ガンダムビルドダイバーズ Behind the scenes   作:ほぼ読み専

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正真正銘の初投稿です。

この物語はフィクションであり、実在の人物、団体とは一切関係ありません。


第一章 二人は蛮族!
ハードコアディメンション・ヴァルガ


 ──何度目かもわからないほど深く息を吐く。

 

 緊張を和らげるために行う深呼吸。現実の肉体()()()()電子の世界のこの体に、その行為がいかほどの意味があるのかはわからないが、要は気持ちの問題だった。

 

 ここは電子の海に構築された仮想世界。

 

 ガンプラバトル・ネクサスオンライン。通称をGBNと呼ばれるフルダイブ型のVRMMOゲームが彼の今いる世界の名前だった。

 

 ──アバターを現実世界の肉体さながらに操作、いや憑依とでも言うべき感覚で動かし、五感の全てを使ってプレイするフルダイブ型と呼ばれる新世代のVRゲーム技術。

 ──発売から四十年以上もの歴史があるガンプラ──アニメ「機動戦士ガンダム」を筆頭に、続編や派生作品に登場するSFロボットのプラモデル。

 

 この二つを悪魔合体させた結果生まれたGBNは、今やアクティブユーザー二千万人超えの規模を誇る、VRMMOの中でも大型タイトルと言えるものだった。

 

 VRゲームにおいてロボゲーと呼ばれる、プレイヤーがロボットの操縦者となって遊ぶタイトルはいくつもある。GBNもそうした系統のひとつではあるのだが、このゲームには他にはない唯一無二の要素があった。

 プレイヤーであるダイバーが操る自機として用いるのは、()()で組み上げたガンプラ。それをログイン時に専用機器で読み込ませることで、ゲーム内にて1/1スケールで再現された己の作品を愛機として使うことができるのだ。

 さらに言えばガンプラの完成度によって機体性能が決定されるため、ゲームの腕だけではなくプラモデル作りの腕前も問われる。ガンプラファンにはたまらないシステム。

 

 従来のロボゲーとの差別化を図り、既存のガンダムファンだけでなく、ゲームにはあまり関心を持たなかったガンプラファンまでも取り込んだGBNは、稼働開始から順調に登録人数を増やし、その数は今も尚右肩上がりだった。

 

 

 課金によって内部インテリアを緻密に再現したコックピットに座る彼もまた、ガンダム作品のファンであり、ガンプラ好きな青年である。

 

 彼が乗るのはガンダムSEEDシリーズの中でも特に有名な機体。量産機ももちろん好きだが、やはり愛機とするからには、主人公が乗った機体がいい。

 

 今の自分に出来る限りを突き詰めて完成させた、彼にとっては自信作と言えるガンプラだが、慣れ親しんだ機体の中にいるというのに妙に落ち着かない。

 

 つい無意識に滲んだ手汗を拭うようにしてズボンへこすりつける。

 

 現実とは異なり汗でズボンが湿ることこそないが、何度拭っても掌がべたついているように感じるのは、感覚フィードバックが優秀すぎる弊害か。

 緊張しすぎている自覚はある。だが、これから行こうとしている場所を思えば仕方のないことでもあるな、と彼は口元を歪める。

 

 ──ハードコアディメンション・ヴァルガ

 

 これから向かう先はいわゆる「上級者」向けの高難易度エリア。名前に「ハードコア」と付くことからわかるように、GBNでもことさら厳しい環境の場所だった。

 

 まず、このエリアにおいて最も目を引くのが、PK、プレイヤーキルというネットゲームでは基本的にNGとされる行為が禁止されていないことだ。

 厳密に言えば、通常のエリアでは双方の合意がなければ成立しないフリーバトル(PvP)が、ヴァルガに限ってはエリア全体が広大なフリーバトルエリアという扱いになっているため、ここへと転送された瞬間から対人戦が始まる。狙ってか流れ弾かの違いこそあれ、インしたその時から自機めがけて砲火が飛んでくる危険地帯なのだ。

 

 曰く、そこは戦闘狂のラスト・リゾート。

 

 待ち伏せ、不意打ち、漁夫の利狙いの奇襲は当たり前。

 

 エリアインしてから三分生き残ることがスタートラインとされ、そこから先はさらなる地獄が待ち受ける。

 

 ここでは弱者に人権はない。

 

 狩られるのが嫌ならば狩る立場になるしか道はなく、曰く、そこは──現代に現れた世紀末。

 

 だが、厳しい環境であるからこそ、ここで生き残った経験は確実に自分の糧となるだろう。

 

「よし、行くぞ! 大丈夫、大丈夫だ。俺は出来る奴だ。出来る出来るやれば出来る!」

 

 語彙が怪しい鼓舞で暗示をするように言い聞かせ、勢いのままに格納庫からの転送先にヴァルガを選択、迷うことなく出撃を決定して、

 

「いきまーす!」

 

 自分の乗った愛機が発進シークエンスを再現する演出によって勢いよく射出され光のゲートを潜る。

 

 原作を再現した、しかし身体に影響の出ない程度の負荷(G)がかかるのを堪えていると、眼下には完全に荒廃した都市の残骸が広がる。

 

「ここが……」

 

 ハードコアディメンション・ヴァルガ。

 

 ここはその中でも北部廃墟都市地帯とされる遮蔽物が多い都市エリアで、身を隠す場所が多いということは、それだけ待ち伏せをする伏兵が多い危険な所ということにもなる。

 

 事前に得ていた情報でそれを熟知していた彼は注意深く全方位──それは空中にいる自機の真下も含めてだ──に警戒をしながら、エリア移動の際に施された無敵時間が切れる前に降り立つ場所を選定すべく、せわしなくモニターに視線を走らせ──

 

 

 

 

 

「──えっ、ちょ、な、なんの光ィーっ!?」

 

 そんな警戒関係ないねと言わんばかりの超広範囲を焼き尽くす、熱波を伴った極光に包まれて絶叫を上げた。

 

 

 

 

 

§

 

 

 

 

 

 哀れヴァルガ初心者の彼が破滅的な極光に包まれていたその時。

 

 MSが引き起こすにはあまりにもバカげた破壊規模の光を望遠モードにしたカメラアイが捕らえていた。

 

 人と同じ四肢を持つ体躯の上に接続されているのは、見慣れない者からすれば異形にも見える単眼の頭部。その一つ目が忙しなく動いては、遠方で立ち上る巨大なキノコ雲を捉える。

 

 ヴァルガでは日常となっている「突然降り注ぐ大規模破壊兵器」が巻き起こす余波から身を護るようにして、倒壊したビルの瓦礫に身を寄せ、同時に周囲の警戒も怠ることなく佇むのは、深紅に塗られた肩が目を引く一体のガンプラだった。

 

 全体的にはややずんぐりしたようなシルエット。特に後付けされた脚部スラスターの外装に装備された逆三角形型のミサイルポッドと、両肩に施された赤いカラーリングが特徴のそれ。()()とは異なって手にしているのは二丁のビームカービン銃ではあるが、一見すれば大幅な改造がされていないために、元となったキットを知っている人間が見ればすぐにわかる。

 ガンダムにおける宇宙世紀シリーズ、その外伝作品のひとつに登場するライバル機、「イフリート改」のカスタムガンプラだった。

 

「今日もヴァルガに核が降る~っと。うわ……丁度インしたヤツが巻き込まれた。ツイてないねぇ」

 

 どこか他人事──実際に他人が引き起こした事であるのだが──のように、暢気な口調でイフリート改のコックピットからモニターが映す惨状を眺めるのは一人の女性型プレイヤー(ダイバー)

 

 言葉に反してその瞳がどこか遠い目をしているのは、かつて彼女も似たような経験をしたことがあるからだ。

 

 エリアインした瞬間、ちょうど誰かが放った大規模破壊兵器に巻き込まれる。ヴァルガでは稀にでもなくよくある事だ。

 

 その女性ダイバーはといえば、己が駆る機体の肩と同じく、目立つ深紅色をした髪と褐色の肌。腰まで伸ばされた髪は所々が外ハネしているという、なんとも人目を引く髪が特徴の姿をしていた。

 紅の髪に縁どられた顔は美形と言えるが、それよりも鋭い眼光をたたえた三白眼が強く主張しているせいで、どちらかといえば迫力を感じる相貌。

 女性としては高い身長にスレンダーな体躯は、金色の瞳もあってしなやかな肉食獣のような印象を受ける。

 

 ダイバーネームを「レイ」と言うそのダイバーは、爆心地に発生した巨大なキノコ雲が収まりつつあるのを確認すると、両足のスラスターを点火して瓦礫の影から躍り出る。

 すると、地面を滑るように移動する彼女の機体に倣うかのように、どこからともなく次々とガンプラたちがパラパラと──お互いの奇襲を警戒しながら──集まり、意図せずにそこそこの集団となって同じ方角へと向かう流れが形成される。

 

「おーおー、ハイエナどもが集まってくらぁ。さーて、養分の皆さんは元気に残ってくれてるかなーっと」

 

 やたらトゲトゲした外装を持つ者や、下半身が戦車のようになっている者、バイクのような乗り物に跨る者。時折ちらちらと風景の一部が歪むのは、隠形機能を装備した狙撃仕様の機体だろうか。

 その外見は様々であるが、いずれも目的はただひとつ。あの攻撃を受けても運良く撃墜を免れた、半死半生の獲物どもをおいしくいただくためだ。

 

 いわゆるハイエナ行為と呼ばれる、他のプレイヤーが討ち漏らした標的(ターゲット)を横から掻っ攫うという、あまりお行儀の良くない行為だが、ヴァルガ(ここ)ではそれすらも立派な戦略のひとつだ。

 

 ここでは狩られる(弱い)ほうが悪いのである。求められるのはハイエナを逆撃して叩き潰す強さ。()()()()狙いの輩に狩られるような弱い者に居場所はなく、真の強者(頭チンパン)のみが生き残ることが許される。

 

 これもまた殺伐としたヴァルガではよく見られる光景であった。

 

 

 

 

 

§

 

 

 

 

 

「くそっ、いったい、なんだっていうんだ……ッ!」

 

 赤一色に染まったコンソールに表示される結果は散々なものだった。

 

 とっさにシールドを構えた左腕は盾ごと肘から先が完全に蒸発して喪失(ロスト)。右腕が辛うじて動くものの、手にしていた武器は銃身が溶け落ちた上に、グリップがマニピュレーターと溶接されてしまい左とは別の意味で使い物にならない。

 

 脚部は改造で取り付けていた外装パーツによって守られたおかげか、どちらも無事ではあるのだが、スラスターを内蔵していた外装パーツは内部から爆発してしまい、慌ててたった今手動操作でパージした。

 

 爆心地から距離があったのと、最初の数十秒はエリア移動の際に付与される無敵判定によって無効化されていたことが幸いしてか、他の爆発四散したガンプラと比較すれば彼の機体が原型を保ち今なお健在であることは確かに幸運であった。

 

 ただし──

 

「確かにヴァルガじゃあエリアインした所を狙うやつがいるって聞いていたけど、それにしたって()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()とか頭おかしいだろッ……!」

 

 まともな継戦能力の無い満身創痍といえる状態で、このエリアに取り残されることが果たして幸運だったのかは大いに首を傾げるところではあるが。

 

 覚悟を決めてヴァルガ行きを断行した彼が乗っているのは、「機動戦士ガンダムSEED Destiny」に登場するストライク・フリーダムをベースにカスタムしたガンプラだった。

 豊富な武装を持つ頼れる相棒だったのだが今や丸腰同然。左右腰部にある二門のレールガンと、ドラグーン(遠隔操作)システムを搭載したバックパックは形こそ残っているが、レールガンは熱で砲身が歪み、ドラグーンは肝心の砲塔(子機)部分が熱波に呑まれた際に融解してしまっている。

 

 深刻なダメージを受けた機体は自慢のVPS装甲もダウン寸前で、今ならば豆鉄砲でも致命傷となるだろう。

 

 GBNを始めたばかりの時にお世話になったランカーに憧れて、彼と同じ機体を愛機に選んでここまで駆け上がってきた。

 

 何度もミッションやPvPを熟して、その過程から自分の戦い方に合うようにカスタマイズや武装を施し、欲しいパーツデータのためにミッションを周回して、プラグインも厳選してつぎ込んできた。

 

 しかしその相棒もこうなってしまってはどうしようもない。

 

 奇跡的に生き残ったスラスターを頼りなく吹かしてゆっくりと地上へ降りてゆく彼のガンプラ。しかしここでそのような無防備な姿をさらしていればどうなるか──

 

 答えはノイズの走る正面モニターに映る、ジャイアントバズを構えたザクⅠ(敵機)が教えてくれている。

 

「──くそっ……ここまで、なのかよ……」

 

 こちらに抵抗する術が無いことを理解しているのか、まるで嬲るようにことさらゆっくりと照準を合わせて動く砲口を歯を食いしばって睨みつける。だが、現実は無情であり、彼には目の前の敵をどうすることもできない。

 

 

 そう、()()()どうすることもできないのだ。

 

 

 敵機の背後、頭部カメラからは死角になる斜め下の方向から飛来したパルス状のメガ粒子が、彼と相対していた敵機のコックピットを撃ち抜く。

 

 目の前の無様な獲物に夢中になっていたのか、後方への注意が疎かだったその機体は、哀れ内側から膨張するようにして爆発を起こすとポリゴンの欠片となって崩れてゆく。

 

 ──獲物を前に舌なめずり……三流のすることだな。

 

 無様に散ってゆく敵機を見て、少年軍曹の言葉が蘇る。そう、ここはハードコアディメンション・ヴァルガ。狩る者が一瞬の油断で狩られる者へと逆転する、戦闘狂のラスト・リゾート。

 

 辛うじて動く頭部を射線の来た下方向に向けて見れば、そこにはカービン銃のようなショートバレルライフルを二丁持ちしているイフリート改と思われるガンプラがいた。

 ぱっと見る限りでは腕部に小型の盾を装備していることと、バックパックにウェポンラックを兼ねたスラスターとおぼしき長方形の箱型の装備を二基追加している他は、元のキットそのままのように感じるが、ヴァルガ(こんな所)にいるような手合いが普通なはずもない。

 

 だが、こちらへの攻撃を警戒し、じっと見据える彼の意に反して、件のガンプラは脚部のスラスターによって滑るように地面を移動しながら、彼の方向に一瞬だけ視線をやるように首を振ると、興味を失ったかのように速度を上げて彼方へと遠ざかる。

 

「……助かった、のか……?」

 

 丸腰のこちらを視認しただろうに追撃らしきものがないことで、彼は信じられないような気持ちを持ちつつも安堵したように力を抜いたが、その時──

 

「へ……?」

 

 イフリート改の去った方角から放たれたグレネード弾が見事にコックピットへ着弾して爆発。撃墜判定を受けた彼は間抜けな声とともに格納庫エリアへと戻されていた。

 

 ──そう。ここはハードコアディメンション・ヴァルガ。

 

 丸腰の満身創痍になった者(おいしいポイントになるカモ)が見逃されるはずがないのである。

 

 こうして彼の初めてのヴァルガは惨憺(さんたん)たる結果に終わった。

 

 

 

 

「……ヴァルガ、こえぇ……」

 

 中級のミッションもそれなりに熟して得られた自信を木っ端みじんに砕かれた彼は、しばらくの間コックピットの中で凹んでからログアウトした。




Tips
・脱初心者を目指したとあるモブダイバー
 エンジョイ勢。
 半年ほどGBNをプレイしてみて自信を持てたため、ヴァルガチャレンジを試みるも、開幕で核の光とヴァルガの流儀による洗礼を受け、まさに不運(ハードラック)(ダンス)っちまったような結果になって、ちょっと心が折れかけた。
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