ガンダムビルドダイバーズ Behind the scenes 作:ほぼ読み専
フードコートでゆっくりと休んだおかげか、ようやくレイも普段の調子を取り戻し、その後の四人はイベントの開始時間ギリギリまでアトラクションを楽しんだ。
F91にて鉄仮面が乗っていた巨大
「いや、アトラクションのモチーフおかしいでしょ!? アプサラスコースターも大概だったけど!」
ライド系のアトラクションはいずれも現実の遊園地と遜色ないほど素晴らしい出来だったのだが、元ネタを全て知っているレイはツッコまずにはいられなかった。
「バグに人が乗るとかなんの皮肉よ……?」
F91の劇中にてそのあまりにも効率的、徹底的な所業から「人間だけを殺す機械かよ!?」とビルギットが憤慨した無人兵器「バグ」、まさかそれが遊園地のライドアトラクションになるとは、きっと彼も草葉の陰で仰天しているに違いない。
これらの他は比較的まともで、ベアッガイを象ったウォーターライドやごくありふれたコーヒーカップなど、まっとうな遊園地らしいものもあったのだが、それだけに色物の存在感が際立っていた。
「ま、まあ、元ネタを知らなければ、ただのUFOっぽい乗り物に見えなくもないですし……」
レイと同じく元ネタを知るヒロトがフォローする。彼も彼でバグに乗っている間は終始顔が引きつっていたが。
「あ、そうだ。ちょっと気になったんだけど、賞品の武者凱だっけ、あれってミッションの報酬パーツみたいに現実で手に入るってこと?」
「たぶんそうです。ガンダムベースの射出成型機でデータを読み込ませれば、現物が手に入ると思いますよ」
「あー、射出成型機かー……」
その名前を聞いてレイが少し渋い顔をする。GBNと同時に発表されたこの射出成型機という機械は、GBN内で手に入れたパーツデータをダイバーギアを介して読み込ませることで、データから現実のプラモデルに変換する特殊な設備だ。
これはGBNの専用筐体とガンプラ販売に特化した公式ショップ「THE GUNDAM BASE」に設置されているのだが、地方民の宿命かレイの家から最寄りのTHE GUNDAM BASEはそれなりに距離があった。
「こういう時、地方民は辛いね……」
「そんなに遠いんですか」
「うん。大きな国道沿いにあるんだけど、駅から遠いから不便なんだこれが」
レイのようなバイク、あるいは車といった足を持たない場合、最寄り駅から出るバスに乗る必要があるため特に学生には不評である。
「駅近くの繁華街にあるネカフェにもGBN用の筐体は併設されてるんだけど、そっちは成型機ないんだよね」
近年のGBN人気によって、フルダイブ型VRに対応したネットカフェや一部のゲームセンターの中には、GBNの専用筐体を設置する店舗も増えてはいるのだが、そういった店にはスペースや契約の関係からか射出成型機は設置されていないことがほとんどだった。
「二人とも急いでー! そろそろイベントの時間だよー!」
少し先をイヴと共に歩いていたセナが時間を確認してわたわたしている。そういえばそろそろ宝探しイベントの「ベアッガイ・クエスト」が開始される時刻だ。
「ま、それも取らぬ狸のなんとやら。まずは一位を取らないとね」
「ええ。頑張りましょう」
力強く頷いたヒロトとともに、レイは転送ポータルをくぐった。
§
ベアッガイランドの島群の一つに、広大な森林地帯の中央に巨大な湖を抱える島がある。ベアッガイ・クエストとはこの島ひとつをまるごと使って行われ、島内のどこかに隠された宝を探し、最初に見つけた者が勝ちという趣旨のイベントだった。
隠された宝はひとつだが、登録したフォースメンバーの中で誰かが発見できれば、報酬はそのフォース全員に配布される。
「おー。結構たくさんいるねー」
開始地点には種々様々なガンプラたちがずらりと並ぶ。大規模なレイド戦でもなければなかなか見られない光景に、未だに自機が大破状態から回復していないセナは、相乗りしたレイのガンプラのコックピットから物珍しそうにきょろきょろしている。
「アイザックにAWACSディン……しまった、広域レーダー、そういう選択肢もあったか」
いっぽうでレイのほうは参加者のガンプラを注意深く観察して眉間に皺をよせる。ダイバー同士の戦闘行動が禁止されているイベントである以上、武装よりも広範囲をカバーするレーダーや探査用の装備を積んだ機体のほうが有利なのは明白だからだ。
「今日の
レイたちが乗っているのは「EMS-10 ヅダ」を元にしたカスタムガンプラだった。「MS IGLOO」というOVAに登場したジオンのMSで、原作では宇宙での戦闘しか描かれなかったため、ザクⅡ
この「ヅダJ型」は尖った特徴こそないものの、元はザクと汎用機の座を争った機体で癖が無くとても扱いやすい。加えて脚部はギャンのパーツを流用したものへ変更され、同じツィマッド社製MSのドムと同様にホバー移動も可能である。もともと今日はセナの機体の試運転のためのログインだったので、何かトラブルがあった場合に備えてすぐに追いかけられるようにと、地上での運動性が良いこのガンプラを選んでいた。
しかしこのイベントのような「特定の何かを探す」ということになると話は別で、これはさすがに厳しいか、と少し不安になるレイだったが、そこへ常時接続していた
『大丈夫だよ。私たちも一緒に頑張るから』
『幸いこっちはMSより早く飛べますから、上空から探索してみます』
それは隣で待機しているコアガンダムからの通信だった。確かにSFSに乗っているヒロトの機体ならば、普通のMSがスラスターで飛行するよりも速度が出せる。その機動力を活かして広範囲をカバーしてもらえれば、レイたちにも勝機はあるかもしれない。
「ありがとう二人とも。それじゃあこっちは地上から──」
『ぬわーっはっはっは! 聞けい! この場に集いしアベックどもよ!』
唐突に
マッシブな四肢はAGE-1タイタスのものだが、元のキットとは異なり胴体には「機動武闘伝Gガンダム」の主役機であるゴッドガンダムが使われた、いわゆるミキシングモデルのようだ。もともと格闘戦がメインのMFと格闘戦特化のタイタスは相性も良さそうで、見るからに徒手空拳による攻撃が得意とわかる機体だった。
「あべっく?」
「アベック……? ってなに?」
コックピットで揃って首を傾げるレイとセナ。まあ現代では死語だからね。しょうがないね。
『今回のイベント、我ら【しっと団】が参戦する以上、キサマらのような軟弱惰弱なアベックどもに勝ち目はない! せいぜい指をくわえて我らの活躍を見ているがいいわ! ──特にそこのハーレム野郎! キサマだけには負けん! 我らの熱き魂、しかと目に焼き付けろ!』
『……えっ、俺?』
いきなり見ず知らずのダイバーに因縁をつけられ困惑するヒロト。別に無視してもよさそうなものだが、ことさらにコアガンダムへと指を突き付けて宣言する様は、二人になんらかの因縁でもあるのか、と周囲の者に思わせる。
『おい、ちょっと待ってくれ。いったいなんなんだ?』
『とぼけるな! 我らは見ていたのだ! キサマが三人の女と楽し気に遊び惚けている姿をな!』
『確かに男は俺一人だったけど、彼女たちはただのフレンドで──』
『クソハーレム野郎の言い訳なぞ聞くつもりはない! キサマのようなヤツがいるから、陰で泣く者が生まれるのだ! キサマは世界の歪みそのものだ!』
律儀にも
「しっと団、しっと団……っと、あったあった……へー……うわぁ」
ヒロトに対して謎の敵愾心を燃やすしっと団の連中をよそに、フォース名まで名乗っていたのでちょっと調べてみたレイだったが、有志によって編集される「GBNフォース名鑑」の概要を記したページを流し読みしただけで、表情があからさまにウンザリしたものに変わる。
「お? なになに。有名なフォースだったりするの?」
「うん、まあ、悪い意味でね」
興味を惹かれた様子のセナにレイが送った概要欄にあったものを簡単に纏めるとこうだ。
フォース「しっと団」、それはGBNに蔓延る不純異性交遊を取り締まるべく結成された、漢の中の漢たちによる熱き魂を持ったフォース──などではなく、要はモテない嫉妬心からカップル向けイベントに現れては、バカ騒ぎを起こしてムードをぶち壊すというはた迷惑な集団だった。
「
「うわぁ……なんか、えっと、うわぁ……って感想しか出ないね」
「不純な異性交遊って……GBNは倫理コードの関係でキスも出来ないのにねえ」
フルダイブ型VRの中には、当然だが成人向けのコンテンツを扱うものもある。そういったものにおいてはNPC、あるいは合意したプレイヤー同士で、
出来て精々が手を繋ぐ、ハグ、頬を寄せ合う程度の触れ合いで、レイの言う通りキスすらも出来ない。
「だいたいGBNはアバターの自由度が大きいんだから、ゲームの中でならいくらでもイケメンに──」
なれるのに。と続けようとしたレイの言葉を遮るようにして団長は叫ぶ。
『キサマらにわかるか!? 心血注いで作り込んだイケメンダイバールックに身を包んでも、なおモテなかった悲しみが!』
「あっ、もうやってたんだ……」
『こっちがイケメンになってやっても、やれ会話がつまらない、気が利かない、視線がいやらしいだの文句ばかり言いやがって!』
「外見も頑張ったんなら、内面も頑張ってイケメン目指そうよ……」
『リアルでの出会いをチラつかせてBCとパーツデータを巻き上げるだけ巻き上げておいて、ネカマだったあの野郎マジ許さねえ!』
「ネカマにもひっかかったのか……」
『数々の苦い経験の末に俺は悟ったのだ! 所詮はVRでの恋愛なぞ虚像に満ちた欺瞞に過ぎん! 我らの活動はそんなものに
「いやもう八つ当たりだろそれ」
GBNはガンプラがなくともログインが可能であるため、
さらには数あるフルダイブ型VRの中でも植物をはじめ自然環境の再現度がかなり精巧にできているため、ヒロトのようにキャンプ道具を揃えて、非戦闘エリアで気軽にアウトドアレジャーを楽しむ事が出来るのもウリのひとつだし、ガンダムファンなら原作を精密に再現したディメンションをポータルから巡るだけでも楽しめるのはGBNだけの特権だ。
なによりセナのように現実の肉体に問題を抱えている者にとって、GBNという世界はひとつの救いでもある。
それに、レイとしてはVRでの恋愛うんぬんは抜きにしても、
『はー……くっだらない。要は僻んでるだけでしょ』
団長とやらの言い分もわからないではないが、あまりに偏見に満ちている。出会いに飢えた相手を騙して利益を得ようとする輩も確かにいるが逆もまたしかりで、出会い目的のしつこい輩に迷惑を被っている者だっているだろう。彼の言うことは一方的で決めつけてばかりなのが気に入らない。
だからだろうか。必要もないのに
『なんだとキサマ!』
件のタイタスの頭部が、ぐりんっ! とレイたちのヅダに向くが、もうここまで来たら売り言葉に買い言葉とばかりにレイも煽るような言葉を返す。どうにも気づかないうちにフラストレーションが溜まっていたらしい。
『だから、アンタらは僻んでるだけでしょ? 他人を妬んで羨んで、そんでやることがイベントの妨害? ──そんなんだからモテないんだよ。鏡見たら?』
『キ、キ、キ、キサマァァァァァッ!』
「……っと、そろそろイベントが始まるみたい。おーいヒロトくーん。そのモテないバカはもうほっといて準備してー」
今にも殴りかかりそうなタイタスをスルーして、イベント開始のカウントダウンが表示されているコンソールに気づいたレイは
『えっ、あっ、はい。わかりました』
『おい聞いているのか!? キサマ! おい──』
【お待たせしました! これよりベアッガイ・クエスト、スタートします!】
呆気にとられたような顔のヒロトと一人でヒートアップする団長を置き去りにして、陽気な電子音声で告げられる開始宣言。こうしてついにイベントは始まった。
Tips
・GBN対応ネットカフェ
近年増えてきたフルダイブ型VRゲームに対応したネットカフェの中でもGBN専用筐体を導入している店舗のこと。
フルダイブ型VRはその仕様上、ユーザーが無防備になるため「常時監視カメラ付きでスタッフが巡回するログインルーム」「生体認証対応の貴重品ロッカー」といった設備が必要で、行政から提示されている条件を満たしていない場合は違法営業である。