……いいわ、少し遊んでいきましょう」

 

 

少女はクスリと笑うと、その手に持っていた刀を構えた。

彼女の身長よりも遥かに長い刀身、そんなものを人間が扱うのはまず不可能だ。けれど、彼女は普通の刀と同じ様に腰構えの体勢で霊夢を迎え撃とうとしている。

 

 

「さて、“遊戯び”を始めましょうか」

「ええ、そうしましょうか‼」

 

 

刹那、互いに向かって弾幕と斬撃が放たれた。

霊夢の事が心配だったが、今は目の前のことに集中する方が先決だった。

俺の前に立ちはだかる“現人神”は、まるで俺を品定めするかのような目で俺を見ていた。

 

 

「――あっちが心配か?」

「まあな、一応仲間だからな」

「――そう」

「お前は、早苗の何なんだ?」

「――さっきあいつが言った通り、現人神だ」

「人の姿をした神、ということか」

「――早苗が持つ『奇跡を起こす程度の能力』、それを信仰されたことで神格化したのが原因だ。

 本来なら八坂や洩矢の力なのだろうが、皮肉にも風祝である早苗が信仰の対象にされてしまった」

 

 

“現人神”が自嘲するようにそう語る。

まるで自分は創られた存在だとバカにしているような物言いだった。

 

 

「――だが、こいつはそんなのは望んでいなかった。

 ただの人間として生き、かけがえのない家族と暮し、友人との楽しい日々を願っていた」

「……いた?」

「――神というのは残酷だ。こんな年端もいかぬ少女の夢も希望も奪ってしまうのだからな」

「どういう意味だ?」

「――早苗はここに来るまでに多くの物を捨てた。

 友人との日々、楽しかった生活、平和な日常、そして、それらを全てを失う悲しみ。

 神様は人間に平等なら、他の神様はどうなるんでしょうね?」

 

 

“現人神”は悲しみと怒りに満ちた瞳で俺に訪ねる。

コイツは早苗が神に対しての感情そのもの。全てを捨てた神としての自分と、そんな決断をさせた神への軽蔑、それが形となって俺の前に現れている。

ようやくわかった。なんで俺がコイツに親近感なんて覚えてしまったのか。

 

 

「お前と俺が、似てるからか」

「――そういうことだろう。さあ、詰まらない愚痴はここで終わり」

 

 

“現人神”は二つの髪飾りを外すと、空中へと放り投げた。

すると、髪飾りに黒い風が集まり、やがて二つの影を創りだした。

一つは神奈子、もう一つは諏訪子、それぞれのシルエットをした影が“現人神”の目の前に立ちはだかった。

 

その時、ガラスが割れる音と同時に霊夢がこちらへと転がり込んできた。

周りには結界に使用した御札の残骸が撒かれ、霊夢自身の身体も少なからず斬り傷を負っている。

 

 

「……っ、やるわね」

「大丈夫か?」

「うるさい。それより、そっちも面倒なことになってるわね」

「まあな」

 

 

霊夢に肩を貸して立ち上がらせる。

それを見届けるように、少女と“現人神”たちは突っ立っていた。

 

 

「あら、もう終わりかしら?」

「――さあ、こっちも始めようか」

「ああ、そうだな」

「――悪いが、こちらも負けるわけにはいかないんだ」

『ユウキ……』

「どうすれば……」

 

 

圧倒的に不利な状況、今の俺にはそれを打開する手段はない。

半ば諦めかけていたその時、とあるバカの言葉が脳裏を過ると同時に目の前を星の弾幕が覆った。

 

 

「この弾幕は……‼」

『魔理沙さんの‼』

「いや、それだけじゃねえ」

 

 

弾幕が徐々に薄れていくと、そこには箒を担いで口元を吊り上げた魔理沙と、猫耳のフードを被って笑みを浮かべている星哉が並んで立っていた。

 

 

「おいおい。お前らだけで楽しもうなんてズルいぜ?」

「こっちは出番が少なかったからね、どうせだから参加させてもらうぜ」

「「余計なお世話だ」」

「二人揃ってヒドイな。まりちゃんもそう思うでしょ?」

「まあ、この二人はいつもの事だから気にしないぜ。……あと、その呼び方はやめろ」

「結構可愛いと思うんだけどな」

「マスパ撃ち込むぞ?」

「……命だけは助けて」

「「何やってるんだ、この二人は……」」

 

 

目の前の二人に呆れていると、ふいに少女の表情が曇っていることに気付いた。

 

 

「そういえば、忘れてましたね」

「――魔法使いに魔弾の射手か」

「これだと武が悪いけど、どうするつもり?」

「――私は貴様らの筋書き通りに演じるだけだ」

「そう。なら、私はヒロインの相手でもしておこうかしら」

 

 

少女は前に踏み出すと、剣先を霊夢と魔理沙に向けた。

 

 

「今度は三人で遊んでみる?」

「上等だ。誰だか知らないけど、受けて立つぜ‼」

「何でアンタが張り切ってるのよ」

「そりゃあ、久々に強そうな奴に出会ったんだ。楽しみに決まってるだろ」

「あら、私は殺す気満々だけど?」

「その方がいい刺激になるぜ」

「まったく…………足引っ張るんじゃないわよ」

「そっちこそ。怪我とかで言い訳とかするなよ」

「要らない心配ね」

 

 

三人はそう言うとその場から去り、戦う場所を変えた。

その場に残るは、禍々しい影が三つと、命知らずなバカが二人だけ。

 

 

「さて、どうする?」

「どうするもこうするも、倒すしかないだろ」

「迷いがないね。まあ、俺たちもそのつもりだからいいけど」

「……聞きたいんだが。いつからアイツの闇に気付いてた」

「会った時、と言ってもつい最近」

「お前だけでも何とかできたんじゃないのか?」

「俺には無理。それに、ユウキがやった方が何かと今くいくような気がした」

「無責任な奴め」

「俺みたいなやつに責任を押し付けても無駄だよ」

「――話は終わったか」

 

 

“現人神”は近くの岩に座って俺たちの事を待っていたようだった。

何故か、コイツは今までの堕ち神とは違った意味で不自然過ぎる。

 

 

「――ところで、貴様は戦えるのか?」

「これでも腕には自信はあるから、心配ないぜ」

「――なら、まずはこいつらの相手をしてもらうぞ」

 

 

“現人神”がお祓い棒を突きだすと、二つの影はそれぞれ構えた。

 

 

「ラスボス前の中ボスか……面倒だな」

「あれ苦手なんだよね。折角リソース全快にしてるのに減らされた時のショックは大きい」

「何の話だよ?」

「ちょっとしたゲーマーの苦渋。あ、でもやっぱりゲームならギャルゲの方が断然」

「はいはい。その話はこれが終わった後にたっぷり聞いてやる」

「冷たいな。……まあ、その方がいいけどね」

 

 

星哉はそう言うと、ポケットからスマホを取り出した。

すると、真っ暗だった画面に一人の少女が映し出された。

金髪のショート、白いワンピースに黒いパーカー、首には鈴の付いた赤い首輪が付けられている。それは月美と同じ三頭身にデフォルメされた少女、星哉の“愛銃”である星羅だった。

 

 

『久しぶりね。ユウキ』

「ひさしb『久しぶりー‼ セイラちゃん、元気ー?』……」

『ええ。貴女もはいつも通りね、月美』

「素っ気ないな~。こういうの、感動の再会でしょ?」

『らしいですね』

「相変わらずだな。安心したぜ」

 

 

俺は二人を見て小さく笑う。

 

 

「それじゃあ、そろそろ始めますか」

「ああ。長い前置きなんて飽きるだけだからな」

『無理はしないでよ、バカご主人』

『こっちも張り切っていきますよー‼』

 

「――絆を紡げ‼ 夢刀『月美』」

「――星を翔ろ‼ 否刀『星羅』」

 

 

俺たちの掛け声と共に月美と星羅が光に包まれ、それぞれの手に握られた。

俺の手には逆刃の白い日本刀、星哉の手には黒いDE(デザートイーグル)が握られている。

それを見て“現人神”は心底楽しそうな笑みを浮かべた。

 

 

「「さあ、人間が神にどこまで敵うのか、見せてやるぜ‼」」

「――さあ、神遊びにどこまで耐えられるか、見せてくれよ」

 

 

神様との楽しい愉しいお遊びの始まりだ。

 

 

 

 

 




空亡「さて、ここで問題が発生」
美羽「何よ」
空亡「最後の締めである宴会、まだ完成できてません」
美羽「だったら早く終わらせなさいよ」
空亡「納得がいく終わり方がなかなか思い付かなくて」
美羽「まだ三日は猶予があるんだから、ゆっくり考えなさい」
空亡「そうします。……ところで今回、急ぎ足ですね」
美羽「展開が急すぎて私もついて行けないわ」
空亡「安心してください。僕もです」
美羽「尚更ダメね」
空亡「ちなみに、中編は二つに分けたいと思います」
美羽「……時間稼ぎ乙」


次回予告
神遊びその一、偽りと軍神VS神無の御子、湖上での弾幕ごっこ。
東方風神録、在り来たりな奇跡は誰の為 刀、どうぞお楽しみに。
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