ごめんなさい遅くなりました。
仕事関係のストレスで
こっちのモチベーションが上がりませんでした。
これからも遅いと思います。
「この辺でいいだろう」
そんな声がすぐ隣から聞こえる。景色が一瞬で変わった為、転移の一種だろう事は予想がつく。自分ごと転移したのだろう。目に映るものが枯れ木の並ぶ墓地から町の裏通りになった。
(イラつく、あのクソドクロがっ)
「くっ…そが!」
本当であれば大声で悪態をつきたいところだが、先程共同墓地で冒険者紛いのアンデッドに身体を締め付けられた為、かすれたような声しか出ない。おそらく内臓にもダメージがいっているだろう。
「はな…せよ…いい加減に」
「そうか」
あの冒険者紛いのアンデッドとの戦いに、横槍を入れてきた輩に文句を言うと、意外にもあっさりと解放された。
腹を手でかばい二、三歩下がりながら質問をぶつける。
「あんた何?誰?あたし、あんたの事知らないんだけど?」
痛みで震えそうな声を抑え、声色だけでも平静を装う。
「質問が多いな」
全身真っ黒なそいつは特に気にした風でもなく、ただ静かに答える。
「あんたさ〜ズーラーノーンの何?」
得体の知れない相手、あのアンデッドとやり合っていたことからかなりできる。相性もあるが体が万全であっても勝てないかも知れない。
「ズーラーノーンは都合が良かったから使わせてもらっただけだ。ズーラーノーンの事は何も知らない。お前達の話は聞いていただけだ」
(ズーラーノーンじゃない?じゃあなんであたしを?)
イラつきながらも嘲るような表情を貼り付け、挑発するように言い放つ。
「は?なにそれ?まさかあたしを助けるとか言う、気持ち悪い正義感とか?」
この状況で挑発しても何のメリットも無いが、あのアンデッドに殺されかけた後で、悔しさとイラつきにより自覚できるくらいにヤケになっている。
「それこそまさかだ。私にとって利用出来そうだから使っただけだ」
「へ?利用?あんたさ〜、随分と舐めてくれるみたいだけど。ぶち殺されたいわけ?このクレマンティーヌ様に向かって」
「………」
そのまま挑発を含めた脅し文句を吹っかけるが、そいつは暗いフードの奥からこっちを覗くのみ。と思えば、ゆっくりと腕を上げこちらに向ける。咄嗟に警戒して身構えるが、そいつは人差し指でこちらを指すと。
「それ」
「あ"あ"?」
ただ一言、最初は何を指しているのか分からなかった。
「アレも言っていただろう。外しておいた方が良いと思うが?」
そいつが指差したのは自分の着ている鎧。正確には鎧に埋め込んである冒険者プレートであり、あのアンデッドに探知された原因でもある。
「せっかく拾った命だ、それとももう一度やれば勝てると?」
「うるせーよ」
図星を突かれ、つい言い返すが流石に自分でも分かっている。おそらく体が万全であっても勝てないだろう。それほどあのアンデッドは規格外だった。
(人外の域に達している、このあたしが)
「くそっ」
相手は戦う気が全くなく、その様子に毒気を抜かれ同時に脱力し、そ
のまま裏通りの建物の壁に背を預け、痛む身体を支える。
「はぁ〜。で?結局あんたは何なわけ?」
クレマンティーヌは背を預けたまま、今度は落ち着いた口調で話す。
「一応、今の肩書きは冒険者だ」
つまりそれは正体不明と同じだ。
「はっ、あんたもモモンとか言う奴と同じ?」
「さてな、それよりズーラーノーンは何がしたかったんだ?今回のアンデッド騒動、町でも潰したかったのか?」
否定しないのが、更に胡散臭い。
「別に。ついでにそれぐらい出来れば面白かったんだけど、冒険者紛いのクソ野郎のせいで台無しにされちゃったしね」
「随分と大掛かりな準備があったぶん、今回の事はズーラーノーンとしては痛手だったんじゃないか?」
「どーでもいいかなー。そもそもズーラーノーンがどうなろうと正直どうでもいんだよねー。そもそもカジッちゃんが始めた事だし、成功した方がもちろん面白いけど失敗しても良かったし、事が大きくなって法国の連中の邪魔が出来ればなお良し、みたいな」
そう話しながらクレマンティーヌは、自身の鎧に貼り付けた冒険者プレートを剥がし始める。
「法国?王国で騒ぎを起こして、法国の邪魔とはどういう意味だ?」
(こいつが誰か知らないけど、借りを作っとくのも癪だしね)
「う〜ん、別にいっか。追われてるんだよね、法国の連中に」
「国を跨いで追っ手がくるとは相当な事をしたようだな?」
「ま〜ね〜。漆黒聖典って知ってる?」
「いや」
「ま、知らないよね〜。簡単に言うと、法国最強の特殊部隊って感じ」
「追っ手か?」
この質問に笑みを浮かべ応える。
「ますますわからんな、そんな奴らに追われる理由が」
「あたしも漆黒聖典に居たんだよ」
「事の大きさより、お前を追える奴がそれしかいなかったと言うわけか」
目的のプレートを剥がし終えたのを確認し、改めて向き直るクレマンティーヌ。
「で、あんたどうするの?ズーラーノーンでないなら、あたしを生かしておく必要もないんじゃない?今なら殺せるかもよ」
そいつは少し考えてるそぶりを見せるもののすぐに顔を上げる。そして虚空に対して指を滑らせたかと思うと、そのまま手首まで潜らせる。そうして手を引き抜くと、虚空から物を取り出したかのように、その手には小瓶が握られていた。
そのまま差し出されたそれを凝視するが、そいつに視線を向け意味を問う。
「ポーションだ。使うかどうかは任せる、効果は保証しよう」
「ポーションかどうかより別な事が知りたいんだけど?」
こちらが受け取らないとみると、突き出したポーションをゆっくりと地面に置く、立ち上がり暗いフードの中の視線を向け。
「私は今手駒を探している。優秀な手駒をな、力を貸してみる気はないか?」
上から物を言うような態度が気に入らない。
「はっ、一度助けたぐらいでさ〜随分と安く見てくれるよね」
嘲るような笑み貼り付けて言ってやる。
「お前の強さ、もう頭打ちなんじゃないか?」
その言葉に無意識に腰の武器に手が伸びそうになり、自分の顔が強張ったのを自覚できる。
「フフッ、こっちが大人しくしてるからって、あまり調子に乗らない方がいいと思うな〜殺しちゃおうかな〜。ねぇ、どんなふうにしn「取り払ってやろう、その上限」
殺意を乗せた言葉に被せるように遮られる。殺意が霧散というより停止したような感覚。
「化け物の領域に、片足突っ込んでいるのだろう?せっかくだ、もう一歩進んでみる気はないか?歓迎するが」
正直そんな事を言われても胡散臭い事この上ない、この上ないが不思議と騙そうとするような印象はうけないのは、この人物の人間性だろうか。
「人体実験の勧誘なら、他を当たってもらえないかな〜」
そいつは考えるそぶりをして少し黙る、
「……うん、なるほど、確かにそう聞こえても不思議じゃないな。なら仕方ない、他を当たるとしよう」
意外とあっさりとそいつは引いた。言葉だけでなく踵を返して歩き出す、もう興味は無いと言うかのように。…だが
「帝国北部に翼竜の洞窟と言う場所がある。私はそこにいる、興味があれば訪ねてくるといい」
振り向いてそんな事を言うと、再び歩き出し裏通りから消えていった。
目の前には奴が置いて言ったポーションの瓶が置かれていた。蹴り飛ばしてやろうかと一歩進むと腹に痛みが走る。
「チッ、クソが」
だらりと腕を伸ばしそれを掴み上げる。ポーションをしばらく眺めていたが無造作に蓋を外し、中身を喉の奥に流し込む。それは忌々しくもしっかりと効果を示し、身体中の痛みを消していく。
「クソが」
もう一度悪態をつき、さっきのやつの言葉を思い出す。そして自分を殺しかけたアンデッドの姿。
「帝国、ねぇ〜」
そして何処へともなく歩き出す、目的地は────
(さて、一応は勧誘してみたが果たして)
クレマンティーヌと別れて町の中を進みながら状況を整理する。
(目先の問題は何と言っても………ナザリックだ)
ゲーム時代でも有名な人外ギルド、アレらがここに来ているとなれば、それを考慮して行動する必要がある。
既に敵対関係と言ってもいい、相手方は魔法攻撃と使役しているアンデッド、こちらは腕を切り落としている。最悪のファーストコンタクト、ここから仲良くしましょうと言うのは難しい、それに同郷だからといって無条件に仲良くなるつもりもない。
(そもそも大きな懸念がある。私がアバターの影響を受けている以上、奴がそうなっていない保証は無い。そしてそうなった時アンデッドの精神汚染を受けた元人間が、まともであるとは思えないな)
私はこのアバターの影響を受けたと自覚しつつも、人間との関わりを不快だとは思はない。しかしアンデッドになったアレはどうなのか、アンデッドは生者を憎むなどの設定はよくあるものだ。
(例えもっと穏便な出会いであったとしても、敵対は免れなかったかもな)
冒険者紛いな事をして王国で活動していると言うことは、王国に拠点があるのだろうか。私がダンジョンギルドごとこの世界に移って来たことから、人外ギルドもその可能性が高い、王国の地下に奴らのダンジョンが広がっているなどと言うこともありえる。
もしくは現地の人間に接触するために一番近くの国に様子見に来たとも考えられる。
(まあいい、王国で何をしようと私には関係ない。関係ないが、このままだと帝国にも、いや既に紛れ込んでると考えるべきか)
外は朝日が昇り始め、ちらほらと人も増え始めた。
(それはそうと私もあまり悠長に長居はできないな、顔を見られてないとはいえ格好はそのまま、次出会ったら殺し合いだな)
帝国に戻るか、とも思ったがせっかくここまで来たのだからこのまま王都まで行ってみる事にする。王国に来る事自体、余り乗り気では無かったが、そのおかげでクレマンティーヌと接触出来た。それを考えれば、王都まで足を伸ばし人材を漁ってみるのもいいだろう。
(実際に王国の中枢を見ておくのもいいだろう。帝国は同盟者がいるから情報は不自由しないしな)
そんな事を考え歩いていると、見知った後ろ姿を見つけた。
「ナイル」
近づいて声をかけると、少し驚いて振り返る。
「え?あっ、ドールさんですか。一瞬知らない女性から声をかけられたかと思いました」
関わってまだ数日その反応も仕方ない。
「それはそうと無事だったんですね、目立った怪我も無さそうで良かったです」
驚いたあと私の体を見回して、服に破れや汚れが無いのを確認し、安堵した表情を見せる。
「僕達が行った時には、アンデッドは影も形も無かったんですがドールさんが?」
「いや、私が行った時既にほとんど片付けられた後だった。見張りの兵士の話では二人組の冒険者が片付けたらしい」
「あ、そうなんですね。いや、ドールさんならもしかしてと思ったんですが。まあ上手く収まったようで良かったです」
そう言うナイルの周りにはあの二人は見当たらない。それを察したのか
「クルドとラミカは先に宿に戻ってますよ。僕は状況を確認するために組合に行く途中で」
「この騒動も時期に収まるだろう。事を収めてくれた冒険者に感謝だな」
(これがただの冒険者なら、本当に感謝するだけで終わったんだが)
「どこにでも凄い冒険者とはいるんですね。ドールさんはどうするんですか?一緒に組合に行きますか?」
そう言われたが今組合に行くわけにはいかない。最悪アレらと鉢合わせする可能性が高い。
「いや、組合に用はない。それと、この街から離れるつもりだ」
「すぐにですか?」
「ああ」
「帝国に?」
「いや、王都の方行こうと思っている」
「良ければ僕達と朝食でもどうです?昨日は騒がしかったですし、最後ぐらい奢りますよ」
「悪いな、少し急ぐつもりだ。挨拶くらいはしておきたかったからな、ここで会えたのは丁度よかった」
「そうですか、残念ですが仕方ないですね。二人には伝えておきますよ」
「ああ、頼む」
そう言うとナイルが改めて此方に向き直る。
「貴女と依頼を出来て良かったです。機会があればまた宜しくお願いします」
そう言ってナイルは右手を差し出して来た。
「こちらこそ、世話になった」
握手に応じ、礼を言う。彼等がバハルス帝国で冒険者を続ける限りまた会うこともあるだろう。こういう者達とは友好的な関係でいたいものだ。