神無悠月side
「…………………………」
博麗神社の鳥居の上、俺は紅く彩られた山の景色を見て感傷に浸っていた。
あの騒動の所為でゆっくりと景色を眺める暇もなかったが、改めて見ると美しいものだ。
ふと、俺は妖怪の山の方へと視線を向けた。
早苗は堕ち神の一件でしばらく寝込んでいたが、今はすっかり元気なっている。
二柱は早苗の心の闇について聴かされた時は動揺していた。自分たちのやっていた事がアイツを苦しめていたのだ、やっぱりどこか思うところはあったのだろう。
早苗はそんな二人に笑顔を向けていた。
たしかに神に成った自分がとても憎かった。全てを捨てて幻想郷に来るのはとても苦しかった。
でも、そんな自分の事を大切に想ってくれる二人の事は、心から憎めなかった。だから、そんなに自分を責めないでください。
早苗はそう言いながら二人を抱きしめた。
今回の一件、博麗神社の譲渡については、博麗神社の敷地内に分社を建てるという事で解決した。
早苗が事を急ぎ過ぎていたのが原因だが、堕ち神のことがあってか、早苗は憑き物が落ちたかのように大人しくなっていた。
これで一件落着と言いたいところだが、まだ謎は残ったままだ。
堕ち神を引きだした黄昏(美羽から聞いたのを思い出した)、アイツは霊夢と魔理沙との戦いの最中に逃げたらしい。しかし、その強さは本物だったようで、二人は一撃も与えられなかったらしい。
今までの神隠しと堕ち神の件、それがアイツの仕業だという事は分かったが、何の目的があってそんなことやったのか、それが俺には理解できずにいた。
「あー訳が分からねえ」
『考え過ぎると頭痛になりますよ~』
「お前ほど頭は弱くねえよ」
『どういう意味ですか‼』
「言葉のままだ。考え過ぎると頭痛になるぞ」
『なっ』
月美はスマホの中でアホ毛を逆撫でながら怒っているが、やはり迫力に欠ける。
でもまあ、コイツと話していると余計な事を考えずに済むからな。正直助かる。
そんな話をしていると、視界に尻尾のように揺れる金髪が見えた。
「相変わらず漫才してるね~」
「星哉か。何の用だよ」
「冷たいな~これでも君の相棒だよ~?」
「面倒なのが一人増えただけだ」
「またまた~そんなこと言って本当は嬉しいクセに」
「うるさい」
俺は諦め半分でそう言うと鳥居の上に腰掛けた。
勝ち誇った表情を浮かべる星哉は、それを見て俺の隣に座った。
「ところで、そっちの情報はどのくらい集まってるんだ」
「まだまだ。ただ、一つ分かったのはあの黄昏ってこの情報だけ」
「それだけでも十分だ」
「でも期待はしないで。だってこの情報、ひーちゃん(光輝)でも無理だから」
「どういうことだ?」
「名前、生年月日、住所、出身、住民票、保険証、クレジット、どの情報機関にも彼女に関する確かな情報はなかった。まるで初めから存在なんてしないような感じだよ」
「それはそうだろう」
「でも、俺はあの子を一度見ているんだよね」
「どこでだよ」
「『未解決事件資料室』、部長の個人部屋だよ」
それを聞いた俺は目を見開いた。
『未解決事件資料室』、部長の実家の地下にあるという資料室の名前。
警察やマスコミさえ知らない事件、とある事情によって抹消された事件、初めからなかったことにされた事件、その他もろもろの資料が部長の“趣味”で集められている。
「この一件、どうやらまだまだ裏がありそうだよ」
「でもどうする気だ。俺らはここから出れないぞ」
「簡単な事。本人たちをとっ捕まえればいいだけの話」
「ま、その方が楽か」
「そういうことだから、俺はこのくらいにしておこうかな」
「珍しいな。いつもなら無駄におしゃべりするくせに」
「今晩は宴会だからね。そのための下準備もしないとね」
星哉はにっこりと笑みを浮かべると、鳥居の上から飛び降りた。
宴会、これもアイツの“筋書き通り”だと思うと、なんとなく癪に思えてきた。
少年少女祈祷中
「今日はこの前のことを忘れて飲みましょー‼」
「「「「「「「「「「「おお‼」」」」」」」」」」」
星哉の妙にやる気な音頭によって宴会は始まった。
今回は騒動に関わった人たちが来ているが、その他にも今まで異変に関わってきた奴等もいる。新たらに来た住人が気になる奴もいれば、宴会と聞いてきた奴等もいる。
霊夢の方を見れば、紫と萃香と文というなんとも豪華な顔ぶれになっていた。萃香の酒豪ぶりに文は若干困りながら付き合わされ、紫は霊夢に楽しそうにお酒を進めている。よく見れば、傍らには早苗が居る。なにやら霊夢に話を聴いているがここからじゃよく聞こえない。
視線を移すと、今度は魔理沙の方に目がいった。そこにはアリスと雛とにとりがいた。珍しい組み合わせだが、共通点と言えば魔理沙だろうな。魔理沙はにとりに機械の話に目を輝かせ、後の二人は共通の人形の話題で盛り上がっている。
何気なく二柱を探すと、他の二柱を見つけた。それは秋姉妹だったが、なぜか穣子がルーミアに追いかけられているというシュールな光景を見かけた。一方の静葉はチルノや大ちゃん、ミスティアやリグルと楽しく話している。
その光景を見て微笑ましく思っていると、近くに椛を見かけた。周りには咲夜と妖夢、藍や鈴仙などの従者メンバーで固められている。酒も入っている所為か、自分の上司に対する不満度が聞こえてくる気がする。苦労人は耐えないな。
その主人たちはというと、二柱の所にいた。レミリアと幽々子、輝夜と永琳は気が合うのか神奈子と酒を交えながら談笑している。対する諏訪子はフランと妹紅と楽しげに話している。なんとなく繋がりは分かるが(EX繋がり)、まあ楽しそうで何よりだな。
「楽しそうだな」
「そう言いながらまた一人ですか」
「俺は一人の方が気楽でいいんだよ」
「それ言うの何度目ですか?」
「さあな」
そう言いながら水を飲んでいると、俺の頬に冷たいものが当たった。
驚いてそちらを向くと、コップを持ったバカが悪戯な笑顔を浮かべていた。
「暗いな~こういう時は明るくならないと」
「俺はお前よりこの雰囲気に合わないんだよ」
「悲しいな~って、ユウキはやっぱり水なんだ」
「お前も分かってるだろ」
「あはは。個人的にはユウキが酔ったところ見てみたいんだけどな」
星哉はウキウキとしながら俺の隣に座って酒を一飲みする。
それを見て、俺は溜息を吐いた。
「バカ言うな。酔うと記憶飛ぶから気味悪いんだよ」
「……やっぱり憶えてないんだ」
「何か言ったか?」
「いや~。それより、みんなと一緒に呑もうよ」
「遠慮しておく」
俺は空になったコップで星哉を小突くと、いつもの場所へと歩いて行った。
少年祈祷中
「今日も月が綺麗な良い夜だ」
博麗神社の屋根の上、俺はいつもの様に月を眺めた。
月明かりに照らされる紅葉の景色、今日はより一層眺めが良かった。
下ではみんなの騒がしくも楽しそうな声が聞こえてくる。
「退屈しねえな。ここは」
「そうですね」
「え?」
俺は驚いて視線を横に向けると、そこには早苗がいた。
予想外の人物に俺は唖然としていると、早苗は不思議そうに首を傾げた。
「どうしました?」
「お前、何でここに居るんだよ」
「ユウキさんがどこかに行くのが見えたので、それで」
「ったく、全然気づかなかった」
「ふふ♪ ユウキさんのそういうところは相変わらずですね」
「うるさい」
俺は彼女から顔を背けるが、早苗はそれを見て嬉しそうに笑っている。
こうしていると、忘れたはずの幼い頃の記憶が懐かしく思えてきた。
「そういえば、最近になってようやくお前のことを思い出してきたよ」
「え?」
「初めは瑠璃と緋姫の友達ってことで紹介されて、俺はその世話役を任せられたっけ」
「そうでしたっけ」
「昔から元気だけはあったから危なっかしかったんだろ」
「あはは……流石にそれは憶えてません」
「まあ、それに付き合わされる俺はいつもくたくただったけどな」
「ユウキさんが遊んでくれなかったからじゃないですか」
「昼寝の邪魔をされて怒らなかっただけマシだと思え」
俺は指で早苗の額を弾いた。早苗は痛そうに額を抑えて涙目で俺を睨んだ。
月美といい、早苗といい、似ているのか怒っても迫力に欠けるな。
「そうだ。二人は今のお元気ですか?」
「ああ。ここに来る前に顔を見せたら飛びついてきたよ。あ、緋姫が」
「そうですよね。瑠璃ちゃんはそういうことしなさそうですし」
「双子でも性格は随分違うからな」
俺は苦笑しながら月を眺めた。
アイツ等の事だ。どうせいらない心配しているんだろうな。
そんな事を考えていると、早苗が思いふけっているように顔を俯かせていた。
「どうした」
「あの、私の嫌な部分、見たんですよね」
「ああ」
「どう思いましたか?」
「……さあ。お前はどう思うんだ?」
「私は……情けないと思っています。
大好きなお二人の為に、全部捨てる覚悟でここに来たっていうのに、それなのに………」
「別に悪いことじゃないだろ。お前の人生だ、お前の好きに生きる権利はある」
「いえ、本当は気付いていたんです。ああいうのが自分の中にいることを。
だって、あの時の私は、まだ思い残したことがありましたから」
「思い残したこと?」
早苗は俺の方へと向き直る。その瞳は真剣に俺を見据えている。
「もう二度と会えないのなら、私のことを忘れられるのなら、せめて貴方に伝えかった」
「なるほど。だからお前の闇が表に出ることができなかったのか」
「でも、結果的に私は自分の醜いところを」
「気にするな」
俺は早苗の頭に手を置いた。
「俺はお前らが羨ましいよ」
「え?」
「自分の闇にちゃんと向き合える。それが出来なかった俺は、お前よりも醜い」
「それって……」
「俺はお前らが思ってるほど、強くはねえってことだよ」
俺は早苗の頭をゆっくりと撫でる。
早苗はちょっと恥ずかしそうに顔を俯かせる。
「昔はこうやってお前が泣くのを宥めてたっけな」
「そ、そんなことまで思い出したんですか!?」
「知らなかったか? 俺って結構記憶力には自信あるんだぜ」
「うぅ……凄いですね」
「ふふ」
俺は頭を撫でながら楽しそうに笑った。
その夜は、気持ちがいいほど涼しい風が吹いていた。
明星美羽side
「楽しそうにしてるな~」
私は博麗神社近くの森の中から宴会の様子を覗き見ていた。
今回は店の方が忙しかったから詳しい情報は掴んでいないが、どうやら黄昏が現れたらしい。
妖怪の山に侵入してきた少女、そいつが持っていた異様に長い刀、それだけで誰なのか分かった。
今まで表に出ることがなかったアイツ等が出てきた。しかも堂々とユウキの目の前にだ。
「また厄介なことになりそうね」
「はあ~私は早くこれを終わらせて家に帰りたいです」
「そう簡単に帰れないでしょうね」
「……いくらなんでも情報量が少なすぎる」
近くにいたマリィ、楓恋、白音の三人は溜息を吐きながら口々にそう言う。
「そう思うのならアンタたちも動いたらどうなの?」
「「「面倒だから嫌」」」
「アンタたちね……‼」
「まったく、職務放棄とはいいご身分だな。お前ら」
「「「え?」」」
「この声は……」
突如、その場の空気が凍り付いた。
いつもなら余裕かましてる私も、この声を聴くと本能的に身体が固まる。
皆の視線が暗がりの向こうに集中すると、そこから一人の少女が現れる。
女性物のスーツの上に古びたトレンチコートを羽織った長い茶髪の少女はジト目で睨んでいた。
「久しぶりだな。明星、綺裂、紅城、黒淵」
「ひ、久しぶりね。委員長」
「こんな所で会うなんて奇遇だね~」
「よりにもよってアンタが来るとは」
「……とりあえず睨むのだけはよしてくれ」
「黒淵は正直でいいが、他三人はどうだろうな」
そう言って彼女、勧善 和美は私たちを睨みつける。
「こちらの情報を集めるのが美命様からの命ではなかったのか?」
「いや、それはそうだけど」
「こっちはすでに一週間も経っているというのに、未だ進展がないそうだな」
「仕方ないですよ。あちらが全く動かないので調べられる物も調べられないですよ」
「だったら自分の足で調べろ。捜査の基本だ」
「簡単に言うけど、正直私も少しお手上げよ。情報が無さ過ぎる」
「……幻想郷で調べるのはほぼ無理だ」
「それでこんな所で油を売っているというのか?」
「いや、それは……」
何とか話を逸らせそうだったが、やはり鋭いわね。
「ところで、委員長はここに来て平気なの?」
「なにがだ?」
「いや、委員長って私たちと違ってちゃんと仕事有るじゃない」
「心配するな。お前らが思っているより暇だからな」
「本職の刑事が言っていいセリフじゃないわよ」
「それくらい町が平和だという事だ」
委員長は笑顔でそう言った。
正義感が強いのか、そうでじゃないのか、よくわからないわね。
「さて、立ち話もなんだからお前らの店に案内してもらおうか」
「やっぱりこっちで暮らすつもりなのね」
「当然だ。お前らの行動を見張っておかないと罪を裁けない」
そう言って委員長はコルトパイソンを撫でながら笑顔でそう言った。
もう一度言わせてほしい。本職の刑事が言っていいセリフじゃない‼
「お願いだから店の中では撃たないでよね」
「心配無用だ。戦闘時以外は跳弾は外してある」
「そう意味ではないと思いますよ」
「やれやれ、また面倒なのが増えたわね」
「……ということは、委員長もうちで働かないといけないのか」
「あ、それいいわね」
「仕方あるまい。だが、スカート丈はきっちりとさせてもらうぞ」
「はいはい。……どうせだから恥ずかしい仕様にしとけばよかったわ」
「何か言ったか明星」
「言って無いわよ。だからトリガーに指を掛けないで」
「もしも私の気に障るような発言をするなら、ここで死刑を言い渡すぞ」
「……相変わらず委員長は怖いな」
「この人だけは怒らせないようにしないと」
「賛成」
そんな他愛もない物騒な話をしながら私たちは歩いて行く。
面倒事が増えるのはユウキだけではないってことね(涙)。
空亡「これでようやく風神録編は終わりですね」
悠月「結局、スッキリしない終わり方だな」
空亡「黄昏たちとは何者なのか? 謎を残しましたね」
悠月「で、この次は何する」
空亡「いつもの日常編を挟もうと思っていましたが」
悠月「どうした?」
空亡「次回は丁度この作品の百話目という事で、何かやろうと思います」
悠月「何する気だよ」
空亡「ここは、どの作品には必ずしも登場するあのゲームをやりたいと思っています」
悠月「なんだよそれ」
空亡「それは――」
次回予告
東方絆紡録特別企画、最後まで生き残っているのは果たして誰なのか‼
非日常編・五、愛と悲しみの王様ゲーム、どうぞお楽しみに。