騎士王、異世界での目覚め 〈リメイク〉   作:ドードー

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「本当に陛下が行くんですか?せめて代理で誰か立てた方がいいのでは?」

 

 馬車の中でジルクニフに対してバジウッドが進言する。

 

「くどい。そもそも帝国の行く末がかかっているかもしれんのだ、他の者に任せる事はできん」

 

「それは分かりますが」

 

「心配するな、話が通じるなら何とでもなる」

 

「…分かりました。他ならぬ陛下ですからね」

 

 納得と諦めが半々と言った返事を返すバジウッド。

 

「せめてフールーダ様を呼ばれた方が良かったのでは?」

 

 そんな話の中、ふとレイナースが言葉を挟む。

 

「研究の方が忙しいそうだ。それにいてもいなくても変わらん、例え逃げ切っても帝国が滅べば同じ事」

 

 

 

 

 

「ここが?」

 

「はい。例の洞窟です」

 

 キャメロットの最上層、洞窟の入り口前で中を窺いながらジルクニフが問う。

 

「外から見た限りでは、特段変わった様子はないな」

 

「実にその通りです。ですが中は魔境ですよ、竜の巣窟と化していますから。竜種最下のワイバーンですら、個体差というには無理があるほどの特殊ですここは」

 

「さて、手をこまねいていても仕方ない、行くぞ」

 

 

 

 

 

 

 

「陛下、来ました」

 

 バジウッドが指を指しながら叫ぶ、その方向からはワイバーンが一体飛んでくる。

 そしてそれは我々から少し離れたところに着地し、ゆっくり歩いてこちらに近づいてくる、これは外に出るためでなく明らかにこちらに用があるようだ、目の前まで近づくと慌てて騎士達が私の前に出ようとするか手で制す。

 ワイバーンは私の目の前で止まり何かを待っている、いや待っているのは私の反応だろう。

 

「私はバハルス帝国皇帝ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスである。この竜達の主である者と対話を望みたい、案内して貰えないだろうか」

 

 

 

 

 

 

 ーキャメロット最下層ー

 

 いよいよ来た様だ、噂の鮮血帝とやらが。見た目は如何にも貴族と言った風貌の青年。若い、優秀と聞いていたので、ある程度歳を重ねた賢王と言ったイメージが有ったが、これが帝国の皇帝か。

 

(仕える部下が優秀なのか、皇帝自身が天才と言われる部類なのかは不明だが、まずは会ってからだ)

 

 

 

 

 

 ーキャメロット最上層入り口ー

 

 ジルクニフの言葉を聞いたようにワイバーンが二、三歩下がり踵を返す、するとワイバーンの少し前に魔法陣が浮かび上がる。ワイバーンはゆっくりと歩くと魔法陣に乗り、魔法陣が一瞬輝きを増したかと思うとワイバーンの姿は消えていた。

 

「恐らく、転移魔法だと思われます」

 

 レイナースが答える。

 

「なるほど、歓迎して貰えるらしいな。ならば行くしかあるまい」

 

「竜の口の中に入る気分です」

 

「何だ?行きたくないなら馬車の番でもいいぞ?」

 

「いえっ、俺は陛下について行きますよ。お守り出来るかは怪しいですが」

 

「相手が相手だ、そこまでは求めん。さて余り無駄話するわけにはいくまい、行くとしよう」

 

 そう言うジルクニフ自身も、無駄話に耳を傾けるほど進むのを躊躇している。歩を進める言葉は、自身に言い聞かせる言葉なのかもしれない。

 

 ジルクニフが先頭に立ち四騎士の二人と騎士と魔法使い数人が後に続く、そして魔法陣に乗り数秒後にはそこに居た全員が消える。

 

 

 

 

 

 

 

 ーキャメロット最下層ー

 

 ジルクニフ一行は最下層の入り口付近に転移される。

 そこに映し出されるのは広大な湖、そしてそこから突き出た立方体の結晶が連なる大きな一本道、そして道の先にある巨大な城。

 その幻想的な光景はまさに絶景である。

 

「「「…っ……」」」

 

 誰しも息をのむ、この光景は果たして人類で作り出せるのか?無理だろう、だがここにある、広大でありながら幻想と神秘が混ざり合い調和したこの場所、人間ではない何かが住む場所、そうそれは竜の住む秘境である。

 

 ワイバーンの群れと上位種の竜が飛び交い、湖には大型の水竜、そして城の前には最上位と思われる一際巨大な竜が陣取っている。

 

(何だここは、私住む世界と同じだとはとても思えない、人間にはなんとも残酷な光景だ、幻想的で神秘的だが人間という異物を許さない空間。

 知恵を得て、国を創り、地上を我が物顔で支配した人間が、忘れかけていた竜への畏怖がここにある)

 

「…っ、ふぅ、惚けるのはここまで、行くぞ」

 

 不思議と震えはない。力の隔たりの大きさ、竜という絶対者の前では恐怖心が機能していない。恐怖とはそもそも生命の危機回避能力の一つで、それが機能しないのはある意味通りかもしれない。

 

(危機回避は不可能だからな)

 

 歩き出すジルクニフの言葉に、我に返った騎士達は慌てて後を追う。

 

「人間の強さの指標なんて、なんの役にも立たないのかもしれませんね」

 

 結晶の道を歩きながらバジウッドはジルクニフに話しかける。

 

「随分と弱気だな、お前らしくない」

 

「ははっ、確かに、こんな気分は初めてです。いかに自分が世界の中心を人間で見ていたかを痛感しますね」

 

「それは同意せざる得んな。どうしたレイナース、逃げても罪とは言わんぞ」

 

「逃げられるならとっくに逃げてます」

 

 険しい顔をしたレイナースに気づき、つついてみるがまだ冗談を言えるほどは精神を保っている。

 

 

 結局喋る事もなくなり無言で道を歩く、それは喋るために口を動かすより、この景色を目に焼き付ける為かもしれない。少しでも交渉の役に立つ情報を集めようとするが、こちらと相手の格差が開くのみ。そのまま進み城の前まで来ると重厚な重みを持つ門が開く。

 

「いよいよだ、行くぞ」

 

 城に入ると中もとても豪華である、豪華でありながらどこか気品を感じる作りであり外の景色に勝るとも劣らない美しさがある。

 まるで芸術品であるかのような城内を歩いていくと、行く先でいくつかある扉の中から一つが開き道を示す。

 

 そうして何度か扉に案内されるままに進むと一つの大きな部屋に着くその部屋には円卓が置かれている。

 その席はどれも空席であるがその一つに座っている人物がいる。

 決して幼いわけではないが大人というには若い。プラチナブロンドの髪に、病的なまでに白い肌、黒を基調としたドレスを着ている。存在自体に神聖な雰囲気があり、彼女の身体からは僅かに黄金に輝く粒子が飛び交っている。

 

 言葉で表せば美しい少女だが、勿論それだけではない。人間ではない不気味さがあり、忘れていた恐怖心が僅かに顔を出す。

 

「私のキャメロットにようこそ。私と対話を望む者よ」

 

 凛とした声で少女はたしかにそう言った、そう、この少女こそここの主なのである。

 

(運がいい。得体の知れない相手だが、姿形は人間表情も分かるのは大きい、話も通じる)

 

 失敗は出来ない、ここが正念場である。ジルクニフは気を引き締め口を開く。

 

「私はバハルス帝国皇帝ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクス。初めに望み聞き入れこの場を設けてくれたこと、感謝する。宜しければ名を聞かせてほしいのだが」

 

「私の名か?……アーサー・ペンドラゴンだ」

 

(特に聞いた事のない名だ)

 

「ではアーサーと呼んでいいだろうか、私の事はジルクニフと呼んでもらって構わない」

 

「好きにするといい」

 

 出だしは上々会話もしっかり成立する、圧倒的上位にいながらこちらにへり下ることを強要しないあたり人格にも好感が持てる。

 

(これはかなり運がいいかもしれん)

 

「ではそう呼ばせてもらおう、ところでアーサーはここの洞窟が我が帝国領にあるのはご存知かな?」

 

「ああ、知っているとも。なんだ?勝手に領内を使われては困ると言いたいのか?」

 

「いや、そうではない、確かに帝国領内に出られては、いろいろとこちらも動かなければいけなかったのは事実だが、それでも出現してしまった以上仕方のない事、無理に争う必要はないと思うんだがどうだろう?」

 

「そうだな」

 

 アルトリアの問いにジルクニフは僅かに沈黙し思考を巡らす。

 

(食いつきはあまり良くないな)

 

「争うより手を取り合った方が有意義だと考えている。アーサーも争う事は好まないのではないかな?、ワイバーンに外の人間を襲わないようにしていてくれたのだろう?」

 

「確かに、争う事自体嫌いではないが、殺戮を愉しむ趣向は持っていない」

 

「それを聞いて安心した。ならバハルス帝国皇帝として同盟を申し込む」

 

「同盟?」

 

「一応建前は。実際にはお互いの不干渉を提案したい」

 

「私にここを動くなと?」

 

 空気が震える。ゆっくりと海の底に沈められていく錯覚をする。

 

「ちがう、勘違いしないくれ。拘束したい訳ではない、ただ軍事的介入を控えて欲しい。こちらも求めない、私が開示出来る情報もある程度約束しよう」

 

「……………」

 

 感情のない彼女の瞳が、静かにこちらを眺める。

 

「君たち竜が現れてから、外の街でワイバーンの被害はない。君が何かを探しているのか、何か目的があるのかはわからないが、帝国の情報網が役に立つ筈だ」

 

 こちらを見る彼女の目に変化はない。

 

「勿論、君がこの同盟を結ぶ利は少ない。そんな事をせずとも吹けば飛ぶような存在だ。故にこれは取引ではない、私からの願いだ」

 

(金も、富も、栄誉も、人間の価値観を持たない相手に、切れる手札がない。知略で全てをねじ伏せてきた私が、最後は神頼みとは、つくづく世界は理不尽だ。)

 

「君たち竜にとって、人間など考慮に値しない存在だろう、それは理解できる。君たちの気まぐれの上に、我々人間の平穏は保たれているのかもしれない。しかし僅かにでも我々人間に興味を持ってくれているのなら、どうか聞き届けて欲しい」

 

 

 その時、

 

「…………………っ!」

 

 黙って話を聞いていた少女の顔が歪む。今まで人形のような彼女の無表情に初めて変化があった。

 

 

 

 淡々と皇帝の話を聞いていた。そんな時だ。

 

 耳鳴りと視界の歪み、例の現象だ。

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 夕日に照らされるその丘は、折れた剣、流された血、倒れた兵士で埋め尽くされていた。

 

 佇むは王一人

 

『なぜだ、なぜこの最後なんだ』

 

 問う

 

『滅びは決まっていた。なら』

 

 望む

 

『悲劇の在り方ぐらい……選ばせろ…』

 

 その言葉は静かな悲鳴にも聞こえた。

 

 頭に焼き付けられた様な光景。ただの映像では無い、そこからは大きな失望と願望。それらが頭だけでなくこの身体から湧き上がる。まさにアルトリア・ペンドラゴンという存在の記憶。私の記憶だ。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 カムランの丘の最後。絶望を抱えながらその光景を目に写すとは、どんな気持ちなのか。誰に看取られる訳でもなく死に体の身で、ただ一人味わう地獄、そんなところだろうか。

 

(王か…。ならば目の前の王は…)

 

 ジルクニフと名乗ったこの男、その目には強い意志を感じる。自分こそが帝国の皇帝であり、数多ある道から最良の道を選び、帝国を導けるという、絶対的な自信、そして信念。

 

(困難を目の前にどうする)

 

 少し聞いてみたくなった。

 

「避けるのが困難な終わりがあるとしたら、どうする?」

 

 自分でも単純だと思う。今見た記憶からこの問いが出るのは

 

「今、目の前に転がっている。それを退けるためにここにいる」

 

 至極当たり前であり、目の前の男にとっては、私の存在が終わりに繋がるのだ。

 

(……そうだな、…道理だ)

 

 男にとっては当たり前、しかしその言葉に興味と好感が持てた。

 

「そう…か」

 

(なるほど、別にこの男事を知っている訳ではないが、優秀なのだろう)

 

「……ふっ、そうか。わかった」

 

「…………」

 

 皇帝はただじっと私の言葉を待つ。

 

「同盟を結ぼう」

 

 

 

 

 ーキャメロット城ー

 

 ここはキャメロット城の一室である。

 同盟が成ったという事で改めて話を詰めるため、円卓の部屋から別の部屋に移り話を進める。せっかく円卓のがあるのだから、そこでもいいと思ったのだが、アーサーは円卓には誰も座らせる気はないとのこと、何か意味があるらしい。

 

「ではアーサ「アルトリアだ」」

 

「は?」

 

「アルトリア・ペンドラゴン、私のもう一つの名だ、こちらの方が気に入っている。まあ、呼び方は貴様の自由だ好きに呼ぶといい、同盟者」

 

(気に入った名を教える程度には認められたという事か)

 

「ではアルトリア、こちらも改めて名乗ろうバハルス帝国皇帝ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクス、気軽にジルクニフと呼んでくれて構わない」

 

「ああ、そう呼ばせてもらおう同盟者」

 

 全く呼ぶ気がないアルトリアに若干の溜息をしつつも、ジルクニフはこの状況まで持ってこれたことにとても満足している。

 

(一対一の対話ではかなりヒヤヒヤさせられたが、一度同盟を結んでしまえば、だいぶ態度が軟化したな)

 

 ひとまず帝国崩壊の未来は避けられたようだ。ようやくこれからである、帝国が未来に前進した気がした。

 

 

 

 

 

 

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