「さて、同盟者は具体的に何を望むんだ?」
椅子に座りお互いに向かい合う、ジルクニフの後ろには騎士達が控えている。こちらが態度を緩めたのもあって、先ほどの緊張した態度もほぐれ皇帝然とした雰囲気を醸し出している。これが本来の彼の姿なのだろう。
「さっき言った通り帝国への不干渉。だがここに縛り付けるのは君も納得しないだろう。私としては都市1つ君の領地として譲ってもいい」
「ほう、だから帝国に一切干渉するなということか」
「いや、武力的な侵攻や政治などへの干渉さえしなければ、領内での行動は咎めない。領内を飛んでいるワイバーンも同じだ」
「大した譲歩だな」
どちらかと言うと、私の行動を制限するのは諦めたのだろう。
「私が払える対価は少ないからな、これくらいは受け取ってくれ。私としては、君と争いごとにならなかっただけで充分な収穫だ」
「皇帝とはいえ、同盟者の一存でそこまで出来るのか」
「少し前であれば、ここまで自由には動けなかったが、あらかた腐った血は抜いたからな」
腐った血、おそらくジルクニフが不要と判断した貴族達の事だろう。
「確か、鮮血帝だったか」
「なんだ、知っていたのか」
素直に驚いた表情を見せる。
「既に帝国国内は見せてもらった、国民からは中々支持を得ているらしいな」
「平民にとっても、無能な貴族は困った存在というわけだ。君から見た帝国はどうだったかな」
国のことがどうだと言われても、本来の私であれば、別段思う事はなかっただろう。しかしこの身体になってから見せられてきた記憶を思うと、少なからず考えさせられる。
「…そうだな、豊かな国だ。地が良く肥えている」
現実世界の自分のいた国ではなく、不思議とブリテン島の彼女が治めた国と比べてしまう。
「豊かさで言えば隣のリ・エスティーゼ王国方がそうなんだが」
「飢える民がいないというのは、充分豊かと言っていい」
「…そうかもしれないな」
含みのある私の答えに、何か感じたのかジルクニフは短く答えた。
しばらく沈黙したのち
「…君はここの竜達の王なんだろう?」
何かを遠回しに聞くような、掴み所のない質問。
「ああ、そうだな」
「竜も飢えて死ぬのか?」
先ほどの、飢える民という言葉をそうとったのだろう。
「なるほど、言いたいことは分かった。竜は飢えない、無尽蔵の魔力があり、周りからも魔力を取り込める。世界の魔力が枯渇しない限り飢えはない」
ジルクニフは黙って聞いている。
「そうだな、正確には違うんだが、人の国を治めていた事がある」
「なっ!いったい…」
何処かの国の元王族とでも思ったのだろう。
「もう無い。その国はもう無い、この大陸ではない何処か、もう探すこともできないところだ」
当然この世界には影も形もない国だ。存在した過去さえない、当たり前だ、別世界の造作の中の国だ。
「そんなに古いのか?」
「さてな、どれほど昔かはもう分からん。ただ覚えてる限りでは飢えていた。土地は痩せ国は飢えた、戦は勝利を重ねたが得るものはなく飢餓が加速した。そして最後は内から崩壊した」
「……………」
「私を含め、円卓の騎士と呼ばれた優秀な騎士達が支えてくれたが、国の滅びは止まらなかった。決まっていた結末とはいえ抗い続けたが、それを嘲笑うかのような最後だったな」
私ではない、それは
「少々喋りすぎたな、同盟者に無縁な話だ」
「そうだな…この地は豊かだ。そんな心配はした事がなかったが心に留めておこう」
ジルクニフはそんな建前を喋りながらも、同情とも哀れみにも似た、私を測るような目で見てくる。
「昔話はここまでにして話を戻そう、いろいろ融通してくれるそうだが、私としては情報の方が欲しいところだ。ただ要求としてはもう1つ、私の存在はこの場にいる者だけの知るところとする。これに関しては今のところはというかたちだ。ワイバーンはともかく、この洞窟内に城や竜、私がいることを口外することは許さない」
「この場の者だけか?」
「そうだ」
「…わかった」
まだ、外の世界のプレイヤー情報が分からない以上、私の情報が流れるのは防いでおきたい。私がアバターの影響を大きく受けているという事は、他のプレイヤーもその可能性が高い。人間のアバターであればそれほどだろうが、人外のアバターを使っていた場合、性格や考え方の傾向も、人外寄りに変異するのは大いにありそうだ。
「さて同盟者、いつまでもここに居るわけにもいくまい」
「そうだな、そろそろ帝都に戻らなければならないしな」
「今はとりあえず各国の情勢が知りたい。私を知る人間が増えるが仕方ない、後で人を送れ」
「それには及ばない、このレイナース・ロックブルズを置いていく、…レイナース、アルトリアへの情報提供を任せる」
「……了解しました」
「そういうことだ聞きたい事はレイナースに聞いてくれ」
「私としては別にいいが大丈夫なのか?、大事な護衛だろう?」
「それについては多少は痛いが、それよりもこのことを知る人間を増やさずに済む、君としてもその方がいいだろう。ではそろそろ帰らせてもらう、地上まで転移を頼む」
「ああ、上まで送ってやる」
ジルクニフを地上に送りひと段落したした後にレイナースに向き直る。
「改めて名乗ろう、アルトリア・ペンドラゴンだ好きに呼ぶといい、貴様のことはレイナースと呼べばいいのか?」
「はい、それで構いませんアルトリア様」
「では付いて来い、貴様の部屋に案内してやる」
アルトリアは歩き出しレイナースがそれに従い付いて行く、そして歩きながらアルトリアが説明する。
「しばらくここに滞在するらしいが、基本的に貴様の世話はオートマタがする。人形のマジックアイテムだ、食事などの必要なものは持って行かせるし、ある程度の必要なものは元々部屋にもあるはずだ。
もし他に足らないものがあったら、人形に言いつければ用意するだろう。城内は基本的に何処でも出歩いていいが、円卓のある部屋には入るな、それと城外にでるのはあまり勧めん。
情報については明日からゆっくり聞くとする、取り敢えず今日は休め」
「わかりました、ありがとうございます」
部屋に着き明日の予定を軽く話し、立ち去ろうとするがレイナースに呼び止められる。
「お待ちください」
「ん?、何か用か?」
アルトリアは振り返って答える、レイナースは少し迷っていたようだが意を決して話し始めた。
「…実はお願いがあるのですが」
「同盟者からか?」
「いえ私個人のお願いです」
「言ってみろ」
そう言うとレイナースはおもむろに顔にかかっていた前髪を持ち上げる。
「…………」
隠れた右半分の顔は醜く、痣や火傷とも違う。どちらかと言えば病気のような痕があった、元の顔が整っているだけに余計にその醜くさが際立つ。
「……その顔は?」
「呪いです、モンスターを倒したときに受けました。死の目前にモンスターが私の顔に呪いを放ったのです」
「…なるほど、死に際の呪いか。厄介だな」
「はい、帝国最高の魔法使いでも、この呪いを解くことは出来ませんでした。……なので…アルトリア様ならこの呪いを解く手段をお持ちではないかと」
「同盟者はこのことを知っているのか?」
「元々この呪いを解くために四騎士になりました。
陛下とは自分の身を優先していいという条件で仕えています。」
(その条件で騎士にするとは、優秀であれば問題ない同盟者らしい考え方だ。
さてどうする、治してやってもいいがどこまでのアイテムを使うかによるな。いや、だがここで助けておくのは大きいか?こんな条件で皇帝と取引するぐらいだ、この娘にとっては重要な事なのだろう。助ければ恩は大きい、場合によっては同盟者にも恩を売れそうだ)
「そうか、まあ解けるかどうかは分からんが、試してやろう」
「あっありがとうございますっ」
「まだ解けると決まったわけではないがな」
アルトリアはそう言いながら虚空に手を伸ばす。手首まで虚空に消え、再び現れる時には手に小瓶が握られている。それをレイナースに差し出す。
「使ってみろ」
その差し出された小瓶を受け取る、それは細部まで装飾された小瓶で中には青い液体が入っていた、おそらく何かのポーションなのだろうが、それが何なのかレイナースには分からなかった。
(おそらくポーションなんでしょうが、何のポーションかは分からないですね、それに容器だけで価値がありそうです)
「はい、では使わせていただきます。」
そう言ってレイナースはポーションを顔にかける、その後しばらく待つが顔に変化はない。
(状態異常を治すポーションだったんだが、効果はないなもう一つランクの高いものを出すか)
「駄目か、次だな」
そうやって段々効果の高いものを使っていくが、一向に結果は出ない。
(呪いの付与状態と認識されてない可能性がある。呪いが継続してかかっているのではなく、すでにかけ終わっているから意味が無いのか?、これでは仕方がないな諦めるか)
そう思ったとき一つの可能性が頭をよぎる。
(……使うか?アレを…)
少し迷い考える、ふとレイナースを見ると失望したような顔だ、その失望は私にではなくその可能性にだろう。
僅かに開いたと思った道が再び閉じたのだ、今度こそ、今度なら、そんな思いがあったのだろう。
(この世界での仕様が分からないからな、一度使っておくのも手か。まるで人体実験だが、こちらも払う対価は相応だ、あとは)
「1つ聞いておきたい。その顔を治すのにどこまで対価を払える?どこまでリスクを負える?」
突然の質問に驚くが、顔を治す可能性が潰えていないという事が分かったのか、少し興奮気味に答える
「この顔のためにあらゆる方法を探しました。僅かな可能性を探し、そのために時間を費やしてきました。治ると言うのであれば相応のリスクは負います、その対価も払います、その覚悟はあります」
その言葉を了承ととる。
「いいだろう、試してやる」
一つの箱を取り出す、その箱は片手に乗るほどの大きさで、真紅のような赤に金の装飾がされている。その蓋を開けると、そこには銀の指輪が二つ丁寧に収められている。
ユグドラシルでもトップレアクラスのアイテムである。
また課金アイテムでありこれを手に入れようとすると半端な額では全然足らない、自分は偶々運が良く手に入れることが出来たがそんなことは普通起きない、それでも結局サービス終了まで残ってしまったならここで使ってしまおう。
指輪を一つ取り出し指にはめる。
「星よ我は願う、我が願望を実現にせよ」
指輪が輝きその光に吸い寄せられるように風が吹く、
アルトリアを中心に僅かな風が取り巻き、その風がレイナースへと流れる。
風は数秒でやみ元の状態にもどる、レイナースの顔を確認するが髪に隠れ、こちらからは変化がないように見える。
顔に違和感を感じたのか、いや違和感が無くなったのを不思議に思ったと言った方が正しい。
レイナースは右手を顔に添える、掌を確かめるが膿は付いていない慌ててまた右頬を撫でる。
「ない……膿が傷が、消えてる……」
言葉自体は弱々しいがその瞳には明らかな歓喜で染められている。
「あっ…ありがとうございますっ、私の願いを聞いて下さりありがとうございます」
慌てて跪き感謝の言葉を繰り返す。
「よい、ならばこちらでの仕事もその分の誠意を見せよ」
「はいっ私の出来る限りのことをさせていただきます」
「ではな」
そう言ってレイナースの部屋から離れる。
ーキャメロット城内ー
キャメロット城内を歩くアルトリア、先程レイナースと別れ円卓の部屋へと向かっている。
「フフッ」
思わず口から笑いが漏れる。
(シューティングスター、まさかこれ程の力を持っているとは、願ってみるものだ。まるで願望器だな、いい意味で予想を裏切ってくれる、これなら一から作れたかもしない)
「同盟者に頼まなければいけないことが増えた、だがどちらにしろレイナースの話を聞いてからか」
一方与えられた部屋にいるレイナースは、備え付けてあった鏡の前から中々離れられない。時々ニヤニヤしながらがら鏡に映る自分の顔を眺める、別にナルシストと言うわけではない、自分の悲願が叶い元の顔を取り戻したのだ、当然と言えば当然だろう。
もう何度目かわからないほど右頬を撫でて、治ったという事実を確かめている。
(フフッ、これが現実…中々実感がわきませんね、でも身体が熱くなり顔から違和感が薄れるあの感覚、今でも思い出せます。身体もついでに回復されたのでしょうか、随分と軽い気がします。
…それにしてもこの部屋豪華ですね)
その部屋は一人で使うには広く、ベッドに机、テーブル、椅子、姿見などなど他にもあるが、そのどれもが高級感と上品な質を持った品ばかりであり、元貴族の自分でもこれほどの物は中々見たことがない。先程運ばれて来た食事も絶品であり、陛下でも口にしたことがないのではと思う物もいくつかあった。
(いざ顔が治ったら何をするか色々考えてたはずなのに、どれもしっくりこないわね、それにあの指輪一体どんなマジックアイテムだったのでしょうか?大魔法使いフールーダでも治せなかった傷を治すなんて、まあフールーダ様は元々治癒魔法だ得意ではありませんでしたが。
アルトリア様も感情の起伏が感じにくいだけで会話自体は普通に出来ますし、そこまで価値観の相違も無さそうですね。絶対的な味方というわけではありませんが陛下と同盟を結んだ以上、敵にはならないでしょう)
初めてその姿を見た時は思わず見入った、何というか自分とは正反対だと思ったのだ、その優れた容姿は人間としても女性としても完成された美であり、その雰囲気に高潔さと神聖さを持っていて、儚げな容姿をしながら圧倒的な存在感があった。
誇りを捨て呪い解くために生きてきた過去、そして再び誇りを拾い直してもこうはなれない。そんな嫉妬のような感情だった。
帝国四騎士として、陛下に仕えてきた。騎士と言えどそれ自体に思入れがあるわけでもなく、剣はただの戦う道具、勿論それに誇りや信念など無い。目的を果たせる可能性が最も高いという理由で選んだに過ぎない。
故に憧れた、彼女こそが騎士なのだ。鎧を着ずとも、剣を携えずとも体現するその姿はまさに騎士の完成形。自分とは根本的に違う、ジルクニフとはまた別の絶対強者、個にして完成された存在。
自分が求めていた救いを、いとも容易くなして見せたその姿は既に信仰の対象に近い。悲願が達成された今、自分が役に立てる事はないのだろうか。
(しばらく滞在との事ですけど、これを機にアルトリア様に仕えることは出来ないでしょうか?明日頼んでみましょう)