ガンダムビルドダイバーズ Behind the scenes 作:ほぼ読み専
「うーし、順調順調」
コンソールに表示される撃墜スコア履歴を一瞥してそう呟くのは、イフリート改のカスタムガンプラ【イフリート・アサルト】を駆る赤髪のダイバー、レイ。
先ほど獲物に夢中になっていた
なお、
とりあえず作ってみた武器を試し撃ちする――そんな輩もまたヴァルガの常連であるのだ。
「……っとぉ!」
己の戦果を確認しつつも周辺への警戒は怠っていなかったことが幸いし、視界の端でなにかが動いたのを捉える。
コンソールに警告が表示されるよりも早く、待ち伏せしていたのだろう今まさに通り過ぎた瓦礫の影から放たれたマシンガンの斉射を咄嗟に回避。
スラスターを吹かしたままに足を開いたうえで膝を使って大きく上体を屈めて進むイフリート・アサルトの肩の僅かに上を銃弾の雨が通り過ぎた。
足は止めずにスラスターを偏向して機体を百八十度ターンさせ、旋回が始まると同時にバックパックのウェポンバインダーからグレネードを選択。左手のカービン銃を肩越しに背後に回してやれば、縦に開いたコンテナから銃身に擲弾発射装置が取り付けられる。
「そら、お返しよ!」
自機が完全に振り向いたその一瞬で射程を見極め斜め上方に射出されたグレネード弾は、放物線を描いて遮蔽物を飛び越えると、その裏に潜んでいた敵を瓦礫ごと吹き飛ばした。
「はっはぁ! ザマーミロ!」
新しく追加された撃墜スコアで敵機の撃破を確認すると、レイは再び前を向いて上機嫌に機体を滑らせる。
自然体で行われる周囲への警戒。背後からの射撃の回避。旋回しつつ敵の潜んだ場所の情報を把握し、かつ射程を見極めて慣れたように逆撃を叩きこむ動き。
これら一切を足を止めることなく一連の動作で淀みなく行う彼女は、紛れもなくヴァルガの住民らしい奇襲と乱戦に特化したダイバーと言えるだろう。
今日も
元は大規模破壊兵器で損傷した機体を狙うハイエナ行為をするダイバーが集まり、そこへさらにハイエナどもを狙うPKKみたいな連中も加わって、もう戦場はしっちゃかめっちゃかだ。
――どこからか切り飛ばされた機械の腕が脇に飛んできて転がった。
――目の前に墜落してくるMAを避けた。
――自分を狙ってきたのか流れ弾なのかは不明だが、こちらへ飛来したビームの方向におかえしだと雑にいくつか撃ち返した。
モニター越しに目まぐるしく流れる風景を見ながら時に反撃し、時に
しかしレイはどこか凪いだ心持でそれらを眺めている自分も自覚していた。
GBNは──いや
GBNの前身となったゲーム、
GBNがサービスを開始に伴ってGPDが終了しても本能が闘争を求める。その果てにたどり着いたのが
戦って、戦って、墜として、墜とされて、とにかく考えるのはいかに敵を倒すか、自分が生き残るか、厳しいがゆえにこそシンプルだ。
GPDと違ってログインすればすぐにバトルができるのは、VRオンラインに対応したGBNの利点だろう。
そんな事を考えていると、付近に着弾したミサイルが爆発して巻き上げた砂塵の中から、風を纏って一機のガンダムタイプが斬りかかってくる。
特徴的な頭部の赤いV字アンテナに、日本刀のような実体剣を持つその姿はアストレイのカスタム機。
袈裟懸けに振るわれた刀身を、レイは機体前腕の小型の盾で滑らせるように受け流して凌ぎ、脚部のスラスター推力を活かしたスケートのようなマニューバで、密着したアストレイを中心にした小さな円を描くようにして敵機の背後に回り込むと、
「オラァッ!」
強烈な膝蹴りを叩きこむ。
するとイフリート改の膝に格納されていたヒートダガーが飛び出し、脚部スラスターの排熱で赤熱した刀身がアストレイの背後から胸部を貫き動きを止める。
すかさず膝を引き抜いて前蹴りでもって敵を引きはがすと、バックブーストをかけながら追討ちに両手のカービン銃を叩きこんだ。
ガーベラテトラのビームマシンガンを元にして作られた銃口からは、パルス状に圧縮されたメガ粒子が連続して放たれて、
「ああ──GBNは楽しいなぁ……」
爆散しポリゴンになって散ってゆくアストレイを見もせずに、どこか己に言い聞かせるようにしてレイは呟いた。
――楽しい。楽しいものなんだ。ガンプラバトルは。それはGBNでも変わらない。
――でも、
――
§
それは、多くのダイバーたちが屍を晒しては電子の海に解けてゆき、いよいよこの
櫛の歯が欠けるようにして実力の無い者、あるいは運に見放された者からひとりまたひとりと欠けてゆき、戦場に存在する機体が減ったことで、飛び交う弾幕や爆発も少なくなり見通しの良くなった北部廃墟都市地帯。
戦場となった廃墟都市の幹線道路の交差点にレイの駆るイフリート・アサルトの姿はあった。
己以外は全て敵。そんな混戦の中を長い間戦い続けてきた彼女の機体もまた、無傷とはいかずにそこかしこに損傷の後が伺える。
脚部に装備されていた特徴的な逆三角形のミサイルポッドは既に撃ち尽くしたためにパージされ存在せず、直撃こそしていないものの装甲表面を掠めた攻撃は幾度もあったために至る所に傷がある。特に両前腕の小型の盾は損傷が酷く、大きな亀裂が走っていた。
バックパックに装備されたウェポンバインダーは左側が脱落して接続部からは火花が散り、未だ両手のビームカービンは健在だったが、こちらも残弾が残りわずかとなっている。
「……はぁ、はぁ。ふぅー……」
緊張状態から解放されたレイは無意識に荒げていた呼吸を整えた。
そこかしこで咲いていた砲火や散華の爆発が散発的に、あるいは遠くなり、機体も限界なら集中力も限界に近付いている。
これだけ数が減れば不意打ちもそうそうなかろうと、常に張り巡らせていた警戒の糸を緩めて一息入れるべくレイが機体の足を止めた時だった。
「──ッ!」
まるでレイが気を抜く一瞬を見計らったかのように、背後の倒壊した店舗跡の瓦礫。その死角から放たれた砲弾がイフリート・アサルトへ襲い掛かる。
機体のセンサーが反応して警報を出すよりワンテンポ早くそれを察知したレイは振り向きざまにビームカービンを斉射。なけなしの残弾全てを対価として、飛来してきたバズーカと思われる大型弾頭を空中で爆散せしめた。
この機体はウェポンバインダーに予備の
弾数がゼロを示すビームカービンを舌打ちをともに投げ捨てると、腰部左右にそれぞれ懸架されていた二振りのヒートソードを抜き放つ。
『ありゃ、防がれちゃったかぁ。完全に隙をついたつもりだったんだけどなぁ』
暢気にも
カッとなった頭とは別に、冷静に追撃を警戒したレイはすぐさま脚部のスラスターに火を入れると、滑るような機動を行いイフリート・アサルトを瓦礫の裏側へ回り込ませる。
その挙動に反応したのか相手もこちらの動きを読んでいたかのように、瓦礫の影から飛び出してきて──
「──はぁ!?」
そのガンプラを見た瞬間、思わずレイは驚愕と怒りが混ざったような素っ頓狂な声を上げてしまった。
なぜなら――
『──よりにもよって
ひとこと言ってやらねば気が済まないとばかりに──思わず反射的にこちらも外部音声出力をオンにして──レイは相手に叩きつけるようにして叫んだ。
なにせ相対した敵機はパチ組み──キットを説明書通りに組み立てただけ──のガンプラだったのだから。
§
レイというダイバーはGPD時代からガンプラバトルを戦ってきた歴戦の戦士だ。
今年で十七歳になる彼女は――環境がそうした面こそあれ――それこそ小学校に入学した頃からこの遊びに興じてきた。
ガンプラを専用機器で読み取り、データとして再現したものをVR空間で戦わせるGBNとは異なり、
【RX-78-2 ガンダム】
いわゆる「ファーストガンダム」と呼ばれる、全てのガンダム作品の原点たる「機動戦士ガンダム」の主役機。
それが相手の使うガンプラの正体だった。
四十年近い歴史があるガンプラの中でも、とりわけ初代の主役機という立場であるファーストガンダムは、おそらく最も多く更新されたガンプラである。
特に目の前にいるのは【HGUC RX‐78ー2 ガンダム】のキットで、その完成度はそのまま組んでも確かに素晴らしいのはレイも認めるところだ。
優秀な可動域はガンプラバトルにも有効で、このキットを愛好するファイターも多数存在する。
――が、それはそれとして、だ。
ここは【ハードコアディメンション・ヴァルガ】
上級者の集まる鉄火場なのだ。
ガンプラバトルにおいてガンプラの完成度とは機体性能へ直結する重要なファクターである。作り込めば作りこむほど、言い換えれば
それを無視して
(――随分とナメたマネしてくれるじゃない? ええ?)
ここでの戦いを舐め腐っている……そう認識されても仕方のないことだろう。
これを他のロボゲーに例えるならば、「チュートリアルミッションで支給される初期型機体のままPvPのランキング戦に挑む」ようなもの。
……ごくたまにだが、初心者が悪質なダイバーに騙されて
こそこそ隠れてエリアからの離脱を試みるならまだしも、戦意満々に相対している様子から哀れな初心者の可能性は無いに等しい。
「縛りプレイしてるランカーかなにか知らないけどさぁ……
『えっ? いやぁ、そういうわけじゃ……』
「問答無用! 落ちなさい!」
戸惑ったような相手を無視して外部音声出力を切り、燃える怒りを燃料にしてレイのイフリート・アサルトが敵のガンダムに肉薄する。
やや大振りぎみに振り上げた右のヒートソードを上段から叩き込もうと袈裟気味に振り下ろす。
『おおっとぉ!』
赤熱した刀身が夕焼けのような橙色の残像を描いた斬撃は、しかし敵の左腕に装着されたシールドで
相変わらず外部音声が入りっぱなしの敵機から聞こえる、どこか緊張感の無い声がますますレイをイラつかせたが、それに反して機体の動きは的確だった。
これもまたガンダムを象徴する赤色の盾の中央にある特徴的な黄色の十字星を斜めに裂きながらも、しかし上手く力を逃がされたのか、パチ組みのシールドにも関わらず断ち切ることが出来なかった。
(ウソでしょ!? 腕ごとぶった斬るつもりだったのに!?)
機体性能を操縦で補う。ゲームでも現実でもある事だが、こんな芸当は少なくともレイには不可能で――だからこそ驚愕する。
しかも敵は態勢も崩すことなく右手にあったバズーカを投棄すると、肩越しにバックパックから突き出すビームサーベルのグリップを握り締めた。
(──力の往なし方が上手い? 体幹のバランス感覚が凄い? それにしたって……!)
ゲーム特有の
反撃に振り下ろされるビームサーベルを左のヒートソードで受け流――そうとしてイフリート・アサルトの左腕が空を切る。
「――ッ!?」
――
「しまっ――」
ガンダムのフェイントにひっかかり、がら空きになった脇腹。そこへ添えられるのは振り下ろす途中で止まったビームサーベルの柄――
「なんっ、のぉ――ッ!!」
ビーム刃が形成されて胴体を貫くよりも僅かに速く、イフリート・アサルトは両脚のスラスターを用いて機体をスピンさせ、ガンダムの脇を抜けてどうにか直撃を免れた。
(反応が鈍いパチ組みを使ってこれだけ動けるものなの――!?)
態勢を立て直すイフリート・アサルトにガンダムは追撃してこない。まるで観察するようにレイの様子を伺っている。
『これに引っかからないのかぁ……面白い動きをするね』
未だにオープンチャンネルを切らない相手の声が聞こえるが、レイとしてはそれどころではない。
(マジでなんなのコイツ……本当にランカーのお遊び?)
感じるのは――違和感。
ガンプラバトルでは使う機体を変える事ももちろんあり、例えば新発売のキットを試しに組んでは乗ってみたりすることなど日常茶飯事だ。
しかし目の前の相手の動きからは、普段とは違う機体に乗った時に感じる不自然な挙動が無い。つまりこいつは常日頃からこのパチ組みのガンダムを使っている、ということになる。
お遊びとしてヴァルガでパチ組みに乗るのもいいだろう。それで撃墜されてダイバーポイントを失うことになっても損をするのは本人だけで、誰にも迷惑がかかることはないのだから。
(まぁ仮にそんなのに落とされでもした日には、悔しすぎて眠れなくなりそうだけど……)
しかしだからといって、
ヴァルガには時折上位のランカーも修練として訪れることがあるが、だとしても敢えて不慣れなパチ組みのガンプラを使う理由がない。
(なんの拘りがあってそれだけ上手いクセにパチ組みなんて乗ってんだか……)
訝しむレイの内心など知らぬ相手は、亀裂の入った盾を構え――
『くらえっ!』
全力の前ブーストでシールドバッシュを仕掛けてくる。
ビームカービンを手放したイフリート・アサルトに牽制に使える飛び道具はもうない。
(よく視てる――!)
相手の冷静な観察眼と思い切りの良さに舌打ちしつつ、仕方なくレイはスラスターを吹かして二刀のヒートソードを構えると相手の盾を受け止める。
イフリート・アサルトの
このままいけば数秒とかからず盾ごと切り裂くことも出来る──が、相手の頭部がこちらに目を合わせるように僅かに動いた瞬間、レイは背筋に走った悪寒だけを頼りにして、躊躇なく盾に前蹴りを放って距離を取る。
一拍遅れてイフリート・アサルトの頭があった場所を通り過ぎるのは曳光弾を伴う弾丸の光。
『……いまのも避けるんだ。
シールド上部に付いている覗き窓越しに、相手のガンダムがこちらの
MS戦においては豆鉄砲といえる火力だが、脆弱なメインカメラを擁する頭部に至近距離で直撃すれば破壊は免れない。
ましてや
距離を離したことで仕切り直しとばかりに、まるで
(――やりにくい……)
先ほどの前蹴りの軽い感触。あれはこちらの動きを先読みしてガンダムがバックステップをしたからだろう。
攻撃の予測精度。相手の武装を想定した行動に咄嗟の判断力。パチ組み機体をああも自在に操る繊細な操縦技術。
ガンプラ以外は全てが一線級だ。
(おおかた他のゲームで
――ザクのくせにやるね。
(あんたがどれだけ
左腕は前に突きだすようにして、右手は顔の横あたりへと二刀のビームサーベルを構えるガンダム。
背筋を伸ばして腰はあまり落とさず、しかし膝に余裕を持って立つ姿は、さながら現実の剣道における二刀流の構えに似ていた。
「……教えてあげるわ。
先ほど相手の盾に食い込んだままに無理やり蹴りで引きはがしたせいか、刀身が歪んでしまった左のヒートソードを投げ捨てた。
一刀となったイフリート・アサルトは、得物を両手持ちにすると左肩を前に出す半身の構え──脇構えと呼ばれるそれが近い──に切り替える。
これは敵から得物を隠し、同時に半身となって被弾面を減らし、加えて装甲値の高い肩部を前に出すことで致命傷を避ける狙いがある。
「決められたパーツで同じ機体を組むような、普通のロボゲーとは違うのよッ!」
初撃の光景を繰り返すように、ガンダムへと突進するイフリート・アサルト。脇構えのまま、ひび割れた路面を滑るように左右へのフェイントを交えて前進するも、相手はレイの仕掛ける挙動に一切迷わされる様子がない。
「
あと一足の間合い、そこまで近づいた刹那、レイは切り札を発動させた。
Tips
機体解説:イフリート・アサルト
素体キット:HGUCイフリート改
武装
ビームカービン×2
ガーベラテトラのビームサブマシンガンに、ストック等の自作カービンキットを追加して改造した射撃兵装。元キットのものより銃身を短く改造していて、取り回しを良くしている。
マガジンの代わりにバッテリーを備え、パルス状に圧縮されたメガ粒子を断続的に発射する。
ウェポンバインダーにあるロングバレルを装着することで射程を伸ばすこともできる。
カービンキット、延長バレルともにレイがスクラッチで作り出したオリジナル。
擲弾発射装置
バックパックのウェポンバインダーに格納されている。
M203グレネードランチャーのようにビームカービンの銃身に取り付けて使用され、擲弾の種類も
六連装式ミサイルポッド×2
元キットの装備。脚部外側にそれぞれあり、使用後はパージされる。
三角形型の六連装式のミサイルポッド。
スクリュー・ウェッブ×2
ドリル状の先端を高速回転させる事で貫通能力を高めた鞭。腰部前面装甲内部にそれぞれ1基ずつ計2基装備している。
クロスボーン・ガンダムX1改と同じもの。
小型シールド×2
耐ビームコーティング塗装と追加プラグインで強化された小型の実体盾。両前腕に装備されている。
単純な防御兵装だが、主武器であるビームカービンを保護する役割も兼ねる。
三連装バルカン×2
イフリート・ナハトのものを移植したバルカン砲。
両前腕小型シールドの下に格納されている。
ヒートソード×2
元キットの装備。
腰部左右に一本ずつ懸架されている。
ヒートダガー×4
両足のつま先と膝に格納されている隠し武器。
クロスボーン・ガンダムのように、脚部スラスターの排熱によって加熱される。
格納箇所から刃だけを展開しての足技や、射出して不意打ちを狙うほか、持ち手もついているので手に持って使うことも可能。また、バヨネットのようにビームカービンに取り付けることもできる。
概要
瞬間加速と旋回性能を重点的に強化した強襲型のガンプラ。高速移動しながらの射撃戦をメインに運用する。
格闘戦を想定した原作から武装を追加、変更しており、レイの得意な中~短距離の銃撃戦を行うためにビームカービンを二丁持ちしている。
メイン武器からして銃撃戦主体ではあるが、近接武器も豊富に装備されていて、種々の隠し武器と併せて敵を翻弄する。
肩部とリアスカート、背部ウェポンバインダーに追加スラスターを備え、肩、腰部側面、脚部の追加装甲に姿勢制御用バーニアを追加している。
フロントスカートにX1改のスクリューウェッブを、膝とつま先にX1のようなヒート・ダガーを隠し武器として装備。ウェポンバインダーには、ビームカービンの交換用エネルギーパック他、