「あぁ?」
言われたことがよくわからなかった。
オレの怪訝な声が、流していた音楽をかき消して凛と響く。
「いや、ね」
「うん」
五条悟は言いよどんでいる。しかしそうだろう。オレも耳を疑っている。
先程の言葉が嘘ではないのなら、向こうだって気まずいはずなのだから。
「えー、五条家のほうから、君と僕で『結婚』することにとのお達しがきましたー」
「おっ、オマエさぁー!?」
きっとこの反応は間違ってないはずだ。
「かわいいオレだからといって、それはさすがに違うだろ!?
結婚するならもっといけめ……いけ……顔に関してはまぁ、いいとして。
もっとマシな性格なやつとかいるだろ!?」
「君、人のこと言えないくらいにはアレな性格してるよね」
「くっそぉ……どうしてこんなことに……」
項垂れる。
向こうはというと、普段通りのお気楽顔だ。オレと結婚するなんてことに対して、特段思うことはないらしい。
この次元一の美少女になった以上、そういう話がくることは想定していた。
だからとりあえず、釣り合う相手の条件については一応考えてはいたのだ。
五条悟は筆頭候補といってもいい。
全創作物世界一の美少女であるオレの相手にとって不足のない顔、立場、実力、あと金。
だが。
けれど。
それにしたって、こいつは性格が終わりすぎているだろう。
なまじ最強なぶん人の心がわからないし。
最強で通用してしまうぶんわがままを通すし。
力があるぶん配慮が浅い部分とかあるし。
この間の試着室の一件はまだ許していない。
今度また「茈」でお仕置きしてやろうと思っている。
「結婚の話は前からあったんだけどね。今回、封印処置にあった祈が自我を取り戻してしまった。
これは五条家にとっては爆弾なわけだ。
だから、対処することのできる僕の妻って立場に封じておこうって考えなんだろう」
「これ、そんなに怖い?」
「さぁ? でも、さすがの僕でも「茈」は止められるかわからないからね。連中の怯える気持ちについては、納得はできる」
オレの眼を指しての言葉に、悟はそう言った。
感情の読みづらい顔だった。
こういう無表情に、彼は時々なる。その場合、普段の軽薄さはすっかりと鳴りを潜めるのだった。
美形が無表情だと正直怖い。
この世界に転生する前からよく言われることだったが、転生後に身に沁みて感じる。
「しっかし、またスゴイ話だなぁそれ……。自分の意思は置いといて、最強キャラの伴侶ってことだろ。オレもちょっと、そういう素振りとかしたほうがいいかな?」
「すれば? あ、あれやってよ。すっごいケバい感じにして『皆様、ごめんあそばっせ!!』みたいなイヤミーな感じの婦人」
「せんわ」
こいつの前で体面繕っても意味ねぇなと思ったのでしないことにした。
オレは悪くない。
きっと、こいつの知り合いならみんな「それがいい」と言うはずだ。
「そういえば」
今度はオレから切り出した。
向こうは「ん?」と疑問に首を傾げる。
「タイツとスカートが見当たらなくなってるんだけどさー。知らない?」
これはこの間からだ。
今朝も軽く探したけどなかったので、今日こそ聞かねばならない。
せっかく買ってくれたものなんだし、気づかずになくしてたなんてことになるのは嫌だ。
だったら探してることをこうして伝えておいたほうが、きっと向こうも協力してくれる。
ダメだったときもあんまり怒られない。ふふん。
「ちゃんと探したの? モノに足が生えて逃げていくってことはないでしょ?
洗濯とか、そこらへん全部祈がやってるじゃん」
「つっても、把握しきれないことってあるよね」
「ていうか祈のものは「自分で管理するー!」って言ってたじゃん。僕に聞くなよ」
「とはいえさー。オレがわからないんなら、悟に聞くしかないじゃん?
つまりこれは当然の帰結ってやつなわけよ」
「なんというか……それが本気で天才の発想! みたいな感じのドヤ顔されるといじめたくなってくるね。ほらほら」
「にゃっ!?」
ほっぺたを突かれる。
「ぬぬぬぬ……この世紀末美少女伝
「猫みたいな声だけど、今どき狙いすぎはウケないよ? あざといのは程々にね」
「のじゃ語尾みたいにいっそ狙いまくったほうがいいかな? ふふふ、ド高貴な妾と婚姻ができて嬉しいじゃろ? もっと褒めて称えるがいい! あっやべぇさっきやらないって言ったのに!」
「……マジでやめてくれ」
苦笑いされた。
まさかこんな反応をされるとは思っていなかったので、少しショックである。
そんなにダメかなぁ、のじゃ語尾。
創生神話よりもはるかに価値のある美少女であるオレののじゃ語尾とか、世界でも有数だと思うんだけど。
「見てると、知り合いを思い出すからな」
「むー……? それ、どんな人だったわけ?」
「珍しくもなんともないただのガキ」
あんまり突っ込んだ話はしないほうがいいか。
感情の読みづらいその表情は、今日一日でよく見ている。
「もうとっくの昔に別れたけどね」
「やっぱり恋人……」
「友人だよ。強いていうなら、だけど」
本気で呆れたような顔をされたので、言葉どおりそういうことなのだろう。
恋人だったら面白かったのになぁ、と思いつつ、時計を見たら既に風呂などを用意するべきだろう時刻。
五条悟の家……というより部屋。
万が一の暴走に備え、オレは彼とここで同棲することになったのだった。羨ましい。
この部屋の家事は、オレが担当することになっている。
炊事や洗濯、掃除、風呂当番など全般。
これまでやってこなかったこともあり、いまいち不慣れであるが、それでも家事をする自分のかわいさを思えば覚えるのは早かった。
ちなみに作った料理は外食が多いっぽい悟にすっごい褒められた。
これが女子力というものである。ふふん。
ということで、今はもうルーチンワーク。
慣れっこになった自分の仕事をこれからすることに。
買い出しなどの関係上、まずは夕食を考えなければ。
自分だけだとあんまり意見が出てこないので、今日は家にいる悟に意見をもらうことにする。
彼はあんまり悩まずに意見を出した。
「寄せ鍋作ってー」
「……わかったー。一緒に家で食べるの、三日ぶりだしね」
肌寒い時期なのは間違いないし。
冷蔵庫の中身はおおよそ把握している。
こうなると買い出しに出る必要があるな、と思い、外へ出る準備に着替えを。
今の服装は外に出ることを意識していないもののため、この顔を若干翳らせてしまう。
もっといい服装があるのだ。
「……ん?」
無造作に引き出しに仕舞われていたのは、なくなっていたと思ったタイツとスカート。
自分の確認不足だったのだろうか。
とにかく見つかってよかった。
ひょっとしたら悟が見つけてくれていたのかもしれない。
……いやまて。
軽く匂いを確認する。
オレは自分とその持ち物の匂いをだいたい覚えてるから、すぐに自分以外の匂いが混ざっていることに気づいた。
振り向けば、彼はオレから目線を逸らす。
その反応でだいたい何をやったかわかったが、オレはそれでも彼に問いかけるのだった。
「あのさー、どういうこと?」
「いや、えーっとねー……ちょっと、この間パーティーをしてさぁ。生徒と一緒に遊ぶのに借りちゃった☆」
「……………………」
目を瞑る。
このままだと、また「茈」が起こってしまうから。
大きく深呼吸。
をしたんだけども、やっぱり怒りは収まらない。
「──浮かれてんじゃねーよ死ねっっっ!!」
蹴った。
「うわー」なんてふざけた声で倒れるこの男は、やっぱりどこかで死ぬといい。
GTGの口調なんもわからんちん
評価くださった皆さまありがとうございます。これからもひっそり更新するつもりですのでよろしくおねがいします。