ガンダムビルドダイバーズ Behind the scenes 作:ほぼ読み専
決戦の開始を彩るは怪物が放つ死の閃光。
形容しがたい咆哮を開戦の合図とするかのように、叫び終わると同時に頭部に光が宿ると、そこに配置された五つの複眼──連装式のビーム砲でもある──から極彩色の光の波濤が、たった二機のガンプラへ向かって放たれた。
ガンダム作品の中で
開幕から、直撃すれば並みのガンプラではひとたまりもない威力の攻撃を遠慮なくぶちかましてくる様は、まさにミッションボスに相応しい容赦のなさだが、
「──っしゃあ! 読み通り!」
そんなボスに挑む方もまた、凡百のダイバーではない。
気炎を上げたレイがコントロールスティックを操作し、装備スロットのリストに配された防御兵装を選択すると、イフリート・ゲヘナが正面に構えた二枚のシールド、ガンダムのものに似た縦長の六角形の中央に縦に亀裂が走り──がしゃり──と
まるでスライドドアのように左右に開いたシールドの中央部には、なにかの吸入口のようなものが縦に並んで口を開けている。
そうして翳された二枚の実体盾が、こちらへ目掛けて直進してきたビームの奔流と激突──することもなく、シールド表面に接触するわずか手前でビームが渦を巻き、中央の吸入口へと吸い込まれていく。
「って、うわっ、エネルギー量、がっ、エッグい……!」
攻撃判定が喪失しているとはいえ、余波だけでも機体がぐらつきそうになるのを必死で抑えながら、レイはみるみる蓄積していくゲージを見て歯を食いしばる。
──アブソーブシステム──
ビーム系の射撃攻撃を無効化し、それをエネルギーに変換して機体に取り込む特殊システムである。
取り込んだエネルギーは自機の
もともとは
一見すると
ぶっちゃけて言ってしまえば、ビーム兵器対策として無理にこんな複雑なギミックを搭載するよりも、専用塗料やスキルで耐ビームコーティングを強化したほうが手軽かつ効率的、というのが実情だ。
人によっては産廃一歩手前とすら言えるが、レイは敢えて今回このシステムを採用した。それは火力を増した反面、どうしてもエネルギー消費が大きくなり、継戦能力に不安が残る形となったイフリート・ゲヘナの欠点を補うため。
該当するプラグインである「アブソーブシステム」をドロップする、第七回のGPD世界大会予選を再現したミッションを、乱数の女神へ恨み節をぶつけながら周回して手に入れたのが、この実体盾「アブソーブシールド」である。
対人戦では切り時の難しいカードではあるが、今回のように対NPD戦で、しかも最初の行動ルーチンがある程度定まっているような手合いならば、このように覿面に効果を発揮することもできる。
過去の挑戦者たちの動画をいくつも視聴し、このミッションにおけるジャバウォックの最初の攻撃が、彼我の距離が一定以上まで離れている場合は、ほぼ頭部の連装式レーザー砲による薙ぎ払いであることを突き止めたレイは己の予想が的中したことに確かな手ごたえを感じた。
そんなことを考えている間にも、照射系の攻撃にしても持続時間が長い──それだけ莫大なエネルギーの込められた──攻撃だったが、それもようやく終わりを迎える。
下手な作り込みではエネルギー変換効率が著しく落ち、このような照射系のビームは防ぎきれないこともあるアブソーブシステムであるが、そこは作り手の腕と意地の見せ所。見事に敵の攻撃全てをエネルギーへと変換し、イフリート・ゲヘナのシールドは攻撃が終わるまで耐えきってみせた。
「あっぶな……もうちょっと続けられてたら、許容量を越えてた……」
こちらの想定を超える結果にビルダーとしての悔しさと憧憬が滲むも、相反する感情を今だけは胸に収め、蓄えたエネルギーのゲージをコンソールで確認したレイは、相棒に向かって不敵に笑う。
「こっちの準備は出来たよ、セナ、いける?」
『もっちろん!』
「よし! ディスチャージシステム、パワーゲート起動!」
元気よく返ってきた返事に負けじと声を上げたレイの音声入力により、イフリート・ゲヘナに搭載された新たなシステムの二つ目が開放される。
ディスチャージシステムと呼ばれるこれは、アブソーブシステムにて取り込んだエネルギーを変換することで特殊なパワーゲートを形成、それを介して対象とした物に
今回選択したのはその中でも「ディスチャージスピードモード」というもので、文字通りこのゲートを通過した対象を加速させる効果を持つ。
そして加速させる対象はもちろん──
『いっくぞーッ!』
セナが駆るガンダム・カイムである。
イフリート・ゲヘナの機体が蒼く発光し、直上に形成されるのは蒼く輝く菱形のゲート。そこをスラスターを全開にしたガンダム・カイムが通過すると、まるで薄布を被ったかのように機体へと柔らかく光がまとわりつく。そうして蒼の衣を纏った鳥の魔神の羽ばたきは、さらに
ゲートを潜った瞬間から、まるで矢が放たれたようにして急加速をした機体を、しかしセナは全くブレさせることなく巧に操りジャバウォックへと突き進む。
無論のことだが敵もただ黙って待ち構えているわけもない。
自機の周囲に展開させた数多のフェザーファンネルとサイコプレート。ともに凶悪な質量兵器であるそれらを、ジャバウォックは無謀にも己に向かい来る矮小な存在へと殺到させる。
巨体に相応しく、ジャバウォックが備える遠隔操作兵器の数はMAクラスと遜色ない。それらがNPDの操作とはいえ、統率された動きでもって追い込みをかける猟犬の群れとなり、一羽の鳥へとその牙をむいた。
極限まで機体を軽量化されているガンダム・カイムにとって巨大な質量兵器でもあるそれらは、もしひとつでも掠りさえしてしまえば、たちまちに大破してコントロールを失う致死の攻撃だ。
──しかしそれらはどれひとつとして、ダークブルーの機体の表面を掠めることすら出来ない。
もともと機動力に特化した機体構築をされたガンダム・カイムがこの状態になった時、その速度は並みのガンプラでは影さえ捉えることができない域にまで達する。
トランザムを発動した太陽炉搭載機にも迫る速度。それを十全に操るセナの操縦技術とセンス、両者が揃った今、ガンダム・カイムは恐ろしい速度を保ちながらも、鋭角で複雑なマニューバを描いて、ファンネル群の間に僅かに開いた隙間へと機体を捻じ込みジャバウォックへ迫らんと進撃する。
無駄を極限までそぎ落とした最小限の機体制御が残すのは、さながら宇宙空間に水平に迸った
包囲は形成される前に突破され、怪物が放った軍勢たちはセナを追い込むことが出来ていない。
そして、ついに魔神は敵の放った牙の檻を抜け出し、異形の怪物へと肉薄する。
『斬り捨てぇ──』
前腕のレイザーブレイドを分離、両手に持ち直し、順手に構えたガンダム・カイム。
『ごめぇぇぇぇんッ!』
気合一閃。下半身に相当するハシュマルの胴体部分に緑光の刃を突き立てた悪魔は、火花を散らしながら横一文字に怪物の体を切り裂くようにして交叉すると敵機の背後に抜ける。
巨大な胴体に二本の紅の軌跡が走り、効果時間の切れたディスチャージの蒼くきらめくエフェクトを引きながら、ジャバウォックから距離をとって振り返るセナだったが、
『──ウソ……』
表面装甲が
──魔神の剣は確かに怪物を捉えたが、その一撃、彼の生命を脅かすには至らず。
「ほぼMAXのディスチャージでバフかけてもこれとか、ホント、GBNの上位ランカーってのはわけがわからないわね」
セナを捉えそこねたファンネル群を持前の手数で捌きながら、望遠カメラが映すサブウィンドからの映像に呆れたように呟くレイだったが──その口元に浮かぶ実に楽し気な笑みが隠しきれておらず、
『いやあ、まいったねぇ。これは──戦いがいのあるボスだ』
それはセナも同様だった。
ほぼ確定行動であった開幕のゲロビを無効化し、そのエネルギーを全て機体強化に注ぎ込んだ必殺の一撃をもってして下半身──
しかしレイはこう思う。ああ、だからこそ──
──面白い。
明確に己よりも上にいる強者、その力の一端と対峙したことでレイの心に宿るのは「駄目だ、勝てない」という諦観ではなく──飽くなき闘争心。久しく忘れていた、勝利を渇望し、煮えるように沸き上がるこの気持ちは彼女をよりいっそう
しかしイワナガ・レイという少女にとっての
ゆえに、彼女は相手が強ければ強いほど
ゆえに、今、圧倒的な性能を誇る怪物を前にしても、二人が折れることなど決してなく、むしろ闘争心という燃料をくべられた心の炉心は煌々と、否、轟々と燃えている。
「セナ! こうなりゃ“プランB”よ!」
『りょーかい!』
心は熱く、しかして頭脳は冷たく。猛る気持ちのままに、レイは襲い来るファンネル群を全身の火器で迎撃しながらも、事前に打ち合わせをした次善策を行うことを宣言する。
「ファンネルとヘイトはこっちで引き付けるから──」
『わたしは相手の観察と、隙を見ての強襲だよね!』
プランBとは、手数が多くアブソーブシステムを持つレイが敵の矢面に立ち、遠隔操作兵器を捌きながらターゲットをイフリート・ゲヘナに絞らせる。その間にフリーになったセナが、集中攻撃を受けるレイの援護をしつつ敵の行動パターンを観察。NPD機である以上は
もともとは他のダイバーがアップロードした挑戦動画を使って対ジャバウォック戦の研究しようとしていたのだが、普通のダイバーではその圧倒的な火力と無数の遠隔兵器によってすぐに撃墜され、チャンプの場合は逆に解体RTAがごとく一方的かつ瞬く間にジャバウォックを撃破してしまうため、アップロードされている動画のいずれも戦闘時間そのものが短すぎて参考になるものが見つからなかった。その結果苦肉の策として採用されたのが、このプランBである。
──ああ、なんて楽しい時間──
搭乗者のテンションに同調するように、武装を展開してファンネルを撃ち落としているイフリート・ゲヘナのモノアイが紅に輝く。
「さあ、怪物さん。第二ラウンドといこうじゃ──」
だが彼女の言葉を遮るように、天頂から一筋の閃光が降り注いだのはまさにその時だった。