騎士王、異世界での目覚め 〈リメイク〉   作:ドードー

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はい、遅くなりました。
今年中って、こんなギリギリって意味じゃなかったんですけどね


01

「ん?」

 

 視界に入るものに違和感を感じて見渡してしまう。

 

(ここはどこだろうか?)

 

 一瞬そんな思考がよぎった。しかし、よく見るといつものギルドであることが分かる。

 

『キャメロット』

 自分が作ったギルドであり、最初から最後までギルドメンバーは自分だけである。和気あいあいとやるのが嫌という訳ではないが、ゲームの中まで人に気を使うのが嫌で、最初ぐらいは……と始めた名前も無いソロギルドだったが、いつの間にかに強ギルドの一角としてここまできてしまった。

 

 気づけばサービス終了日、大金をつぎ込んで揃えた装備やアイテムもじきにデータの塵となるのだろう。ゲームにこれ程の金をつぎ込んでしまった事に、思う事がないわけでは無いが、楽しい時間をもらったと納得している。

 

 

「あれ?」

 

 疑問。サービス終了時刻を既に2分程過ぎている。

 

(時間を間違えたか?)

 

 取り敢えず、GMからの情報と照らし合わせようと、コマンドシステムを呼び出す。呼び出すつもりだったのだが、出ない。

 

(最後の最後で不具合、まったく最後までやってくれる)

 

 とんでもない事をやらかす運営だが、それは最後まで変わらないらしい。

 

 それにしても、なんらかの不具合でサービス終了が延期。それだけならいいが、コマンドシステム出ない事でログアウトすら出来ない。

 

(くそっ、よりにもよってこんな時に、明日も仕事がある、早く出なければ)

 

 と言ってもできることが無いのも事実。仕方なく近くの椅子に荒っぽく座り込む。

 

 イライラとした気分は一向に治らず、視線は只々ギルド内を彷徨わせる。

 

 そうして眺めていると、最初に感じた違和感の正体に気づく。いつも使っているギルドの部屋の見え方が僅かだが確実に違う。光の反射や色合い、雰囲気が明らかに変わっていた、一瞬とはいえこの場所が何処なのかと疑問に思ったのはこれが原因だろう。

 

 アップデートだろうか?、と思ったがサービス終了直前でやることではない、というよりサービスは5分ほど前に終了しているはずなのだ。疑問に思いながらも、椅子から立ち上がろうと足に力を入れようとして新たに違和感を覚える。

 

 椅子に座ってる感覚が現実のような感覚である。椅子に背中を預けなおして、自分の右手を持ち上げ握ったり開いたりを繰り返す、あまりにも現実味のある感覚でありゲームの中とは思えない。非常に嫌な予感がする。

 

 僅かな恐怖と混乱に言葉も出ず、若干パニックぎみにGMにコールしようとするが、相変わらずコマンドシステムは出ない。

 

「出ろ!出ろよ!くそっ!」

 

 声を荒げてはいるが、頭の中には冷静な部分があると認識できている。 そして慌てているはずの自分だが、何故か冷静に状況を把握し始めている。

 

(変だな、パニックになっているようで冷静だ。自分はここまで冷静沈着な人間ではないと思ったが)

 

 冷静な自分もいるという事で、一旦気を落ち着かせ、分かる事を確認する事にした。嫌な予感が外れてる事を願ってする確認作業も、より非情な現実を突きつける事になった。

 

 ゲームの世界に来てしまった。恐らくそうなんだろう。確信はないが、状況的にそれが一番筋が通っていて無理がない。いや、実際は無理しかないが。

 

(ゲーム中に寝落ちして、変な夢でも見てるんじゃないのか?)

 

 信じたくない。しかし、いつまでも現実逃避しているわけにもいかないだろう。

 

 仮定とはいえ一度状況を理解してしまえば、次は何をすべきか考えを巡らせる。どうやらこの身体も、アバターを作る時に考えた設定どうりであり、それは身体だけでなく頭のスペックも高いようだ。

 

 

『セイバー・オルタ』このアバターは、かなり昔に1つのコンテンツとして有名だったらしいFateシリーズのもの。その世界観やキャラクターにハマり、それを元にこのユグドラシルに自分のアバターとして作り上げた。アバターだけでなく、世界観の城をギルドの本拠地として作るなど影響は大きい。

 

 今自分のいるギルドは洞窟型のギルドであり、最下層のこの部屋を除けば広大な洞窟となっている。

 そしてその中には、下級から最上級のドラゴンで埋め尽くされている。

 その為ドラゴンのダンジョンと言っても差し障りなく、最下層を守る自分もドラゴンを混ぜ込んだスピリットという設定であり、まさにドラゴンしか居ないダンジョンである。

 

(とりあえず他のプレイヤーと連絡を取ろう、コマンドシステムが使えない以上物理的に接触するしかないな)

 

 小型のワイバーンに外の偵察に行かせ、外で活動するプレイヤー達の動向を確認する事にした。

 

(まずは情報が欲しい。何か知っているプレイヤーがいればいいが、それは流石に期待薄だな。まあ相談し合えるだけでだいぶ違うはずだ。)

 

 そう考えたのだが、ワイバーンの視界と繋げて見た景色は自分の知っている景色とは大きく異なっていた。

 

(地形が違いすぎる。ここまで違うと流石に見間違いはない。ユグドラシルとは全く違うな、この感じではプレイヤーも自分だけの可能性も出てきた)

 

 しばらく視界を共有させたまま、周辺の偵察を続ける。

 

(街だ、街がある。人もいるな。国…なのか?もう少し調べてみるか)

 

 

 

 

 

 

 情報収集を始めてから1週間が経ち、ある程度のことが分かった。

 このギルドから一番近くに国が1つ、恐らくこのギルドが出現したのもこの国の国内だろう。そして山脈を越えた先にもう1つの別の国らしきものがあった。

 

 国の文化レベルは中世ヨーロッパといった感じだろう。ただこの世界では魔法が存在し、日常的とまでいかずとも、それなりに使い手がいる。まさにファンタジーと言ったところで、モンスターなども存在し、ユグドラシルではないが世界観は似かよっているようだ。

 

 ファンタジーの世界観というのは、街並みやモンスターの存在だけでなく、そこに住む人々の生活にも影響していた。

 

『冒険者』まさにそのような格好をした3人組が、転移てし初めての我がギルドの侵入者となった。

 

 

 

(プレイヤー……ではないな、装備が貧弱すぎる。)

 

 見かけが弱そうでも、性能は最上級という装備が無いわけではない。しかし、基本的にプレイヤーが意図的に作らなければ、存在しないためおそらく見た目通りの低性能。

 

(そういったロールプレイ用に、というのは流石に深読みしすぎだろう)

 

 そんな事を考えていると、ふと疑問が浮かぶ。

 

(いや、そもそもこの世界の住人が、プレイヤーである私より弱いという保証はない。最悪逃げなければならないという可能性もある)

 

 何処かで信じ込んでいた、アバター化した自分の絶対性。そしてそれは何の根拠もないことに気づく。

 

(私とした事が、今更気づくとは。しっかり確認しておく必要がある)

 

 

 

 

 

「ここがこの間見つけたやつだ」

 

 片手剣を携えた男が、洞窟の入り口から奥を覗き込むように眺めながら他のメンバーに言う。

 

「未発見て本当なの?結構な大きさだよね」

 

 洞窟を見上げながら聞く女冒険者。

 

「ちゃんと組合には確認した。ここらにある洞窟は1つだけだし、これよりずっと小さいやつだけらしい。ヘドは行ったことあんだろ?」

 

「行った。結構前だけどな、間違いなくここじゃない」

 

「組合には報告してあるの?」

 

「いや、まだだ。まあその報告も兼ねての軽い下調べだ。本当に未探索なら何かあるかもしれないし、こういうのは発見者の特権だからな」

 

「まー気持ちは分かるけど」

 

 杖を持つ女性は気の進まないといった感じで答える。

 

「そんな顔すんなって、深追いはしない。下調べは建前じゃない、その範囲で調べて、何かあってもなくてもそれで報告する。お宝があればラッキーだがその程度だ」

 

「まあ確かに、せっかく冒険者やってんだから少しぐらい冒険するのも悪くないな」

 

「はぁ〜、しょうがないな。依頼じゃないからお金にならないんだよ。まったく、随分簡単な依頼受けたと思ったら、こっちが本命だったのね。何もなければさっさと帰るよ」

 

 捜索したい男2人の前に仕方なく、といった感じでついていく事になった女冒険者といった感じだ。

 

「おーそうだな。了解、了解」

 

「じゃあさっさと下調べして帰ろうぜ」

 

 そう言うと、タンク役の男が背中から大盾を降ろし、前に構えて先頭をきる。その後ろを残りの2人が武器を構えながら並列に進む。盾役を先頭にした三角形の陣形になる。

 

 

 

 

 

「今のところモンスターの気配なし、感知したら言うよ」

 

「了解」

 

「それにしてもデカイな。本当に未発見か?」

 

 洞窟内は暗いものの広さは十分にあり、発見者がいないのが不思議であり奇妙だ。

 

「いや、本当にデカイな。しかも深そうだ、こんなところならモンスターがいそうなんだが」

 

 そう言って隣に視線を移す。

 

「いないよ。いまのところね」

 

「不気味だな。この静かさが逆に」

 

「おい」

 

 2人が話していると、前を歩いている盾持ちの男が話しかける。

 

「なんだ?」

 

 顎で先を指して説明する。

 

「そこの奥、ぼんやりだが明るくないか?ほら」

 

 言われた先を見ると、確かに明るさなっている。僅かではあるが、青緑がかった光を薄く浴びているようだ。

 

「何が光ってんだ。モンスターは?」

 

「感知は出来てないけど、注意はしてね」

 

 無言で頷き、歩を進める。緊張感が跳ね上がり、自分達の足音が大きく聞こえる。

 

 洞窟が広がり見渡せるだけの空間に出た。

 

「なっ…………」

 

「すげぇ………」

 

「うそ…………」

 

 洞窟全体が大きく広がっていて天井は鍾乳洞のような氷柱状の物が垂れ下がっており洞窟の所々にはエメラルド色の鉱石が輝き洞窟全体を薄く照らしている。 まさに人の手が入っていない秘境の様な光景だ。

 

 本来ならただの洞窟のはずが鉱石の光加減や洞窟自体の広さもありとても幻想的に映る。

 

「更に広くなった。洞窟か本当に?広すぎるぞ。これ帝国地下のどこまで伸びてるんだ?」

 

 広い、まさに広大といっていい広さ、とても地下の空間とは思えない。その広さと未発見という情報から、神秘的な景色とは裏腹に言いようのない不気味さを感じる。

 

「ねえ、これ引き返したほうがいいんじゃない」

 

「なんか分からねえけど、ヤバイ感じがする」

 

 2人に言われずとも自分も嫌な予感がする。

 幻想的で美しい景色だが、早く離れた方がいいような気がする。

 

「そうだな、俺もそんな気がする。取り敢えずそこの鉱石だけ取っておこう、組合で説明するのにも1つはあった方がいい」

 

 そう言って近くに生えている光る鉱石に近寄り、剣の柄を打ち付ける。そうこう2、3度打ち付けていると。

 

「何か来てる!来てるよ!かなり早い!」

 

 モンスターの気配を感知したのか女冒険者が叫ぶ。

 

「っ……」

 

 慌てて周りを見渡すが、流石に遠くまでは分からない。いくら鉱石が光っていてもそこまでの光量はない。

 

「あれかっ!」

 

 盾を構えなおした男がその方向を指差す。

 

「鳥?」

 

 薄暗く広がる洞窟で、地面から浮いたところを蠢いてる影がある。それは明らかに大きさを増しこちらに近づいて来る。

 

「鳥じゃない!ワイバーンだ!撤退だ即撤退!」

 

 その姿を視認できる距離まで接近されて、それがワイバーンである事が分かった。それと同時に恐怖が襲う。

 

(デカイ。明らかにデカイ。もしかしたらワイバーンよりも上位の竜種かも)

 

 3人の冒険者は死に物狂いで撤退を開始。ただそれなりの冒険者の為か闇雲に逃げ惑うといった行動はせず、相手の姿を確認しつつ攻撃を受けられるように行動している。格上との戦闘もそれなりにこなしているといった感じだ。

 

 

 ギガァァグァァァァァーーーー

 

 

 すぐ後ろで咆哮が鳴り響く。

 

「着地の直撃は絶対避けろおぉぉ!」

 

 叫ぶような指示を出しながら、自分も直撃を受けないように、後ろを見ながら逃げる。

 

 その直後、真横の地面を砕きながらワイバーンが盛大に着地する。

 その衝撃で吹っ飛ばされはしたものの、下敷きで潰される事は避けられた。

 

(くそっ……は?デカ、いやデカ過ぎだろ。それっぽいなりしてるがワイバーンじゃねえ、もっと上位の竜だ)

 

 着地した竜を改めて見ると、明らかに大きさが違う。そもそもワイバーン自体、生きているのを見た事はないが、ある程度の知識はある。

 

(ヤバイぞ。このままコイツが付いてきたら、例え逃げるにしても街には行けない)

 

「くっ!こっちだ化け物」

 

「ドーバっ、そっちは大丈夫?」

 

 目の前では盾持ちの冒険者が必死にドラゴンの攻撃を受け流している。その後ろで女冒険者が魔法で援護、劣勢とはいえそれなりに戦えている。

 

 仲間のおかげで、立ち上がって立て直すだけの時間は稼げた。

 

「大丈夫だっ、このまま引いて、取り敢えず洞窟の入り口付近まで下がるっ」

 

「ぐ…くそっ、了解!」

 

 1人の盾役だけでは荷が重いので、それぞれ交互にドラゴンの注意を引きながら、手早く後退する。

 

 ドラゴンの一撃は重く、まともに受ければ良くて瀕死だろう。盾を持たない自分は絶対に当たってはいけない。

 

「そろそろ出口だっ、どうするっ?」

 

 戦いに集中するあまり、仲間に言われてはじめて、出口が見える距離まで撤退した事に気づく。

 

「…っ、コイツを出すわけには行かねえだろ」

 

(しょうがねえか、これは…)

 

 あとは自分が受け持って2人を逃すという、最悪の選択肢が浮かんでくる。

 

「くっそが!、おいっ、よく聞k「モンスター多数感知!?」

 

 そう叫ぼうとした時、悲鳴の様な声で掻き消される。

 

「こっち来てるよ!」

 

 悲報に次ぐ悲報

 

「おい、何だありゃ」

 

 叫ぶこともできない諦めた声だ。

 

 今撤退してきた奥から、数えるのも諦めるほどの竜の群れが飛んできている。

 

(やっぱりコイツらワイバーンだったのか)

 

 群れをなすそれを見て、それがワイバーンならありあるだろうと考えるが、それは余りにも場違いな思考だった。

 

 そんな事を考えるほどにその光景は絶望を体現していた。

 

「そりゃねーだろ」

 

「ははっ……はぁ」

 

 2人も自分の武器を地面に落とし、諦めきった言葉を吐く。

 

 

 

「あれ?」

 

 最初に異変に気付いたのは女冒険者。盾持ち冒険者の前の、今しがた戦っていたワイバーンが攻撃をやめた。

 

 こちらを伺う様な仕草を見せつつ、なんと踵を返した。そして数歩歩いたと思ったら飛び上がり、洞窟の奥に戻って行った。こちらに向かっていたワイバーンの群れも、途中で折り返し同じように消えていった。

 

 

 さっきまでの激しい戦闘がなんだったのたかと言うほど、洞窟は静まり返り、洞窟に入る前の様な状態に戻った。

 

「ふう〜、……………私生きてるんだ…」

 

 女冒険者がへたり込みそんなことを呟く。

 

(同感だ。…生きてるのが不思議なくらいだ)

 

「…………………」

 

 盾持ちの冒険者もただ何も言わずに突っ立ている。

 

 

 

 

 しばらく3人とも放心していたが、最悪の結果は免れたこともあり帰り支度をする。

 

「帰るか」

 

「うん」

 

「もう二度と俺はごめんだ。絶対此処には入りたくない」

 

「同感だ、まったくもって同感だ。死を許容するしかないって感覚、はじめてだったわ」

 

「何か分かる気がする、それ。それはそうとどうしようねー、今回の問題どうやって報告しよっか?」

 

「そうだなー。結局鉱石も取り損ねたし、無理があるよなー、ワイバーンの群れとか」

 

「ま、何にしたって運良く生きて帰れるし、帰ってからゆっくり考えよ」

 

「俺は報告どうのより、早く帰りたい」

 

「そうだな、取り敢えずさっさと帰りますか」

 

 

 

 


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