「ふ〜ん、あの死体調べたんだ。やるね〜」
特徴的な猫撫で声とともに、石造りの建物の奥から1人の女が姿を現わす。
マントを纏っているが、そのしたは軽装の鎧装備。おそらく動きやすさを重視した戦闘スタイルなんだろう。
どうやら、その後のやりとりで、黒幕側の女がクレマンティーヌ、冒険者の鎧の男がモモンと言うらしい。
「クレマンティーヌ、私達は向こうで殺し合おう」
その2人は場所を移して戦う為、モモンの方が先導し移動をはじめた。モモンと言う冒険者も強さに自信があるようだが、クレマンティーヌの方も大人しくついて行く態度から、こちらも自信があるようだ。
このアンデッド騒動の首謀者は分かったので、さっさと私も参戦して殺してしまってもいいんだが、モモンという無名冒険者の方も気になるのでもう少し様子を見る事にした。
今のところ冒険者側かアンデッド騒ぎの首謀者側、どちらが勝つのか分からない。私としては冒険者が勝って、事を収めてくれるのが簡単でいい。
(私はシルバー以上にランクを上げるつもりは無いのだが、これで収まらない時は、手伝うという形で力を貸すしかあるまい)
「そういえばさー、あのお店で私が殺したのってお仲間?ふふっごめんね〜殺しちゃって」
私がそんな事を考えていると、クレマンティーヌと言う女がモモンという冒険者を煽っている。言っている意味は分からないが、冒険者2人が早々ここに駆けつけた事に関係しているのかもしれない。
「謝ることはないさ」
「あ、そう?よくも仲間を!って怒ってるのを力で捩じ伏せるのが楽しーのに。どーして怒んないの?つまんない」
女の方は典型的な快楽殺人鬼のような性格。
「私だって場合によってはお前と同じ事をする。だからそれに文句をつけるのは、我儘と言うものだ。しかし、あいつらは私の名声を上げるための道具であり、その計画を邪魔したお前の存在は非常に不愉快だ」
足を止めたモモンが言葉とともに振り返り、剣を突き出す。どうやらこの男も、正義感の元にこの騒ぎを収めに来たわけではないらしい。何やら目的もあるようだ。
「さてこの辺でいいだろう。お前は自分に絶対の自信があるようだからな。私は一切本気を出さないで戦おう、それがお前への復讐だ」
「はぁ〜?本気で言ってんのっ。ふふっこのクレマンティーヌ様相手に手加減って、身のほどを知れよ!」
クレマンティーヌの激昂した一撃から2人の戦いが始まる。
クレマンティーヌの戦い方はまさしく一撃離脱、ヒットアンドアウェイを忠実に再現した戦闘スタイルだ。武器は短剣のような刺突武器、防具は軽装の動きやすさを重視したもの、身体の運びや武器の扱いに噛み合っており、本人の戦闘センスも高いのだろう。
かわってモモンはその身体能力の高さ、主に腕力を使って巨大な剣で斬りつけている。その戦い方は派手さはあるものの、お世辞にも上手いとは言い難く。剣士としては三流以下と言わざるえない
クレマンティーヌもその事を指摘しているが、モモンは相変わらず本気を出すつもりはないようだ。何か隠し玉があるような物言いだったが、それを出す気配はない。
「随分硬い鎧だねー。貫通させるつもりだったんだけど」
モモンが剣を振るたび空気を裂くような音が鳴るが、クレマンティーヌを捉える事ができず空振りに終わる。しかし、モモンの装備は質がいいのか、クレマンティーヌの刺突を受けても穴が開く様子はない。お互いに攻め手がない状態だ。
とは言え2人の態度にはまだ余裕があり、お互いに攻める手札は残っているのだろう。
『ギギャァァァァーーー』
そんな中、先程いた石造りの神殿めいた建物の方、カジットと言う老人がいた所からあるのもが姿を現わす。骸の竜の頭が霧の中から現れた。
遠目からだがスケリトルドラゴンだろう。ドラゴンと付いているが、どちらかと言えばアンデッド寄りのモンスターであり、私が使役する機会はなかった。
その様子を見ているとモモンから驚愕の言葉が放たれた。
「ナーベラル・ガンマよ。ナザリックが威を示せ!」
(ナザリック…だと…)
その言葉によって思考が固まる。
(こいつまさか、人外ギルドの連中か?)
この世界にも同名の土地や組織がある可能性もあるが、それは余りにも楽観的過ぎるだろう。
(ギルド名は、アインズ・ウール・ゴウン…だったか?誰だ?)
鎧を着込んで戦う奴は、あのギルドにはそれなりにいたはずだ、だがそれにしては余りに戦い方がお粗末だ。
(NPCか?全員覚えていないからな、プレイヤーにしては弱過ぎるが)
思考を巡らす為に木に背を預け、視線を外していたせいで状況の変化に気づけなかった。
「おいお前、そこで何をしている?」
おそらく私に向けて放たれたであろう言葉が、私の耳に届いた。
今回のアンデッド騒動、冒険者として依頼を受けた末に、こんな事に巻き込まれるとは思わなかった。しかし予想外とはいえ名声を上げるには問題ないかもしれない。
ナーベラルに指示を出してしまった手前、こちらも長引かせるわけにもいかいので早々に決着をつける。
武器を手放し、挑発したのが効いたのか、突っ込んできたクレマンティーヌを捉える。
(あとは締め上げて殺すのみ)
クレマンティーヌを捉え、ゆっくりと締め上げる。こいつを殺した後ンフィーレアを探して終わりか…とそんな事を考えて、ふと周りに周りに探知を働かせると、近くの木の陰に何者かが隠れているのに気づいた。
「おいお前、そこで何をしている?」
ネタばらしの為に鎧を脱いでしまったので、今の私は見るからにアンデッドだ。この姿を見られた以上大人しく帰すわけにはいかない。最低でも記憶処理をしなければならないだろう。
声を掛けるが反応は無い、相手は木の陰から出て来るつもりはないらしい。おそらくこいつもズーラーノーンの1人なのだろう。
「出てこないか。で、あるならば《中位アンデッド創造 ジャック・ザ・リッパー》」
詠唱によって魔法陣と共に、仮面を被りひょろっとした殺人鬼が召喚される。
「行け」
「ヒヒヒィィイーー」
私の合図と共にジャック・ザ・リッパーが何者かに向かい走り出す。そこで何者かがようやく姿を現わす。
フード付きのマントを被り、口元を布で隠し手袋を付けて、全身黒で統一されている。姿を見せたものの、少々小柄という事ぐらいしか分かることはない。
そして接近したジャック・ザ・リッパーの鋭利な爪が襲う。腕を振り抜いたところでジャック・ザ・リッパーの動きが止まった。
(仕留めたか。ん?)
自分の近くに何かが転がってきた。
「なっ!」
転がってきたのはジャック・ザ・リッパーの右腕。慌ててそちらを見ると、今まさに首を無くしたジャック・ザ・リッパーが崩れ落ちるところだった。
黒いその人物は相変わらず佇んだまま感情が読めない。
(こいつ…中々強い、クレマンティーヌぐらいはあるのかもしれない。少し舐めすぎた)
地面にに刺していた剣を引き抜き投げつける。と同時に魔法の詠唱を始める。
そいつは剣を避けると、そのまま片手剣を携え距離を詰めて来る。
(大丈夫だ、この距離あれば間に合う)
相手に向けて掲げた右腕に雷電が纏い始める
「チェイン・ドラゴン・ライt
これで終わり。そう思った時、相手は急加速により瞬時にに間合いを詰め、懐に入り込もうとする。これでは詠唱が間に合わない、既に相手の間合いまで詰められ、剣を切り上げ始めている。
「くっ!」
仕方なく詠唱を止め、腕で庇う。本来ならレベル差があるはずだからこの程度なら受けられる、はずだった。
「ぐあぁぁっ!ぐぐぅ、くっ」
腕の感覚がない、右腕が肘先から切り落とされている。
(なんだ!なにが…)
予想外の事態に痛みもあり、うまく思考が回らない。
(取り敢えず距離をっ)
「《転移/テレポーテーション》」
抱えていたクレマンティーヌを放り出し、慌てて転移を発動、少し離れた木の上に移動する。木の上からそいつの様子を窺うが、静かに佇みフード奥の闇からこちらを見上げている。
得体の知れない
肘先から無くなった自分の右腕に目をやり大事な事に気づく。
(しまった!あの腕には指輪が!)
アインズの右手には貴重なマジックアイテムは勿論、重要なのはリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンと言う指輪がはめられている事だ。
(まずい、あの指輪が流出するという事は、ナザリックへの侵入を許すのと同義だ)
奴の近くに転がる自分の腕を見る。
(こいつなんなんだ、余りに未知数だ。しかし、回収だけはしなければ)
本来なら高威力の魔法で捩じ伏せたいところだが、右腕を巻き込むのはまずい。
「もう一度だ、《中位アンデッド創造 ジャック・ザ・リッパー》」
自分いる木の下に再度ジャック・ザ・リッパーが召喚される。しかし今回は5体同時に
「行け」
再びジャック・ザ・リッパーが奴に突撃する。殺す事はできないだろうが注意を引くことが出来ればいい、その隙に右腕を回収する。
《グラビティ・アトラクト》
重力を使った引寄せ魔法、落ちた右腕に向けて左手を掲げる。
しかし私が右腕を引き寄せようとするや否や、奴は妨害しようと剣を投射、右腕を地面に縫いつけようとする。が、こちらの方が僅かに早く、剣は地面を抉るだけに留まり、右腕は左手に収まった。
右腕の回収に成功した時には、ジャック・ザ・リッパーは残り2体まで減っていた。
(どうする、撤退するか?それとも…)
相手の情報がなさ過ぎる上、こちらも少なくない損害を受けている。
すると突如、奴がジャック・ザ・リッパーから距離をとった、と思えば近くに転がっていたクレマンティーヌに駆け寄り、首根っこ掴んで引っ張り上げると初めて口を開いた。
「無様だな。相手を舐めてかかるのがお前の悪い癖だクレマンティーヌ。まあ今回は相手が悪かったようだが」
奴はそう言うとナーベラルとカジットが戦っているであろう方向を向き。
「カジットの奴も駄目だな、今回は引く。いいな」
そう言うとこちらに視線を向ける事なく、クレマンティーヌに肩を貸して立ち上がらせ転移で消えた。随分あっさりとした引き際だ。
奴が消えた後も、しばらくは周囲に探知魔法を展開し続けていたが、引っかからないので本当に撤退したんだろう。
(痛み分け…だな。ズーラーノーンか、警戒する必要があるな)
そんな事を考えていると向こうからナーベラルが歩いて来る。向こうは無事に勝ったようだ。こちらも木から降りて合流する。
「アインズ様、私の方は問題なく終わりました。」
軽い会釈と共に報告するナーベラルだったが、私の左手に握られた千切れた右腕と、肘先から先が無くなった右腕を見て、顔が驚きと焦りに変わる。
「なっ!どうされたのですかっ、その腕はっ。まさか!あの女が」
「落ち着け。見た目程大した事はない、それにこれはクレマンティーヌと名乗った女の仕業では無い」
「では誰が?」
「私とクレマンティーヌの戦いを見ていた奴がもう1人いた。おそらく奴もズーラーノーンの1人だ。深くフードを被ったいたから顔は分からないが、見た目は全身黒ずくめ、戦闘は剣を使った近接戦が主、声からして女、分かるのはこれくらいだ」
「至高の御方に傷をつけるなど!」
「今回は私にも油断があったのも事実だ。少し楽観視していたのかも知れない」
「そんな事は」
「よい、事実だ。今回は運が良かった、これで腕まで回収されればリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンが敵の手に渡る可能性があったからな」
そう、反撃を許してしまったが致命的な失態は避けられた。次の機会までに対策すればいいのだ。
「あ、あのアインズ様」
「ん?なんだ?」
「その右腕なのですが、指が」
「ん?」
ナーベラルの指摘により回収した右腕をよく見ると、右手の指が一本指輪ごと無くなっていた。
「なっ!なぜ?!まさか…」
慌てて地面を探すも、腕が転がっていたあたりにはなく、奴が右腕を狙って投射した剣も何処にも見当たらない。少なくとも奴の剣は指1本は捉えていたと言うことか。しかもそれを分かっていて回収までしている。
(くそっ、躱したと思っていたが、もっていかれていたのか)
持っていかれたのはシューティンスター。
「致命傷ではないとはいえ、シューティングスターを失ったのは痛いな」
「では急いでナザリックより応援を呼んで捜索させますか?」
「だめだ。相手の情報が無い以上、いたずらに被害を増やす可能性がある。動くにしても情報を集めてからだ」
ナーベラルと話をしていると、僅かに上がってきた朝日と共にでかいハムスターが駆けてくる。
「殿〜無事終わったのですね〜」
そんな姿を眺めながらナーベラルに指示を出す。
「ズーラーノーンについては後回しだ。取り敢えず今回の騒動は収めたしな、ンフィーレアを救出して街へ帰還だ」
「はっ」