「──帰ってこねぇし」
いったいどこでほっつき歩いているのか。そう思ってケータイを確認すると、『飲みにいってくる』との簡潔なメールが届いていることに気づく。
ため息一つ。そういうのはもっと早くに言え、と思いつつ、とりあえず今日は楽をしよう。
「んー、髪が長いとやっぱ邪魔だなぁ」
冷静に考えて十年もの間切っていないのだから、そりゃあもう大変伸びてしまっている。
監禁生活から出るなり整えはしたのだが、切ってはいない。
このかわいさを支える重要なファクターだと思ったからだ。
とはいえ、しばらく過ごしてみるとすぐに気づく。髪が長いって不便すぎる。
それも、だいたい太ももあたりまでの長さだと特に。
そのせいで髪を洗うのは時間がかかるし、座るときに床につかないように一旦持ち上げる必要があるし、なにより頭がすごく重たい。
かわいいと言えばかわいいが、それでも限度がある。
髪型で遊べるのは楽しいといえば楽しい。つらさを帳消しにしてくれるというところもある。
ある、のだが。
「そういえば髪って呪いの媒体に使いやすいんだよなー」
切る理由をこうして思いついてしまったので、これは切るしかない。
ということで、肩甲骨あたりまでばっさりカットする。前髪も、横に流してなぁなぁにしていたものをカット。
これだけでも大分すっきりした印象になった。
が、まだ足りない。横髪を切って、少しずつ縮めていく。
「よし」
先程までの異常な長さは脱却。
これで一般的な長めの髪くらいまでになったんじゃないだろうか。ふふん。
こういうカッティングもできるなんて、やっぱりオレは天才である。
袋に集めた大量の髪。これをここから利用することに。
オレは腐っても五条家の人間なため、呪力の保有量自体は高い。
とはいえ、術式の利用の際に出力される量は常に一定だ。
つまりこの呪力の利用先は、反転術式の使用あるいは肉体の強化にしかされない。結界術を覚えられればまた違ってくるのだろうが。
家入さんと初めて会った日のあと、オレの目について推察を立てた。
オレの体の元持ち主は、生まれる前に死んでいる。
そして、オレの転生のタイミングはきっと──彼女が死んだ直後だ。
術式は基本的に一人一個だ。
他者が真似することはできない。
が、別人が利用する方法はきっとある。例えば呪具に宿った効能は正確には術式のようなものだと思っていいはずだ。
とはいえ呪具はそのほとんどが、自分自身で呪力を持ち単体で機能する。
よって、オレのイメージしているものとは少し乖離する。
オレの本命はこっち。
両面宿儺というものがある。
悟から聞いた呪いの王だ。遥か昔の存在であるが、その指は未だ現存している。
特級呪物という形で、莫大な呪力を未だ秘めており壊すこともできない。
唯一の例外とすれば宿儺を身に宿してもなお、正気を保つことのできる人材を見つけ出し、それを殺すこと。
それで宿儺の殺害はできる。
が、それはリスキーだ。当然ながらただの人間がそんなことをできるはずもなく、故に宿儺は受肉しない。
あるいは、獄門疆や九相図。
どれも特級呪物。これらは全部、難易度と前提条件をともかくとして「使用」することが可能。
そう、「使用」だ。
呪物は「使用」することができる。
そしてそのどちらも、元は術式を持った存在であるということ。
他人の術式を利用することは、おそらく可能だ。
術式が宿ったものを操ることができれば。
それで、きっと機能する。
だからこそ、オレは彼女の体に生まれつき備わった術式と、オレの魂が所有している術式のどちらもを使うことができるのだろう。
これはあくまでも推察だ。
そして、オレ自身が所有している術式は──きっと、モノの性質を「反転」させる術式なのだ。
その重ねがけの結果が、「蒼」の瞳と「赫」の瞳。
しかしこれが正しければ、少し怖い。
だって、オレの目玉をえぐり取ったらきっと、それで「蒼」は使えてしまうのだから。
ということで。
この身に溢れる呪力を用いて、防御用の呪具を作ることにした。
少し怖くなってきたからね。
美少女で天才って自分の才能が怖い。ふふん。
それに、髪に未だうっすらと残っている呪力が勿体ない。
どうせなら有効活用したいものである。
「──できたー!!」
呪力を相当使ったが、それでも完成させることができた。
ふふん。これはすごいんじゃないだろうか。
作ったのは下着である。
いわゆるブラキャミ。といってもこれはやらしい理由があるわけじゃなく、その形があくまでも理想だったというだけ。
髪の量的に服を作るには足りないが、それでもこれなら広めの面積を覆うことができる。
オレの髪から作っただけあって、呪力との親和性は非常に高め。
莫大な呪力をこめつつ、命とまで評される女性の──オレの髪の毛を利用して作成したことによって、防御力も相当なスグレモノ。
ついでに呪力で操作することによって伸縮するので、成長にもちゃんと適応する。
ふふん。
さっそくつけてみた。
悪くない。自分の才能に惚れ惚れする。天才とはやはりこういうことを言うのだろう。
「ただいま~」
「おかえりー! 見てこれ! すごくない!?」
丁度いいタイミングで帰ってきた悟に、早速自慢しにいく。
あ、顔が赤くない。酔ってないのかな。ひょっとして飲んでないのだろうか。
「すごいでしょ!」
「んー? ……ああ、ひょっとして自分で作ったの?
すげー、鎖帷子みたいじゃん。器用だねまったく」
「天才でしょ」
「まぁ、立派な呪具にはなると思うよ。機能はどんな感じ?」
「アホほど呪力こめたし髪使ってるからすごく固いと思う!」
「なるほどねぇ。あ、で、祈。デザートかなんかある?」
「えー、オレ用に買ってきたのあるけど……」
「ちょうだい」
仕方ないので渡すことにする。
夕方の買い物でもっとデザート買ってくるべきだった。そう思ったけれど後の祭りである。
ほしいものがあるならメールしてくれたら買ってくるのに。
「まったく、硝子の飲みに付き合うと疲れるな」
「え、あの人そんなアレなの?」
「アホほど飲むよ。高校のときから煙草吸ってた筋金入りだぜ? そりゃあ酒にもハマるに決まってる」
へー。
「逆に僕は飲まない。飲んでもノンアル」
「あー、ぽいわー」
「ぽいって何さ」
「え、そのまんまの意味だけど……」
それ以外に何があるのだろう。
そう思って見つめれば、「まぁいいけどさ」と帰ってきた。
いいらしい。彼の中でどんな考えがよぎったのかわからないが、とりあえずはそうらしかった。
「──で。すごく今更なんだけどさ。寒くないの?」
「……あ」
忘れてた。
いそいそと服を着る。
寒さが今更やってきた。
ちょっとばかり遅いんじゃないかと思う。
お前も呪術理論考察勢にならないか?
今日ようやく小説版読んだんですけど、14巻のあとに読んだせいで真人許せねぇ……! って気持ちと真人の過去話への感情がきて感情がバグりました。
こんなクソ小説より呪術の小説を読んでください。公式だけあってキャラの解像度が高い……すき……。