ガンダムビルドダイバーズ Behind the scenes 作:ほぼ読み専
レオというダイバーがGBNを始めた理由は、言ってしまえばありふれたものであった。
──自分の作ったガンプラを動かしてみたい──
GPDという
ガルムガンダム。
機動戦士ガンダムOOの外伝作品に登場する試作機で、本編に登場したイノベイド専用機「GNZシリーズ」の礎となったモビルスーツ。本編では数奇な運命を辿り秘匿され続け、やがて劇場版の裏側で活躍したエースパイロットの乗機となったガンダム。
同じ系譜に連なるGNZシリーズのキットからパーツを流用し、慣れないスクラッチに悪戦苦闘しながらも、完成した時には大きな達成感とともに写真を撮りまくった事は今も覚えている。
しかし、いざコイツを動かしてみようと、近場でGPDがプレイ可能な模型店に行き──そこで見た光景にレオは恐怖した。
GPDの筐体の中、ガンプラ同士が空を舞い、砲火を交わし、剣を斧を、時には拳と爪をぶつけ合う。
その様は
あれだけ苦労して作り上げたガンプラが、たった一回
ガンプラ作りは好きであるし、それなりに得意でもあるレオであったが、どうしてもそこに納得できなかった。もっと言えば、彼は
筐体を複数設置している大型の店舗ならば、レオのようなユーザーやバトル前の試運転に使うためのシングルプレイ専用の筐体を置いている場合もあったのだが、彼が行き来できる範囲にはそういった大型店はなく、訪れたのは個人経営の店舗で、狭い店内にあったのは対戦専用の筐体のみ。
結局その店にはそれ以来行くこともなく、GPDが廃れてGBNが台頭するまで、レオがガンプラバトルに触れることはなかった。
だからこそ、GPDに代わる新しいガンプラバトルのゲームとして、GBNが発表された時には大きな期待を寄せた。
筐体で読み込んだガンプラをデジタルデータとしてVR空間にて1/1サイズで再現。
フルダイブVRの技術で作られた電脳世界でプレイヤーが直接乗り込み操作することで、本当にモビルスーツを操縦しているかのような臨場感を持ちながら、バトルをしても現実のガンプラが破損することがない。
という仕様。レオが待ち望んで、しかし半ば諦めてもいた、まさに「これがやりたかった!」を体現したのがGBNだったのだ。
しかしながら現実は厳しく、家庭用筐体はその価格と競争率を前に購入を諦めざるをえなくなり、専用筐体を設置した店舗を利用してのログインもまた、田舎という地理的な条件が立ちふさがる。
サービス開始当初は現在のようにVR対応のネットカフェ等には専用筐体が設置されていることはなく、公式が展開しているガンプラ専門店「THE GUNDAM BASE」にしか筐体がなかった。
GBNの正式サービス開始に先んじて、全国各地の主要都市では支店の建設も始まっていたが、彼の生活圏からは遠い場所の出来事。実家住まいの学生では行ってくるだけでも宿泊が必要な小旅行になってしまう。
当時はレオの年齢もあり、両親は一人での遠出を許可してはくれず。加えて家庭用筐体を手に入れられなかったユーザーたちが、連日押し寄せていたため事前予約が必須なありさま。結局、店舗のある場所へ行くことが出来てもログインできないなら意味はなく、彼に出来ることはネットにアップされた他人のプレイ履歴や動画などを指をくわえて見ているだけだった。
そんな経緯からレオがGBNを始めることが出来たのは、実を言えばつい数か月前。ようやく彼の住む土地にも「THE GUNDAM BASE」の支店が開店してからだった。
──その間に、行き場を失った情熱を、さらに注ぎ込んだガルムガンダムの完成度が上がったのは良いのか悪いのか。
そうして念願かなって初めてGBNへとログインし、格納庫エリアで佇む原寸大の
期待と興奮を胸いっぱいに抱いて、ディメンションへと飛び出した彼は、今──
『墜ちろッ! クソッ! 墜ちろォ!』
§
レオにとってイフリート・ゲヘナとの戦闘は、まさしく悪夢としか言いようが無かった。
こちらの攻撃は掠りもしないのに、相手の攻撃はことごとくこちらを捉えてくる。今もレオが放った試作型GNメガランチャーの二連装式粒子ビームが、数舜前まで敵がいた空間を虚しく通り過ぎてゆく。
完璧に背後をとった一撃のはずだった。ブレイクデカールの力によって、常時トランザムとでもいうべき機動力を持つ愛機を振り回し、強引に背後や下方といった死角に回って攻撃しているはずなのに、あの一つ目の悪魔は、まるで背中に目があるとでも言うかのように、やすやすと回避をし続けている。
『なっ、んで……なんでッ! 当たらねぇ!?』
そして射撃のためにこちらが足を止めた瞬間、四方八方からビームと実体弾が降り注ぐ。弱点である
ブレイクデカールによって、全てのパラメータが強化されている今のガルムガンダムならば、たとえ
しかし──
「位置取りが甘い、射撃の精度がヌルい、回避のパターンが単調」
確かにブレイクデカールを発動させたガンプラは性能が上がる。不正ツールらしいその上がり幅は理不尽とも言えるほど。だが、
「というか、偏差射撃もせず、馬鹿のひとつ覚えみたいにこっちの死角に回り込んでから、
相手のあまりな操縦の
念のためにと、先ほどまでインコムに搭載したサブカメラを介して周辺を探り続けてもいたが、付近にはなにも
どれだけ素早く動こうが、どれだけ攻撃力があろうが、
これだけ完成度が高いガンプラならば、真っ当に練習して機体を扱えるようなればランキング戦でだって戦える。さっき墜とした素組み以下の二機とは違う。そう評するほど相手のガンプラは良くできていたため、純粋に疑問に思ったレイは、オープンチャットのまま思わず問いかける。
「──なんでチートなんて使ってるの?
『……ッ! 黙れ……』
「ガンプラの出来
──ガンプラの出来がいいから期待したのに──
──機体が良くても下手くそが乗ってたんじゃなぁ──
──もっとバトルの練習積めよな。正直、がっかりだぜ──
GBNを始めてからまもなく。初心者から抜け出して、協力ミッションや対人戦をやりだした頃のレオに、幾度も失望とともに投げかけられた言葉が脳内で蘇る。
レオは確かにガンプラ作りが好きで、ビルダーとしての才能もあったが──残念ながらバトルの才能には恵まれず、熱心に練習を重ねても
『黙れ黙れ黙れ! 黙れえぇぇッ! てめぇはここで死ねぇッ! トランザムッ!!』
音声入力によるスキル発動をしたガルムガンダム。その装甲が搭乗者の怒りを表すかのような紅蓮に染まる。
安定して発動するためには相当な作り込みが必要ではあるものの、一定時間、機体性能が三倍近くまで上昇するという破格の性能のブーストスキル。
『ぐうッ……! ぅおおおおおッ!』
ただでさえブレイクデカールによって強化されていた機体が、さらに加速したことで生み出す激しい、ゲームとは思えない
複数のインコムそれぞれにサブカメラを搭載したイフリート・ゲヘナでも、もはや追いきれないレベルの速度に到達したガルムガンダムは、左手にGNビームサーベルを展開すると、まさに瞬間移動のような速度で宇宙を駆ける。
もとより複雑なマニューバが出来ず、さらに速度を増した今、暴れる機体を必死で抑え、大回りの機動を描きながらイフリート・ゲヘナの右斜め下方に回り込むと、死角となる方向から斬りかかる。
悔しいかな、レイの言い分は的を射ている。トランザムを発動して全力の速度を出したガルムガンダムでは、碌に狙いを定めることもできないため、こうして機体ごとぶつけるようにして白兵戦を仕掛けることしかレオには出来ない。
──だが、これだけの速度が出ているのだ。たとえマニューバが単調だろうが、反応することさえ出来ないはず。
今まで下してきた他のダイバーたちとの対戦経験からレオはそう結論付ける。確かに、反応できない程の速度で攻撃を叩きこめば、大概の人間は防ぐことなど出来ない──
──はずだった。
「──だから、動きが単調だって言ってるでしょ」
『なんだと──!』
そう。大概の人間が防げないということは、逆に反応できる人間も僅かながらに存在するということだ。一桁の歳からGPDで大人げない大人達に鍛えられ、ガンプラバトルというゲームの持つ
辛うじてカメラが捉えた機影から相手の来る方角を予測し、
「迂闊ねッ!」
『隠し腕ッ!? しまっ──!』
イフリート・ゲヘナのフロントスカート。追加された装甲の下からはジ・Oのような隠し腕が展開し、先端に保持された
インコムを使ったオールレンジ攻撃と、両腕が武器腕のような形でビーム砲と一体化した姿だったため、射撃戦に特化した機体だと思い込んでの突撃を敢行したのだが──レオがその判断を後悔した時には既に遅く、赤熱した刀身によって半ばから断たれた砲身から火花が散る。
慌てて右手からメガランチャーを投げ捨てると、間を置かずに爆発が起こり、彼が丹精込めてスクラッチした武装は内部から起きた爆炎に飲まれて消失。間一髪で危険を免れたものの、主兵装を失ってしまう結果となった。
──鬱陶しい大型火器は潰した。これで、
オープンチャンネルのままだったため、声には出さず内心で密かに安堵の息をつくレイ。彼女にとってもこの戦い、決して楽なものではなく、先ほどの攻防はかなりギリギリのタイミングであった。
試作機として作られたガルムガンダムは、その設定に沿うならば、後継機であるガデッサが持つ武器の元となった試作型のGNメガランチャー以外にはオーソドックスな武装しか持たない。しかしこれはガンプラバトルだ。こちらの隠し腕のように、敵が
──VRゲームのチートがどういうものかわからないのが痛いわ。パラメータの強化だけならどうにかなるんだけど……
さらに厄介なのが、レイはVRゲームについての知識をあまり持たないことだった。チートといえば何々、のような予測が立てられないため、相手がどんな
幸いなことは、あのダイバーが機体パラメータに振り回されて、満足に性能を引き出せていないことだが、慢心に心を蝕まれた時、思わぬ死に繋がるのが勝負事である。
レイは己の焦燥が悟られぬよう、慌てた様子で離れていく紅の軌跡を油断なく見つめていた。
§
『クソックソッ! ……ちくしょう!』
一方でレオのほうはコックピットの中、荒れ狂う怒りのままコンソールを激しく殴打していた。こちらを嵌めるような真似をした敵と、その罠にまんまとかかってしまった自分、両方へ向けた怒りだった。
レイの懸念に反して、設定に忠実に作られたレオの機体は、速射性に優れた二連装モードと、威力を重視した照射モードに切り替える機構を備えた試作型GNメガランチャーを除くと、手首のGNバルカンと近接兵装のGNビームサーベルしか装備していない。
遠距離からでは弾道がバラけて当たらないGNバルカンだけではもう射撃戦は展開できず、残るは接近しての近距離戦闘しかないのだが、レオにはあの「一つ目の悪魔」に自分の攻撃が当たるとは到底思えなかった。
──フォースに入りたい? 下手くそはいらねぇよ──
──お前、バトルの才能ないよ。GBNやめてガンプラだけ作ってたら?──
──今回はお互い残念だったね……え? フレンドかぁ……ごめん、今はちょっと……──
このままでは負ける──それはすなわちブレイクデカールという"力"を失うことを意味し、心にじわじわと忍び寄る絶望が、追い詰められた精神が、思い出したくもない言葉を繰り返し再生させる。
『──ッ! バトルが弱いヤツはGBNをやっちゃダメなのかよ! 下手くそなヤツがいいガンプラに乗ってたらダメなのかよ!』
レイはそのような事は一言も言っていないのだが、怒りのあまり過去に経験した
その怒りと憎しみは、今戦ってる相手へのものだけではなく、バトルの強さに価値を置くGBNのあり方に対しても向けられていた。
「……誰もそんなこと言ってないでしょ」
『俺と組んだヤツらは口をそろえて言ったよ! バトルが上手い奴にはわかんねぇんだよ! 結局GBNじゃ強くなけりゃ見下される! 弱いヤツは誰も認めてくれない! 必要とされない!』
錯乱したように叫ぶレオに、もはやレイの言葉は届いていない。己の主張だけを喚き散らすだけの内容で、偏見と思い込みに満ちたものであるが、少なくともレオ本人にとってはそれが真実であり、出会いに恵まれなかったこともまた、彼にとっては不幸だったと言える。
『お前みたいなヤツらが……!
レオの怒りを表すようにして、ガルムガンダムが吼える──否、
音にならない吠え声を上げるように天を睨むガルムガンダムに呼応するように、纏っていた紫色のオーラがひと際大きく吹き上がり──