ガンダムビルドダイバーズ Behind the scenes   作:ほぼ読み専

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感想コメント、評価ありがとうございます。


ひとまずの決着

「──ッ! なに!?」

 

 宇宙空間を再現していたエリア内の景色。漆黒の闇と僅かな星の光が瞬く空間の至る所に亀裂が走ると、テクスチャが剥がれ落ち、砂嵐のようなノイズが溢れ出す。なんらかの()()とは到底思えない明らかな異常。

 

 尋常ではない状況の変化にレイが困惑している間にも、ガルムガンダムはさらなる変貌を遂げる。

 

 フェイスカバーに亀裂が走ると、ウォルターガンダムのように()()()と開き、その中には存在しない(作っていない)牙がずらりと並ぶ。それだけに留まらず、機体がぎしぎしめりみりと軋む。

 見る間に一回り大きくなっていく体。頭部は口がイヌ科を思わせる形に伸びてゆき、鋭い犬歯からは透明なオイルのような粘液が滴っている。

 みしりみしり、まるで筋肉が肥大するようにして太くなる腕部からはGNシールドが弾け飛び、GNコンデンサーだった大型の肩部は後退。脚部に至っては原型がわからなくなるほど大きく形状が変化。四つ足の、ガイアガンダムのMA形態のような、獣を模した体型へ変わると前腕と脚部の先には鋭い爪が生え、尾部には幾つもの()を持ち、長く機械的なデザインの尾が伸びる。

 

 まさに機体名の示す姿、北欧神話の番犬を象ったような姿となったガルムガンダム。

 

 その変貌は、明らかに常軌を逸していた。

 

 間違ってもガンプラに仕込んだギミックだとか、プラグインだとかの類ではない。強いて言えば、DG(デビルガンダム)細胞の浸食のような生き物じみた()()は、人が狼に変わる空想の生物、狼人間(ライカンスロープ)を彷彿とさせる。

 

『ああああッ! 死ねよぁーッ!』

 

 狂ったようなレオの叫び声を置き去りに、四肢をしならせ紅蓮を纏うガルムガンダム。GN粒子をつま先に展開して、宙を()()()()突進する様はまさに獣そのもの。

 

「……ッ! 今は気にしてる場合じゃない、か」

 

 至る所でノイズが走り、変わり果てたエリアと敵機に戸惑いながらも、一直線にこちらへ向かってくる機影を前に、今はそれらに構う暇はないと思考を中断。腕に接続されたビームライフルを構えるレイ。

 

 イフリート・アサルトからイフリート・ゲヘナへと改造される過程で、レイの愛機はその姿を大きく変えている。スラスターを備えた追加装甲と、各所に配されたサブカメラ付きのインコムをはじめとして、ビームライフルの銃身がそのまま前腕になった形の、いわゆる「武器腕」もそのひとつだ。

 これはマニピュレータを失ったことでMSとしての汎用性に欠ける反面、射撃時のブレが抑制され、機動戦の最中でも安定した射撃を可能とする特殊な構造の腕部だ。

 

「真っすぐ突っ込んでくるなんて──!」

 

 どうしてあのような姿になったのかは不明だが、四足歩行となったことで背後に回らずとも正面から背中のコックピット(コア・ファイター)が狙える。弱点を丸出しにした相手。絶好の好機。ここで決めると決断を下し、レイは武装の中で最大の威力を持つ、両腕のライフルの高出力モードを解放した。

 

 イフリート・ゲヘナが両腕を水平に構えると、銃身下部に折りたたまれていた砲身が展開、接続。大型化したバックパックに増設されたジェネレーターが唸りを上げ、二つの砲口に光が凝縮されてゆく。

 イフリート・ゲヘナに装備されているビームライフルは、奇しくも先ほどガルムガンダムが失った主兵装と似たコンセプトを備えていた。

 ケルディムガンダムのGNスナイパーライフルⅡを元にしたそれは、状況に応じて砲身を変形させることで、速射性に優れた通常モードと、単発だが長射程、高威力を誇る高出力モードを使い分けることができる。

 

 数秒ほどのチャージを経て、一心不乱にこちらへ向かってくる番犬に、イフリート・ゲヘナから放たれた二条の光が突き刺さる。ツインバスターライフルにも匹敵する威力を持つビームの奔流が、ノイズの走る宇宙を照らし、僅かな時間、互いの機体が暗黒の空へ鮮やかに浮かび上がった。

 

「──GNフィールド!?」

 

 今の状態で放てる最大威力の一撃。しかしそれは、番犬が己の鼻先に展開した粒子のバリアによって散らされる。トランザムを起動させながらのGNフィールドの展開。一基の疑似太陽炉が生み出す粒子量では到底足りない──普通ならば。

 

「粒子の使用上限も無視するか!」

『おおおおおッ!』

「くッ──!」

 

 勝負を焦って犯した失策に歯噛みしながらも、レイは武装スロットを開いて設定されているサブウェポンを選択。機体をランダム機動で後退させながら発射トリガーを引くと、イフリート・ゲヘナのバックパック上部に装備された、元キットのミサイルポッドから合計十二発のミサイルが放たれる。

 

 己を狙う誘導兵器を察知したガルムガンダムは軌道を大きく変更。向かってくるミサイル群を横方向に駆けることで躱そうと試みるも、近接信管が選択された弾頭は脇を掠めた瞬間に次々と爆発。帯を広げるようにして横長の爆炎が獣の姿を飲み込んだ。

 

 リチャージを待つ猶予がないと判断して、デッドウェイトにしかならない空のミサイルポッドをパージ。最悪はGNフィールドごと切り裂けるセナとのスイッチ、あるいはジャバウォックのビーム兵器からディスチャージを行い、盾ごと貫通する可能性を持つチャージ射撃の火力で仕留めることを考えたレイは、フェイントを混ぜた軌道で彼方に見えるビームの嵐へと後退を続けるが、

 

「──ッ! レーダーを無効化しているはずなんだけど、ねッ!」

 

 ミサイルの中にミノフスキー粒子を散布する弾頭を混ぜ込み、一時的にレーダーの類を無効化。爆炎に紛れて距離を取ろうと試みた目くらましのミサイルだったが、爆発の煙を突き破り、迷うことなく突進してくる影を認めて、移動をしながらも全身の火器を総動員させて牽制の迎撃を行う。

 

 両腕、両肩、両足、計六門の銃口からビームが放たれ、バックパックのショートバレルキャノンも断続的に弾頭を発射。未来位置を予測させないランダムな機動をしながらも、正確に敵機を捉えるイフリート・ゲヘナの射撃だが、変わらず展開し続けているガルムガンダムのGNフィールドがことごとく阻み有効打とはならない。

 

「ほんっと、嫌になるわね、チートってのは」

 

 本来粒子消費量の多いGNフィールドは、トランザム中の展開はもちろんだが、このような長時間に渡る連続使用は不可能であるし、仮に維持できたとしてもそれでは機体制御に回す分が足りなくなり、戦闘が行える状態ではなくなる。

 そういった原作設定に基づくゲーム的な制約を、チートという手段は全て無視するのだ。なるほど、これは使う奴も出てくるはずだと、レイは嫌な納得を覚える。

 

 後退するこちらに対して自由自在に虚空を蹴って走るガルムガンダム。足先にGNフィールドを応用して足場でも形成しているのか、速度は変身前と遜色ないくせ、まるで地面を走る獣のようなしっかりした足取りでもってこちらの軌道に追いすがり、宇宙空間を駆けてくる。加えて全身に鉄壁の防御フィールドを張り巡らせているとなれば──彼我の距離が詰められるのは自明の理だった。

 

『死ィねェェェェッ!』

 

 イフリート・ゲヘナへ飛び掛かるガルムガンダム。迎撃にショートバレルキャノンを向けるが、敵機の脇へ回り込んでいた尻尾から放たれたGN粒子のビームが砲身を引き裂き、一拍遅れて爆発を引き起こす。

 

「……ッ、ヴェイガンみたいな武器を!」

 

 咄嗟にパージするものの、バックパック付近で発生した衝撃でイフリート・ゲヘナは態勢を崩してしまう。

 

 そこへ犬が人間を押し倒すようにしてガルムガンダムが両の前脚でイフリート・ゲヘナの肩へ組みつくと、マニピュレータが変形した爪でもって肩部のビーム砲を握り潰す。

 

「くぅ……!」

 

 なんとか敵機を引きはがそうとレイはもがくが、パワーは圧倒的に相手が上。押さえられた肩は全く動かない。サブアームを展開し、シールドで殴りつけてもびくともせず、逆に盾のほうがへこみ、押しのけようと無理をさせたアームからは火花が走る。

 ならばと、脚部のインコムを分離させて背中を狙うも、その二機は先端にビーム刃を形成した尾の一撃で薙ぎ払われ、次の瞬間、両足の膝には後ろ足の爪が突き刺さった。

 

「このっ……離れ、ろッ!」

 

 四肢を使って完全にマウントを取られた態勢のイフリート・ゲヘナ。それでも諦めないレイは腰部のマシンガンを接射するが、可動範囲の問題で密着した敵の関節部は狙えず、装甲に弾かれるばかりで効果がない。単眼の頭部を狙って迫る顎。咄嗟に二本の隠し腕を展開するも、凶悪な牙が刃に食い込み、力任せに纏めて食い千切られる。

 

『ハハ……ハハハハッ! ざまぁねぇなあ、オイ!』

 

 こちらを見下していた相手が満身創痍になる姿に、レオの心を暗い愉悦が満たす。

 

『終わりだなァ!』

 

 レオが怒りと狂気を込めた宣言と同時、股下から顔を覗かせたテイルキャノンがコックピットのある腹部へ向けられ、その先端にはGN粒子が収束する。

 

 逃れられない状況。完全に詰み。

 

 

 

 

 

「──そっちがね」

 

 しかしチェックメイト(王手)をかけているのは、レイもまた同じだった。

 

『負け惜しみをォ──!?』

 

 この状態でなにが出来る。レイの言葉を嘲笑い、トリガーに掛けた親指を押し込もうとするレオだったが──

 

 なにかが彼のいるコックピットにぶつかるような、軽い衝撃を感じた瞬間、イフリート・ゲヘナを押し倒したガルムガンダムの背後、バックパックのコア・ファイターを交差するように二筋の光が貫く。

 

『──あ?』

 

 何が起きたのか理解できず、撃墜判定を受けたことで沈黙した機体の中、レオの口から気の抜けたような声が漏れた。

 四肢から力の抜けたガルムガンダムを、スパークを放つサブアームを無理やり動かし、大きく凹んだシールドで押しのけて距離を取るイフリート・ゲヘナ。

 

「インコムは四基だと思った? ──残念。正解は()()よ」

 

 組みつくためにGNフィールドを解除したガルムガンダムを見て、レイは刹那の判断で戦術を変更。自機を囮として差し出すことで、まだ見せていない手札を活かし千載一遇のチャンスを掴んだ。

 

 接近し、密着するような距離にいた事と、シールドによって巧みに隠されていたことで、頭部のメインカメラでは見切れていたイフリート・ゲヘナの両腕。よく見ればそれは上腕しかなく──振り向いて背後を確認したガルムガンダムが見たのは、無線式のインコムとなって宙に浮かぶ武器腕(前腕)

 ドーベンウルフのビームハンドを参考に、イフリート・ゲヘナの前腕部もまたインコムとして分離、遠隔操作が可能で、それこそレイが伏せていたカード。絶対の護りを捨てた番犬を仕留めた狩人の一撃。

 

『……ちくしょう……なんでだよ……』

 

 ここで撃墜されてしまった以上、もうブレイクデカールは使えない。今や相当な数のダイバーに広がっているあのツールは入手するにも順番待ちで、次に手に入るのがいつになるのか見当もつかなかった。

 

『俺だってGBNを楽しみたかった……それだけなのに、なんで……』

 

 真っ赤に染まったコックピットが歪む。レオ自身もなぜ悔し涙を流しているのかわからない。相手にしてやられた事が悔しいのか、不正ツールに手を出してまで負けてしまった己の無様な有様が我慢ならないのか、ぐちゃぐちゃになった感情は混沌としていて、出口を求めてぐるぐると彷徨うばかり。

 

 ただ、ひとつだけはっきりとしているのは、「自分はなぜこんなことをしているのだろう」という虚無感。

 

 チートに手を出し、他人のプレイを邪魔して、挙句に返り討ちにあった自分が滑稽で仕方がない。

 

 自慢の作品であるガルムガンダム。今でこそ見る影もなく変貌していたが、この機体を操縦して動かしてみたかったから始めたのがGBNで……少なくとも不正ツールを使ってまで他者に勝つなどというのは、レオが最初にログインした時には微塵も持っていない願望だった。

 

 ランクが低くてもいい。バトルに勝てなくてもいい。ただ、この愛機が動く雄姿を見たい。

 

 そして……気の合う友人ができればいい──

 

『ああ……』

 

 そうだった。ブレイクデカール(こんなもの)に手を出したのは──現実(リアル)では周囲にガンプラの話をできる人間がおらず、もともとは話題を共有できるフレンドが欲しくて、でもバトルで結果を出せないと認めてもらえなくて、それで──

 

「──はぁ……バトルの強さ()()()に拘るからでしょ?」

 

 内に秘めた想い(怒り)を喚きながら散々暴れたからなのか、レオが落ち着きかけた時、通信ウィンドウから呆れたような溜息ともにかけられた言葉が彼の心を逆撫でする。

 

『だからッ! バトルが弱い奴は──!』

「ペリシアエリア」

『──あぁ?』

 

 最も言われたくない相手(バトルが強い奴)からの言葉に、瞬間的に怒りが再燃し、カッとなって声を荒げるレオに被せるように続けられた名前。GBNを始めてまだ数か月。バトルで活躍することに躍起になっていた彼にとって、聞き慣れないエリア名に訝しそうに首を傾げる。

 

「ガンプラビルダーの聖地だそうよ。世界中のビルダーが集まってお互いの作品を見せあう場所。もちろん、評価されるのはガンプラの出来栄え。だから、そこへ行けば、GBNがバトルだけじゃないってわかるかもね」

『ペリシア……』

 

 「……本当はこのミッションが終わってから、私たちも行くつもりだったんだけどね」という言葉は口に出さずに飲み込むレイ。

 

「後の詳細は自分で調べなさい……私もGBNには詳しくないけど、それでもGPDの時ほどバトル一辺倒の世界でないことは保証できるわ」

 

 レイの言葉には実感が籠っていた。つい最近、友人たちと遊んだベアッガイフェスが脳裏に蘇る。

 

『……』

 

 ぶっきらぼうな言い方だったが、チートを使って襲い掛かった自分を気遣うような言葉をかけられ、今更だがブレイクデカールを使っていた後ろめたさを感じて、レオは返す言葉が出てこない。

 

「それと……戦闘中はトラッシュ・トークでああ言ったけど、基本は出来ていたわよ。あまり卑下しないことね」

『え……』

 

 なにかを言いかけようとしてレオが口を開きかけた時──ガルムガンダムの機体は爆発。僅かな浮遊感の後、彼の姿は格納庫エリアに強制転送された。

 

 

 

 

 

「ビルダーの聖地……か」

 

 灰色が支配する格納庫へ降り立ち、呆然としながら見上げた先、ハンガーに佇むのはガルムガンダム(愛機)の姿。ブレイクデカールの効果が切れたのか元の人型に戻っている。

 

「ペリシア……行ってみるか」

 

 機体を見上げ、語り掛けるようにしてレオが呟く。

 

 きっと思い込みなのだろう。それでも、憑き物が落ちたようにすっきりとした顔をした彼の言葉を受けて、ガルムガンダムのツインアイが僅かに光ったように見え──それはとても暖かなものに思えた。




次回の更新には今少しお時間を頂きたく……
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