騎士王、異世界での目覚め 〈リメイク〉   作:ドードー

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「ご報告申し上げます」

 

 秘書官ロウネ・ヴァミリネンが話しかけているのはバハルス帝国現皇帝のジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスである。

 

 ここはバハルス帝国帝城の一室、眉目秀麗と言う言葉が似合う青年ジルクニフは、椅子に腰掛け窓の外に視線を向けながら、秘書官の報告を聞く。

 

「北部に出現した洞窟について、冒険者からの情報ですが強力なモンスター、主に竜種の巣の様な状態とのことです。今回オリハルコン、プラチナ、ゴールド級の各一パーティーが依頼を受けましたが、オリハルコンとプラチナ級からは通常の倍ほどあるワイバーンの群れ、少なくとも五十体ほどの群れを確認。オリハルコン級から完全な上位竜の確認が取れております。ゴールド級の冒険者は現在まで帰還していないとのことです」

 

「また厄介な問題が出てきたな」

 

 ジルクニフは目を瞑りながら呟く。

 

「また洞窟内部には未発見の鉱石、内部の広さは非常に広大であり、最下層までどれほどあるか確認出来なかったとのことです。」

 

「中のトカゲどもを殺すことができれば、広大な土地と未知の資源を得られるかも知れないが、資源に関しては有用性が不明だからな。軍を送るにしても旨味なしか」

 

 自らは鮮血帝などと呼ばれ無能な貴族を片っ端から処刑していった皇帝ではあるが、それは所詮人間相手の話、せめて話の通じる相手ならともかく、いや仮に通じても価値観が違い過ぎるかと考え直す。

 

「取り敢えずその洞窟のある近くの町に、ある程度の軍を配備しておけ。まったく、この時期に余計な出費」

 

「それについて報告にあった事なのですが、洞窟の入り口付近また外では冒険者を襲わないとの報告がオリハルコン、プラチナ級両方の冒険者から来ています」

 

「なに?、……町にも被害は出てないのか?」

 

「はい、実はこちらの方が重要な報告でして、洞窟内よりワイバーンが出てきているのですが、近くの町の上を旋回している姿が、多々報告されております。しかし、今のところワイバーンによる被害の報告はされていません」

 

 ジルクニフはしばらく沈黙し、言葉を発する

 

「…そうか、ならその洞窟を管理出来るように準備を進めろ」

 

「管理ですか?」

 

「管理と言っても、無闇に人を近づけぬように整備し、入る人間もこちらで管理出来る様にするだけだ。鉱石はともかく竜種の素材は高価だからな、馬鹿な貴族が欲をかいて町が潰れたら笑えん」

 

「了解しました」

 

「それと竜どもが洞窟の外と中で明確に殺す対象を選んでいるのか確認しろ、死刑囚を使ってかまわん」

 

「…分かりました、そちらも進めておきます」

 

(食う相手を選ぶワイバーンか…。ただ竜どもの縄張り、それとも何か意図が……考え過ぎか?、今のままでは何とも言えんな)

 

「じい、どう思う?」

 

 ジルクニフは目の前に腰掛けている同じく話を聞いていたであろう老人に話しかける。

 勿論ここにいる以上ただの老人である訳がなくこの人物こそ帝国が世界に誇る偉大な魔法使いにして英雄を超えた逸脱者の一人、フールーダ・パラダインである。

 この者が与えて来た叡智は帝国の発展に大きく影響し、一旦戦闘となれば単騎で軍をも凌ぐ実力者であり、皇帝の数少ない相談相手でもある。

 

「さてさてどうでしょうな?実際に見てもいないのでなんとも言えませんが、その洞窟が特殊な環境下にあるのは確かでしょうな」

 

「特殊な環境下?どういう意味だ?」

 

「中は竜の巣のようだとの事でしたが、それはつまり竜しかいない環境だったのかもしれませんな」

 

「なるほど、人間を初めて見た可能性もある更に言えば人間をエサと認識していない……と言うのは流石にないと思うがない訳ではない。その場合これから人間を襲い始める事になるな」

 

「通常種より大きいのも共食いで育ったのが原因かもしれませんし、もしかしたらこのまま共食いしかしないかもしれませんな」

 

「もしそうなら尚更入る者を制限しなければならないな、あまり人間の味を教えるわけにはいかん」

 

「もう一つの可能性は陛下も考えた可能性でしょう。もっとも、そのような存在があり得るかと言われると、可能性上あり得ると言えるだけでしょう。しかし竜の群れが住む以上、上位竜が群れを治めている可能性もあります。竜は上位になるほど知性持ちますので、人間との摩擦を嫌う竜が治めているのなら、あり得るかもしれませんな」

 

 楽しげな老人を横目にジルクニフはまた思考に浸り始める。

 

 

 

 

 

 

「登録については大体わかった。それとは別なのだが、モンスターの素材買い取りはしているのだろうか?」

 

「はい、組合で買取していますよ」

 

「登録していなくとも、買い取ってもらえるのか?」

 

「登録せずにですか?一応買い取りは出来たはずですが、たしか登録時より安くなってしまうはずです。えっと、あちらの奥のカウンターが買い取り専用になっているので、買い取りをご希望の際は素材をお持ちください」

 

 受付ではなく別のカウンターを指しながら説明してくれる。

 

「分かった。今日は素材の買い取りだけにしよう、登録はまた後日改めてにする」

 

「はい、分かりました。買い取りの査定が終われば、こちらでお呼びするので。ではまた後ほど」

 

「ああ」

 

 一度受付から離れ買い取りの方のカウンターに移動、前もってアイテムボックスから適当な袋に移していた、狼の死骸を渡す。内臓が入ったままなので、嫌がられるのを覚悟していたが、意外と胃袋などは使い道があるらしい。

 

 狼の死骸を引き渡したら、後は大人しく組合内にある椅子に腰掛け、査定が終わるのを待つ。

 

 

 しばらくすると『素材の査定が終わりました』と声がかかったのでもう一度受付に向かう。

 

「お待たせしました。先程の素材ですと、こちらの金額になりますが宜しいでしょうか?」

 

「それで構わない」

 

「はい、ではこの金額で買い取りさせていただきます。ではこちらですね、どうぞ」

 

「ああ」

 

 金を受け取り、しまい終わるのを見計らって受付嬢が声をかけてくる

 

「それと今回買い取らせていただいた素材の方ですが、何処で狩られたんですか?」

 

「ん?ああ、この街に来る途中に襲われてな、丁度いいから3頭程狩った。1人だったから余計に狙いやすかったんだろう」

 

「お一人でっ、それは凄いですね!」

 

「一人旅なんでな、それなりに腕は立つ」

 

「それだけお強いなら、なおの事登録をお勧めします」

 

「そうだな、考えておこう。そうだ2つ程聞いていいか?」

 

「はい、何でしょうか?」

 

「この街で武器を扱っている商会を知らないか?」

 

「商会…ですか?え〜と、武器であればヒーラバト商会が有名ですね品質の良いものを取り扱ってると思いますよ。あとはクデュラス商会が扱ってたかもしれませんが、ちょっと分かりませんね」

 

「いや、それだけで十分だ、後は自分で確かめよう。もう一つも組合の事ではないんだが、さっき言った通り旅をしているから、この辺りはあまり詳しくない、この国のことを軽く聞いておきたくてな」

 

 そう聞くと受付嬢は少し悩みながら。

 

「ん〜…この国こと…ですか〜、私はずっとこの国に住んでるんで、周りの国と比べてとかはあまり分からないですね〜、ただ住みやすい国だと思いますよ。数年前に貴族が次々処刑されてしまったりと、不安な時期もありましたけど、何だかんだ今の皇帝陛下は優秀という噂です。何より平民でも貴族でも実力で評価して下さるらしくて、四騎士の……あー、四騎士というのは帝国でも、かなり位の高い騎士達なんですけど、その中にも確か平民出の方もいらっしゃった筈です。あと変な貴族が出しゃばらないので、平民としては安心できますね。その辺は王国は大変と聞きましたが」

 

「なるほど、ではしばらくこの国にいるとしよう。時間を取らせて悪かったな、また世話になるだろうがよろしく頼む」

 

 これ以上話を聞いていると仕事の邪魔になってしまいそうなので話を切る

 

「いえいえ、こちらこそ」

 

 その言葉を聞き、私は冒険者組合を出る。

 

 組合を出た足で、教えてもらった商会を目指す。人づてに聞きながら、目的地を探す。大きな商会だけあり、大通りに沿いにあるため場所自体は簡単に見つかった。

 

(ここがヒーラバト商会、なかなか大きいな。さて)

 

 建物の外観だけ眺めていても仕方ない。扉を開け中に入ると、中は広く上品な雰囲気がある。店内の壁際に置かれた棚には、武器が丁寧に展示され、壁にも武器が掛けてある。如何にも高級店といった感じだ。

 

 扉から入るとすぐ横に店員が立っているが、どちらかというと警備員と言ったところ。まあこういう店だ、そういう人員も必要だろう。私の格好が怪しい為か、若干警戒されてる。

 

(無駄に警戒させるのは悪いが、仕方ないな)

 

 警備員の視線を気にしながらも、棚の武器に目を通していく。正直言って大した武器はない。どれも私から見れば低ランク、しかし中々の値段がつけられている。さらには魔法効果が付与されているだけで値が跳ね上がる。

 

(弱い、この程度なら《クリエイト・アイテム》で作れそうだ)

 

「お求めの物は見つかりましたか?」

 

 しばらく商品を眺めていると、店員と思わしき老人尋ねてくる。老人と言っても、背筋はしっかりと伸ばし老いを感じさせない、何処かの屋敷の執事のような佇まいで、店の上品さと良くあっている。

 

「武器の相場はあまり知らないんだが、これらの武器は大体このぐらいするのか?」

 

「そうですね。このぐらいの武器ですと、この値段が適正だと思われます。当店の武器は、どれも比較的高めになっていますが、それだけ品質には自信を持っています。」

 

 声で女性と気付き僅かに驚いたものの、すぐに表情を戻し質問に応じてくれる。

 

「実は今日、武器をいくつか持ってきていてな。価値を見てもらいたいんだが、いいか?」

 

「鑑定をご希望でしたか。ええ構いませんよ。ではこちらへどうぞ」

 

 そう老人に案内され、鑑定用の部屋と思われる隣の部屋に入る。

 

「ではこちらの机に出していただけますかな。それと鑑定には、それなりに時間がかかる場合もありますので、どうかご了承ください」

 

「ああ、問題無い」

 

 短剣と片手剣を2本ずつ取り出し、指示通り机の上に置く。

 

「これで全部だ」

 

「では失礼して。鑑定してる間、そちらの椅子に掛けてお待ち下さい」

 

 勧められた椅子に座り鑑定が終わるのを待つ。腰をかけながら鑑定の様子を観察する。短剣を手袋をはめた手に取り、ルーペのようなものを使って観察している様子は宝石商の様だ。

 

 小一時間ほどで4本全部の鑑定が終わったらしく、鑑定した剣を布で丁寧に拭いて机の上に戻している。

 

「お待たせしました。無事鑑定は終わりました。中々良い武器をお持ちの様で」

 

「で、どの程度の価値があるんだ?」

 

「はい、見た限り状態は非常に良く、おそらく鍛造で製作された品でしょう。当店で並べているものと遜色ありません。値段にするのであれば片手剣が金貨3枚、短剣が金貨2枚と言ったところでしょうか」

 

「ほう」

 

 中々の額だ、資金稼ぎには丁度いいかもしれない。

 

「どうされますか?売却ということであれば、当店で買い取りますが?」

 

「ああ、それで頼む」

 

「分かりました。ではこれはお預かりします、お金の方は受付の方でお渡しとなり、細かな金額についてもその時に出しますので、それでよろしければ、買い取りという形で宜しいですか?」

 

「それでいいんだが、一つ相談がある」

 

「ふむ、何でしょうか?」

 

「出来れば、定期的に武器を持ち込みたいんだが、その買い取りは出来るか?品質は同じものを保証しよう」

 

「ふ〜む、数はどの程度で?」

 

 私の言葉に少し考えるそぶりを見せる。おそらく自分の持つ権限で、どこまで出来るか計っているのだろう。

 

「10本程度でいい、買い取り値も2、3割安くしてくれて構わない」

 

 別に大儲けしたい訳ではない。街で動くのにある程度の金は必要だ。

 

「そうですか。二週間に一回程度の頻度であれば、私の判断で買取は可能です。ですがそれ以上となると、しっかりとした契約という形になり、納めていただく日付、数量、品質などが縛られる事になります」

 

「前者で構わない。こちらとしても縛られるのは困る、そこまで金が欲しいわけでは無いしな」

 

 こちらの行動が縛られる事は避けたい。大量取引という訳でなければ商会としても問題なく捌ける量なのだろう。

 

「左様ですか、ではまた持ち込んだ時にお声をお掛けください。では今回の買い取りのお金をお渡ししますので、受付までお願いします」

 

 その後会計を終え、売却した分の金を受け取って商会を出る。

 

 

 


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