ガンダムビルドダイバーズ Behind the scenes   作:ほぼ読み専

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予約投稿の日付を間違えていたので初投稿です。

誠に申し訳ございませんでした。


幕間 星々よりも──

 友達、という言葉は桜庭世那という少女にとって未知のものであった。

 

 例えるなら夜空に浮かぶ星のようなものだろうか。

 

 それがどんなものでどれくらいの距離にあるのかは調べればわかるが、実物を目にしたことはない。あくまで知識の上だけの存在。

 

 

 ──それは、生まれついての身体の問題で、学校というものにはほとんど通えたことがなかったせいかもしれない。

 

 ──小学校の入学式。今となっては考えられないことだが、両親が同伴してくれた唯一のイベント。ずいぶん前から楽しみにしていたのに、途中で体調を崩してしまい、結局それきり一度も登校することができなかった。

 

 ──中学校は最初から通うことを諦めて、衛生環境が整えられた自宅から、オンライン接続したVR装置で親が雇った講師を相手にした授業で勉強をしていた。

 

 ──十六歳になり、ようやくクリーンルームのような自室以外でも体調を崩す頻度が減った時、すでに彼女は孤独に慣れ切っていた。

 

 

 桜庭家は地元では有名な名士であり、また知名度に見合った裕福な資産家で、両親ともに優秀な経営者である世那はこれまで生活面で困窮したことはない。

 

 彼女の両親はいたってまともな倫理観と常識を弁えた大人で、仕事こそ忙しくなかなか会えないものの、()()()()()()()()()()()世那をないがしろにしたことはない。

 

 世那が生きるために必要な住環境や医療の手配。虚弱な彼女が日常生活を送るにあたって、心身ともに十全なサポートが出来るだけの専門の資格とスキルを持ったスタッフの雇用。年齢に見合った知識と教養を授けるための教育。そういった物に対する出費は惜しまなかったが、ただひとつ、()()()()()()()だけは与えることがなかった。

 

 無関心、ではない。()()()()()()()()()()()()()は最低限、いや、()()()()()()()()それはもう充分以上にこなしている。

 

 だが、逆に言えばそれだけだった。

 

 年に数えるほどしか見る機会のない両親の顔。あまり動かない表情からは娘に対する愛情が世那には感じ取れず、まるで安否確認かのごとく数分だけ交わされる事務的な会話。そしてなにより、ひどく冷めたその視線が嫌でも物語るのだ。彼らは()()()()()()()()()()()()()()()と。

 

 彼らが娘に願うのは「ただ生きていてくれればいい」ということだけ。一見すれば親の愛ゆえの真摯な願いに思えるが……その裏に潜むのは、世間の非難の的(スキャンダル)になるようなことにさえならなければいい──という打算的な思惑だった。

 自らの境遇を儚んだ娘が()()()()()()()()()()()()()()()情緒面に対してのケアも徹底しており、世那が幼い頃によく家に来ては遊んでくれていたお姉さんが、実は児童専門の心理カウンセラーだったという事実を知った時には結構ショックを受けたものだ。

 

 そういった裏の事情を成長するにつけ知ってゆき、これまで両親の自分への態度を見ていた世那は、彼らの自分()に対するスタンスをこう捉えていたし、それは決して思い込みなどではなく──残念なことに事実だった。

 

 

 

 

 

§

 

 

 

 

 

 静かで清潔な室内に「パチン、パチン」と小さな音が響く。よく聞いてみると音の発生源はふたつあり、片方はリズミカルに、もう片方は調子の外れた不規則なリズムだった。

 

 桜庭家の世那の私室。嶺の部屋とは比べるのもおこがましいレベルで広くて清潔な──そして高級な家具が当たり前のように使われている──そこは、幾度もお邪魔したことがあるとはいえ、未だ嶺にとっては物珍しさがあった。

 窓から差し込む午後の光は初夏の終わりもあってか、紫外線をカットする特殊なガラスを通してもなお強い。小さなプラモデルのランナーが置かれた木製の白いローテーブルには、磨き抜かれた表面に汗をかくグラスが二つ並んでいる。

 

「ねー、嶺」

 

 不規則なほうの音源である世那がテーブルの対面に座る友人へと声をかける。今彼女が作っているのは、先日のベアッガイフェスにて手に入れた優勝賞品である「武者凱」だった。

 これは世那からデータを受け取った嶺がバイクでひとっ走り国道沿いのTHE GUNDAM BASEまで行って、己の分とあわせて射出成型機にてアウトプットしてきたものだ。

 

 ニッパーだけを使ったガンプラ作りならば今の彼女でも身体的に問題がないため、友人()に勧められて購入した薄刃ニッパーを慣れない手つきで慎重に使いパーツの切り出しを行っている。

 

「んー?」

 

 少しだけ無言の時間が続いたせいで退屈したのかと、手元のランナーからちらりと視線を上げた嶺は対面の世那を見やる。ガンプラを組み慣れている嶺は既にほとんどのパーツを切り出しが終わっており、最後のパーツにニッパーの刃をかけたところだった。

 

「嶺ってさ、現実(リアル)だとおっぱい大きいよね」

「ん゛ふっ!?」

 

 全く想定してなかった話題を投げかけられ嶺が咽る。ほとんど暴投のようなその言葉によって、ゲートカット用の薄いニッパーの刃先を危うく()()()そうになった。

 

「……ちょ、なに!? へ、変なこと言わないでよ……危うくニッパーの()が欠けるとこだったじゃない……」

 

 恥ずかしさはもちろんあれど、少しだけ怒りも込めた赤い顔を世那に向ける嶺。「これ高いんだから勘弁してよもー……」と愚痴りながら、刃こぼれや歪みがないか注意深くニッパーの先端を確認する。

 

 プラモデルのゲートカット専用に作られた片刃の薄刃ニッパーは性能が良い反面、扱いを誤ると刃先が簡単に折れてしまう。特に彼女が愛用しているものは値段もさることながら、モデラーたちに高い人気があるために入手がそれなりに難しい。

 

「……いやぁ、ね? わたしも今までVRゲーをいろいろとやってきたけど、ロリ系のやつを除いて女性型アバターの胸をリアルの体型よりも()()()人って嶺くらいしか見たことなかったから……ねえねえ、なんで嶺のダイバールックはあんなに()()()()()なの?」

 

 桜庭 世那には友達という存在がこれまでいなかった。

 

 ゆえにこそ──彼女はGBN(ゲーム)以外の話をするとき、わりとテキトーに思いついたことを口にしてしまうところがあった。

 

「……一言で言えば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()からかな」

「そーなの?」

「そーなの。だいたいね、リアルで巨乳なんて──」

 

 まあ、要するに私的な場での他人との距離の測り方が絶望的に下手くそなのだ。

 

 

 

 

 

§

 

 

 

 

 

 いくつものVRゲームを渡り歩いてきた世那だったが、実のところ互いのリアルの事情まで知りえるほど親しい関係を築いた相手というのはいなかった。

 世那にとって現実の自分の肉体というのは一種のコンプレックスで、女性的な魅力どころか普通の生活も危ういような脆弱で貧相な外見と、ゲームの世界では人並み以上に活躍している姿とのギャップを知られて落胆される事が怖かったから、ゲームで知り合った相手とは一定以上親しくなろうとはしてこなかった。

 

 リアルはリアルでほとんど学校に通うことがない生活を送り、日常で顔を会わせる相手は親が雇った人材やVRを通しての講師といった大人ばかり。ゆえに世那には生まれてから一人として現実(リアル)での友人と言える存在はいなかった。

 

 そんな世那が後に嶺という少女と出会うきっかけとなるGBNと出会ったのは、季節の変わり目で体調を崩して入院した際、たまたま見かけた配信動画だった。

 なにやら難しいミッションを友人同士でわーわー騒ぎながら攻略し、クリアした際には互いに笑顔で健闘を称えるダイバーたちの姿を見て「いいな」と思った。幸いなことに看護師の一人がガンダムファンで、パチ組みのRX‐78‐2を貸してくれたことも後押しして、まるで導かれるようだ、と世那は柄にもなく浮かれたことを覚えている。

 

 もしかしたら、ここでなら、動画で見た彼らのような関係になれる相手が見つかるかもしれない。そんな淡い期待を抱いて。まるで夜空に瞬く星へと無邪気に手を伸ばす子供じみた希望と、それが裏切られるかもしれないという、年相応の僅かな不安と諦念を持って。

 

 

 そして、世那が初めてGBNへとログインした日。最初に降り立ったディメンションは、初心者狩りに騙されて連れ込まれたハードコアディメンション・ヴァルガであった。

 今にして思えば、声をかけてきた相手が女性ダイバーだったことで油断したのもあるが、なにより()()()()()()()()()()()を離れて一年近く経っていたせいで、()()()()P()v()P()()()()()()()()()()()()()()ことが原因だろう。

 

 ──だからこそ、そこでまんまとキルされた時、彼女は……()()()()()()()

 

 不安が的中した形にはなったが、その落胆は()()()()()()であり──こちらを嘲笑う相手の顔をしっかりと(二度と忘れないように)心へ焼き付け、敵へと向けた殺意は、むしろ世那にとっては()()()()()、あるいは()()()()とすら言えるもので。

 

 ああ、ここ(GBN)は昔プレイして──嵌りすぎて家政婦たちに「お嬢様、その、目つきが……」と恐れられて引退したが──いた殺伐PvPゲームと同じなんだと。そう()()()して、友達はできそうもないけれど、入院中の退屈は紛らわせるなと、人斬り時代(昔の自分)を思い出すきっかけを与えてくれた初心者狩りに感謝すらした。

 

 ──ちなみにだが、その後即座にログアウトした世那は、リアルマネーで撃破されたガンプラを即時直す課金アイテム(超高速修復材)を購入すると機体を修復。速攻でヴァルガへと再ログインし、速やかに目標(ターゲット)を見つけ、「ありがとう」と笑顔で八つ裂きにした。(お礼参り天誅した。)

 この手際の良さは昔取った杵柄、というやつである。

 

 結果論だが、ヴァルガという()()()()()()のような環境はかつて親しんでいたゲームとよく似ており、世那にとっては()()()()場所だったのは間違いなく。

 どうせログインするのは入院中の一週間ほど。だったら不慣れな人間関係をどうこうするより、「退院するまでの暇つぶし」と脳死で割り切って遊ぶほうが気楽だと、つい自分にとって楽な方へと流れた。これには対人関係に積極的になれない彼女の意志の弱さもあったが、やはり初日で期待を裏切られた落胆も影響していた。

 そうして他のイベントやミッションには目もくれず、入院中はすっかりヴァルガに入り浸る生活を送ることになる。

 なにせ世那はVRPvPの中でも特に悪名高い「幕末」を()()()()プレイできる少女だ。不意打ち、待ち伏せ、騙し討ち。時折出現する上位ランカーを利用したMPKと、それはもうかつて培ったスキルを存分に発揮してヒャッハーしまくった。

 

 

 当時はガンプラ事情にも疎く、本格的に遊ぶためには絶対に必要なカスタム機体を用意出来ないと思い込んでいた世那が、そんな感覚でGBNをプレイする生活の中で、まるで、そう、ガンダムに例えるなら「コロニー落とし」くらいの衝撃を彼女に齎したのが、この岩永 嶺という少女との出会いだ。

 

 出会ったのがヴァルガという特殊な環境ゆえ、お互いにアバターの顔すら知らないまま交戦し……そして、どんな運命の悪戯なのか、戦った翌日に現実(リアル)の世界でいきなり遭遇。そのまま身バレしてしまった。

 

 あまりの急展開に正体を誤魔化すヒマもなく、それはまさに偶然という名の神様の力業でもって、いつも自分が築いていた壁をぶち破り、仮想と現実の間に横たわっていたはずの絶対に無くならないと思っていた距離を、あっという間に詰められた。

 

 嶺のガンプラバトルに対する熱意に圧倒された、というのはもちろんあるが──

 

 

「……だからね。女の胸なんて、大きすぎてもいいことなんてなんもないのよ……って世那、聞いてる?」

「……えっ? あっ、うん……なんか、ごめんね。ほら、わたしってガリガリだし子供っぽいでしょ? だからちょっとした興味だったんだけど……」

「……いやいや、世那のはガリガリじゃなくて、儚いっていうの? なんか、そう、庇護欲が刺激されるっていうか、ね?」

 

 なによりも、彼女の人柄に世那は惹かれた。

 

「──つーか、なに? そんな美少女フェイスに生まれておいて……三白眼気にしてる私に喧嘩売ってる?」

 

 ──自分が抱いていたコンプレックスなんて、まるで些細な事であるかのように()()に接してくれる。

 

「買うよ? ダイバーギアあるからGBN行こうぜ? 今なら阿修羅だって凌駕できる気がするから。今日こそはワンサイドゲームでボッコボコにしてやるから」

 

 ──ギャップに驚いたのは最初だけで、()()()()()()()()ではなく、()()()()()()()()として世那の腕前を認めて対等の相手として扱ってくれる。

 

「世那の機体も基本装備だけど用意出来たから、久しぶりにお互い本気(マジ)で──」

 

 ──あの病院の一室で、つい「GBNを続けるつもりがない」と言えば物凄い勢いで惜しんでくれた。身体的な問題でガンプラが作れないと返せば、彼女は自分が代わりに作るとまで言ってくれた。

 

「って、あーっ!? しまった! 専用機の完成はサプライズだったのに! 勢いでバラしちゃった!?」

 

 ──親にすらなにも期待されない、取るに足らない存在だと思っていた現実の自分に、ここまで関心を寄せてくれた初めての相手だった。

 

「──ありがとね。嶺」

 

 ──だから、いろいろな思いを込めて感謝を告げる。

 

「へっ?」

 

 脈絡もなく突然お礼を言われた本人は、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして世那を見つめてくる。

 

「──あっ、あぁ、うん。まあ……散々待たせちゃってたから……むしろ、ごめんね?」

 

 そういう(専用機の)事じゃないんだけどなぁ、いや、もちろん嬉しいし、ここがGBNなら飛び跳ねて喜んだけどさ──と世那は内心で呟くが、友達の様子が面白いので敢えて言わないでおく。

 

「じゃ、さっそく嶺が作ってくれた機体のお披露目と行こうか! ──負けないよ?」

 

 ──お礼の代わりは戦果(勝利)で示す。

 

 言外にそう示してやれば、相手も楽しそうに口角を釣り上げる。

 

「初めて使う機体のクセに強気じゃない」

「ふふん……嶺、初登場補正って知ってる?」

「世那も言うようになったねえ……」

 

 互いに闘志を漲らせ、不敵に笑って視線を交わす。

 

 そこに対抗心はあれどマイナスの感情はなく、ライバルのように鎬を削り合うも、根底にあるのは相手の強さに対する信頼とリスペクト。そしてなにより己の強さに対する自信。

 

 

 ──そういう相手を、世間では「親友」と呼ぶ。

 

 ──夜空の星のように手の届かないと思っていた存在は。

 

 ──まるで隕石が落っこちるようにして向こうから世那の手の中に飛び込んできてくれた。

 

 

 ガンダム作品の登場人物の中には地球の重力に縛られた人類を嫌う人もいると聞いたが、こんなにいいモノ(大好きな友達)を引き寄せてくれるなら、世那は重力に魂を縛られても構わないと思った。




Tips
・「幕末」
 出典「シャングリラ・フロンティア~クソゲーハンター、神ゲーに挑まんとす~」
 正式名称を「辻斬・狂想曲(カプリッチオ):オンライン」というオンライン対応のフルダイブ型VRゲーム。
 プレイヤーは幕末を再現した京都で「維新軍」「幕府軍」に別れて戦うPvPメインの箱庭型オープンワールドゲーム。主に刀剣類を武器としてそれらをアシストするスキルを用いて戦う。一部に拳銃や弓のような飛び道具アリ。
 色々とアレなゲームであり「エリートぼっち専用ゲーム」「サイコパスしか生き残れない地獄」「プレイヤーキラーのために作られたプレイヤーキラーの為だけのゲーム」といった評価がなされる。完全な初心者お断り仕様で、「適正」のある人間とそうでない人間では評価が真っ二つに別れるのが特徴。
 一言で纏めれば【()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()P()v()P()】で、世那がログイン初日にヴァルガに馴染めた最大の理由。
 これに嵌っていた頃の彼女は目つきが鋭く(確実に何人か殺っている人の目に)なり、家政婦たちに恐れられていた。


あとがき
 これにて第二章は終わりです。
 また書き溜めが出来ましたら第三章を開始したいと思います。

 ……ところで、十万文字以上書いて未だにメインキャラの専用ガンプラが出てこないダイバーズ二次があるらしいですよ(震え声)
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