ガンダムビルドダイバーズ Behind the scenes 作:ほぼ読み専
鳥の魔神
漆黒の宇宙空間を純白の天使が舞っている。真空の空に二対四枚の翼を広げ、目指すのは木星から遥か彼方にある地球。巨大な腕を交差させ、まるで祈るような姿はどこか神聖さすら感じさせる趣がある。
だが、天使の正体を知ればそんな気持ちは吹き飛ぶだろう。
──その正体は「ディビニダド」
機動戦士クロスボーン・ガンダムに登場した巨大MAで、150mクラスもあるその巨体を動かすため内部には複数の核融合炉と───
『地球侵攻用MA』とされるそれは、まさに木星帝国の、否、木星帝国総統クラックス・ドゥガチの地球への妄念が形になったような凶悪な性能と、なにより
これが一機でも地球圏へと落ちれば撒き散らされる放射能によって人類は確実に壊滅するだろう。
他の七機を囮として連邦軍とコロニー軍へとぶつけ、ドゥガチ本人が乗り込んだこの一機のみが地球を壊滅するべく青い星を目指して進む。
ディビニダドの周囲には天使を守護するかのように数多の木星帝国製MS、MAが追随しており、厳重な防壁が築かれている。
まさに鼠一匹たりとも通さない、そんな意思すら感じさせる大規模部隊であったが、突如、地球側から放たれた一筋の光が堅牢な防衛網に突き刺さった。
まるでウイングガンダムのバスターライフルを思わせる、力強くも恐ろしいほどの威力を持ったビームの砲撃は、射線上にいた機体を飲み込みながら直進し、さながら海を割ったモーセの奇跡がごとくディビニダドへの道をこじ開ける。
しかし部隊の規模から言ってしまえば、それは蟻の一穴にしか過ぎず、すぐさま再配置された他の機体によってその穴は埋まってしまうかに思われる。
だが、いつだって巨大な何かが崩壊するのは、その『蟻の一穴』からなのだ。
ビームの有効範囲外にいたMSたちが、防衛網に開いた穴を塞ぐべく移動を開始する直前、僅かな時間開いたそこに飛び込む機影がある。
──それは一機のMS、否、
それは鳥を思わせる姿をしていた。
ティターンズブルーに黒を混ぜたような暗い濃紺色。所々に差し色としてオレンジレッドが加えられた、シャープな体型のガンダムタイプ。
そのガンプラは背部に展開された三対六枚のウィングスラスターから爆発的な勢いで青白い噴射炎を吐き出して飛翔し、
いや、それでなくとも、このMSを止めることは出来なかっただろう。
なにせ
ようやくディビニダドが迎撃のため、その巨大な翼に格納されていた
羽の形を模したこのフェザーファンネル。無線式誘導兵器でありビーム砲を内蔵するのは他のファンネルと同様だが、それだけではなく直接ぶつけることで敵を破壊する質量兵器でもある。
死角を含めたあらゆる場所からの攻撃に晒されるオールレンジ攻撃だけでも厄介だというのに、砲撃で形成される網の中には恐ろしい牙も飛び交うそこはまさに
しかし
フェザーファンネルからの射撃を鋭角な軌道で躱しながら、針の穴のようなその隙間に機体を捻じ込み包囲を逃れた襲撃者は、上半身を大きく捻るとディビニダド目掛けて何かを投擲した。
水平に回転を加えられて飛翔する、MSからすれば大型の質量体はブーメランのような投擲武器で、実に原始的な攻撃手段だった。
当然ながらそんなものを投げつけられたディビニダドは、撃ち落とすべく機体前面にフェザーファンネルを展開して迎撃する。
統率された軍隊のように整然と並んでビームを撃ち出すファンネルから、射線を収束させたことで出力を上げたビームが照射されブーメランへと突き刺さる。
だが、まるで水を弾くかのようにして表面で着弾したビームが散り、速度を落とすことなく収束されたビームの中を凶悪な原始武器が突き進んでいく。
途中で横から他のフェザーファンネルが突撃するも、エメラルドグリーンの残像を発生させながら回転する刃に触れた途端に、さながら砂糖菓子が崩れるように次々と砕けては消えてゆく。
光の奔流を切り裂き、仲間が潰されてもなお突撃を繰り返す哀れな羽たちを潰しながら飛翔した強靭な刃は、
『──ッ!?』
声なき声を上げてその巨体を傾かせるディビニダド。
戦艦クラスの巨躯からしても、なお巨大な翼は質量も相応にあり、その片方が本体から突然脱落したせいで機体バランスが崩れたのだ。前進していたことで慣性が働き、傾いだまま斜め下方向へ逸れつつも、なおも前へと進む天使の姿は、蝋の翼が溶けたイカロスか。
大きな両腕を広げて必死に態勢を立て直そうとする姿は、搭乗者の背景もあってどこか哀れでもある。しかし天使の翼を捥いだ凶鳥は攻撃の手を緩めない。
今もなお四方八方から飛び交うレーザーと、その中へ巧みに織り交ぜられた質量体による突撃を回避しながら、腰裏にマウントされていたビームサーベルを引き抜く。
濃い桜色のビームエフェクトを発振し、片側が反り返った特徴的な刀身を形成するそれを、躊躇なくフェザーファンネルが密集している所へ向かって投げつけ、間髪入れずに背部のウィングスラスターに内蔵されていたビームライフルでもって回転する刀身を撃ち抜く。
するとサーベル部分に弾かれたライフルのビームが拡散し、簡易的な散弾となってランダムにフェザーファンネルへと降り注いだ。
これは劇場版の機動戦士Zガンダムにおいて、主人公のカミーユ・ビダンが使った「ビームコンフューズ」という、対ファンネルのための迎撃テクニックだ。
回転を加えて投擲したビームサーベルの刃という、普通は狙って狙撃できるものでは無い小さな──しかも動いている──的へピンポイントで射撃をあてる。しかも戦闘機動を行いながら。
そんな曲芸じみた芸当に、当時の映画館で初めてこの技を見ていた観客は呆れたものだったが、この鳥を模したようなガンプラはさも当たり前のごとくそれをやってのけた。しかもウィングスラスターに内蔵された銃口、つまりさほど自由には動かせない固定武装でだ。
ビームコンフューズによって展開していたフェザーファンネルの多くを喪失したディビニダド。だが相手の攻撃はこれだけでは終わらない。
戸惑うように巨体の動きが鈍った隙を突くかのようにして、漆黒の空に幾つもの銀閃が閃き、空域に展開していた残りのフェザーファンネルが次々と破壊されていく。
その正体はあのガンプラから射出された小型の質量兵器であり、ガンダムAGEの世界で「Cファンネル」と呼ばれるそれは、奇しくもディビニダドの展開していたフェザーファンネルと似た性質を持った遠隔操作兵器だった。
そうして僅かな攻防の合間に、展開した全てのフェザーファンネルが破壊され、ついで主翼を斬り飛ばした質量体──それはまさにブーメランのような形状をした実体剣だった──が飛来して戻ってくる。
途中で二つに分離したその刃は、まるで獲物を仕留めた猟犬のごとく忠実に、主人である相対するガンプラの前腕に装着される。
──その名を『ガンダム・カイム』
ベアッガイフェスをきっかけにして交流を持ったヒロトとイヴからも意見を取り入れ、セナと意見交換しながら試行錯誤すること一ヶ月近く。ついに完成した彼女のための専用機。
一部をスクラッチビルドによって作り上げたオリジナルのガンダム・フレームに、AGE-1レイザーの外装パーツと武装を用いた装備を取り入れたカスタムガンプラだった。
§
ガンダム・フレームとは「機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ」にて登場した特殊なMS群である。
機体名と開発ナンバーに「ソロモン72柱の悪魔」をモチーフとし、悪魔の名を冠するそれらは、原典の72柱と同じ数だけ建造されたという設定を持つインナーフレーム搭載機だ。
しかし原作のオルフェンズではその多くが三百年前の厄災戦で喪失しており、現存するのは二十六機とされ、さらにその中で設定だけのものを含めても情報が確認されているのは僅か十二機。
そんな数多ある
序列五十三番目。三十の軍団を従える大総統。弁舌の達人であり「鋭い剣を持ったツグミ」という姿で描かれる悪魔をモチーフとしている本機は、高機動白兵戦特化型をコンセプトにした機体だ。
ガンダム・バエルのスラスターとスクランブルガンダムのウイングを組み合わせて作られた大型ウィングスラスター。背部に展開される三対六枚の翼からは莫大な推力が齎され、
先ほどディビニダドの主翼を斬り飛ばしたのはこのレイザーブレイドで、通常はシグルブレイドの双剣であるが連結することで巨大なブーメランとなる。
その一撃は直撃すれば戦艦すら沈める威力を誇るものの、本来ならば単純な投擲武器であり投げてしまえば回収することは出来ない。そこでレイはこの武装を
Cファンネルは他にもあり、この機体では腰背部のリアアーマーに鳥の尾羽を模した形状のものが五つ装備されている。フェザーファンネルの残りを駆逐したのがこれだ。
このように武装面はシグルブレイドやCファンネルの他、ドッズライフルといったAGE世界のものを取り入れ、以前にセナが類似するコンセプトを持つガンダム・バエルを使った時に零していた射撃兵装の貧弱さも改善されている。
イヴの助言とヒロトのアドバイスによって、
ASW-G-53 ガンダム・カイム。
それがレイからセナへと送られた、GBNでの剣の名前だった。