ガンダムビルドダイバーズ Behind the scenes   作:ほぼ読み専

14 / 55
「無印ダイバーズの裏側で幸せなデートを楽しむヒロト君がいてもいい。二次創作(自由)とはそういうものだ」なので初投稿です。


VRのホラーゲームは本気(マジ)で怖い。洒落にならない

 誤解のないように言っておくが、レイはホラー全般が苦手なタイプではない。

 

「無理無理無理無理! ぎゃー! いやああああ! セナ助けてぇえええ!」

「レイしっかり応戦して! ほら向こうからも来てる!」

 

 映画だって驚きはするが普通に見られるし、ホラー小説や漫画も平気で、有名なネットロア(都市伝説)だって一通り知っている。

 世に溢れるエンターテインメントとしてのホラーコンテンツは全てが生きている人間の作り出したフィクションであり、それらに登場する幽霊やゾンビといった存在は現実には存在しないものである。さすがに高校生にもなればそれくらいの分別はつく。

 

「イヴ、そっちは任せていいか!?」

「う、うんっ! 頑張る!」

 

 ただホラーゲームだけはダメだった。

 

 映画も小説も画面や紙面の向こうの出来事で、自分以外の人物が当事者で、その主人公が自律的に行動する様を眺めるだけだから冷静でいられるのだ。

 要するに「怪談やホラー映画は平気だけど、お化け屋敷がダメ」彼女はそういうタイプだった。

 

「あっあっ、うそっ、た、たっ、弾が尽きた! ねえ、セナ、どうしよう!?」

「落ち着いて近くを探して! 倒した敵からランダムで出るはずだから!」

 

 現代ではあまり見かけなくなった、モニター画面の前でプレイするタイプのものですらパニックになってまともに遊べたことがなく、いわんやフルダイブ型VRにいたっては、レイの恐怖心は限界を突破し、涙目を通り越して完全に泣きがはいっている。

 

「怖いグロい怖いグロい怖いグロい! もうやだぁー! かえるぅー!」

 

 入口からさほど進んでもいない序盤も序盤の広間から、恥も外聞もなくガチ泣きするレイの悲鳴が響く。

 

 

 ──ネオエジプト・オブ・ザ・デッド

 

 ベアッガイランドのエリア内に存在する浮島の一つ、巨大ピラミッドエリアの中で開催されているアトラクションの一種で、参加者のダイバーは銃を片手にミイラや怨霊が蠢く不気味な巨大ピラミッドを探索する、ライブRPGと呼ばれるタイプのゲームだった。

 

 

 

 

 

§

 

 

 

 

 

「ぐすっ……ふぐっ……」

「おお、よしよし。怖かったねー」

 

 テーブルに突っ伏してぐずるレイの頭を、隣に座ったセナが優しく撫でて慰める。彼女たちが今いるのは、ランド内の中央島にあるフードコートの一角だった。

 ガンプラバトルでは息をするように出来る残弾の把握もままならず、あっけなく敵にやられてしまったレイは伏せた腕の間から恨みがましくセナを見る。

 

「……だから無理だって言ったじゃない。なのにセナが無理やり……」

「ごめんってば。レイがあんなにホラゲーがダメだったなんて知らなかったから……」

「ふんっ……もういいよ……」

 

 顔を上げてセナをジト目で睨むレイだったが、()()()になった口元と真っ赤になった目のせいか、どこか子供っぽさが強くいつもより迫力がない。

 

 VRで再現されたおどろおどろしい敵(ミイラや怨霊)が襲ってくるのは確かに恐怖心を煽ったが、攻撃判定に痛覚はなく当たってもわずかに押されたように感じる程度。序盤だったせいか作り込まれた外見以外はさほど脅威を感じるギミックもなかった(素早くもないし強くもない)ので、他のVRホラーゲームで慣れていたセナはほぼ純粋なシューティングゲームとして結構楽しめていた。

 だが、レイの方は面白いように慌てていて、それがなんだか妙に可笑しかった。

 いつもはなにかと相棒に先導されることが多いセナは罪悪感を覚えつつも、マジ泣きした姿を見られて不貞腐れるレイを「かわいい」と思ってしまう。

 

「お詫びにこれあげるから。ほら、あーん」

 

 ベアッガイの顔を象ったパンケーキを一口大に切り分けて、付属のチョコソースを付けるとフォークに刺してレイの口元へ持っていく。 

 

「……あむ」

「おいしい?」

「……甘い」

 

 素直にぱくりと食いつく動作もどこか雛のようで可愛らしい、とセナは思う。体は自分よりも頭ひとつ分は大きいのに、なんだか今のレイはとても幼く見える。

 

「もうホラー系は行かないからレイも機嫌なおしてよー。ほらこっちの『ボールたこ焼き』も一口あげるから」

「……あむ」

「どう?」

「……しょっぱい」

 

 「感想が雑ー」とけらけら笑うセナと、ふくれっ面のレイの対面にはヒロトとイヴの姿もある。

 

「なんだかレイのほうが年下の子みたい」

「まあ、ああいう(ホラー)系のやつは、苦手な人は本当にダメらしいから」

 

 メンタルがだいぶやられたせいか、リアクションが少し幼児退行を起こしているレイをイヴは優しく、ヒロトは同情するように眺める。

 レイが脱落してからもセナを含めた三人で奮闘し、なんとか序盤のボスエリアまでたどり着いた彼らだったが、ボスエネミーであるファラオガンダムⅣ世(の上半身)にあえなくやられてしまいクリアは出来なかった。

 上半身だけとはいえMF(モビルファイター)相手に生身の人間が勝てるはずもなく、とすればあれはおそらくギミックボス(仕掛けで倒す敵)なのだろうが、泣きべそをかきながら速攻で離脱したレイを心配して集中力を欠いたセナと、こういったゲームに不慣れなイヴをフォローしながらのヒロトでは攻略法を見つけることができなかった。

 

「最後まで行けなかったのは残念だけど、楽しかったね。私がもうちょっと頑張れたらなあ」

「イヴはよくやってくれてたよ。結構難易度も高いゲームだったし、序盤とはいえボスまで行けたんなら上出来だ」

 

 ありがとう。とヒロトへ微笑むイヴ。するとタイミングよく彼女の元へ給仕スタッフの女性がプレートを運んできた。

 

「わ、美味しそう。いただきます」

 

 そういえば今まで彼女とこういった遊びをした事はなかったな……と、隣でちまちまロールケーキのような物体を切り分けているイヴを見ながら、ヒロトは内心で思い返す。これまでイベント事に参加するのは自分ばかりで、イヴはそんな彼を楽しそうに眺めていることばかりだった。

 

 そんなことを考えながら、ヒロトは手元のプレートに乗せられた水色のゼリーを一口食べて、対面のレイとセナに視線を向ける。もともとこの二人と偶然知り合わなければ、今日の発見もなかったのだ。そういう意味では、機体トラブルに遭った彼女たちには悪いが、この出来事に感謝したい思いだった。

 

 ──これからはイヴも参加できそうなイベントを積極的にピックアップしてみよう。そうすれば、もっと彼女とこのGBN(世界)を楽しめる。

 

 隣のイヴを見ながらそんな風に物思いに耽っているヒロトだったが、彼の視線に気づいたのか、ふと顔を上げたイヴと目が合う。青空を切り取ったかのようなその蒼い瞳はヒロトを真っすぐに映して、それがなんだか少し気恥ずかしい。

 

「ん? どうしたの?」

「いや、別に」

 

 まるで自分の考えを読まれたような錯覚を覚え、勝手に気まずくなったヒロトは視線を対面の二人に向ける。不思議そうに彼の視線の先を見たイヴは、いまだにレイに「あーん」をしているセナを見て何かを察したらしく、面白そうに微笑むと少しだけからかうような声音で問いかける。

 

「ヒロトもしてほしいの?」

「? なにを?」

「あーん」

「えっ」

 

 固まるヒロトを置いて、イヴはいそいそと切り分けたケーキをフォークに刺すと彼の口元へ差し出す。

 

「はい、あーん」

「いや、イヴ……」

「あーん」

「……」

 

 にこにこと嬉しそうなイヴの顔と、目の前の小さなケーキに視線を行ったり来たりさせ、嬉しいのと恥ずかしいのとで葛藤していたのもつかの間、耳まで顔を赤くしたヒロトが差し出されたフォークに食いつく。

 

「おいしい?」

「……うん。甘い、かな」

「……ふふっ、レイと同じ感想」

 

 オッゴケーキ、というジオンのモビルポッドを象ったそのケーキは、中にフルーツが入ったロールケーキの一種で、元になった機体の搭乗ハッチやアームを再現した焼き菓子まで付いたなかなかに凝った一品だったのだが、正直今のヒロトにはマトモに味なんてわかるわけもなく、とりあえず色々な意味で「甘い」としか言えなかった。

 

 

 

 

 

§

 

 

 

 

 

 このベアッガイランドはテーマパークをコンセプトにしているだけあり、訪れる客たちは皆楽し気だ。デートを楽しむカップルや、あるいはその手前の関係っぽい初々しい男女。同性同士、異性も交え形はそれぞれだが、友達同士でわいわいと盛り上がるグループだったりと、顔ぶれは様々だったがどのダイバーも笑顔で園内を歩いている。

 

 ──ごく一部の者たちを除いて。

 

「……ふん、どいつもこいつもアホみたいに浮かれおって」

 

 中央島のフードコートの片隅に、一つのテーブルを陣取るように座る男性ダイバーだけの集団がいる。その中の一人、腕組みをして周りを睥睨していた男は、不快げな様子を隠そうともせずに険しい声を漏した。

 大柄で筋肉質な体格に巌のようないかつい顔で、ジオン公国軍の一般的な戦闘服を着た姿はさながら本職の軍人のようだ。

 

「団長の言う通りです。GBNの本質は血沸き肉躍るガンプラバトル。決して異性との出会い、などという不純なものではないはず。それなのにこの有様は見るに堪えません」

 

 団長と呼ばれた男の隣に座るダイバーが追従するように頷く。こちらも同じ服装で、体格は男性にしても少し頼りないほどのひょろ長だったが、どこか蛇を思わせる顔と危険な坐り方をしている双眸が印象的だ。

 

「然り然り!」

「そのとおりだ!」

「我々が目を覚まさせてやりましょう!」

 

 蛇男の声に続くようにして、同じテーブルに座る男性ダイバーたちからも賛同の声が上がる。彼らの仲間と思しきその男どもはいずれも同じ服装をしていて、この一席だけがまるで不良軍人たちのたまり場のようになっているせいか、ファンシーな園内の雰囲気からかなり浮いている。

 

 時折近くを通り過ぎるダイバーたちの訝しむような視線も物ともせずに盛り上がるコスプレ軍人集団だったが、不意に団長が少し離れたテーブルに視線を向けると、その巨石のような顔に亀裂が走るがごとく青筋を浮かべる。

 

 団長の視線の先にいたのはレイたち四人であり、彼の目が捉えたのはイヴに手ずからケーキを食べさせてもらっている(あーん、してもらっている)ヒロトの姿だった。

 

「……やはり制裁が必要だな」

 

 地獄の底から響くような重々しくも怨念の籠った声が団長の口から洩れる。

 

「おお! それでは!」

 

 蛇男が期待に満ちた目で団長を見ると、それに応えるように立ち上がった彼は力強く頷く。

 

 

 

 

 

「うむ。フォース『しっと団』の出撃だ!」

 

 うおおおお! と一斉に立ち上がるとやおら盛り上がるエセ軍人集団。しかし周囲にいたダイバーたちは、彼らをますます奇異の目で見ては、関わり合いになりたくないとばかりにそそくさと通り過ぎる。

 

 

 ──彼らの名はフォース「しっと団」

 

 

 GBNに蔓延る浮かれたアベック(恋仲の男女のことです)を殲滅すべく結成された、漢の中の漢たちによる熱き魂を持つフォース。

 

 アベックあるところに颯爽と現れては、不純な異性交遊を取り締まるべく、彼らは今日も(呼ばれてないのに)駆けつける。

 

「往くぞ諸君! しっとの心は~」

『父心!』

「押せば命の!」

『泉湧く!』

「見よ! しっとの炎は暑苦しいまでに燃えている!」

『その名もステキ! しっと団!』




Tips
・ベアッガイランド内フードコートメニューの一部抜粋

ベアッガイパンケーキ
 原作にも出てきたベアッガイの顔を象ったパンケーキ。かわいい。ホイップクリームやチョコソースなどが付いてくる。

ボールたこ焼き
 同じく原作に出てきたボールを象ったタコ焼き。

W・B(ホワイト・ベース)プレート
 ファーストガンダムでアムロが食べていたマズそうな食事を再現したもの。ヒロト君が食べていたゼリーの正体。
 仕切りのついたアルミのような銀のプレートの上には、いかにもパサパサしてそうなパンを使ったサンドイッチに、小さなアルミカップに入ったわざとらしいほど具の少ないスープ。付け合わせは少量のサラダとフライドポテト。水色のゼリーは栄養補助を目的にしたサプリメントという設定。
 現実のガンダムカフェでも同じメニューがあります。こちらはちゃんと美味しそう。

オッゴケーキ
 MS IGLOOに登場したジオン軍の駆逐モビルポッド「オッゴ」を象ったロールケーキ。フルーツ入りで美味しい。
 搭乗口やサブアームを焼き菓子で精巧に再現したこだわりの出来で、オプションとしてチョコレートで作られたザクマシンガンやロケット砲などがある。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。