ガンダムビルドダイバーズ Behind the scenes   作:ほぼ読み専

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ブレイクデカールの設定を一部創作しています。



思わぬ出会い

 大破した二機のガンプラが並ぶ格納庫エリア。そこに光が集まると一人の女性を形作る。

 

 撃墜判定を受けたことで自動転送されてきたアニーだった。

 

「……おう、戻ったか」

 

 声のしたほうに振り返れば、熱心に空間ディスプレイを眺める青年の姿。フレンド登録していたため、同じ格納庫エリアになっていたレオだった。

 

「お前も派手にやられたな」

 

 レオはちらりと視線を上げてハンガーを見てから、またすぐにディスプレイへと目を戻す。言われてアニーも見上げれば、そこには全身が煤けてぼろぼろになったガッデス(愛機)が佇んでいた。

 

 発動中に撃墜されたためブレイクデカールはもう失われた。だが、今の彼女にとって()()()()()は気にならない。

 

──まかせろッ!──

 

 最後に聞こえたあの言葉と、大きな翼が印象的な後ろ姿。

 

 鮮烈なイメージはアニーの心を浮き立たせ、未だにどこか夢を見ているような、現実感のないふわふわとした気持ちにさせる。

 

 最初は怖いだけだった。圧倒的に不利な状況の中で笑いながら舞う姿はどこか狂気すら感じた。理解が出来ず意味が分からず、コックピットで震えているだけだったのに……見ているうちにいつしか無謀な戦いに挑み続けるあのダイバーに負けて欲しくないと思い始めた。

 

「──凄かったなあ」

 

 凄絶な戦いだった。壮絶な姿だった。

 

 バトルそのものを忌避し続け、自衛のためにとごまかして不正ツールに手を出した自分には到底真似できない。あんなバトルをする人もいるのかと衝撃を受けた。

 

「どうなったのかな……」

 

 惜しむらくは戦いの結末を見ることが叶わなかったことだ。満身創痍で繰り出された乾坤一擲の攻撃は、あのハイランカーの作り出した怪物へと届いたのか。

 

「──さて。お前も戻ってきたことだし、俺はもう行くわ」

 

 調べものを終えたのかレオが立ち上がる。どこかに出かけるつもりらしい。

 

「どこに行くの?」

 

 なんだか少しだけ雰囲気が柔らかくなったように感じるレオを、不思議そうな目で見ながら訊ねるアニー。

 

「──ペリシアってエリアだ」

 

 そんな彼女の視線を誤魔化すように、レオはややぶっきらぼうに言い放った。

 

 

 

 

 

§

 

 

 

 

 

「……? え? あれっ!?」

 

 確実に捉えた。そう確信したセナだったが、一瞬視界が塞がれて浮遊感を感じたと思ったら、セントラルディメンションの中、ミッションカウンターの前に立っていた。

 

 状況がわからずにきょろきょろしていると、目の前にメッセージウィンドウがポップして、意味の分からない文章が表示される。

 

【Mission Failed】

 サーバーの負荷が高いか深刻なエラーが発生したためミッションを中断しました。

 ご迷惑をおかけして誠に申し訳ございません。

 

「──なにこれ?」

 

 全く頭に入ってこない文章をセナが眺めていると、すぐ隣には見慣れた長身のダイバーが転送されてくる。

 

「へっ? えっ!? どこ!?」

 

 格納庫エリアではなく、いきなりミッションカウンター前に転送されて目を白黒させるレイ。

 

「あっ、レイ。ねぇ、これ、どういうことかな?」

「え? セナ?」

 

 コレ、とウィンドウを指さすセナと同じ内容の文章が記されたウィンドウがレイの目の前にもポップする。

 

「……んー、と? ……あ、あー……やっぱそういう……」

 

 しばしの間文字を追っていたレイだったが、読み終わるとどこか納得したように頷いた。

 

「なにかわかった?」

「っとね、セナは気づかなかった? あの横殴りした連中が出てきてからしばらくして、エリアの景色がおかしくなっていったんだけど」

 

 印象的な出来事だったためによく覚えているレイが説明する。

 ガルムガンダムが驚異的な()()をした直後、エリア全体にまるで亀裂が走るようにヒビが入り、そこからテクスチャが剥がれ落ちてノイズが溢れてきたのだ。

 

「んー……あ、そういえば、なんか変だったかも。ノイズが走ってたような」

 

 いっぽうでジャバウォックとの戦闘に夢中になっていたセナの反応は鈍い。

 

「そうそれ。セナも察してるとおり、たぶんあいつらチーターの類だと思う」

 

 そこまで言われれば、VRゲームの経験が豊富なセナは凡その事情を察することができた。

 

「不正ツールのせいでシステムに異常が起きたってことかぁ……」

 

 がっくりと肩を落とすセナに、「だろうねぇ」とこちらも力が抜けたように同意するレイ。そうやってミッションカウンターの前で項垂れる二人だったが、

 

 

「──そこのお二人さん。ちょ~っとお話、よろしいかしら?」

 

 見知らぬダイバーに声をかけられ、胡乱な眼差しを向けた先。

 

 そこにいた人物を見てレイとセナは硬直した。

 

 

 

 

 

§

 

 

 

 

 

 GBNにおけるアバターの外見、ダイバールックの自由度は非常に高い。

 

 身長や体格、顔つきはもちろん、性別も現実(リアル)と違うものにすることが可能であるし、人以外の生き物、獣の特徴を備えた人や、SDガンダム、果ては動物がそのまま二足歩行になったようなものまで多種多様な姿をとることができる。

 

 ──それにしてもこの人たちは()()なあ、とレイは思った。

 

 声をかけてきたのは二人連れのダイバーだった。

 

 そのうちの片割れ、先ほど声をかけてきたのは、どこか色気を感じるタレ目をした長身の男性。

 

 しかしその恰好はと言えば、首の後ろで括った紫の髪に左目の下には濃いピンク色の星型のタトゥーが目を引く。

 引き締まった肉体を見せつけるようにして下腹部までファスナーを下ろしたスリムなツナギを身に着け、その上には鮮やかなマゼンダ色のボレロを羽織るという強烈なファッションセンス。

 

「不躾にごめんなさいねぇ。でも、すこーしだけ()()()()に付き合ってもらえないかしら?」

 

 そして極めつけはこの口調である。

 

 いわゆる「オネエキャラ」なのだろうが、なぜ性別の変えられる仮想現実でわざわざオネエを演じるのか。一目見たら忘れられない存在感に胸やけを起こしそう。

 

「……」

 

 そしてもう一人。会話を相方に任せているのか一言も喋らないでいるのは、目元を隠す仮面を付けてマントを羽織った金髪の男性。オネエの連れなのだろうが、こちらもこちらで奇抜な衣装だった。

 仮面をつけたキャラというのは、ガンダム作品ではシャア・アズナブルを筆頭にして珍しくもないし、GBNではそういう恰好をしたダイバーを見かけることもあるが、実際に対面するとこうも胡散臭いものなのかとレイは嬉しくもない発見をした。

 

 あまりにもクセの強すぎる人物から急に声をかけられ、目線でお互いに「どうしよう?」「どうする?」と会話するレイとセナ。

 困惑と戸惑いがないまぜになり、微妙な空気になりかけた事を察したのかオネエのダイバーが、「そういえば自己紹介もまだだったわね」と手元にウィンドウを呼び出す。

 

「お姉さんはマギーっていうの。よろしくね。あなたたちに声をかけたのは、さっきまでやってたクリエイトミッションについて聞きたいことがあるからなのよ」

 

 そう言って呼び出したウィンドウをくるりと裏返すと、こちらへ見えるように差し出してくる。

 

 キャラの濃さとぐいぐい距離を詰めようとする勢いにすっかり呑まれてしまった二人だったが、手元に来たウィンドウ、そこに記されたダイバーの個人プロフィールを見て目の色を変える。

 

「ワールドランキング23位!?」

「所属フォースはアダムの林檎……こっちもフォースランキング13位って、相当なハイランカーね」

 

 見た目と言動とは裏腹に、目の前の人物がGBNの中でも上澄み中の上澄みであることに驚く。

 

「少しは信用してもらえたかしら? それで、さっきの話なんだけど……クリエイトミッションの【終末を喚ぶ竜】をプレイ中にエラー落ちしたのってあなたたちよね?」

「……ええ、そうですね」

 

 なぜそんなことまで知っているのか。その疑問はひとまず置いておくことにしたレイが頷く。相手はワールドランキング23位の超上位ランカー。ランキング外のCランクとDランクのコンビであるこちらを騙すメリットを持たないし、騙したところで得る物など思いつかないからだ。

 

「……やっぱりそうなのね。申し訳ないんだけど、少し場所を変えて話せないかしら? 出来ればお姉さんのフォースネストに来てもらいたいんだけれど……」

 

 しかしたかだかミッションひとつがエラーで落ちたことに、どうしてそんなに深刻そうな顔をしているのか。それがレイにもセナにもわからない。それも運営の人間でもない、言ってしまえばいちプレイヤーに過ぎない彼が。

 

 膨大なアクティブユーザーを抱えるGBNは、常に大量のミッションが受注されては処理されていく。その中にはたまたま回線の調子が悪かったり、筐体側に不具合が発生するなどして切断する、などといった事態は頻繁ではないにしろ珍しくもないことのはず。

 

──まあ、今回は不正ツールを使ったチーターが原因っぽいんだけど。

 

 唯一の心当たりを内心で呟いたレイが傍らの友人へ目配せすれば、セナも特に異論はないらしく頷いてくれた。

 

「わかりました。これからすぐに向かいますか?」

「ありがとう。そうしてもらえると助かるわ」

 

 再びウィンドウを呼び出したマギーが、二人をゲストとしてフォースネストへ入れるよう手続きをする。

 

「オッケー。これであなたたちの移動先にもウチのフォースネストが追加されたはずよ。それじゃあ待ってるわね」

 

 そう言ってにこやかに手を振ると、マギーの姿が光の粒子となって消える。先にフォースネストへ向かうようだ。

 

「……」

 

 続けて仮面の男も同様に転送され、カウンター前にはレイとセナが残された。

 

「なんだか妙なことになっちゃったねー」

「ま、相手が相手だし、詐欺や悪質なイタズラの類じゃないでしょ」

 

 ダイバーのプロフィールは見せたくない部分は隠せても、偽造することは難しい項目のひとつだからだ。

 

「それに──」

「上手い事すれば、模擬戦とかフリバとかしてもらえるかもしれないしね!」

 

 レイとセナが顔を見合わせて笑う。マギーの話に素直に乗ったのにはこういった打算があったからだった。

 

 ──協力すればハイランカーと戦える機会が得られるかもしれない。

 

 蛮族脳を共有する二人がマギーのプロフを見た瞬間に考えた事は同じである。

 

 転送先に新たに追加されたアダムの林檎のフォースネスト。その項目を軽くタッチすると、二人の姿は解けて消えた。

 

 

 

 

 

§

 

 

 

 

 

 アダムの林檎のフォースネストはBARを模したような造りをしていた。

 

 壁面に設置された棚に酒瓶が並ぶカウンター席と他はいくつかのテーブル席。照明はほどよく明るく、内装は落ち着いた雰囲気で小洒落たレストランのようにも見える。

 

 成人指定されたVRゲームの中にはアルコール飲料に近い味のものを再現しているタイトルもあるが、全年齢対象のGBNにはそういったものもなく、あくまで雰囲気を楽しむだけに留まっている。

 

 しかし、レイはここへのこのこついて来たことをさっそく後悔していた。

 

 まずバーカウンターにいる店員だが、ショートボブの巨漢である。ゴリゴリのマッチョ体型を露出の多い衣服で包み、逞しい胸板と腹筋、上腕を惜しげもなく晒してにこやかにグラスを磨いている。髪型だけがなぜか女性的なショートボブに近いせいで違和感が半端ない。

 

 彼の他にも店員らしき──おそらくはフォースメンバーだろう──者たちもいて、いずれもカウンターのマッチョと似たり寄ったりな恰好をしている。

 なんというか、どこぞの二丁目、それもかなり特殊なお店に間違って入ってしまったような、強烈な居心地の悪さを味わっていた。これでもし明りが間接照明だけの薄暗い店内だったなら、速攻で回れ右をしていたところだった。

 

「いらっしゃ~い。よく来てくれたわね。ささ、こっちよ」

 

 そんな中、マギーに促されるままテーブル席のひとつに二人が腰を落ち着け、レイとセナがすっかり忘れていた自己紹介を済ませると、対面に座った彼はさっそくとばかりに話を切り出した。仮面の男はマギーの後ろに立ったまま、相変わらず無言でこちらを見ている。

 

「まずは、来てくれてありがとうね。他に人がいる場所だと、ちょ~っと話しづらい内容だったの」

「それはかまいませんけど……そちらが聞きたい事というのは、いったいなんなんですか?」

 

 相手がこちらにどういったものを望んでいるのかわからないため、単刀直入にレイは聞くが、

 

「そうねぇ……あなたたち、()()()()()()って言葉を聞いたことない?」

「マス……」「ダイバー……?」

 

 聞き覚えのない単語にセナと揃って首を傾げる。

 

「ようはGBNでのチーターのこと。ほら、【(ます)】って漢字を分解すると、【チート】ってなるでしょ?」

 

 チートダイバー、チートダイバー、升ダイバーで「マスダイバー」か。なるほど。空中に指で「升」と書いてみせて説明するマギーを見ながら、乱入してきた四機のガンプラ、その中でもレイはガルムガンダムを、セナはガッデスの姿を思い浮かべる。

 

「マスダイバーが使う不正ツールはブレイクデカールと呼ばれててね。デカールパーツに偽装されているの。それを貼り付けたガンプラでGBNにログインすると、作り込みや完成度を無視した大幅な性能強化が可能になるわけ」

「デカールパーツ?」

「……GPDの時代に使われていた特殊なパーツよ。ナノICチップが練り込まれていて、主に特殊システムの再現に使われていたわ」

 

 マギーの説明を聞いてGPDに馴染みのないセナは首を傾げ、レイは懐かしそうにしながらもどこか複雑そうな顔をして捕捉をする。

 

 レイのイフリート・ゲヘナの原型となったイフリート改に搭載されているEXAMをはじめとして、ガンダム作品には特殊なシステムが数多く存在する。その中でも特にOSなどソフト面に由来する、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()機能を機体へと反映させるために使われたのがデカールパーツと呼ばれるものだった。

 

 ただ、その技術も今や過去の遺物。

 

 実物のガンプラを動かしていたGPD時代ならともかく、データとして再現するGBNでは必ずしも必須のパーツではなくなっている。

 

「レイちゃんの言う通り、デカールパーツ自体は公式が出していたもので違法でもなんでもないものよ。今でもキットに付いてるものを使えば、プラグインの代用としてGBNで原作の特殊システムが使えるわけだし」

 

 デカールパーツを付けたガンプラをダイバーギアに読み込ませることで、プラグインを購入した時と同じようにダイバーギアに登録された機体データへ該当のシステムを書き込むことはできる。

 しかし今や必須パーツではなくなったことから現在は生産されておらず、過去に出荷されたキットにしか付属していないため、GBNからガンプラバトルを始めた者たちには馴染みのないパーツとなっている。

 

「……ただ、それを悪用したのがブレイクデカール。どうやって作ったのかはわからないけれど、今のGBNで初心者や下位ランカーを中心に急速に広まっているの」

 

「なるほど──それで、私たちがそのマスダイバーじゃないか疑っている、と?」

 

 ここまでの話の流れで、マギーがなぜ自分たちに声をかけたのかを察したレイが少し硬い声音で訊ねる。隣を見ればセナもまた真顔になり、その大きな瞳に剣呑な光を宿していた。

 

「マスダイバーの中にはブレイクデカールの力を使って、高難易度のミッションをクリアしようとする者たちもいる」

 

 にわかに殺気を漲らせ、乱入者たちのことを話そうとしたレイたちの機先を制するようにして、それまで黙っていた仮面の男が口を挟んできた。

 

「……君たちのランクはCとD。失礼かもしれないが、とてもあのミッションをクリアできるとは思えない」

 

 なるほど相手の言い分もわからなくはない。参加資格はCランクからとなっていたが、ミッションボスまでたどり着いたレイの感想として、「終末を喚ぶ竜」はネットでも語られていた通り、ランク詐欺もいいところなほどの難易度であった。

 

「──はぁ……そんなに疑うならバトルログを見せますよ。私、今回のミッションは録画してあるので」

 

 GBNではミッションやバトルを行った際に、その様子を録画する機能がある。全てが電脳仮想空間の中で完結しているGBNならではのサービスで、コックピットからの主観視点だけでなく、TPS的な俯瞰視点でも自動的にカメラがダイバーやガンプラを追尾するようにして録画がなされるため、ランカーなどは己のバトルを撮って立ち回りの問題点を洗い出すのに使ったりしているらしい。

 

「……拝見しよう」

「ちょっと、ここまでするコたちをまだ疑うの?」

 

 手元にウィンドウを呼び出して操作するレイをよそに仮面の男を咎めるマギー。どうも彼の中で既にレイたちは容疑者から外れているらしい。あんな見た目だけど案外お人好しなのか、それとも()()()()()()()()()()()()()()()

 

「っと、ありました。これです」

 

 目当てのタブを見つけ、対面の二人が見られるようウィンドウの角度を調整する。

 

 四人が見守るなかで再生された動画は、レイたちからすればなんの変哲もないもので、レイとセナがミッションのフェーズを次々とクリアしていく様がTPS視点で再生されていく。

 

「これは……」

「あらまぁ……」

 

 だが、マギーたちにとっては違ったようで、どちらも少し驚いた様子でウィンドウを見つめていた。

 

「君たちは本当にCランクとDランクなのか?」

「そうねぇ。ランクと実力が釣り合っていないわ。もちろん良い意味で、だけど」

 

 クリエイトミッションの中でも高難易度として有名なものを、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が、苦戦らしい苦戦もなくミッションボスまで進めているのだ。

 

「あっ、ここです。このガルムガンダム」

 

 ジャバウォックが登場してからの一連のやり取り。四機のガンプラに乱入され、そのうちのガデッサとガラッゾを撃破。その後、残った二機が別れ、イフリート・ゲヘナへガルムガンダムが向かってきたあたりで一端再生を止める。

 

「このガルムガンダムが途中から妙な姿になって、エリアにも異変が起こりますから、よく見ててください」

 

 あのガルムガンダムの変身。ガンプラのギミックでもスキルでもない明らかな異常を見せれば、この二人、とくに仮面の男を納得させられるだろうと踏んでいたレイが映像を再生させる。

 

 一方的な展開でイフリート・ゲヘナがガルムガンダムを追い詰める。トランザムを発動するがそれでもなお適わず、試作型GNメガランチャーを破壊されたガルムガンダムは──「あ、あれっ? え、なんで!?」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 決定的な証拠となるはずだった、異形となったガルムガンダムの姿とエリアの異常。それらがなにひとつ録画されていることはなく、そこにはなんの変哲もない宇宙エリアでバトルを繰り広げるだけの映像が流れている。

 

 VRなのに一気に体温が下がるような気がした。

 

「やはりな……」

 

 仮面の男の呟きに背筋が伸びる。その「やはり」はどれを指してのものか。あれだけ自信満々に言っておいて、肝心な部分がまるで()()()()()()()かのように無くなっていたことに戦々恐々としていたレイだったが、

 

「君たちはマスダイバー()()()()ようだ」

 

 彼の口から出てきた意外な言葉に、思わず仮面をつけた顔を凝視した。

 

「どゆこと?」

 

 腕を組んだセナが不思議そうに首を傾げる。レイがドヤ顔で出した映像が、まるで証拠にならないことは明白であるのに。

 

「バトルを見ればわかるさ。君たちは()()()()()。ガンプラの完成度も、それを操縦する技術もそうだが……なによりバトルを心から楽しんでいる事が伝わってくる──それこそブレイクデカール(不正ツール)に頼る必要なんかないほどにね」

 

 それまでの固い態度とは異なり、口元に柔らかい微笑みを浮かべる仮面の男だったが、

 

「と、こ、ろ、でぇ~、レイちゃんとセナちゃんに、何か言う事あるんじゃな~い? ねぇ? ──()()()()()()

 

 にこやかな顔の裏に明らかな怒気を含ませたマギーが見上げた先、どこか気まずそうに仮面を外した男の顔は、このGBNに君臨するワールドランキング一位の男、クジョウ・キョウヤその人だった。




Tips
・デカールパーツ
 GPD時代にガンプラの作り込みだけでは再現できないソフト面の特殊システムを機体に反映させるために作り出された特殊なパーツ。
 ナノICチップを練り込んだ極薄のシート状のパーツで、該当するシステムを記録したものをガンプラに張り付けることで、GPDの筐体上で原作にあった特殊なシステム(ナイトロシステムやEXAM等)を再現させていた。

 現在では生産されておらず、過去に出荷されたキット付属のものや、ネットの個人販売、公式以外の店舗などで個別にバラ売りされているものを買うなどしなければ手に入らない。
 GBNではこういった特殊スキルはプラグインとして購入し、自身のガンプラのデータが登録されたダイバーギアにスキルとして追加することで、ゲーム内で反映されるようになっているが、デカールパーツでも同様のことが可能。
 これを悪用して生み出されたのがブレイクデカールである。本来なら特殊システムとして読み込まれるはずのところを、ブレイクブーストというブーストスキルの一種として割り込ませることでGBN内で反映させている。

 今現在の特殊システムを持つガンプラのキットには、デカールパーツではなくプラグインと引き換えるためのコード番号が記されたものが同梱されている。
 デカールパーツ自体が小さいので、GPDの時代は窃盗を防ぐため(現在では番号を盗み見ることが出来ないよう)にキットの箱には封がなされるようになった。
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