ガンダムビルドダイバーズ Behind the scenes 作:ほぼ読み専
突如として降り注いだ一筋の閃光が、異形の怪物、その胸部へと突き刺さる。
MGユニコーンガンダムの胴体を素にした、サイコフレームの光が覗く装甲へと放たれた
先ほどの連装式ビーム砲ほどではないものの、照射系とみられる強力な閃光を放つ一撃。だが、ジャバウォックは煩わしそうに僅かに身じろぎをしたのみで、表面装甲の上でビームは拡散しダメージを受けた様子もない。
そしてビームの光が途切れると、ぎろり、と
新旧サイコガンガム、全高が四十メートルもある巨大なサイズに相応しい
文字通りの十倍返し。宇宙を迸る十本の極太のビームが向かうのは、ちょうど無数の岩塊が漂う場所で、破壊の光は大小のデブリを消し飛ばしながら突き進む。
あまりの威力にレイたちの乗る機体のモニターはホワイトアウト。わずかな間を置いてから、光が収まったことで映像を捉える。
ジャバウォックの攻撃によって付近全てのデブリが消滅し、随分と見通しのよくなった空間には、
『……ふぅ~、ちと焦ったぜぇ』
左肩にシールドを装備した機体を先頭にした四機のガンプラが無傷で浮かんでいた。
『全力でGNフィールドを張ってようやくかよ……とんでもねぇバ火力だ』
『あっはは! やっべ~、さすがハイランカーのガンプラ!』
暢気にもオープンチャンネルで会話を行う闖入者たち。オレンジ色の粒子を噴き出す彼らが乗るガンプラは、いずれも似通った意匠のもので、同じ作品を出典としていることがうかがえる。
原作そのままのカラーリングの機体群は、「機動戦士ガンダムOO」そのセカンドシーズンに登場する人造人間、イノベイドたちが駆る「GNZシリーズ」と呼ばれる疑似太陽炉搭載機だ。
『……おい、気を抜きすぎだ。
『あ~、はいはい。たく、アンタも心配性だね~』
『ま、いんじゃね? バランスがとれてるってことでさ』
敵を目の前にしても余裕綽々に会話をかわす四機。そんな連中をモニター越しに見つめる蛮族二人の顔には、さきほどまであった興奮はなく、ただただ冷たい戦意が満ちていた。
§
「……ひとのミッションに乱入、ねぇ……」
すぅ──とレイの双眸が細まる。
さっきまであれほど燃え上がっていた闘志が冷え、凍り付き、冷たい殺意に変わってゆくのを自覚する。
『レイ……どうする?』
通信ウィンドウから問うセナの
「念のためにバトルエリアから出るように警告はするわ……一度だけ」
『さっきのからして、どう見ても乱入が目的みたいだったけど』
数多のゲームを渡り歩いてきたセナからしてみれば、別のプレイヤーが先に戦っている
これが乱戦形式のミッションなりレイドバトルイベントなりであれば問題ないが、今回のミッションは事前に参加申請をしたダイバーのみが挑戦する、オーソドックスなタイプである。
「……その時はその時ね。
ゆえに相手の反応がわかりきっているレイは、怒りと殺意をこめた獰猛な笑みでもって相棒へと返し、通信で話している間に合流してきたセナを伴って件の四機へと近づく。
その間にもジャバウォックからの攻撃はあるものの、距離をとったことと、反撃を行ったことでヘイト値が下がったのか散発的なものになっているので、直撃をもらうようなことはない。製作者の温情なのか自信の現れなのかはわからないが、戦闘開始直後のジャバウォックの行動ルーチンは、こちらから近づかない限り、さほど積極的に攻撃してくるものではないようだ。
「そこの四機、救援要請でもないのにミッションに割って入るなんてどういうつもり?」
チームメンバーとして登録しておらず、ましてフレンドでもない相手への通信のため、こちらもオープンチャンネルに切り替えて問いかけるレイ。すると、固まっていた四機の中から、二機のガンプラがオレンジ色の粒子を引きながら飛び出してくると、お互いの機体がメインモニターで視認できる距離まで近づいた所で停止する。
「繰り返すけど、こちらは救援要請はしていないの。もし間違って入ってきたのなら、出て行ってもらえる?」
ミッション中のダイバーが、周辺の他ダイバーへと自発的に助けを求めるシステムを使うことなく、どうやってこのエリアに侵入したのか。その疑問はひとまず置いておき、四機の行為がマナー違反であることを咎めるために、先行してこちらへ接近してきたガラッゾとガデッサへと警告を飛ばすが──
『あー、キミら、まだいたの? 邪魔だからさ、どいてくんない?』
ヴァルガで培われた蛮族脳を押しとどめて、穏便に対応しようとしたレイへの返事はにべもないものだった。
『連戦ミッションのボスってさあ、出現エリアで待ってても出てこないんだよね。
『このクリエイトミッション、ボスまでのフェーズが長いし敵も多くてダルいじゃん?』
『ここまでごくろーさん。ボスは俺らが倒しておくから、邪魔にならないように隅に行ってな』
こちらの注意を無視して、言いたいことだけを捲し立てるガデッサとガラッゾに、レイの瞳はますます冷たくなる。
最初からわかりきっていたことだが、やはり連中の目的は
「……つまり、この乱入は意図的に行ったもので、あなたたちは引く気もない、と?」
『ここまで言ってわかんねぇのか? 馬鹿か? 空気読んでさっさとそこどけっつってんだよ』
もはや完全に温度を失くした声音で、
初撃のビーム砲撃を行ったのであろう、大型火器の「GNメガランチャー」を装備したガデッサは、愚かなことに罵声とともに両手で構えた長い砲身を──レイに向けて
『さもねぇと、ボスの前にテメェを──』
「そう……
レイの返事が終わるのと、ガデッサのGNメガランチャーに
『──は?』
『──ッおいっ! 気を付け──』
その正体は、会話の中で既に包囲を完了していたイフリート・ゲヘナのインコムによるオールレンジ攻撃。
左右からのビームには耐えたものの、背後からの一撃によってコックピットブロックを含むコア・ファイターが撃ち抜かれたガデッサは爆散。ポリゴンの塵となって消失した。
「……? ダメよ。ちゃんと周りにも気を配っておかないと」
『てめっ、いきなりなにすん──』
『判断が遅い』
仲間がやられたことで怒りを露わにしたガラッゾが両腕のGNビームクローを展開。イフリート・ゲヘナに襲い掛かろうとするも、四方から飛来したCファンネルによって姿勢を崩され、その隙をついてガンダム・カイムが放った飛び蹴りが頭部に突き刺さって仰け反る。
さらにインパクトの瞬間、追撃とばかりにカイムのつま先からハンターエッジのような機構で飛び出した刃に頭頂部を掴まれ、ハイヒール状の踵に仕込まれたヒールバンカーが人体で言う喉に炸裂。首関節を砕かれたガラッゾは、頭部ユニットを
レイが穏便に済ませようとしていたので、今まであえて黙っていたセナだったが、ガデッサがGNメガランチャーを構えた瞬間には既にCファンネルを展開。
猛禽の狩りを思わせる動きで頭部を足で掴んだまま、交叉するようにガラッゾを通過したセナは、背部のウィングスラスターを全開にした急旋回でもってガラッゾに再度肉薄、上下が逆になった相手の胴体へ一切の躊躇なく、挟み込むようにして左右から二刀の斬撃を叩きこむ。
しかしガラッゾは咄嗟に両腕を交差させ、肘に装備されたGNカッターを起動。激しい火花を散らしながらもレイザーブレイドの一撃を防いでみせた。
「……セナ、こいつらのコックピットは背中よ」
ガデッサとガラッゾの二機ともに、近づいて見た限りでは素組み。にも拘わらず、イフリート・ゲヘナのビームは
どんなカラクリ──四機ともに暗い紫色のオーラが出ているエフェクトがそれだろう──かはわからないが、おそらくは機体パラメータを不正に強化していると予想する。ゲームにはあまり詳しくないレイにはそれ以上のことは分からないが、ガンプラの出来に反するような出鱈目な、それこそ先程まで戦っていた
だが、
セナから見ても
『
メインカメラを喪失して右往左往するガラッゾの肩関節、装甲の間から僅かに見えるフレームへとレイザーブレイドの巨大な刃を振り下ろす。
大振りな武器を使っているにも関わらず、装甲の僅かな隙間を正確に捉えて通過する二刀の刃。僅かな抵抗こそあったものの刃が止まることはなく、肩関節を断ち切ってGNビームクローを備えた両腕を無力化させてみせる。
『やっぱり、関節も弱いんだね』
『ひ、ひぃッ!? なんだこいつら!』
唯一の武装を喪失したため勝ち目がないと踏んだのだろう、ガラッゾの背部に接続されていたコックピットブロックが分離し、コア・ファイターとなって離脱を図る。
『おっと、逃がさないよ』
だがそんな見え見えの逃避行動をセナが見逃すはずもなく、ガンダム・カイムの腰部サイドアーマーから射出されたシザークロウが、GN粒子を引きながら飛翔するコア・ファイターの端をがっちりと掴む。
いかに機体パラメータを強化していようが、所詮は脱出艇の役割しか持たない小型戦闘機。ガンダム・フレームの出力に抗えるはずもなく、シザークロウに繋がったワイヤーを両手で一気に手繰り寄せられれば、
『やめっ、やめろォアアアア!』
さながら一本釣りされた魚のごとくガラッゾのコア・ファイターが宙を舞い、操縦者の意思とは関係なくセナに向かって飛び込んでくる。
『チーター死すべし──天誅!』
昔取ったなんとやら。つい口から出てしまった掛け声とともに、カイムの右脚が下から上に振り抜かれれば、脛に装備されていた脚部のレイザーブレイドによって、コア・ファイターは機首から真っ二つにされて爆発した。
§
『ちょ、ちょっとぉ……アイツら、ヤバくない?』
『……チッ、馬鹿どもが』
なにもできずに
ガッデスは先の二機同様にキットそのままの素組みで、武装も当然のように原作そのままであるが、ガルムガンダムのほうは侮れない完成度をしている。
それもそのはず。GNZシリーズの中でガルムガンダムはキット化されていない。つまり、このガンプラはなにがしかのキット──おそらくは他のGNZシリーズ──を元にして再現されたものであるのだ。
『おい、俺はあの
『あ、
こちらに近づいてくる二機の機影をレーダーで捉えながら、ガルムガンダムに乗る男のダイバー、レオは分断しての各個撃破を提案するが、先ほど見たガラッゾの無残なやられ方があまりに強烈だったため、ガッデスに乗る女のダイバーは完全に及び腰だった。そんな彼女の様子に内心で舌打ちをしながらも、彼は自信に満ちた獰猛な笑みを見せる。
『落ち着けよ、アニー。こっちは
『仮に墜ちなくたって、アレを倒せるわけないじゃん! 意味ないよ!』
『……あの
諭すように声音を抑えてレオは説得を試みるが、涙目になったアニーは半ば話を聞いていない。そしてついに『うぅ~……! ……やっぱりイヤ! ムリ!』と叫んで、コンソールを操作するが、ミッションのリタイア申請をする画面を何度タップしても反応がないことに顔を青くする。
『……無駄だ。チャンプにやられた連中の話は聞いただろ。バグかなんか知らねぇが、
先に撃墜された二機のダイバーはともかく、フレンドでもあるアニーを精神的に追い詰めていることに罪悪感を覚えるレオだが、ここで彼女に参戦してもらわなければ、格上のダイバーを相手に二対一で戦わなければならなくなる。だから、今だけは心の疼きに蓋をして、最後のトドメとなる言葉を重ねる。
『なあ、アニー。お前だって、今までバトルに勝てないせいで、さんざん悔しい思いをしてきたんだろ? ……せっかく手に入れた“力”を、失くしたいのか?』
『……ッ!』
フレンドとなってから聞いた、彼女がGBNで心無いダイバーに受けた仕打ち。それを知るレオに誘導されるがまま、逃げ道を塞がれたアニーはたとえ行く先が罠であるとわかっていても
『わ、わかったよ……や、やる……』
コントロールスティックを握り締めたアニー。俯いていたガッデスの顔が持ち上がると、紅のツインアイに光が灯った。
Tips
・ブレイクデカール
GBN内で流通している不正ツール。
いわゆるチートツールであり、もちろん違法。このツールを用いたガンプラはコンソールに「ブレイクブースト」と表記される特殊なモードが追加される。ダイバーが任意で発動するかを選択でき、この状態になると各種パラメータ値が改竄され、ガンプラの作り込みを無視して極端に機体の性能が強化される。
だがこのツールを使用することでGBN内部でバグと思われる現象が発生し、敵NPDの異常な挙動やパラメータの変動。果てはエリアの崩壊といった、規模の大きな異常が確認されている。
初期は低ランクのダイバーを中心に流通していたが、なかなか順位を上げられない下位ランカーにも広がりを見せており、特に最近になって使用者が急増している。
運営サイドも対策を講じてはいるようだが、その成果はお世辞にも上手くいっているとは言えない状況。
単純な機体の強化の他にも、使用者次第で様々な現象を引き起こすことが可能と言われているが、真相は未だ不明であり、その出自もまた謎に包まれている。