ガンダムビルドダイバーズ Behind the scenes   作:ほぼ読み専

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これにてジャバウォック戦は終わりです。


凶鳥と怪物

 コックピットを撃ち抜かれた敵機が爆散し、ポリゴンの欠片となって消えてゆく。

 

「はぁ……デビュー戦だったのに派手にやられたわ」

 

 敵の撃墜を確認したレイは大きく息を吐く。コンソールで機体状況を確認するが、戦いを制した代償は酷いものだった。

 

 両足は膝関節が破損。腕も前腕は無事なものの、肩部が異常を示しており精密な射撃はできそうもない。武装に至っては悲惨の一言で、肩部、脚部のインコムは全滅。無事なのは腕のライフルと腰のマシンガンのみで、隠し腕は食いちぎられ、ショートバレルキャノンが爆発した影響を受けたバックパックはスラスターが破損し、アブソーブシステムのキーとなる実体盾は大きく歪んで吸入口を展開できない。

 パージしたミサイルポッドは時間経過で復活するが、ミサイル系武装のリキャストタイムは長く、ミッションの残り時間を見るに悠長に待ってはいられない。

 

 溜息をひとつ吐いてから部隊通信(パーティチャット)で相棒に繋ぐ。

 

 腕部のインコムは飛ばせる範囲が限定されているため、ここからでは支援射撃もできない。メインスラスターが機能しない今、この機体はただの漂流物(デブリ)と変わらない状態だった。

 

「セナ、ごめん。こっちは片付いたけど、加勢は出来そうもないわ」

 

 今の状態だと足手まといにしかならないことを自覚しているレイは、少し申し訳なさそうに声を落としてセナへ声をかけるが──

 

『……そっかー、しょうがないなー。じゃあわたしひとりでやるね!』

 

 返ってきたのはウッキウキな様子を隠しきれていない弾んだ声音だった。

 

「……そっちはどうなってる?」

『チーターは縮こまって動かないから、実質ボスとの一対一。ヤバいよー、ジャバウォック滅茶苦茶強い。まじで興奮する』

 

 ニコニコ顔の相棒を通信ウィンドウ越しに見て、聞くまでもないことだと思いながらもレイは問わずにはいられず、

 

「……ねえ、セナ? ──楽しい?」

 

 と聞けば──

 

『──めっちゃ楽しい!』

 

 輝くような笑顔で断言された。

 

 それを見たレイは、ふっ──とニヒルに口の端を釣り上げて通信を終える。

 

「……」

 

 セナが楽しそうにしているのなら、やはりあのミッションボスはかなり強い(楽しい)相手なのだろう。

 

 そのことを確信したレイは言葉にできないもやもやを感じる。

 

 たとえばそう、友達と買い物に行って、友人だけ欲しい物が手に入り、自分の欲しかった物は目の前で売り切れになってしまったような、そんなもやっとした気持ちだ。

 

「はぁ……」

 

 再びの溜息の後、沈黙したレイ。時間にして十秒ほどか。俯いていた顔を上げ、全てのチャットをオフにしたことを確認してから、大きく息を吸い込むと──

 

 

「あああああーッ! 私もジャバウォックと戦いたかったァァァァ!」

 

 

 頭を抱えて仰け反りながら、力の限りコックピットの中で絶叫した。

 

 

 

 

 

§

 

 

 

 

 

 時は少し遡り、レイがガルムガンダムと戦闘中の時──

 

『ファンネルかった!──ぬおっ!? あっぶなー……アハハッ! 尻尾か! そういう武器もあるんだね!』

 

 アニーは恐怖した。

 

 ジャバウォックというハイランカーが生み出した怪物。その巨体から嵐のような破壊を振りまく異形の竜と──

 

『あはははは! つよーい! たーのしー!』

 

 それを相手にテンションマックスで笑い声を上げながら渡り合う一人のダイバー(戦闘民族)に。

 

「ふぇぇぇ……なにあれぇ……怖いよぅ……」

 

 ただガンダム作品が好きなだけ、GBNも話題になっているからと、なんとなく始めただけのライトユーザーのアニー。

 

 今回の乱入だって、もとは先に墜ちたガデッサとガラッゾのダイバーたちに強引に誘われたからついて来ただけ。もともと臆病な気質のアニーは、NPD操作とはいえハイランカーのガンプラに挑むような気概の持ち主ではない。

 そんな彼女には、怪物相手に嬉々として挑みかかる人間(セナ)の心理が理解できなかった。

 

 嬉しそうな様子とは裏腹に、どう見てもセナ(あの子)はジャバウォックを相手に苦戦している。未だ有効打のひとつもなく、攻略の糸口も見えない。それなのに戦っている本人だけは実に楽しそうに笑っているものだから、理解が出来ない不可解さがやがて恐怖に変わる。

 

 オープンチャットを切り忘れているのか、通信ウィンドウから絶えず聞こえてくる笑い声。コックピットの中で小さくなって見つめるモニターには、凶鳥と怪物の戦いが映し出されている。

 

「動きは凄いけど……」

 

 ガンダム・フレームらしい生身の人間じみた動きと、大型ウィングスラスターを使いこなした鋭いマニューバで果敢に斬りかかるガンダム・カイム。

 フェザーファンネルとサイコプレート、両腕の十門のビーム砲に巨大なテイルブレードと、要塞もかくやな種類の武装を展開して攻め立てるジャバウォックだが、カイムはナノラミネート装甲の各所を剥離させ全身が煤けているものの、攻撃が直撃したこと(クリーンヒット)は未だない。

 

 ──当たらなければどうということはない──

 

 ガンダム世界の名言だが、言うは易く行うは難し。それを実行している存在が、今アニーの目の前にいる。

 

 フェザーファンネルが飛び交い、サイコプレートが立ちはだかる。襲い来る質量の暴風。アニーからしたら恐怖しかない兵器の群れを、時に躱し、時にCファンネルや、スラスターに内蔵されたドッズライフルのビームをぶつけて逸らす。

 十条のビームと頭部の連装式ビームは、その射線を射角と砲口の向きだけで見切り、網の目を潜るように飛翔する小さなシルエットが、最小限の動作でもって掠めるようなギリギリの距離でかいくぐる。

 

 そうして下方から迫るガンダム・カイムに、ジャバウォックは脚を振りかぶる。ハシュマルの腕部を元にしたそれは、巨大なクローを備えて、鬱陶しい羽虫を叩き潰さんと振り下ろされた。

 

 龍爪と呼ぶに相応しい巨大な爪の一撃。迫りくる致死の攻撃を、ウィングスラスターを偏向させ機体をロールして躱すガンダム・カイム。勢いをそのまま、さらに機体を旋回させて一回転すると、そのエネルギーを乗せた脚部を回し蹴りのようにクローの接続部分へと叩きつける。

 

 接続部へと食い込む脚部のレイザーブレイドが、火花を散らしながら振り抜かれた。

 

 切断こそ出来なかったものの、開閉機構を損傷し、開いたままになったクローを蹴りつけ、反動をつけて再度飛び上がるカイム。狙うのはハシュマルの胴体を用いた下半身。構造的に腕部と頭部のビーム砲の射線が通らない股下だ。

 

「どうして……」

 

 自分とは次元の違うレベルの攻防。敵のヘイトがこちらに向かないよう必死に祈り、見ているしかできない戦い。レオに言われた作戦などとっくに不可能だと諦めていたが、その戦いからは目が離せなかった。

 

 アニーの目から見てもガンダム・カイムはよく出来たガンプラで、操るダイバーの腕も相当なものであるが、あの怪物の完成度はそれらを凌駕している。

 

 手数も火力も装甲も圧倒的に相手が上。こちらは一撃もらえばお終いなのに、敵は無限とも思える耐久値を持っている。アニーからすれば理不尽極まりない条件としか思えない。

 

 「クソゲー!」と叫んでリタイアしてもいいじゃないか。「はいはい無理ゲー」と諦めてしまってもいいじゃないか。少なくとも自分ならそうする。それなのに──

 

『うおぅ!? ビームソード!? こんなのまであるの!?』

 

 ──どうしてそんなに楽しそうなの?

 

 理解が出来ないし、なにより怖い。だけど……

 

 諦める様子など微塵もなく、圧倒的な怪物へと挑み続けるその姿を見ていると、周囲にGNビームサーベルファングを展開し、ブレイクデカールで強化された隠密スキルでターゲットから逃れ、ひたすら戦場の隅で小さくなっている自分が酷くみじめに思えてくる。

 

 そして、同時に──

 

「ぅう……が、がんばって……!」

 

 なぜだかあの挑戦者を応援したくなってしまった。

 

 

 

 

 

§

 

 

 

 

 

 そして時間は現在に戻る。

 

 一度は股下に潜り込むことに成功したセナだったが、有線式ビームソードに阻まれて離脱を余儀なくされた。

 

 だが同時にやはり股下には射線が通らないことを確認して再び隙を伺う。

 

 なにやらエリア全体がノイズまみれになっているが、戦いに集中しているセナは必要のない情報として切り捨てた。

 

 本来ジャバウォックにはセミ・サイコ・シャードやNT-Dといった兵装もあるのだが、それらを使用する様子はなく、ゆえにこの戦いは今まで辛うじて拮抗していたのだが……

 

『なんかわらわら出てきた!?』

 

 予習として閲覧した動画では見られなかったが、()にされた機体の特性からレイがあるはずと予測を立てていた機能があった。

 

 ジャバウォックの下半身から多数の小型機が吐き出されるのを見たセナが驚く。ジャバウォックを親機として連動する、無人小型機動兵器群(サブユニット)の「ワイバーン」だ。

 ハシュマルが持つ小型機動兵器(プルーマ)を生み出す機能。それを利用して生み出された「子機」たちの数は五十にも届くほど。

 小型といってもそのサイズはMSを相手取るに十分で、原作のプルーマからして、取り押さえるには二機のMSでようやくというパワーを持っていた。

 

 そんな小型機動兵器が雲霞となってガンダム・カイムに向かってくる。

 

『レイの言った通りだ……二面で見たのとは形が違うけど、アレとおんなじようなのか』

 

 フェイズ2にて戦ったハシュマルを思い出すセナ。地上戦ゆえに上を取れたことと、多数を一挙に殲滅できる相棒の頼もしい援護があったおかげでさほど苦戦しなかったが、今の戦場は宇宙で自分はソロだ。

 

『くぉんのぉーッ!』

 

 相変わらずの高密度な弾幕を辛うじて避けながら飛び回るガンダム・カイムだが、包囲するように広がったワイバーンたちによって行動範囲が限定され、先ほどのように余裕を持っての回避行動が出来ていない。

 

『ウジャウジャと──』

 

 加えて敵の遠隔操作武器の牽制に回していたCファンネルを、新たに現れたワイバーンたちの迎撃に回さざるをえなくなり、ただでさえ足りなかった手数がさらに削られる。

 

 このままでは追い詰められると察したセナは、両手のレイザーブレイドを連結。

 

『邪魔だぁーッ!』

 

 機体を捻った勢いをつけて投擲する。

 

 ブーメランのように回転する巨大な刃はCファンネルでもある。ゆえにセナの思い描く軌跡を辿り自在に飛翔し、緑光のきらめきを描きながら次々とワイバーンを引き裂いて飛ぶ。

 

 しかし──

 

 半分ほどの数を引き裂いたあたりで、飛来してきた幾つものフェザーファンネルが、レイザーブレイド目掛けて殺到する。

 ガンダム・カイムのレイザーブレイドはレイが妥協なく仕上げただけあり、巨大な羽たちをも次々と砕いてゆくが、巨大な質量物(フェザーファンネル)にぶつかる度にどうしても勢いと速度は衰えてゆく。

 思念操作で呼び戻そうとしたセナだったが時すでに遅く、速度を下げた刃に多数のワイバーンが取り付き、それぞれのスラスターを全力稼働させて急制動をかける。

 

 機械の翼竜に集られ、歪な塊となったレイザーブレイドがついに止まる。そこに、光を留めたジャバウォックの頭部が向けられ──

 

『しまっ──』

 

 五連装式ビーム砲。

 

 アブソーブシステムを用いてようやく凌いだ途方もない威力の光が、取り付いたワイバーンの群れごとレイザーブレイドを飲み込んだ。

 

 あまりの光量にアニーがとっさに目を眇める。

 

 もはや光の柱と形容できる程のビームの奔流が通過すれば、後には黒く煤け、かろうじて()()とわかる程度に形を留めた魔神の刃の残骸が残るのみ。

 しばらく宙を漂っていたその影は、やがて砂が崩れるように崩壊し、ポリゴンの塵となって宇宙に散った。

 

「そんな……」

『──ッやってくれたねぇ!』

 

 アニーが力なく呟くなか、セナが己の判断に後悔する間もなく、残りが四分の一ほどになったワイバーンがガンダム・カイムに襲い掛かる。

 

 腰裏から二本の高出力ビームサーベルを抜き放ち、五基のCファンネルを併用して、猛然と向かい来るワイバーンを塵殺するセナ。レイザーブレイドの喪失と引き換えに、いくつかフェザーファンネルを潰したものの、手数の差は依然として圧倒的に不利だ。

 

「……やっぱり無理だよぉ。あんなのに勝てるわけ」

『──ふふっ……』

 

 ない、とアニーが呟くのに被せるようにして響くのは、吐息のようなかすかな()()

 

『ほんっとーに、』

 

 いまだ闘志は衰えず、否、むしろなお燃え盛り、その中に隠しきれない喜悦を滲ませて。

 

『──楽しませてくれるねぇ』

 

 ──戦士(セナ)が、笑う。

 

 

 イヴ、という不思議な少女は言った。「ガンプラには作り手の想い(願い)が宿る」と。

 

『まだ終わりじゃない。これで終わらせるなんて()()()()

 

 ならばレイが。GBNで出会い、今や一番の親友であると胸を張って言える彼女が、セナ()のために作り上げたこの機体(悪魔)に込める想い(願い)とはなにか。

 

()()()()()()()()()()()()()

 

 それは、きっと、疑いようもなく──

 

()()()

 

 ──強敵との戦い(飽くなき闘争)だ。

 

 美しさすら感じる声音で、囁くように紡がれた主の言葉に、悪魔はその身に宿る力を解き放つことで答えとした。

 

 

 ──阿頼耶識システム、リミッター解除。

 

 

 

 

 

§

 

 

 

 

 

 ふたつのエイハブリアクターが咆哮にも似た唸りを上げる。それは悪魔が上げる歓喜の雄たけび。

 

 紅のツインアイが夕陽のような金色の光を宿し、インナー・フレームの各所からも同じ色の光が漏れ出す。

 

 ウィングスラスターが爆発したのかと錯覚するほどの噴射を起こすと、主の意を受けた悪魔(ガンダム)は両手に光刃を携えて、物語の怪物(ジャバウォック)へと挑みかかる。

 

 それまでの動きをさらに超越した反応速度。あまりにも素早く変則的に行われるマニューバによって、黄金の光を放つ瞳が闇の中鮮やかな残像を残し、リミッターという軛を解かれた凶鳥が羽ばたく。

 

 フェザーファンネルのいくつかと多数のワイバーンを喪失したが、本体の武装は未だ十全なジャバウォックは十指のビームをはじめとした迎撃を行うが、文字通りの悪魔と化したガンダム・カイムを捉えられない。

 

 行く手を阻む小竜を引き裂き、迫りくる羽を蹴り返し、迸る破壊の光は緑光を放つ刃(Cファンネル)を盾として。

 

 黄金の軌跡を漆黒の中に刻みながら鳥の魔神が進撃する。

 

 フェザーファンネルを蹴りつけた足は砕け、ビームを受け止めたCファンネルが融解する。損傷してゆく機体、失われる武装。最短距離を突き進むために支払われた代償は大きく、それはもはや最後の悪あがきにも近い突撃。死すら厭わない行軍。

 

 だが、己の身を削りながらも怪物に挑む小さな姿は、いっそ美しくすらあって。

 

「なんて、綺麗……」

 

 時として人は破滅的な存在に美しさを見出す。アニーもまたガンダム・カイムの姿にそれを見ていた。

 

 

 満身創痍になりながらも止まらない魔神に振るわれるは尾の一撃。

 

『──ぉおおおおッ!』

 

 気合と共にセナは機体をバレルロールさせてブレード部分を回避すると、すれ違いざま両腕を振り抜く。

 

 最大出力となったビームサーベルは見事にワイヤーを切断。さらに頭部の五連装式ビーム砲に光が集うが、セナの操るカイムのほうが速い。

 

 ついに巨体へ肉薄したカイムは竜の頭部めがけて、ツインアイと同じ金色の刃を振りかぶった。

 

『──ぐッ!?』

 

 しかし突然襲った衝撃波によって機体が吹き飛ばされる。

 

 ジャバウォックの体から溢れる光──フル・サイコフレームの発する共振現象の余波だ。

 

『……ッ!? 操作が……!』

 

 一時的に操縦を受け付けなくなった機体にセナが困惑した時、ジャバウォックはついに己が背に負う朽ちた巨剣を抜き放つ。

 

 ──それは刀身が半ばから失われた大剣。

 

 巨大な腕に握られるのは、一見して武器としては不完全なもの。だが、かのビルダーが、()()()()()()()を愛機の武器として持たせるわけもなく。

 

 さらに動きが止まったカイムへと、残っていた僅かなワイバーンが四肢へ取り付き自由を奪い拘束する。

 

『くぅ、邪魔ァ!』

 

 焦るセナを尻目に、これまで周囲を飛び回っていたサイコプレートが次々と掲げられた剣へ集うと、まるで欠けた刃の代わりとなるようにして、折れた先へと繋がっては刀身を形成してゆく。

 

 そうして作られるのは、持ち主同様に歪だが、サイコミュの輝きを放つ美しい一振り。

 

『……ッ!』

 

 もはや言葉もなく、ようやく反応するようになった機体から、必死に敵の小型機を振りほどこうとするが、腕に、足に、翼に爪を突き立てた怪物の配下たちは、レイザーブレイドにそうしたようにスラスターを全開で吹かしてガンダム・カイムをその場に縫い留める。

 

 あんな大仰な前振りで登場した武器だ。直感に頼る必要もないほど、()()()()()()()()というのはこれでもかとわかる。

 

 焦燥に支配されつつも冷静に状況を判断する頭は残っている。その冷静な部分が告げるのだ。「この状況は詰みである」と。この上なく冷たい現実に歯噛みするセナ。動けないカイムへついに巨剣が振り降ろされる。

 

 全てのサイコプレートを纏い、蒼い光の残像を描いて打ち下ろされる一撃は……悔しいが見惚れるほど。

 

『……ダメッ!!』

 

 最後の意地で迫る刃を見据えていたセナの耳に、震えながらも決然とした叫びが届いたのはその時だ。

 

「──え?」

 

 

 すっかり存在を忘れていた相手の声に驚くと同時に、カイムに取り付いていたワイバーンが、次々と()()()に貫かれて機能を停止させた。

 

 それは菱形をした飛翔体──ガッデスのGNビームサーベルファング。

 

『いって! ファング!』

 

 戦場の隅で縮こまっていたはずの機体が、いつの間にかカイムの近くまで来て、その手に持ったGNヒートサーベルを指揮者のタクトのように振り下ろせば、七基の刃はジャバウォックへと飛翔して、大剣を握る手、その指の付け根をことごとく切り裂いた。

 

「えっと……」

 

 怪物の手から零れ落ちる剣を横目に、セナは戸惑ったような声をあげる。それも当然だ。なにせ相手はミッションに乱入して、ボスを横取りしようとした連中の仲間。なぜ自分を助けるような真似をするのか理解できない。

 

『自分でもわかんない! でも、今はこうしたいの! だから助けたの! 悪い!?』

 

 カイムのコックピットに通信ウィンドウがポップし、映し出されたのは紫髪の女性ダイバー。気弱そうな雰囲気に反して、彼女は半ばヤケになったように叫んだ。

 

 それを聞かされたセナは一瞬だけ、きょとん、とした顔をした後──

 

『そか。ありがと!』

 

 にっ、と笑って礼を述べ、機体を再度フルスロットルで加速させる。

 

 再び己に迫る敵へジャバウォックがフェザーファンネルを差し向けるが、

 

『させないッ!』

 

 アニーの命令を受けた七基の(しもべ)が巨大な羽をことごとく穿ち、切り裂いてセナへと道を切り開く。

 ガッデスのファングはキットそのまま、裏側の肉抜き穴すら処理していない稚拙な出来だが、ブレイクデカールの力によって大幅に強化された性能は、ハイランカーの作り出した武装とも渡り合うことを可能にしていた。

 

 だがそんなことをすれば、敵のヘイトを買うのは当然であり──

 

「あ──」

 

 こちらへと向けられたジャバウォックの五指。そこに宿る光を見たアニーが硬直する。

 

 射線からジャバウォックがどこへ狙いを定めたのかを察したセナが、思わず振り向こうとするが──

 

『──行って!』

 

 迷いを断ち切るような叫びに背を押され、『──まかせろッ!』とセナが応えるのと、ガッデスが五本のビームに飲み込まれるのはほぼ同時だった。

 

 さしものブレイクデカールでも耐えきれない一撃を受け、ポリゴンの欠片となって崩れてゆく翡翠色の機体。だがアニーの果たした役割は、この局面においては大きな一手。

 

 必殺の攻撃を不発に終わらせ、フェザーファンネルを潰し、残った片腕を使わせた。

 

 

『──てぇぇぇんちゅぅぅぅぅうッ!』

 

 

 決意を秘めて一番気合の入る掛け声を響かせ、ビームソードをかいくぐり、ついにカイムの握る光刃が怪物の頭、五つの複眼を貫いた──




Tips
・ジャバウォック
出典:サイド・ダイバーズメモリー(作:青いカンテラ 様)
 GBN個人ランキングの上位ランカー、クオンが作成したガンプラで彼女の愛機。
 「鏡の国のアリス」の「ジャバウォック」をモデルにしたミキシングガンプラで、同じく彼女が作成したクリエイトミッション「終末を喚ぶ竜」のミッションボスを務める。
 フル・サイコフレーム、NT-D、サイコプレートとフェザーファンネルといったサイコミュ兵器の宝庫で、頭部の五連装式ビーム砲と新旧サイコガンダムの腕から放つビーム兵器に加えて、ハシュマルと同様に小型機動兵器を生み出す機能と、ツインエイハブリアクターまで備えている怪物。

 NPD操作とはいえ、死闘の末にセナは一撃入れることができたのか──
 
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