ーキャメロット城内ー
ジルクニフが来た次の日、一室にてレイナースによる情報提供が行われていた。
「以上が特に帝国近辺に出るモンスターの強さです。勿論例外的なものもありますが大体はこのような認識ですね」
「なるほど、ワイバーン程度でも結構な脅威というわけか」
「はいそうなります、王国と比べると帝国は冒険者も少ないですし、何よりキャメロットのワイバーンは通常種と比べても倍以上ありますから、住民にとってはさらに脅威でしょう」
「モンスターの討伐は冒険者の仕事なんだろう」
「それは国によります。リ・エスティーゼ王国なんかではほぼ冒険者が受けていますが、帝国は王国ほど冒険者がいません。なので軍を動かして討伐します。冒険者自体いない国もあるので」
「ほう、大陸共通と言うわけではないのか。まあどちらにしろワイバーンでの偵察は要らなくなるしな、……知りたい情報は大体聞けたから満足だ、貴様はこれから同盟者との連絡役としてしばらく残るのだろう?」
ジルクニフには連絡が取れるようにマジックアイテムを渡してありもう片方をレイナースに持たせてある。
ジルクニフからレイナースに、と言うよりはレイナースがジルクニフと連絡を取るためというのがほとんどだろう、主にキャメロットについての報告を行うためである。
「それと私から一つよろしいでしょうか?」
「ん?なんだ?」
相変わらずアルトリアの瞳は感情を映さない、レイナースは若干戸惑いながらも口を開く。
「…この顔の呪いを解くことは私の悲願でした。呪いを受けてから私はその事に固執して、昨日言ったように帝国の四騎士になったのもその為です。呪いが解けたら何をしたいかを日記に付けるのが習慣でしたが、解けた今どうもそれらをやりたいとは思いません。今は呪いを解いて下さった恩を返したいと考えてます。従者でも騎士でもなんでもいいので私を使って頂けませんか?」
一瞬空気が張り詰め僅かな沈黙が流れるがすぐに終わる
「………構わない、私の従者として歓迎しよう。私としても手間が省けた、どう引抜こうか考えていたところだ」
相変わらず感情がわからない瞳をこちらに向けているが
アルトリアは僅かに笑みを浮かべてながら答える
「…ありがとうございます。そのように思っていただけていたとは」
空気だ緩み元の雰囲気に戻る。
「ここでは人と対話できる存在は貴重だ」
「私の世話をしてくれる人形は?」
「あれは指示通りの事しか出来ない、文字通り人形だ」
「では、アルトリア様以外…」
「いない。ここで人と対話できるのは私だけだ」
「分かりました」
「それはそうと、同盟者はどうする?大事な四騎士とやらが欠けては困るだろう」
「それについてもお願いがあります。立場としてはこれまで通り四騎士として陛下に従います。勿論、優先順位はアルトリア様優先で動きますが、もう暫くは陛下の騎士としての仕事をしたいと考えてます。
陛下には少なからず恩もありますし陛下が居なければここへ来る事も無かったでしょう。
それである程度したら陛下の元を離れこちらに戻らせて頂きたいのです、それまでには陛下にその旨を伝えておきます」
レイナースとしてもジルクニフには恩を感じている。ジルクニフのおかげで、自分を裏切った者たちへの復讐も果たせている。
四騎士の中では一番忠誠心が低いとはいえ呪いが解けたから『はいさよなら』と言うほど忠誠心が無いわけではない。
「どれぐらい自由に動けるんだ?」
「ここしばらくはこちらに滞在なのでアルトリア様の指示で動けます。帝国に戻ってからは帝国内でしたらある程度の時間的な制限はありますが動けます」
「そうか…わかったそれについてはそれでいい、私としても同盟者とは溝を作りたくない、今のところそちら優先でいい、……それとまだ聞きたいことがあるのではないか?」
「はい」
レイナースは朝起きてから身体に明らかに変化があったのだ、昨日は顔の呪いが解けたことの興奮と気分の高揚で気付きにくかったのだが一度興奮が冷めると身体から僅かに漏れ出す魔力に気づいた、意識して出すとそれまで感じたことのないような膨大な魔力が巡り放出される。
これほどの魔力は扱ったことは当然なく、その原因は顔の呪いを解いた時しか思い当たらない。
「明らかに魔力の質と量が変わっています。魔力の付与もしてくれたのでしょうか?」
「いや違う、そもそも顔の呪いも治癒したのとは少し違う」
「治癒とは違うのですか?」
「例えるなら魔力で呪いを塗りつぶしたような感じだ、貴様の身体に竜の因子を埋め込んだ」
「竜の因子ですか?」
「竜の性質その起源のようなものだ、どういう状態になったかと簡単に言えば竜の力を振るう事が出来る、人のままでな。もっとも人間か問われると怪しいところだが、竜の属性を持つ人間というのが最も適した表現だろう、竜人というわけではない竜化は出来ないはずだ」
「竜ですか…」
レイナースは自分の掌を眺めながら呟く。
「不満か?」
「いえ不満ではないと…思います、すいませんあまりのことなので中々認識が付いてこなくて…」
「確かに仕方がないことかもしれん」
「これほどの力を与えて頂き感謝します。早くこの力を使いこなしお役に立てるように頑張ります」
「しばらくは身体に慣れるのが先決だな、城の地下に訓練として使える広場がある自由に使うといい」
「ありがとうございます、では私はこれで」
「ああ」
そう言ってレイナースが退室し部屋の中はアルトリア一人となる。
時間がかからずにレイナースが手に入ったのは予想外だが、手に入ったのは予定どうり。人型のNPCがいないキャメロットでは、中々に貴重な存在だ。まあシューティングスターの再現性の高さが予想外であり、もう少し劣化した再現度かと思っていた。
これほどの性能なら既存のNPC強化に使えば、ゲーム時代とは隔絶した力を持つNPCに出来るかもしれない。
「願望器もそうだが、令呪みたいな使い方もできそうだ。まあ令呪のような一時的な強化に使うのはどうかと思うが、選択肢が多いというのは悪くないだろう」
ひとまずシューティングスターの性能はわかったし、ある程度自由に出来る手駒も手に入ったが、それでもやはり少ない、奴隷でも買おうか?オートマタも遠隔操作出来るのは一体のみ数はあっても自動操作ではろくに会話もできない。
出来る事なら、手駒を帝国各地にはなっておくのが理想だ。勿論、送れるなら他の国にも送りたいがまだまだ先の話。
「そうだ、後でレイナースに新しく鎧と武器を渡してやらなければな。何がいいだろうか?どうせ使えるNPCがいないからな、確か魔力を喰わせて効力を発揮するやつがあった筈だな」
そう言ってアルトリアはアイテムを漁りだす。
ーキャメロット城地下ー
レイナースは現在キャメロット城地下に来ている、その広場で今の自分の力を確認するためだ。
「これだけ広いなら問題ないでしょう、とりあえずいつも使っているのから確かめていきましょう」
「火球ファイヤー・ボール」
それは最高火力と言わないまでも使い勝手が良く元々魔力の高かった自分が使えばそれなりの威力が出た、が、そこから発せられたの木を燃やす程度の舐める火ではなく、大木をなぎ倒す程の巨大な火球、その後轟音が響く。
右手から放たれた火球は明らかに大きくそれが放たれた瞬間に危険を感じ瞬時に身構えた、轟音と共に広がる熱風を無意識に纏った魔力で遮る。危機が去り一二歩下がって我にかえる。
地面自体には傷らしきものは無いものの大きな焦げ跡が付いている
「は…ははっ、ふぅ…これはいけませんね、竜の因子とやらを甘く見ていました。これ程の力早急に使いこなさなければこれからの行動に支障をきたします。アルトリア様に無様な姿を見せるわけにはいきませんし」
その後も魔法を使い威力の調整や体を動かし身体性能を調べてみるも身体の魔力は底をつかず、明らかに人間では無理な身体性能を確認し自分という存在が人間とはかけ離れていることを改めて認識した。
「あれだけ動いても息が乱れない…凄いですこの身体、…らしくないですが高みを目指してみましょうか?あの方の元でなら目指せる気がします」
ーバハルス帝国帝城ー
「ふぅ、ようやく戻ってきたって感じですね陛下、いるだけで肩が凝りそうです」
ジルクニフが豪華な椅子に腰を下ろすのを見計らってバジウッドが話しかける。
「おい、分かっているとは思うが、あそこの事は奴との契約がある。同行した者には秘密保持を徹底させろ」
「大丈夫です分かってますよ、それにしても最初と後で正反対でしたね印象が」
「確かに印象は随分変わったが、おそらく奴の本質は変わっていないぞ、変わってないというより元からと言った方が正しいかもな」
「正反対というか、表情は変わらないんですけど、人間味を感じましたね。人間のことも、ただの下等種族と見ているわけでもなさそうでしたし」
「いつの国か何処の国かは分からないが統治していたんだ、人間に興味を持っていたのかもな」
バジウッドでも分かったのだ、私も当然感じた。少なくとも奴は自国の人間を救おうとしていた。人間を奴隷のように思っていたわけでなく国民として扱っていた。
「でもあれだけの存在が統治して滅んだってのが驚きでくけど、飢えた土地ってのはそんな恐ろしいんですね。俺がチンピラだった頃だって腹を空かす事はありましたけど、飢えて死ぬって感じた事は無かったですね」
「確かにな、我が国で飢餓の対策なんかで悩んだ事はないからな」
(奴をもってして避けることの出来なかった滅び。土地が痩せるだけで、そこまでいくものなのかは分からないが、今思えば、私にされた質問は自分の体験を重ねて問われていたのかもな)
「決まっていた滅び…か」
奴の言った言葉を思い出す。果たしてどういう意味なのか、形あるものはいずれ崩れるという意味での比喩なのか、はたまた別の…
黒いドレスに身を包んだ彼女の姿を思い出す、奴は自分の意思とある一定の基準を元に行動している、合理性を欠いたとしてもその範囲であれば多少手間でも手を差し伸べる。
かつて人の国を治めていた超越的存在、決して分かり合えないという事はないだろう。絶対的な力を持ちながらも道理を通す性格のように感じた。少なくとも同盟は結べた、私が生きているうちに帝国が滅ぼされる事はないだろう。
「でも良くレイナースの奴、あそこに残りましたね。拒否しそうなものですが、まあ相手はそこそこ友好でしたが」
「ああ、レイナースとしても一か八かだったのだろう、望みと危険を天秤にかけてな」
望みですか?とバジウッド言いかけた時ノックもなしに勢いよく扉が開く
「陛下お戻りになったのですね」
失礼極まりない入室をしたのはフールーダ、帝国最高の魔法詠唱者だ。
「じいか、どうしたんだ魔法の実験とやらは終わったのか?」
「はい、陛下のおかげで無事に進んでいます。陛下の方はどうでしたかな、何か面白いことはありましたか?」
「ああ、とても愉快な事があったぞ」
ジルクニフの言葉が冗談ではあるものの、何かあったのは本当だとわかる
「ほう、それは是非聞かせていただきたい」
「残念ながら、今私から言えることは何もない」
「おや、珍しくもったいぶりますな」
「それはじいが悪いのだ。実験が大事などと、一緒に来ればこんな回りくどい事も要らなかった。機が来れば話してやる、それまで待て」
「ふむ、陛下がそう言うのであれば仕方ありませんな。楽しみは後に取っておくとしましょう」