神無悠月side
「それじゃあ、俺はケロちゃんで」
「だったら俺は軍神だな」
俺と星哉は互いに目くばせすると、それぞれの二手に分かれた。俺は湖に突き刺さる御柱の上へ、星哉は神社の方へと走っていった。
狙い通り、二つの影はそれぞれを追うように分かれた。“現人神”はそれを黙って見送っていた。
御柱の上に辿り着くと、神奈子の影が向かい側の御柱の上に立って出迎えてくれた。
俺は月美を構えると、口元を吊り上げて影に向かって言い放つ。
「行くぜ。軍神さんよ」
「――神祭『エクスパンデッド・オンバシラ』」
影は無言で構えると、頭上に複数の御柱を出現させた。
影が手を下ろすと、御柱が俺に向かって物凄い勢いで飛んで来た。俺は他の足場に飛び移りながら避けるが、それは的確に俺に狙いを定めて飛んでくる上に、影からも弾幕を展開されている。
とにかく、本体まで一気に畳みかけるか。
俺は御柱をすれすれで避けると、一枚のスペカを取り出した。
そこには川を背に、厄いオーラを漂わせながらも微笑んでいる雛の姿が描かれている。
「これなら。厄祓『厄寄せサクリファイス』」
スペカにドス黒い霊気を纏わせると、それを空中に放り投げた。
影は首を傾けるが、構わず御柱と弾幕を俺に向かって放った。しかし、それはあらぬ方向へと飛んでいってしまう。そう、さっき放り投げたスペカへと引き寄せられるように。
俺はその隙を突いて、影と向かって足場を踏み越えながら向かう。
「――忘穀『アンリメンバードクロップ』」
影の目の前へと辿り着くが、影はすぐに弾幕を展開させた。
影の近くでは高速で避けにくいが、ある程度離れると小さな米粒のようにな弾幕に変わった。なんとも奇妙な弾幕だが、本人が作ったものだから余計なことは言わないでおこう。
「でもまあ、貧乏生活が長い俺にとっては不愉快極まりないけどな」
『うわあ……ユウキの目が本気ですね』
「食べ物を粗末にする奴に明日はない。うちの格言・その五十一だ」
『無駄に多いですね』
「ちなみにお気に入りは……」
『聞いてませんよ』
弾幕を避けながら話をしていると、スペカが落ちた。
そこには紅葉の景色を背に、互いに手を取って笑い合っている静葉と穣子の姿が描かれている。
「どうせだからな。秋景『紅く染まれよ妖の山』」
スペカを発動させると、俺と影の頭上からにひらひらと舞い落ちる赤い弾幕と高速で真っ直ぐに落ちる茶色の弾幕が展開された。赤い弾幕は紅葉を、茶色い弾幕は栗をイメージしている。正にあの二人のイメージにぴったりの弾幕だ。
影は低速と高速の弾幕に翻弄されながらもそれらを避けていく。
「――神秘『葛井の清水』」
影は構えると、扇を描くように後方へとナイフをばら撒き始めた。
一瞬その行動の意図を考えたが、その答えはすぐに出てきた。
後方に放たれた筈の無数のナイフが俺の左右から突然現れ、狙い撃つように向かってきた。
神事に使った道具が葛井の池に消え、佐奈岐池から出てくる。諏訪神社の七不思議の一つをもじったスペカという事か。
俺はナイフを斬り払いながら、スペカを取り出した。
紅葉が舞う中、剣を地面に突き刺して立っている椛の姿が描かれている。
「護狼『気高き狼の遠吠え』」
俺は月美を構えると、影へと向かって一直線に飛んだ。
直地と同時に斬りかかるが、影は俺を踏み越えるようにして背後へと避け、ナイフをばら撒いた。
それを見越していた俺は口元を吊り上げると、月美を握り締め、後方へと思い切り振りかぶった。すると、円を描くように弾幕が周囲に放たれた。
真っ直ぐ進んで円を描くように掃う、真上から見たら『の』だな。
影は弾幕に当たると、近くの御柱へと着地して腕を押えた。
どうやらそろそろあっちも限界に近いようだ。
「――天竜『雨の源泉』」
影が上空へと飛ぶと、空から雨のように弾幕が降ってきた。
それはある程度まで落ちると鮮やかな弾幕へと変わり、俺の方に向かって飛んで来た。上に行けば弾幕の雨に晒され、かといって下では自機狙いとばら撒きの弾幕に翻弄される。
「屋根の上から井戸の下へと水が落ちて井戸に溜まる。七不思議をもじったのが多いな」
『まあ、あれと同じ系統ですからね』
「ったく、これなら傘でも持ってくればよかったかな」
『無理ですね』
「冗談だよ」
俺は弾幕を避けると、スペカを取り出した。
そこには滝を背に、満面の笑みでピースしているにとりの姿が描かれている。
「発想『とある河童の水平思考』」
スペカを発動させるが、何も起こらない。
影が不思議そうに首を傾げたその時、両側面から弾幕を薙ぎ払うように水色のレーザーが網目状に放たれた。弾幕がかき消されると同時に、油断していた影の身体にも直撃した。
スペカの発動直後に弾幕が来る。という固定概念をぶち壊す、なんとも子供じみたスペカだ。
影はふらつきながら御柱の上に降りると、瞳のない顔を俺に向けた。
「――神符『神が歩かれた御神渡り』」
影が手を前に突き出すと、青い線とそれを取り巻く白線の『道』が一直線に渡るように放たれた。
首を横に振ってそれを避けるが、影が手を握り締めるとそれが粉々になって周囲に拡散した。別の足場に移ってそれを避けると、俺を追うように再び『道』が作られた。
凍った湖面に亀裂が走ることを御神渡りといい、神様の通り道なんて言われているが、どうやら人間が容易く歩いてはいけない『道』だという事は分かった。
「まあ、それでも渡るのが俺たちだけどな」
『赤信号、みんなで渡れば怖くない。ですね』
「言い方に語弊があるぞ」
『間違ってはいませんよ』
俺は足場へと飛び移ると、スペカを構えた。
そこには鴉の羽根が舞う中、カメラ越しで笑う文の姿が描かれている。
「風神様の御通りだ。神速『迅きこと天津風の如し』」
スペカを握り締めると、俺の周りに心地よい風が流れた。
俺はその場で爪先を鳴らし、クラウチングスタートの体勢を構えた。
目の前からは影の『道』が迫ってくると、俺は地面を蹴ってその場から走りだし、『道』の真横を通り抜けて影を斬り抜けた。勢いを殺さぬように別の足場で切り返すと、再び影と突っ込んだ。
往復を繰り返しながら斬撃を放ち続ける。すると、影の身体が揺らめいた。
「――‼」
「これで……」
『お終い‼』
最後の一太刀を浴びせると、影の身体が真っ二つに裂けて消えていった。
俺は月美を鞘に納めると、“本命”は目の前で俺のことを待っていた。
「……さあ、始めるか」
「――さあ、始めようか」
空亡「さて、ユウキ側はこういう感じでしょうか」
悠月「いつも通りだな」
空亡「問題は次ですよ。あの人は……」
悠月「そういえば、後で気になったんだが」
空亡「なんですか?」
悠月「俺のスペカが数枚なくなっているんだが」
空亡「目星ならついているでしょう」
悠月「あの盗人野郎……‼」
次回予告
神遊びその二、偽りの崇神VS魔弾の射手、交差する銃弾と刃。
東方風神録、在り来たりな奇跡は誰の為中編 銃、どうぞお楽しみに。