東方絆紡録   作:空亡之尊

98 / 106
在り来たりな奇跡は誰の為 後編

神無悠月side

 

 

「行くぜ‼」

 

 

俺は足元を蹴り上げると、目の前にいる“現人神”へと斬りかかる。

“現人神”は目を閉じて息を整えると、刃がをお祓い棒で受け止め、静かに目を開けた。それは今までに出会った堕ち神と同じ、確かな意志が籠った瞳だった。

 

 

「――折角の神遊びだ。楽しもう」

「殺し合いが遊びなんて趣味が悪い神様だな」

「――私を殺してみせろ、神無」

「……っ‼ どいつもこいつも、死にたがりのバカが‼」

 

 

月美を握る手に力を籠め、互いに弾き返して近くの御柱へと後退した。

俺が視線を向けると、“現人神”はお祓い棒を構えていた。

 

 

「――奇跡『客星の明るい夜』」

 

 

“現人神”がお祓い棒を掲げると、上空に幾多の星々が輝きだした。

しかし、それに見惚れる暇もなく。その星々から無数のレーザーが放たれ、無差別に俺へと降り注がれる。御柱を飛び移りながら避けていくと、“現人神”からも弾幕が放たれる。

真昼の空に輝く客星、正に奇跡のようなスペカだな。

 

 

「……月美」

『御意に――神代装束、神無月』

 

 

レーザーが俺を撃ち抜く寸前、光が俺の身体を包み込み、その攻撃を弾いた。

光が消えると、俺の姿は月と花の刺繍がされた黒い羽織をに見纏った。

 

そして、俺の手元には二枚のスペカが握られていた。

それはルーミアとミスティアのスペカで、次第に黒い光を帯びて一枚になる。

 

 

「唄え。『宵闇飛行演舞』」

 

 

スペカを頭上へと放り投げると、それが弾けて周囲全体を暗闇が覆った。

天空の星は俺を見失うと暗闇に向かって撃ち続け、“現人神”は俺の姿を探して見渡す。

俺はその暗闇の中を掻い潜りながら“現人神”へと接近すると、何度も高速で斬り抜ける。

暗闇が晴れると、天空の客星は消え、“現人神”は腕を押えながら俺を睨みつけた。

 

 

「星は夜に見る方が風情があっていいもんだぜ?」

「――っ」

 

 

“現人神”は葉を噛みしめると、俺の乗っていた御柱を弾幕で破壊した。

反応が遅れた俺はそのまま落ちていくと、“現人神”は飛び降りて先に湖の水面に立つ。

 

 

「開海『モーゼの奇跡』」

 

 

“現人神”が手を付けると、まるでモーゼの十戒の様に湖面が二つに割れた。

剥き出しの地面に着地すると、間髪入れずに“現人神”は弾幕を放ってきた。それらを避けると、突如左右に分かれ水の壁がレーザーを放ちながら徐々に閉じていく。

モーゼは追っ手の軍が渡り切る前に海を閉じったように、“現人神”が両手を合わせると、それに合わせて左右の水の壁が迫ってきた。

 

俺は咄嗟に二枚のスペカを取り出す。

それはアリスとパチュリーのスペカで、次第に七色の光を帯びて一枚のスペカになる。

 

 

「演じろ。『人形演劇~七曜七色の魔法物語~』」

 

 

水の壁が閉じると、水面から七体の上海人形が勢い良く飛びだした。

人形は“現人神”を追尾するように飛びまわると、それぞれの色にあった弾幕を展開し始めた。

湖から這い出た俺は御柱を駆け上がりながら、指に巻き付いた糸を操って上海たちを操りながら弾幕を張り巡らせる。

“現人神”はそれら全てを軽々と避けるのを見て、俺は人形を一ヶ所へと集めた。

 

 

「――何をする気だ?」

「演劇にはフィナーレがあるものだぜ、神様よ」

 

 

俺の目の前へと集められた上海たちの中心に魔力が集まりだすと、それが七色の閃光となって“現人神”へと放たれた。

“現人神”は自信の前に五芒星の結界を張ると、それを受け止めた。

 

 

「――『マウンテン・オブ・フェイス』」

 

 

閃光が消えると、“現人神”は平然とした表情でお祓い棒を掲げる。

するとその周りを囲むように花弁のように並んだ御札が三重にも重なり、全方向に向かって放たれた。放たれるすぐに二重下に輪が展開され、一番上の輪が放たれる。その繰り返しだ。

弾幕のパターンから見て神奈子のスペカだ。

 

 

「分身を創るだけはありそうだな」

『ユウキ、ここは』

「ああ、本物の力を見せてやるか」

 

 

俺は弾幕を斬り払いながら跳ぶと、スペカを取り出す。

そこには蛇を背に、御柱の上に乗って堂々とした態度で座っている神奈子の姿が描かれている。

 

 

「天神『神々しき戦場に降る優しき雨』」

 

 

スペカが光の粒となって消えると、俺の頬に一粒の雨粒が落ちてきた。

空は変わらず快晴だが、湖全体に行き渡るように激しく、しかし優しい雨が降り注いだ。

雨粒と弾幕が触れ合うと、それは光となって空に昇ると、やがて全ての弾幕を消し去った。

 

 

「――これは」

「荒れた戦場の傷跡を洗い流す優しい雨、神奈子にはピッタリだな」

「――甘い物だな。これなら私も殺せるのに」

「まさか。ここからだろ?」

「――言ってくれるな」

 

 

“現人神”は心底嬉しそうに口元を吊り上げる。

 

 

「――祟符『ミシャグジさま』」

 

 

“現人神”が手を合わせると、全方向に小さな弾幕を交差させながら放ってきた。

さっきのよりも動きは遅いが、弾幕の動きが細かいうえに小さいので避けるのに集中力が必要になる。単純な弾幕でもミスの一つで致命傷になる。発狂しそうになるな。

この意地の悪いスペカ、絶対に諏訪子のだろう‼

 

 

「嫌なスペカだ……」

『スペカで本人の性格が分かるって話、理解できますね』

「アイツにとってはこれも遊びのうちだけどな」

『神遊びの代償は命ですか。怖いですね』

「今はその命を大事にしないといけないけどな」

 

 

俺は慎重にホルダーからスペカを取り出す。

そこには蛙を背に、鉄輪を腕にぶら下げながら微笑んでいる諏訪子の姿が描かれている。

 

 

「地神『禍々しくも温かく芽吹く命』」

 

 

俺はスペカを構えると、迫り来る弾幕をこの身に受け止めた。

弾幕が直撃するたびにスペカが禍々しく黒ずんでいくが、やがて温かな光となって崩れ去る。

すると、周囲の弾幕が花開くように拡散して“現人神”と俺に直撃した。逃げ場もない弾幕の中、まともに受ければ立つ事さえままならない状況で、俺とアイツは立っていた。

 

 

「――ふざけたスペカだな」

『禍々しい戦争でも、芽吹く命の温かみはそれに勝います』

「戦争(あそび)に勝っても負けても喧嘩両成敗、なんとも諏訪子らしいじゃねえか」

「――それでも、貴様のダメージは相当のものだ」

「それがどうした」

 

 

俺は自分の右胸に手を置いて“現人神”を睨む。

 

 

「殺してみろよ神様。――“化物”はここにいるぞ」

「――貴様は一体誰なんだ」

「通りすがりの“人間”だ。憶えておけ」

「――そうか。ならば、こちらも準備に取り掛かるか」

 

 

“現人神”はお祓い棒を構える。

 

 

「――秘術『一子相伝の弾幕』」

 

 

五芒星に描かれた弾幕が“現人神”の目の前に浮かび上がると、それが幾つにも分かれて周囲に飛び、形を崩しながら拡散し始めた。そのタイミングに重なるように再び弾幕が描かれ、その繰り返しで弾幕の密度が徐々に濃くなっていく。

霊夢との戦いで見た弾幕とは威力も密度も段違いだ。さすがは“現人神”ってことか。

 

 

「だったらこっちも行かせてもらうぜ」

 

 

俺は弾幕を斬り払い、スペカを取り出す。

それは妹紅と輝夜のスペカで、次第に赤い光を帯びて一枚のスペカへと変わる。

 

 

「翔ろ、『フルムーンフェニックス』」

 

 

スペカを目の前へ投げると、俺は拳を握り締めてそれを殴った。

すると、スペカが砕けると同時に炎を纏った鳳凰が勢い良く飛び出し、“現人神”へと向かっていった。方法は弾幕を打ち消しながら飛んでいくが、“現人神”はそれを軽々と回避する。

 

 

「――これで終りか?」

「まさか」

 

 

俺は口元をニヤッとさせる。

鳳凰は大きく旋回して再び“現人神”へと向かう。しかし、今度は鳳凰と“現人神”の間に光を帯びた月の羽衣が円を描いて浮かんでいた。

鳳凰がそれを潜り抜けると、羽衣が光となって散ると同時に鳳凰は弾丸のような速さで“現人神”へと直撃し、炎を飛び散らせながら爆発した。

それは“現人神”にも予想外だったようで、恩柱の上で膝を着いた。

 

 

「――これほどとはな」

「どうだ? 案外この組み合わせもいいもんだろ」

「――一体どれほどあるんだか」

「聞きたいか? 組み合わせ次第では百超えるぜ」

「――まったく、末恐ろしいな」

「生憎と時間は無駄にあるんだ。これぐらい考えるのなんて単なる暇つぶしだ」

「――なら、その暇つぶしにもう少し付き合ってやるか」

「お手柔らかに」

「――準備『神風を喚ぶ星の儀式』」

 

 

次の瞬間、五芒星に描かれた弾幕が“現人神”を中心に広がると、形を崩して拡散する。しかし、今度は五芒星の片が連なって俺へと一直線に飛んで来た。再び展開された弾幕は全体に広がるように拡散、さっきのよりも難易度が上がってやがる。

 

 

「ちっ、取り出す暇がねえ」

『ユウキ、大丈夫ですか?』

「ちょっとやばいかもな」

「なら、こっちが行かせてもらってもいいよね」

 

 

突如乱入した声、それは俺を突き飛ばして前へと乗り出した。

それは黒いDE(星羅)を構えた星哉(バカ)のにやけた姿だった。

 

 

「楽しみはとっておき‼ 斬符『星光弾丸』」

 

 

耳を劈くような銃声と共に銃弾が放たれる。それは流れ星のような軌跡を描きながら“現人神”へと一直線に飛んでいき、弾幕を掻い潜りながらその身体を捉えた。

しかし、それはまるで壁にでも当たったかの様に弾き飛ばされた。

 

 

「あ~らら、結界張られちゃったか」

『ま、当然よね』

「あれ? じゃあ俺が来た意味ってなくね?」

「いや、意味はあるぜ」

「おお、嬉しいこと言ってくr」

「とりあえず俺のスペカ返せ」

「アッハイ」

 

 

俺は星哉からスペカを取り返すと、“現人神”へと向き直る。

 

 

「――まさか、貴様もあれを打ち破ったか」

「本物のケロちゃんに比べたらまだまだ。俺を殺したかったらダースで持ってきな」

『調子に乗ってるけど、あの程度ならそれも妥当ね』

「ふっ、いつも通りで安心したぜ」

『やっぱり星哉さんがいると場の雰囲気が明るくなりますね~』

「わかってるね~」

『アホらしい』

「同感」

「――貴様ら」

 

 

“現人神”は俺らの事を羨ましそうな瞳で見つめている。

 

 

「なあ」

「――皆まで言うな。あと、貴様が言いたいことは愚問だ」

「そうか。殺るしかないのか」

「――所詮、私は無理やり出されただけの影、アイツの心は貴様と出会った時にもう癒されてる」

「どういうことだよ」

「ああ、やっぱり解ってなかったんだね」

『二年経ってもこの調子なのね』

『そのようです』

「――恋心に鈍感なところは祖先に似たものだな」

「お前ら、後で絶対ぶち殺す」

「――そうしてくれ」

 

 

“現人神”は温かな笑みを浮かべて俺にそう言った。

 

 

「星哉、お前も手伝え」

「やれやれ、スリルと引き換えに給料分の仕事を全うしますか」

「ちなみに今回の報酬は?」

「企業秘密♪」

「あっそう」

「――話は終わったか?」

「ああ、こっちも行かせてもらうぜ」

 

 

“現人神”は最後のスペカを構えると、俺も一枚のスペカを構える。

そこには五芒星を背に、お祓い棒を持って満面の笑みを浮かべている早苗の姿が描かれている。

 

 

「奇蹟『優しき風祝と想い風』」

「――奇跡『神の風 ‐最期の祈り‐』」

 

 

“現人神”のスペカが発動すると、全ての御柱の上に形代(人型の紙)が現れ、湖上に風が吹く。

すると、“現人神”を中心に渦巻くように弾幕が展開された。それはまるで俺を近付けさせないために、“現人神”を守るように風が俺の行く手を遮っているようだった。

 

俺がスペカを発動させると、月美は風を纏った。それはとても安らかな風だった。

月美を一振りすると、目の前に迫ってきていた弾幕が風に吹き飛ばせるように“現人神”へと向かっていった。しかし、それは目の前に張られた結界によって防がれる。

俺はそれでも、何度も月美を振るう。風に乗せられた弾幕は何度も結界に阻まれる。

 

 

「――無駄だ。お前にこれは破れない」

「ああでも、生憎と俺は諦めが悪いんでな」

「――そうか」

「それに、障害物は退けた」

「――なに?」

 

 

俺は口元をニヤッとさせると、身体を横にどかす。

すると俺の背後には、魔理沙のスペカと星羅を構えた星哉が居た。

 

 

「頼むぜ、相棒」

「任せろ、相棒。星翔『イグニションドライブ』」

 

 

銃口に収束された魔力が一気に放出されると、極太い閃光となって“現人神”へと向かった。

弾幕の壁もなくなった射線上、閃光は結界によって防がると爆炎だけを上げて消滅した。

“現人神”は結界越しに俺らを見て勝ち誇ったかのような笑みを浮かべている。

 

 

「――少々危なかったが、惜しかったな」

「それはどうかな?」

「――何? ッ!?」

 

 

“現人神”は目を見開いた。

星哉が撃ちだしたスペカ、それは魔力を銃弾に纏わせて放つ一撃必殺のスペカ。確かに閃光は消えた。しかし、結界はその威力に耐えることができずにひびが入っていた。

 

 

「流石、あれだけ威力があればひびくらいは入るよね」

「――貴様」

「さて、刺芽は頼みましたよ。ユウキ」

「ああ」

 

 

俺は地面を蹴り上げると、“現人神”へと向かって飛んだ。

行く手を弾幕が阻むが、月美を振るいながらそれを吹き飛ばしていく。背後からは星哉が形代に向かって銃撃をしている音が聞こえてくる。

 

“現人神”へ振り下ろされた斬撃は結界に阻まれるが、銃弾に重なるように放たれた斬撃は火花を飛び散らせながら衝突する。

月美を握る腕に力が籠る。そこを中心に結界にひびが這って行く。それを見て“現人神”の表情は何故か笑っていた。

 

 

「――人間の力、見せてくれ」

「言われなくても、そのつもりだ‼」

 

 

俺が声を上げると、霊夢のスペカの力がホルダーから飛び出した。

スペカが砕けると、七つの光が飛び散り、月美に吸い込まれるように消える。

次の瞬間、月美が纏っていた風が強さをまし、同時に七色の光を帯びた。

俺は極限まで力を込めて月美を振り下ろすと、ガラスが砕ける様な音ともに結界が粉々になった。

 

 

「『三色蓮華蝶・奇跡』」

 

 

振り下ろされる刃の光が強まると、巨大な光の刃となって“現人神”の身体を斬り裂いた。

砕けた結界が湖上へと落ちていくと、“現人神”は最後の力を振り絞って踏み止まった。

斬りつけられた痕を抑えながら“現人神”は俺を見て嬉しそうな笑みを浮かべている。

 

 

「――フフ、やっぱり凄いな」

「これで満足か?」

「――ええ。これで思い残すことは無い」

 

 

“現人神”は足元から光になって消えていく。

それなのに、安らかな笑顔を浮かべたまま俺の事を見つめている。

 

 

「――そうだ。最期に一つ頼みがある」

「なんだ」

「――早苗の事を、よろしく頼む」

「それが最期の願いか」

「――アイツは優しいからな。弱音なんて吐かないし、誰かを恨んだり憎むこともない。

 だが、アイツは人間だ。神格を持とうと弱い人間だ。心の闇をこうして押し潰すバカだ。

 だから、アイツの事を守ってやってくれ。それが出来損ないの神の、最期の願いだ」

 

 

“現人神”は頭を下げて俺に懇願する。

神様からのお願いか、これで三度目だな。

 

 

「いいぜ。元からそのつもりだしな」

「――ありがとう。神無」

「気にするな」

 

 

“現人神”は最期の一瞬、にこやかな笑みを浮かべると、光となった。

光は天へと昇ると、吹いてきた風に乗って、どこかへと消えていった。

 

 

「じゃあな。優しい神様」

 

 

 

 

 

 




空亡「ここまで長くなるとは」
美羽「この文章力、他のに分けたら丁度いいわよね」
空亡「言わないで下さい」
美羽「でも、何でこう後味が悪い終わり方ばかりなのよ」
空亡「なんででしょうね。まあ、伏線ぐらいは回収しますよ」
美羽「それ、いつになるのよ?」
空亡「……輝針城まででしょうか」
美羽「まだまだ掛かりそうね」
空亡「さて、次回は宴会、何とか間に合いそうですよ」
美羽「そして、まさかの委員長登場」


次回予告
騒動は終わり、楽しい宴会が始まる。そして物語も…………
東方風神録、麓の宴会、どうぞお楽しみに。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。