西暦2015年―

人類の大半が消失した、海より侵略する異形の軍勢の蔓延る世界。

争いの絶えない世界を作り出し、世界に反旗を翻すのは──かつて人類を守らんとした「若者」だった…!


──これは、有り得なかった「もしも(if)」の物語…。


※この物語は「艦これ 七十年後の君へ」の「BAD END ルート」想定のお話です。
 本編のネタバレを含みます、まだ閲覧されていない方は先に該当作品の「海の亡霊編」までをご覧ください。

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※注意

 この物語は「艦これ 七十年後の君へ」の「BAD END ルート」想定のお話です。
 本編のネタバレを含みます、まだ閲覧されていない方は先に該当作品の「海の亡霊編」までをご覧ください。



艦隊これくしょん 七十年後の君へ──外伝 War Maker──

 ──よくある話だ。

 

 正義を夢見た若者は、世の中の流れによって現実を思い知らされ…やがて落ちるとこまで堕ちてゆく。

 

 ──よくある話だ。

 

 善人であった者が、ふとした瞬間に「悪」に染まっていく…どうしようもない畜生以下の下衆に成り下がる。

 

 ──よくある話だ。

 

 人間を取り巻く「運命」とは、些細な違いで善くも悪くも様変わりする。

 

 

 

 それは、誰であろうと変えることは出来ない──

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・

 

『──◼️◼️◼️◼️、さぁお母さんにお別れしなさい』

 

 …俺が中学生の頃、布団に横たわる母を見た。

 

 生気を失った「抜け殻」と化した母は、もう笑うことも泣くこともない。ただ…まるで静かな寝息を立てて寝ているような、穏やかな寝顔をして…今にも動き出しそうな、いつもと変わらない顔…なのに…。

 

『交通事故だそうじゃ、仕方がないことだ。母さんを轢いた若者とご家族が泣きながら謝って来たよ、ワシに言われてものぅ…なぁ◼️◼️◼️◼️?』

 

 父はまるで疲れたように掠れた声でオレの返事を待った…だが。

 

『…だよ』

 

 

『何平気そうにしてんだよっ!!』

 

 

『…◼️◼️◼️◼️』

『なんで…母さんが死んだのに…そいつらのせいで母さん死んだのに…なんでヘラヘラしてんだよっ!』

『落ち着きなさい◼️◼️◼️◼️』

『るせぇ!! ()()()()()()()()()()()()、なんで笑って誤魔化そうとしてんだよ、ふざけんなよっ! アンタがやらないなら…オレがっ!!』

『やめろっ!!』

 

 父の一喝によりその場が静まり返る。…オレは、憎悪を湛えた眼で父を睨んだ。いや…誰でもない、母を奪った「運命」をオレは呪った。

 

『…誰を憎んだところで何も変わりはしない、母さんはもう居なくなってしまったが…これからはワシと一緒に強く生きよう。なぁ… ◼️◼️◼️◼️?』

『……っ!!』

 

 オレは父の慰めの言葉に苛立ち、限界を迎えるとそのまま家を飛び出した。

 

『待て! 何をするつもりじゃ、◼️◼️◼️◼️ーーーっ!!』

 

 父の静止を振り切り、オレは家を飛び出した──

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 ──そこから、オレの人生は堕ちていった。

 

『臨時ニュースをお伝えします、都内在住の○○家の長男を「刺殺」したとして、高校生の少年が殺人容疑で逮捕されました。警察の取り調べで少年は「交通事故で母の命を奪った被害者を許せなかった、同じ思いを味合わせてやりたかった」と発言しており、警視庁は突発的な犯行だと見て事件の捜査を──』

 

『何故じゃあ…何故殺してしまったっ! お前は…お前自身の未来を奪ったのじゃぞ!!』

 

『皆さん、彼のやったことは殺人です! 少年であろうとそれは変わりませんっ』

 

『被告人には情状酌量の余地があるとはいえ、自身の罪を犯した意識は、言葉や態度からは残念ながら見受けられません。よって被告人を「少年院」送りとし、数年経ても更生が見られない場合は…法に則り、厳正な処罰を下します』

 

 裁判で宣言された主審の発言を反芻する。

 間違ってはいない、オレは…怒りと憎悪に任せて人を…殺した。

 オレは報復と称して、玄関のチャイムに応答した加害者家族の長男を、何も知らずにドアを開けた瞬間…腹部に包丁を()()()()()

 …後悔は無い、家族を失った悲しみを奴らにも思い知らせてやった。それだけでオレの憎しみは「多少は」和らいだ気がした。

 だが、それが受け入れられる筈もなく。取り調べの刑事が静かに口にした言葉が、頭から離れない。

 

『これで終わりだと思うなよ少年? 度重なる憎しみの先に待つのはいつだって「己の破滅」だ。お前は…切ってはいけない口火を自らの手で切ってしまった、例え地獄を見ようともその責任は果たさなきゃならない。…よく覚えておきな?』

 

 地獄か……っふ。今更何を恐れる…オレは。

 

 ……っ、オレは…っ!

 

『──…よぉ、久しぶりだな◼️◼️◼️?』

 

 …ふと、オレの目の前に映し出されたのは「金髪の少年」。とある喫茶店で向かい合っての会話。

 

『… ◼️◼️◼️◼️◼️、何で俺を助けた?』

『あん? ダチを助けた…じゃ不足か?』

『お前がそんなタマか。…オレは自分のやったことに後悔なんてしていない、だが被害者遺族も俺が仮出所したことに腹を立ててると聞いた。…オレは罪を償うだげだ、だから余計なこと…』

『ケッ、んだよそりゃ。後悔してねぇのに「罪を償う」だぁ? 随分と矛盾してねぇか、オイ?』

『…◼️◼️◼️◼️◼️』

『お前は昔から真面目だからよ、こういうことはきっちり償う性格なんだろが、だからってよ…お前は母親殺されて逆上し、怒り任せに包丁を刺してしまった、言い方を変えれば幾らでも情状酌量の余地は有る。要は無理に受ける必要はないのさ?』

『っ、でも…』

『なぁ◼️◼️◼️、このまま俺んとこ来いよ。ガキの頃みたいによ…人助けじゃねーけど、別のやり方でお前が納得出来る償いを探すんだよ。俺も… ◼️◼️◼️◼️も、手伝ってやるからよ?』

『っ! ………済まない』

『気にすんな。…しっかし、お前が罪を犯すたぁ昔からは考えつかねぇわな? …立場逆転ってか?』

『あぁ…あぁ……っ!』

 

 アイツのいつもの軽口を聞いていると、自然と大粒の涙が溢れたことを覚えている。

 オレはこれから生まれ変わって見せる…死んでしまった母さんのため、オレが殺してしまったあの人のため、オレを慕ってくれる友人たちのため。…その時開かれたオレの道は明るかった。

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 ──だが、忘れてはならない。

 

『はぁ……はぁ…っ、もう少しだぞ、頑張れ……っ!!』

 

 禁忌の箱は──既に開かれたことを。

 

『ばっか! は?! 記憶が戻るまでか??』

 

 後戻りなど──許されないことを。

 

『オレは…◼️◼️◼️の記憶を取り戻す』

 

『◼️◼️◼️さん…』

 

 オレの道は…どう足掻いても「血塗られた」ものであると。

 

『フハハハハ!!』

 

 オレの中には──オレ自身制御出来ない「憎悪」が形作られていたことを。

 

『ずっと騙してたんだな……オレを…お前はぁっ!!』

 

 

 ──タァン

 

 

『…お前との、生活…悪く、なかった……ぜ?』

 

『◼️◼️◼️…おめぇ、何で◼️◼️◼️◼️◼️をッ! アイツがどんな気持ちでここまで来たか…それを知らずに……オメェはぁっ!!!』

 

『◼️◼️◼️さん…また、会えます……よね?』

 

 

 ──あぁ、もう…どうでもいい。

 

 

『ホホゥ? アナタも私の計画に賛同する、と? …ンフフ! いいでショウ。ならば君にやってもらいたいことがありマス、なぁにちょっとした実験デスよ、成功すれば君は……フフ、フハハハハ!』

 

 そうだ、俺は…憎い、何もかもが「嫌だ」。だから…全て無くなってしまえば良い。

 

 ──憎い。

 

 憎い、憎い、憎い。

 

 

 

憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い──

 

 

 

 ──グチャア

 

 

『カハッ!? …ッ実験は成功、デスが…些か狂暴化し過ぎデス…ねぇ? ッフ、ハハハ…だがそれでイイ、それでこそデス』

『………』

 

 死に損ないの戯言を聞きながら、静かに憎悪の燃えた鋭い眼差しを送る。震えながら顔を上げると、老獪な男はニヤリと嗤い「怪物(オレ)」を称賛した。

 

『フハハ…イイデスねぇ、その貌、その眼ッ! アナタこそ…私の憧れ…その到達点──』

 

 

 ── 宣戦者(ウォー・メイカー)…!

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・

 

『──………』

 

 潮風の音を聞きながら、眠る意識をゆっくりと戻してゆく。

 目の前には…「海」。()()()()()()()()()()()()()、この時点でオレは既に人外の理の中だが、更にオレが化け物である証拠がある。

 

『…フゥ』

 

 右掌を開いて自身の変わり果てた「白い肌」を見つめる。憎悪の先に待っていた変貌はオレを「怪物」へと化けさせた。

 

 肌は青白く、髪も脱色し「真白」となった。

 

 眼も紅く染まり、両手の爪は鋭く伸びていた。

 

 ボロボロの浅黒いマントを羽織り、白い肌に良く映える黒のインナーシャツ、少しダボついたズボン。

 

 口元を覆う黒のフェイスマスク、極めつけは額に生える白い一本角──と、自分でも随分と様変わりしたと感じる…だが、それ以上に。

 

『…装着』

 

 呟いた言葉はオレの右腕を震わせ、その形状を変質させた。

 

『──Gyaーーーッ!!』

 

 オレの右腕は不気味なエイリアンの頭を模した「砲塔」に変貌した。…こんな生物的なデザインで「砲」とは、そう思わなくもないが?

 

『…ソロソロカ』

 

 喋る度喉が震えて空間に反響する。…本当に、クルとこまで来てしまったな。

 

『── ……---』

 

 ふと、頭の中に声とも似つかない「音」が響く。

 どうやら…オレの指揮下の"部隊"からの伝達のようだ、オレが指揮官になってからこの「感覚」が鳴り止んだことはない。

 …"欧州の制圧を確認、これより北欧に向かう"…か、早いな? 呆気ないとも言えるが。

 

『---…--……?』

 

 オレは欧州部隊に「了解」と告げると、別働隊である「米大陸侵攻部隊」の進捗を伺う。

 

『--…--……』

 

 ふむ…アメリカとメキシコの境界を断絶して、メキシコの「崩壊」に成功したが…アメリカは北も南も完全な制圧は出来ていない、と。

 矢張り一筋縄ではいかないか。それでこそだが? アメリカ侵略は後回しにして、ヤツらが余計な手出しが出来ないように抑え込んでおけ──オレはそう伝えた、程なく「了解」の意の音が響いた。

 

 …そうして頭の中の雑念が静まり返ると、気を取り直して前方の「待ち人」を探す。

 情報は上がっていた、オレの佇むこの海域の座標とルートを即座に割り出し、道中の障害を掃討しながらも此方に向かう「何モノか」の姿があると。ならば…こちらも出迎えなくてはと思い万全の準備を果たし、敵との対峙をひたすらに待つ。

 オレを討ち取ろうとしたモノたちは他にも居た、しかし…自衛隊の戦闘機であれ、アメリカ海軍の軍艦であれ、オレを捉えたモノは居ない。目に付いた瞬間沈めているからな…ニンゲンの頃によくやった「蚊を見つけたら即叩く」といったあの感覚に似ていた。

 だが今回は──そんなことはしない、直ぐに倒しては「勿体無い」、おそらくこれから会うモノは「相当の手練れ」だと予想出来る。こう見えて暇を持て余しているからな、余興として少しは話を聞いておきたい。

 

 ──尤も、あまりにもな雑魚の相手をするつもりは無いので、相手の出方次第ではあるが?

 

『──来タカ』

 

 仄暗い空と淀んだ海の境目──水平線に浮かぶ豆粒のような一つの影。

 

 それは徐々に大きくなり、輪郭と形を得て、遂にオレの前に現れた。

 

 

「──目標、補足しました。これより対話に移ります」

 

 

『…ッ!』

 

 その容姿を認識した瞬間…オレは強烈な頭の「痛み」に襲われるのを感じた。

 

『…ナン…ダ…ッ!?』

 

 

『──オレは…()()の記憶を取り戻す』

 

 

 この異形に堕ちてからのオレは、かつての人の頃の記憶を忘れかけていた。

 

 人として産んでくれた両親の名前も、友と呼んでいたモノの名前も…全て、忘れかけている。オレがこうなった直近に何をしていたか…その程度の記憶なら何とか思い出せていた、しかし…そのモノの名前、どんなに親しかったモノであろうと、今では思い出す度に「ノイズ」が走るようになった。

 

 ──尤も、そこまで重要というワケでもないが?

 オレに最早現世への憂いは感じない。オレは…オレとしての「存在意義」を果たすだけだ。

 

 そう思っていたのだが…そうか。目の前のオンナ、白の装束に金の髪飾り。薄暗いオレの衣装とは反対の煌びやかな服装。コイツは──

 

『…ッ』

 

 …そんなこと今は関係無かったな。

 オレは前のめりに傾いた身体を元に戻す、そして目の前の「戦乙女」を見つめた。

 

「貴方が…宣戦者(ウォーメイカー)さんですか?」

 

 戦乙女はオレをそんな風に称した。…フン、ウォーメイカーか。あの老害を嫌でも思い出してしまう。

 

『…ニンゲンハオレヲソンナ風ニ呼ブノカ?』

 

「えぇ。今や世界各地で猛威を振るっている深海棲艦の総指揮官、主要国家の悉くを侵略し人間社会を破滅寸前にまで追い込んだ張本人、混沌を呼び込んだ悪魔…と、私の周りからは言われています。私的にはあまり好きな表現ではありませんが」

 

『ホォ。オレモ好マシクハナイガ妥当ナ通リ名ダトハ思ウゾ? 実際問題オレハオ前タチノ勢力ヲ潰シテ来タ。誰ニ憎マレヨウトモ当然ダナ』

 

 結果故の忌み名だ、オレはそう告げたが──それでも彼女は首を横に振った。

 

「私はそう思いません、だって…()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。切り離せないモノだとしても貴方は…それでも抗おうとした。それが貴方のはず…そうでしょう?」

 

 ──()()()()()

 

『…ッ!』

 

 …オレは()()にヒトの頃の名で呼ばれた。

 あぁ…そうだった、()()()()()()()()()()()()。だが…今更それを思い出したところで、何も変わらない。

 

『──ヒトハ変ワルンダヨ、榛名。フトシタキッカケサエアレバ…人ハ「聖者」ニモ「魔物」ニモ変ワル。オレハコノ世界(ルート)デハ「魔物」ニナッタ…ソレダケノ話ダ』

 

「っ! だとしても…私は諦めきれません。貴方の中の「エースさん」はまだ必ずどこかに居るはず、それを確かめられるまで…榛名は退きません!」

 

『強情…イヤ、コレハ芯ノ強サダナ。オ前ハ相変ワラズ…己ノ正義ニ報イルノダナ?』

 

「それは貴方も同じでしょう? エースさん…もう一度私たちのところへ来てください。アトラスさんが貴方に会いたがっています。あの時貴方を変えてしまったのには自分にも責任があると…もう一度話し合いたいと…他の皆だって…また貴方と」

 

 

 ──ッズゥン!!

 

 

 彼女の話を遮るように、オレは黙って右腕の深海砲を構えると…灼熱の砲撃を射出した。

 彼女の頬を紅い光弾が掠める、音速の弾はそのまま彼女の後方に広がる海原に着弾──同時に爆裂し、轟音と共に硝煙と爆炎が舞い上がった。

 

『…何モ話スコトハナイ。コレガ「答エ」ダ』

 

「…っ、エース…さん……ッ!」

 

 戦闘の始まりの予兆に、彼女は虚しさと哀しさが織り交じった表情でオレを見つめた。

 

 謝罪は必要ない、これが間違いであったなどと口が裂けても言えない。オレは…悪鬼に成り果てようとも、オレの中に眠る感情に報いるだけだ。

 

 

 ──憎しみという「正義(エゴ)」の名の下に…!

 

 

『──状況、開始(ゲームスタート)

 

「…エースさんっ!!」

 

 オレはそのまま右腕の深海砲の砲口を榛名に向け…榛名もまたオレとの臨戦態勢に備える。

 

 ──これは、正義と悪の戦い。

 

 この一戦で世界の命運が決まる…正義(ヒト)が勝つか(マモノ)が勝つか──その行く末は…?

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 ──Start our mission …!

 

 

 

  ”宣戦者を撃破せよ…!”

 

 

 

 薄暗い空とそれを反射する灰色の海で、彼らは互いに距離を取り水面に弧を描きながら相反した。

 

 一人は人類の守り手として、ヒトリは人類史の破壊者として──

 

「…っ!」

 

 白の和の装束に身を包んだ女性…榛名は腰に備えた砲塔を「黒の魔物」に向けると──轟音と爆炎と共に必殺の弾丸が放たれた。

 

『フン…ッ!』

 

 しかし…弾丸は何もない空中で着弾するとそのまま爆発四散した。硝煙の中から現れたのは…魔物を守るように展開された「透明のバリア」だった。

 

「深海障壁…!」

『甘イナ…!』

 

『Gyaーーーッ!!』

 

 黒の魔物は右腕の生物的な砲塔を構えると、紅蓮を纏う凶弾を放った。

 

 ──ズゥン!

 

 榛名はそれを難なく避ける、しかし着弾した凶弾の後には──その威力を物語る巨大な水柱が建てられた。アレをまともに受けるのは不味い…!

 再び距離を取り隙を伺うように魔物の周りを滑る榛名、先ずは敵を自慢のスピードで翻弄し、相手の油断が見えたらすかさず不意の一撃を放つ、勿論「彼」に向けて本気で攻撃するつもりはない。あくまで向こうのペースを乱しこちらの優勢に持っていく算段。

 砲撃後の水柱で自身を隠し、一気に距離を詰めて彼に「零距離射撃」圏内で砲口を突き付けて身動きを取れなくする…それで良い、彼女の目的は「話し合い」であり決して殺し合いなどではないのだ。

 

「…っ!」

『………』

 

 黒の魔物は右腕を構えたまま凶弾を乱射し続けた、辺り一面には飛沫に塗れた水柱が立ち並ぶ。先ほどまで見えていた黒の魔物の姿は見えなくなっていった。

 

「(今…!)」

 

 こちらの意図を汲んだように姿を隠しやすい状況を作り出した、引っ掛かるものはあった。だが考えている時間はない、榛名はそう思った──思ってしまった。

 彼女は焦っていた…かつての戦友の変わり果てた姿を見て、気が動転している自分を抑えることが出来なかったのだ。

 飛び込まなければ何も解決しない。そう決断した榛名は水柱の脇を掻い潜り黒の魔物の居た位置に向かう。

 

「…っ!」

 

 しかし──そこに彼のモノの姿はなかった。

 

『──甘イト言ッタゾ、警戒ヲ怠ッタナ…?』

 

「…っ!?」

 

 空中から声が響く、榛名が宙を見上げると…そこには空中で右腕の深海砲を構える黒の魔物の影が…!

 

 ──ズゥン! ボガァン!!

 

「くぅ…っ!?」

 

 黒の魔物の凶弾が宙を駆ける──着弾地点は榛名の「右主砲」。派手な爆発音と豪炎が発する自らの右側を視れば…最早使い物にならなくなった右砲塔の無残な姿が。

 攻撃手段の一部を封じられたのは大きな痛手だった。左の主砲のみで敵を攻撃しなければならなくなったのもあるが、それ以上に──

 

『ドウシタ…人類ノ守護者ハコノ程度ノモノカ。笑ワセルナ…!』

 

 目の前の強敵に、ハンデのある状態で戦わなければならないことは…こちらも覚悟を決めなければ「後が無い」という事実であった。

 

「…エースさん」

 

 そんな絶体絶命の窮地に立たされた榛名に出来ることは──彼に対し「問いかける」ことだった。

 

「何故ですか…? 人類の敵になるなんて。貴方は…あの国を誰よりも愛していた、誰よりも…自国と世界を守りたいと願っていた! そんな貴方が…どうして…?」

 

 榛名の魂の問いかけ、対して問われた魔物は眉一つ動かさず言葉の最後まで聞き届けると、重い数秒の沈黙の後、改めて回答する。

 

『──気ヅイタカラダ、世界ハ…人間ハ平気デ他者ヲ裏切ルト。ソンナ理不尽デ身勝手ナヒトノ世界ナド…無クナレバイイ』

 

「…裏切り? フォッ■■さんのことですか?」

 

『…?』

 

 榛名は核心を突く一言を口にした…しかし魔物にはそれが何を意味するのか「理解出来ない」、言い換えれば「脳が理解を拒んでいた」のだ、それでもそれが「正解」であることは流石に解る。魔物はそう胸の内で悟った。

 

『…()()()()()()()()、ダトシテモソレハキッカケデシカナイ。当ノ昔ニ気ヅイテイタ…()()()()()()()()ガ死ンダアノ時カラ、オレハ「深淵」ニ堕チタノダ。ソレニ気ヅカナイ振リヲシテイタダケダ』

 

「っ、エースさん…貴方は……記憶が…!」

 

『アァ、モウ殆ド分カラナクナッテイル。コノ身体ニナッテカラ…憎シミ以外ノコトハ何モ考エラレナクナッテシマッタ。オレニトッテハ好都合デハアルガナ?』

 

「…っ、そんな…!」

 

『諦メロ、オ前ノ知ッテイル「エース」ハモウ居ナイ。ココニハ…血ニ濡レタ魔物シカ居ナイゾ?』

 

「…っ!」

 

 かつて正義を夢見た若者は、精神やその核となる記憶を憎しみに蝕まれ…良心が掻き消え、ただ憎悪に生きる悪鬼と成り果てた。

 そんな残酷な事実を否定するように、弾けるように後ろに下がる形で距離を取る榛名は、そのまま残された左主砲で砲撃を敢行する。

 

 ──ズンッ!

 

『…フッ!』

 

 黒の魔物は左手甲を榛名の弾丸に向けて振り抜く、弾の勢いは魔物の腕力に相殺されそのまま何もない海面に弾き飛ばされてしまう。遠くの方で弾丸が着弾し水柱が建つのが見えた。

 

『愚カダナ。終ワラセテヤル…!』

 

 そのまま左腕を構える魔物、すると──左手の平に線が現れパックリと「割れた」。いや…手の平に鋭い歯の生えた「口」が現れたのだ…!

 

『KIHYA-----ッ!!』

 

 奇妙な雄たけびを上げる左手の平の口から吐き出されたのは、白く球状の「飛行物体群」だった。次々と吐出される空飛ぶ白い球は──深海棲艦の「艦載機」であった…!

 ケタケタ嗤いながら縦横無尽に空を駆け、そこら中に下部に取り付けた「深海魚雷」を落としていく、海面に叩きつけられると同時に魚雷は飛沫を上げて爆ぜた。

 

「航空爆撃…!? っ、きゃああぁぁ……っ!!」

 

 無差別爆撃に巻き込まれた榛名はそのまま爆炎に飲み込まれていく──そして、炎と硝煙の治まった瞬間…晴れた視界に移りこんだのは、服も主砲も艤装も、何もかもボロボロとなった榛名であった…中破である。前傾姿勢となり今にも海面に倒れこみそうになるも、それでも歯を食いしばって踏ん張っている。

 

 ──しかしもうその場を動くこともままならず、砲撃するだけで精一杯だったが。

 

『無様ダナ…』

「…っ」

 

 勝てない…自力の差が大きすぎた。

 敵対した時からこちらの思考を瞬時に読み取り、それを踏まえた行動を取る。弾幕で水柱を作り油断した隙に空に飛び、攻撃手段を封じた後手出しの出来ないよう航空爆撃で動きを止めさせる。

 まんまと向こうの策に引っ掛かった…黒の魔物は決して己の力に溺れず、冷徹に相手の出方を伺い行動を一つずつ潰し確実に沈めさせる。異形の力と自身の聡明さを合わせた「無欠の能力」で榛名を追い詰めたのだ。

 

戦闘終了(ゲームセット)ダ、コレデ人類ハ全テ滅ビル…オ前ヲ沈メサエスレバ…!』

 

「………」

 

 これまでか…そう観念した榛名は静かに笑うと、魔物に対して柔らかな声で言葉を投げた。

 

「──名前、憶えていて下さったのですね?」

 

『…何?』

 

「何もかも忘れてしまっている…それでも、私の名前はちゃんと憶えていてくれた。貴方の中には…確かに「彼」が居る。それが理解出来ただけでも…榛名は、大丈夫です」

 

 榛名はそう言って華やかに笑って見せた。魔物の脳裏には同じように咲き誇る笑顔を向ける彼女の姿が思い浮かんだ。

 魔物にとってそれは不可解な出来事であり、何かが引っ掛かっていた──だからだろうか、いつもなら問答無用で砲を向ける場面で、彼女の答えを理解しようと尋ねたのは。

 

『…何ガシタカッタンダ、オ前ハ? オレヲ止メルタメニココマデ来タノデハナイノカ?』

 

「そうなんですけど…本当はここで倒れちゃったら皆終わってしまうんですけど、でも…私は貴方の居ない世界なんて、絶対に嫌だなって思っていただけで?」

 

『ドウイウ意味ダ…?』

 

 魔物は再び問いかけると、榛名は魔物を真っ直ぐ見つめて答えた。

 

「これは…この気持ちは、まるで春の日差しを浴びるような…そんな温かな想いなんです。多分…これが──」

 

 

 ──愛、なんだと思います。

 

 

『…ッ!?』

 

「そう…私は貴方を「愛していた」。だから…貴方がただ世界の「悪」として討たれることは我慢ならなかった、そんなことになるぐらいなら…私はどんなに貴方が離れていこうとも、手を伸ばして引っ張り上げる覚悟でした。まぁ…結局は何の意味もなくなりそうですけど? あはは…?」

 

 困ったように苦笑いをする榛名を見て、魔物は──

 

『…ッ、愛…ダト? ソレハ──…莫迦ナ……オレハ…オ、レハ………!』

 

 …刹那、己の”罪”を認知した。

 

『…ッ!』

 

 

 ──ズドォン!!

 

 

「…っ!?」

 

 榛名が目にした光景…それは魔物が自身の腹部に右腕を当て、そのまま()()()()()()()…己自信を罰する咎人であった。

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 ──気付けば、オレの身体は海面に湛えていた。

 

 暗く厚い雲を水面に揺られながら見ていた、同時に在りし日の記憶も蘇りつつあった…そう、オレは──

 

「進一さん!」

 

 榛名は目に涙を、顔に喪う恐怖を浮かべながら、こちらに駆け寄るとそのままオレを抱きかかえる。

 

『…は、るな…?』

 

 目が霞んできて彼女の顔が良く見えない、それでも…オレの頬に何かが垂れ落ちた感触が感じられた。彼女はきっと…泣いているんだ。

 

「…どうして…っ、私は貴方に生きてほしかった。貴方が死んでも…榛名は…っ」

 

『──良いんだ、榛名。これがオレの選び取った道だから』

 

 オレはそう言って榛名に微笑みかけた、彼女の悲しみを諫めるように。

 

()()()()()()()()。オレが何者か、オレの友は誰だったのか、全て…オレは母さんを殺したヤツを許せなかった、だから殺した。そして…オレを騙し続けた()()()()()も』

 

「っ! 進一さん…!」

 

『オレは…ヒトを信用できなくなったんだ、母さんを殺したアイツの家族をオレの手で殺したあの日から…全身を燃やし尽くす「憎悪」がどこかにあって、いつしかそれに耐えられなくなったんだ。このまま…憎しみに身を委ねれば、楽になれるだろうか…そう思いあの男の実験体となり、人類の敵となった』

 

「………」

 

 オレの独白に榛名は悲しそうな顔を崩さずに黙って聞いてくれていた、本当に…オレの何もかもを受け止めてくれるんだな。

 

『結局…憎悪に目を向けたところで、それは形造られたモノでしかない、自分の本当の想いではなかったんだ。…母さんを殺したアイツも、フォックスも…故意ではないのに命を奪って苦しかったはずだ、騙し続けるような真似をして平気な訳はない。その抱えてた思いを考えず…オレの身勝手で皆殺してしまった。この世界にも…世界中の何の罪もない人々を…殺してしまった──オレは、裁かれなければならない罪人だ』

 

「でしたら猶更っ、貴方は…生きて下さい…っ。罪を背負ったまま一人だけで死なないでください、そんなの…私は…私は……っ!」

 

 榛名は大粒の涙を零してオレの考えを否定する、それは…彼女の優しさから来る否定。

 

『ありがとう榛名、その言葉だけでも嬉しいよ。オレは…ヒトを信じれなくなった、そんなオレをそれでもお前は信じてくれた。もっと早く…お前と出会えていたら、母さんが死ななかったら…オレたちの運命は変わっていただろうか?』

 

「進一さん…榛名を置いていかないで下さい、貴方が居ない世界なんて…そんなの…っ!」

 

 その優しさ故か、榛名は遂にオレの居ない世界を憎むとさえ口にしかける。オレは…そんな彼女の目に浮かんだ涙を、指先を伸ばして拭き取ってやる。

 

『君に涙は似合わない、世を憎む恨み節はらしくない。君には…いつも笑顔で居てほしい、眩いくらいの笑顔が…君には相応しい』

 

「…っ!」

 

『もし…オレの我儘を聞いてくれるなら、本当に身勝手だが…オレの代わりに君が人々を守ってくれ。オレが出来なかったことを…君がやってくれ。決してオレの後を追おうとするな? 君は──生きてくれ、榛名』

 

 君を置いて先立つのを許してほしい──そうオレが説くと榛名は…一層顔を強張らせて悲しみの表情(いろ)を濃くした、それでも首を縦に振ってくれた。

 

「…分かり、ました…っ、榛名…進一さんの分まで生きます。絶対に沈みません、だから…っ」

 

『ありがとう…君が覚えてくれさえすれば、オレは君の中で「生き続ける」よ』

 

 オレは──彼女がこれ以上悲しまないように──柔らかな表情と笑顔を形作ると、彼女もそれに応えるように陽の当たる花のような笑顔を向けてくれた。

 

 

 ──…あぁ、少し、眠くなってきたな…?

 

 

『…お休み、榛名』

 

「お休みなさい…進一さん──」

 

 お互いに別れの挨拶を済ませると、オレはそのまま意識を手放した──

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 

 ──本当に、これで良かったのかよ? ──

 

 

 海中に漂い水底に沈もうとするオレの頭に声が響いた──それは何処か懐かしいような…?

 

『これで良い、オレは咎人だった。憎悪を人に向けること、それ自体が罪なんだ。その刃でオレは何人ものヒトを殺めてきた…この末路がお似合いだ』

 

 

 ──そうやって何でもかんでも自分だけで決めてんじゃねぇよ、お前を生かしたいと思ったヤツだって居たんだよ──

 

 

『フン…そうかもな? オレも…生きたいと思ったよ、でも……いや、止めよう。ただ叶うなら…一人で沈むのは…少し、寂しいな?』

 

 

 ──…ケッ、素直でいいじゃねぇの! なら…──

 

 

 ──パシッ

 

 

『…っ!』

 

 オレの右手を誰かが掴む、それは光に包まれていたが…やがて泡のように光が剥がれ姿を現す。

 

「──俺が一緒に行ってやる、お前がこうなっちまったのは…俺の責任かもだしな?」

 

『…っ、ぁ……っ!』

 

 その小憎(こにく)たらしい顔を見た瞬間…目元に熱い雫が流れ落ちるのを感じる、驚きで声も出ない…当たり前だ、お前は──

 

『…オレは、お前を……お前に裏切られたと思ったのに、それでも…』

 

「勘違いすんな、俺はお前を許しちゃいない。だが…俺を殺したことがじゃない、榛名ちゃんたちを悲しませたことが許せねぇのさ、だから…あの世でしっかり反省してもらわにゃ困るのさ?」

 

『…ハハッ、どうして素直に心配だと言えないんだ?』

 

「うるせぇ、バーカ。さっさと地獄でも何処へでも行こうぜ? んでどっか適当なタイミングで逃げ出してよ──」

 

『──ありがとう』

 

 オレの感謝の言葉に、目の前の少年のような男は──一瞬面食らうも──皮肉笑いを浮かべると再び毒づいた。

 

「ケッ! 感謝する暇あるならちゃんと更生するんだぞ、今度は…間違えないようにな?」

 

『…あぁ』

 

 そうオレが呟いたのを最後に、辺りは再び静けさに満ちて──やがて視界は白く眩い輝きに包まれる。

 

 心から満足したオレは、冷え切った身体に温かさを感じながら…そのまま眠りについた。

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 

 

 

 

 ──罪を背負うことは、大なり小なり人であれば一度は体験する。

 

 

 

 

 

 もし、君がどこまでも堕ちてしまっても…その手はきっと誰かと繋がる。

 

 

 

 

 

 君の隣に、大切な人が居る限り── 

 




※ここからは小話になります、余韻を残したい方はブラウザバック推奨。

○作成経緯

わい(作者)「バッドエンドもの作りてぇなぁ! でもオリジナルは流石に気が引けるから、先ずは既存作品の…って艦これの作品しかないわいな。ん~この中だとエースかな? いやでも…」

※とりあえず友人の意見を参考にしようとメールする作者。

わい「以下の中で闇堕ちを見てみたい者は?」


・宿毛泊地の提督(宿毛泊地提督の航海日誌)

・エース(七十年後の君へ)

・色崎拓人(艦これすとーりーず)

・将軍(短編、艦これX)


友人「…(この中では)正統派なエースかな?」

わい「ですよねぇ~~www」

※我ながら個性的な主役が目立つなぁ…と思いました。

わい「気が向いたら他のも作るかな? 予定は未定だけど☆」

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