騎士王、異世界での目覚め 〈リメイク〉   作:ドードー

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現在、ワイバーンの視界を使い、キャメロットの唯一の入り口である、最上層の洞窟入り口を監視している。

 

 どうやらこの間の侵入者である冒険者が組合に連絡を入れたらしく。あれから何組かの冒険者が侵入してきたが、ワイバーンの群れを掻い潜ることが出来ずに撤退もしくは全滅している。

 

 それから暫く音沙汰なく、特に目立った動きはなかったのだが、ここにきて事が大きく動いた。帝国兵士と思われる集団が洞窟入り口の周囲の整備を始めたのだ。木を伐採し、ある程度の見通しと広さを確保、しかも洞窟を観察できる距離を保ちながら、簡易的な野営地の様な施設を設置し始めた。

 

(国が介入してきたか、対応が早い。ワイバーンの群れが予想以上に危機感を煽ったようだ)

 

 国主導でのダンジョン攻略というのは流石に困る。決して負けるつもりはないが、私がこの世界に疎いため、どのような奥の手を持っているか分からない。ギルドから目を離して、自由に行動しづらくなるのも困る。

 

 軍と言えるほどの規模ではないため、今すぐにどうこうではないのだろうが、何か目的があるのも事実。その中でも目を引くのは一箇所に集められた首輪や手錠をされた人間達、そのほとんどが男で顔や身体に傷がありお世辞にも善良なとは言い辛い。

 

(おそらく犯罪者か奴隷あたりだろう、何に使う気だ?)

 

 何人かの騎士が奴隷のような人間を数人連れて洞窟の入り口前まで来る、そしてそこに奴隷達を繋ぎ騎士たちは離れた場所まで移動した、しばらくすると偵察用のワイバーンが洞窟から出てくる。

 

「嫌だぁぁぁぁー!!、こんなっ、こんっなっ!」

 

「たずげでぐれぇぇー、しにだぐないっっ」

 

「食われて死ぬなんて嫌だぁっ」

 

 ワイバーンには外では無闇に人を襲うなと命令してあるがそれを知らない奴隷達は必死に逃げようと半狂乱になりながら繋いである鎖を引っ張る。

 ワイバーンはまったく意に返さず進み奴隷達を押し退け洞窟の外に出る。

 そのまま翼を広げ飛び立っていく、奴隷達は食われこそしなかったものの押し退けられた時に倒れそのまま踏まれて腕や頭を潰された者もいる。

 

 それを何度か繰り返し確認した騎士達は今度は奴隷達を追い立てて洞窟の中に送り込んだ、無論中まで入って来た輩まで情けをかけるつもりはないため中ではワイバーン達に行動の制限はしていない、ある程度進んだところでワイバーン達が襲いかかる。

 

『グギァァァァーー』

 

「ぎゃあぁぁぁーっ、たずk」

 

『グガァァァーー』

 

「ひっ…はあっはあっ、ぐあああぁーなnぐわぁっ」

 

 五分もせず十人以上いた奴隷達は全滅し、それらを確認したかのように騎士達は何やら話、最終的に野営地のテントの中に入っていった。

 

(ワイバーンの性質調べていたのだろうが、随分と過激なやり方だな。それだけこの国のにとって重要ということか、ワイバーンでこの騒ぎなら、軍事力はあまり高くないのか。まあ今までの情報からユグドラシルからきた私たちの方が強らしいからな、最高ランクのワイバーンならなおのこと)

 

 

 

 そのような実験を4日ほど続け、その光景に目新しさを感じなくなった頃、帝国兵士に動きがあった。

 

 野営地を動き回る騎士の中でも、幾分良質な装備をしている者が数人の部下を引き連れて洞窟内に入って来た。奴隷以外で中に入ってくるのはこれが初めてだ。ワイバーンの襲わない所まで進みでると、そこで止まり何かを待っている。

 

 

 

 

 

 

 

 歩を進めるごとに緊張感が増し、足にかかる負荷が大きなっている気がする。そんな俺の気持ちを無視するように、洞窟内は依然として静まり返っている。

 

「本当にやるんですか?とても話が通じるとは思えませんが」

 

 ワイバーンを待つ事に5分ほど、部下が質問と言うていの不満を投げかけてくる。

 

「気持ちは分かるが、陛下直々の指示だ。それに意味のない事はしない方だ」

 

 俺だって半信半疑だ、いくらワイバーンだからといってそれに話しかけて言葉が返ってくるとは思えない。客観視すればかなり滑稽に映る事だろう。

 

 そうこうして暫く待つと、風を切る音が聞こえ始めた。岩を砕くような着地音が響き、ずっしりとした足音が近づいて来る。そして奥よりぬるりと姿を現わす。

 

「来たようだ」

 

 通路中央より少しずれた場所を陣取り、ワイバーンが近づいて来るのを待つ。

 

(でかいな。これがワイバーンと言うのだからここは異質だ)

 

 ワイバーンの大きさに感心している場合ではない、こちらには任務がある。ワイバーンとの距離が50メートルを切るあたりで声を張り上げる。

 

「私はバジウッド・ペシュメル。この地の竜族、その長たる方との会談を望む。どうか聞き入れて頂きたい。」

 

 そう語りかけるがワイバーンは特に反応せず、俺たちの横を通り過ぎようとする。まあ当然だろう。

 

「この言葉はバハルス帝国、現皇帝であるジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクス陛下より受けたものです。皇帝陛下は会談を望んでいます。バハルス帝国は貴方がたと敵対したい訳ではありません。どうか機会をお与えください」

 

 言葉と共に膝をつき頭を垂れる。何という茶番、正直こんな事に意味があるとは思えない。さっさと終わらせて陛下に報告しよう。

 

 沈黙が続き、その姿勢で暫く待つ。

 

「バジウッドさまっ……!」

 

 後ろの部下が声を潜めて訴えて来る。頭を下げたまま視線を向けると、慌てたような表情と目線で後ろを指す。

 

 僅かに顔を上げそれを見ると、すれ違ったワイバーンが振り返ってこちらに視線を向けていた。ただじっとこちらを見るその目には明らかな知性を感じた。

 

「……っ」

 

 振り返ったワイバーンが首だけでなく体もこちらは向けると、ゆっくりと近づいて来る。俺は驚きで動く事が出来ず、膝をついたままワイバーンの出方を待つしかなかった。

 

 目の前まで来るとゆっくりと首を伸ばす。俺の顔とワイバーンの顔が半歩程まで近づく。恐らく生きたワイバーンでここまで近づくのは初めてだろう。

 

 顔を近づけたまま動きを止め、1分ちかくその状態を保っていたが、ゆっくりと顔を離し、来る時とは逆に洞窟の奥に向けて歩き出した。が、奥まで行く事はなく、俺たちから少し離れると止まる。何故止まったのかと注意していると、突如ワイバーンの足元に魔法陣が現れる。

 

 それが輝きを増したと同時に、ワイバーンは視界から消え失せていた。恐らく転移の魔法だろう。

 

「はぁ…。これは引き当てたと見ていいのか?」

 

「ええ、恐らく…、大当たりですね」

 

 明らかに意思のある行動、それをこちらに示した。それは此方の望みに譲歩することの意思表示と見ていいだろう。

 

「陛下の存在を出したのが、きいたんですかね」

 

「恐らくな。毎度のことだが陛下の推察には恐れ入る」

 

 

 

 

 

 

 

 ーバハルス帝国帝城ー

 

 バジウッド・ペシュメルは皇帝の居る部屋を目指し帝城内を歩いている。

 彼は元々平民の出であり、更に言うなら裏路地で生活していた身である、しかしその後騎士を目指しジルクニフの目にとまったことで、今では帝国最強の四騎士の一人と言われるまでになった。

 

 そのバジウッドであるが昨日まで、北部で発見された洞窟の調査に行っていた、そこでの結果を伝えるべく今日首都に戻って来たのだ。

 

 少々荒っぽくノックして扉を開ける。

 

「陛下、報告に来ました」

 

 ノックだけでなく言葉も荒く、とても一国の皇帝への話し方ではない。

 だがジルクニフも周りの者も指摘しない、いや指摘しても意味ない事を理解しているのだ。

 

 ジルクニフ自身はまったく気にした風もなく、ジバウッドに報告を促し、バジウッドは死刑囚を使った実験の結果を報告した。

 

「それだけではないんだろう」

 

「はは、分かりますか」

 

 表情に出ていたのか、声色に出ていたのかは分からないが、陛下は何かを察したらしい。元々そういうところが鋭い方ではあるし、自分もあの体験を隠しきれていないのだろう。

 

「つれたか?」

 

 その顔には確信めいた笑みを貼り付けている。

 

「ええ、あの洞窟には何か居ますね。明らかに知性を持つ者が」

 

「会えるか?」

 

「恐らく。少なくとも一度会う機会は貰えるかと」

 

 その返答を聞きジルクニフは考え込む。

 

(外れていた方が都合が良かったんだが、仕方ないか。どちらが良かったかは奥に潜む何かによるが、放置はできない問題だな。王国への遠征の前には片付けておきたいところ)

 

 その話を聞きジルクニフは長考したのち、軽いため息とともに喋り始める。

 

「次は私も出向く。王国より先に帝国が滅ぶ事態は避けたいところだ」

 

「そこまでですか?」

 

「ああ、そこまでだ。上位竜1匹で国は滅ぶ、取り込めるか滅ぶかだ」

 

 2度目の滅ぶという言葉を受け、この場にいる者に緊張感が広がる。ジルクニフの言葉は重い、それはただ皇帝だからというはなく、切れ者ゆえにその言葉の真実味があるという意味からである。

 

「本来であればな」

 

 しかしその続きを聞き張り詰めた空気が緩む。

 

「今回はそうはならないと?」

 

「そうだ、向こうは最初から、此方への接触を避けている。竜という絶対的な種族でありながら、明確な線引きをし此方への敵対行動を制限している。これは大きい、場合によっては互いに干渉しないという事にも出来る」

 

「それは……確かに、うん…ですがどうなんでしょうか」

 

「もちろん絶対の信用など無い、監視は必要だ。だが少なくともそう言った選択肢も取れる相手の可能性は大いにある」

 

「なるほど」

 

「ふっ、別に無理に納得せんでもいいぞ、ここで何を話そうと結果は変わらん。会ってみないことには只の願望に過ぎない」

 

「言葉が通じるだけ運がいいと言うべきですかね」

 

「相手が人間であればどうとでもなるが、流石に竜相手の取引は初めてだからな。何とも言えん」

 

 

 

 

 

 

(これほど早く接触して来るとは思わなかったな)

 

 ワイバーンに向けた騎士の発言で、この国の皇帝が私との接触を試みている事が分かり驚きはしたものの、それを承諾するそぶりを見せた。

 

(はたしてどんな人物が皇帝なのか。その人柄によっては、帝国を滅ぼす事も視野に入れなければな)

 

 共存という条件を満たすには、前提として帝国側には譲歩してもらわらければならない。キャメロットの戦力を知ってなお、此方の立場を軽んじられるようであれば共存は無い。

 

 ただお互いに価値観を違えるだけであればまし、キャメロットを領土として主張してくるなど、欲望にまみれた要求をしてくれば戦争必至、滅ぼすことになる。

 

(場合によっては帝国を乗っ取るのも面白いか)

 

 そんな事を思った時、目眩と耳鳴りが襲って来る。

 

「…くっ!……うぅ」

 

 視界が揺らぐ、円卓の席で起きたような光景が見える。

 

 

 

 ーーーーーーーーー

 

 

『陛下。また2つ、飢饉により村が消えました…』

 

 騎士は苦痛の表情で王へ報告する

 

『そう…か』

 

 その報告に、それだけを返す王

 

『それにまた蛮族(あれら)が侵攻してきます。おそらく2ヶ月とかからないかと』

 

 虚空を眺める王の瞳は、おそらく何も写していない。しばらく続いた沈黙の後

 

『なあ、卿よ。運命に抗う意味は、あるのだろうか』

 

『…………』

 

 王の言葉に、騎士は何も返さない

 

 

 ーーーーーーーーーー

 

 

「ううっ…はっ」

 

(なんなんだ…これは、またこれか。(アルトリア)の記憶か)

 

 国の衰退を分かっていて王位についたアルトリア・ペンドラゴン。この記憶はその生涯のたった1ページにも満たない筈だ。それでも自分ではどうしようもない無力感に支配される様が、私の精神にも染み込むような感覚を覚える。

 

(警告だろうか。王位につくということへの)

 

「軽々しくないと言いたかったのか、思うことすら」

 

 まるでこの身体に別の意思があり、その意思が訴えているようだ。

 

(不思議と逆らう気にはならないがな)

 

「まあ、ある意味では使わせて貰っている身だ。多少は尊重しよう、その意思を」

 

 やはりこの身体は、私の精神の大いに影響を与えるつもりらしい。しかしそこに強引な改変はなく、どちらかと言うと介入の様な感覚で、あくまで私の意思は尊重してくれる様だ。

 

アルトリア()の二の舞を踏むな、と言うことか)

 

 精神汚染への最初ほどの焦りは感じない。汚染と例えるのは不適切だと思うが、もしかするともう染められてるのかもしれない。

 

 無能な王。アルトリア・ペンドラゴンという人物は決してそのような王ではない。少なくとも私からすれば、ブリテンにおいて彼女ほどの適任はいなかっただろう。

 

 その国は衰退へ進み続け悲惨な結末を迎えた。しかし彼女以外が王であれば国は一瞬にして瓦解、衰退の道すら歩めなかったかもしれない。

 

(私から言わせれば、彼女ほど完璧な王はいないと思うんだが)

 

 それでも彼女は、自分が王になるべきではなかったと考えているのだろう。

 

(彼女の意識があるわけではないんだが、何だろうなこの感覚は)

 

 例えるなら彼女の意識の残滓が、人格を持たずに私の意識に対して、安直に反応しているような感じだ。

 

(会ったことすらなく、記憶を見せられただけだというのに、その僅かな意思に報いてみたくなるのは、何故だろうな)

 

 

 

 

 

 

 ーバハルス帝国首都ー

 

 既に日が暮れ昼間の賑わいが嘘のように街の中には静けさが漂う、そこで一人の人影が歩いていく、大きさは比較的小柄で女性だろう、その黒髪黒目の外見、アルトリアが操作するオートマタである。

 

 そしてそのまま路地裏に入る、ただ入る訳では無い背後をつけている連中をしっかりと引っ張り入れ、ゆっくり歩いて追いつかせる。

 

「何か用か?」

 

 付いてくる三人に向かって問う

 

「アンタ、こんな夜に不用心だぜ。狙って下さいって言ってるようなもんだ」

 

 三人ともナイフをちらつかせながら近づいてくる

 

「悪く思わないでくれ、アンタはたまたま不運だった。そういう事だ」

 

 アルトリアも呟く

 

「ああ、確かに不運だな」

 

「何だ潔いな、まぁこっちとしては助かrゴハッ

 

 アルトリアは一瞬で距離を詰め片手で首を絞め上げる

 

「ぐがっががぎぃっはぁっかっ」

 

 首を絞められた一人は必死に手を解こうとするが外れず、慌てて残りの二人か助けようとアルトリアに襲い掛かる。

 

「くそっこいつっ」

 

 振り下ろしたナイフを持つ手の手首を受け止め、そのまま親指に力を入れ手首を折る。

 

『ゴキッ』

 

「ぐあああぁぁぁっ」

 

 手首を抑えてふらついてる男の顔面を掴み壁に叩きつける。

 

「ガッ」

 

 そのまま壁に血の跡を引きずりながら身体が崩れ倒れ込む、と同時に首を絞めて動かなくなった男も地面に落とす。

 

「ひっやめっ」

 

 残った男が悲鳴を上げ後ずさる、勿論逃がすつもりもなく間合いを詰める。

 

「こっ殺さないでくれっ、まっ待って、頼むっ」

 

「死にたくなければ私の質問に答えろ」

 

「わっ分かった、なっなん、なんでも、言うからっ」

 

 こうして今日も情報を得る、何故わざわざこんな時間に出歩いているのかというと情報収入の為である。夜中街を見回りたまに馬鹿が引っかかる。引っかかった馬鹿から情報を強制的に引き出す。引っかからずともそれなりの情報は得られる。これをここ数日繰り返してある程度の情報は集まっている。

 

 この帝国という国は思いの外優秀である。皇帝の影響も大きいだろう、何というか実力主義のような皇帝の思想があり、それでいて国自体は平民にとって過ごしやすく、国として比較的高いの生活水準を保っている。王国とはいつ戦争なってもおかしくないらしい。

 

(なかなかいい国だ、皇帝の考え方も嫌いではない。アルトリアになってから、国や王のあり方に敏感になっているからな)

 

 街を見回り色々市場がある中でも奴隷市というのは新鮮だった。絶対服従の駒というのは、今の私にとっては都合がいい、購入を検討する価値はあるだろう。

 

(暫くは冒険者として動くとしよう、皇帝の訪問まで、まだ時間がありそうだしな)

 

 

 

 

 

 


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