ガンダムビルドダイバーズ Behind the scenes 作:ほぼ読み専
ハードコアディメンション・ヴァルガ。
鉛のように重たい雲が覆う曇天の下、今日も元気なバトル狂いどもが飽きることなく闘争に明け暮れている。
そんな中、半分に折れたビルの中に蹲り、気配を薄くした一機のガンプラが身をひそめている。それは都市迷彩を施したザクⅠのスナイパータイプ。ヅダの対艦ライフルを構え、
これは「リスキル」あるいは「出待ちと」呼ばれる行為で、プレイヤーが転送されてくる隙を狙って
遠くに響く銃声や爆発音をBGMにして待ち続けることしばらく、ザクⅠのモノアイが見つめる先、鈍色の空に転送ゲートを示すエフェクトが表示される。
『──ッ』
汎用のレーダーを無効化する偽装シートの隙間からそっとライフルの銃口を突き出し、しかしスコープは使わず望遠機能を強化したモノアイのみで慎重に獲物の動きを追随する。
飛び出してきたのは二機のガンプラ。
大型のウィングスラスターを備えたガンダム・フレームタイプと思しき細身の機体と、両椀が砲身と一体化したUC系特有のモノアイを有する重火力機体だった。
付近にいた他の
エリア移動の仕様も忘れて脊髄反射で転送ゲートに攻撃するような迂闊な輩どもは、他の野良
そうした乱痴気騒ぎをよそにザクⅠのダイバーは平静を保ち、獲物が現れた際にあらかじめ設定していたタイマーが
──ヴァルガにエリアインしたらすぐに高度を落とせ。
(
ザクⅠのダイバーが内心で暗い愉悦を零しながらトリガーを引き切ったのと、ガンダム・フレームが弾かれたように軌道を変えて射線から身をかわすのは同時だった。
「──ぁ?」
力強いリコイルを伴い空を裂いて飛翔した徹甲弾が、獲物を捕らえることなく彼方へと飛び去る。
そして──頭をこちらに向けたガンダム・フレームのツインアイとスコープ越しに
攻撃動作を行ったため纏っていた偽装シートがブロックノイズとなって消えていくが、今の彼にはそんな事に意識を割く余裕もない。
ガンダム・フレーム特有の凶相を正面から見た瞬間、金縛りにかかったように電子の肉体が硬直していたからだ。
数舜の空白が両者の間に流れる。
「なぜ躱せた」「どうして居場所がバレていた」と疑問符が脳内を埋め尽くし混乱しかけるも、排出された薬莢が落ちる音が妙に大きく響いたことで彼はようやく覚醒する。
思考が戻ったことで狙撃手としての本能が警鐘を鳴らし、あわてて機体を起こしてビルの中から退避しようとしたところ──
──地上から放たれたメガ粒子の光がザクⅠの半身を飲み込んで消し飛ばした。
こちらの射線を元に居場所を特定したモノアイ機が、潜んでいたビルの階層ごと強力なビームの砲撃で薙ぎ払ったのだ。
『
未だに続く上空への攻撃にも全く被弾せず空を飛ぶガンダム・フレーム……ガンダム・カイムからセナの呆れたような声がザクⅠのコックピットに届けられたが、撃墜判定を受けた彼のダイバーがそれを聞くことはなかった。
§
「自分を狩る側だと思い込んでる芋砂野郎を
地上をスラスターを吹かして滑るように移動しては、こちらを発見して襲い来る敵機を次々に撃ち抜きながら悪辣なことを呟くレイ。
それだけでなく、彼女が操るイフリート・ゲヘナは全身に装備された豊富な火器を駆使して付近の敵機へ
レイが周囲へ不必要にちょっかいを掛けたのはほんの僅かの間だけだったが、ヴァルガでそんな騒ぎを起こせば、当然それが呼び水となって遠くにいた者の注目も集めることになり……今もまた、地上をホバー移動する三体のガンプラがイフリート・ゲヘナ目掛け元気に突撃してくる。
『ヒャッハー! 新鮮な獲物だぁ!』
『ヒャハハハ! 落ちろォ!』
『活きのいいヤツだ! 気に入った! 死ねぇ!』
脳みそまで世紀末に侵されたような叫びを上げて襲い掛かってくるのは、それぞれ異なった装備をしたドム試作実験機たち。それぞれを頂点とした三角形の編隊で接近してくる。
突出してきた三機目掛けてイフリート・ゲヘナは両椀から右、左、とほんの僅かな時間差をつけてビームを放つが、
『おっと!』
『そんなん当たるか!』
左右に展開していた二機が先行する機体の影に入り単縦陣となることで回避──した刹那、先頭の機体の目の前で閃光が炸裂。
『うおっ眩し!?』
『ぐべっ!?』
『ぎゃっ!?』
後ろの二機が前の仲間に激突。玉突き事故を起こした三機のドムはもつれるように転倒して動きを止める。
どうにか頭部カメラを動かした先頭のドムが見たものは、胸部装甲の一部が開いたイフリート・ゲヘナ。この閃光は内蔵されたグレネード弾によるもので、自分たちはまんまと牽制射撃と置き射撃の餌食になったのだとようやく理解した。
「
てっきりあしらわれると予測していた目くらましが思ったより効果を発揮した事に、少しだけ拍子抜けした様子のレイであったが、もみくちゃになっている三機を確認して淀みなくショートバレルキャノンを発射。
『『『アバーッ!?』』』
榴弾が炸裂して汚い断末魔とともに三つの花火がヴァルガの空を彩った。
「あのお粗末な出待ちも何かの布石かと警戒したけど、結局なにもなかったし……」
かつて自分が頻繁に通っていた頃よりも、住民の質が下がっているような気がして思案げな顔をするレイ。
「殺気で射線がバレバレだったもんねー」
それに応えるのは、Cファンネルを展開して集まってくる敵機を牽制しつつ上空を飛翔するセナだ。
腰背部へ新たにスラスターを増設されたガンダム・カイムは展開した五枚のCファンネルを巧みに操り、敵の数が多い地上で戦うレイの援護を行っている。並行して強化された機動力を活かし、迂闊に飛び出してきた敵がいれば急襲して的確に仕留めている姿は猛禽類を思わせる動きだ。
機動力の高いカイムがあえて上空に留まり注目を集め、集ってきた敵を地上のイフリート・ゲヘナが重火力で漸減。焦って突出してきた相手は空からカイムがヒットアンドアウェイで確実に処理する。
今回、ヴァルガへ潜るにあたって、
互いを常にレーダーや視界に収めて立ち回り続けることで適時援護をしあい、この騒ぎに引き寄せられてくるモヒカンたちを地上と空の二か所から挟撃する戦術は、二人の高い技量と連携、機体性能に支えられて上手く機能している。
完全に全滅させることはせずに、しかしあまりモヒカンたちの数を増やさないよう
いったん止まって乱戦集団の位置が固定されてしまうと、あっという間にその規模が大きくなり二人の処理能力を越えてしまうため、実のところあまり余裕がないのが本音だった。
『ヴァルガで空を飛ぶような素人が! 死ねぇ!』
ミラージュコロイド・ステルスで姿を隠してセナの背後に回り込んだNダガーNが、大小二振りの対装甲刀を振りかぶる。
「残念──見えてるよッ!」
『この動きッ!? 素人じゃないだと!? ぐわあああ!』
だがVRゲームで培った第六感を持つセナに機体頼りの奇襲は通じず、NダガーNのダイバーが、振り返りざまレイザーブレイドを逆袈裟に一閃したカイムを認識した時には機体が斜めに割断されていた。
「殺気を消す練習をしてから出直してきてねっ!」
一見すると無双状態に見えるが、コックピットの中にいる二人の顔に余裕はない。
戦闘狂が集まるヴァルガは、曲がりなりにも上級者御用達のエリア。鍛錬と称して闊歩するハイランカーたちに目がいきがちだが、名もなき住人たちとて決して侮ってはいけない手練ればかりだ。
そんな場所であえて乱戦を発生させるなど無謀とも思える狼藉である。だが、彼女らとて無意味に行っているわけではない。この乱痴気騒ぎはいわば
その目的を達成するためにも、間違って撃墜されるようなことはあってはならない。ゆえに一見、派手に立ち回りながらも、二人は慎重に被弾を抑えて襲い掛かる敵機を処理していく。
「セナ! ミサイルのリチャージ終わった! 合わせて!」
「おっけー!」
引き撃ちをしていたイフリート・ゲヘナの背部から十二発の飛翔体が飛び上がると、広範囲に散らばって集まっていた敵集団の頭上から襲い掛かる。いくつかは撃ち落とされるものの、地面に着弾したミサイルが巻き起こす爆炎が一瞬だけ彼らの注意を逸らした。
「おりゃー!」
そこへ
例の難関クリエイトミッションに出現したディビニダドすら切り裂く威力を秘めた刃は、ミサイルに気取られたヴァルガ民たちの機体を次々とスクラップに変え、数多の爆発と共に持ち主の手元に帰還。
「よし。だいたい今くらいの規模を維持していこう」
「おーきーどーきー」
全体の三分の一ほどの数を減らしたモヒカンの群れを眺めて、レイとセナは通信越しに視線を交わして頷き合った。
§
そうしてしばらく戦い続けていると、レイたちを中心とした乱戦エリアはいよいよもって混沌の坩堝となっていく。
『くそっ! あんま調子乗るんじゃねえ!』
『囲め! 囲め! さっさと包囲するんだよ!』
『うるせえ! 指図すんな!』
『背中ががら空きだ馬鹿めが! 天誅!』
『てめっ、ふざけ──!?』
なかなか落ちない中心地の二人ではなく、集まった多数のモヒカンたちのほうを狙う第三勢力が現れ始め、現場はカオスな様相を呈してくる。
それを示すように一部の者がオープンチャットのままがなり立てる声が聞こえるが内容は酷いものだ。取れもしない連携を求める者、それに反発する者、混乱に乗じてポイントを稼ごうとする者。個々の技量は高くとも、これだけぐちゃぐちゃな乱戦に持ち込まれて冷静に対処できる者は少ない。
ヴァルガの特徴であるエリア全体で常時フリーバトルが解禁されているがゆえに起こる現象と言える。
そして集団を形成して混戦を繰り広げるデメリットはこれだけではない。
『マイクロウェーブ受信完了。ターゲット、ロック……』
集団から少し離れた上空。近くで乱戦集団が形成されたことで、付近のダイバーが減って一時の安全が確保された空には、ツインサテライトキャノンの発射態勢をとるガンダムDXが今まさにその銃口を
砂糖菓子に群がる蟻へちょっかいをかける子供がごとく、ヴァルガではダイバーたちが集まっている所を狙って大規模破壊兵器を撃ち込んでくる輩が現れる。いわゆる漁夫の利を狙う行為なのだがこれはその極みといえた。
『チンパンどもが、まとめて俺のポイントになれ……!』
DXのダイバーが両手のトリガーを同時に引き切ると、二つの砲身から極太の光が放たれる。
勘のいい者なら戦闘の規模が大きくなりすぎる前に撤退の判断をするのだが、大多数の者は目の前の乱戦に気取られるとそのことを忘れてしまいがちになる。
そうして逃げ遅れた愚か者たちは、DXが放った光の奔流に飲み込まれていく。一見すると大雑把なように見える攻撃だが、大出力の広範囲殲滅兵器は強力な反面多大なデメリットも抱えているため、効果的に使うには繊細な注意が必要だ。
チャージ時間が長い、発射中は移動できない、発射後は例外なく後隙を晒し、リチャージは絶望的に遅い等、武器によって抱えるリスクは異なるがこれらのいずれかが必ずあてはまる。しかし攻撃力、効果範囲ともに優れているのは確かなので、運用次第ではこのように極めて短時間で大量のポイントを獲得できるのが魅力だ。
『くくく……ん?』
どんどん加算されてゆくスコアに思わずニヤけるDXのダイバーだったが、集団の中心に到達したビームがそれ以上進まずにいるのを見て訝し気な声を上げる。
いや、それだけではない。ビーム自体が急速にやせ細り、みるみる威力が減衰している。まるで
『──ッ、アブソーブシステムか!?』
彼の予想は的中していた。中心部にいたのはアブソーブシールドを構えたイフリート・ゲヘナ。
ジャバウォックの五連装式ビームすらも受け止めた二枚の盾は、DXが最大威力で放ったツインサテライトキャノンを危なげなく無力化したうえで己の力に変換する。
「ちょうど数を減らしたかったとこよ! エネルギーの補給に感謝するわ!」
聞こえていないはずなのに、あまりにベストタイミングだったせいか、ついコックピッから皮肉を返したレイは間髪入れずに武器スロットから特殊兵装を選択。アブソーブシステムで蓄えた全てのエネルギーを消費してパワーゲートが形成され、イフリート・ゲヘナの上空には金色の光を放つ鋭角な菱形の門が出現する。
「そら、もってけッ!」
収束率を最低に落として拡散モードにした両椀のビームライフルから、最大出力で解放されたメガ粒子がパワーゲート目掛けて飛び込むと、まるで噴水のように周辺一帯へ降り注いだ。
『ぎゃああああ!』
『そんなっ、避けられ──』
『Iフィールドを貫通した!?』
パワーゲートによって強化されたビームは拡散砲とは思えない威力を内包して、まるで流星群が降り注いだかのような破壊の嵐が吹き荒れる。
Iフィールドやナノラミネートアーマー等、ガンダム作品の世界には数多のビーム兵器に対する防御手段が存在する。しかしあくまでここは
ビームに耐性を持つ装甲やスキルで凌ごうとした者はその守りを貫かれ、降り注ぐビームの隙間を縫って回避を目論んだ者は密集していたことで思うような回避機動がとれず、弾幕の密度とあいまって圧殺される形になる。
ツインサテライトキャノンはあくまで一方向からのものだったが、こちらはレイを中心とした全周囲への無差別攻撃だ。バトルに夢中になるあまり、十重二十重と包囲していた数多のガンプラたちはその陣形が仇となり甚大な被害を被ることになる。直撃して蒸発した者、手足を掠めて損傷し擱座する者と明暗が別れてはいるが、無傷の機体は数えるほどしかなく、光の雨が降り終わった後に残ったものは、密度が低下し薄くなった包囲網。
『チィ、このDXのツインサテライトキャノンを完全に吸収するとは……』
必殺の武装を使用した反動で機体各所の放熱板が展開。排熱された空気による陽炎を纏ったDXは動きを止めている。ツインサテライトキャノンは極めて強力な装備だが、比例して広域破壊兵器が持つデメリットも多くとにかく扱いづらい。使いどころを間違えれば己がただの的となってしまうため、彼のように周囲を入念に索敵するといった下準備が必要で、今回も前もって十分に安全を確かめてから砲撃を決行した。
今、周辺に新たに反応が出現したが、向かってきているのは
『……どこぞに潜んでいたはぐれか? まあいい。今はさっさと離脱し『邪魔だ』──て?』
叩きつけられるように放たれた一言とともに、ガンダムDXの胴体にX字の軌跡が走ると一瞬で機体を四分割にされる。
『な──』
遅れて状況を把握したDXのダイバーだったが、その声は自機の爆発音に紛れて途絶え、驚愕に顔を染めたまま、手に入るはずだったポイントともどもブロックノイズとなって消えていった。
爆炎の中心を突っ切って現れたのは、二刀の巨大な片刃の大剣を持つマゼンダカラーのジンクス。
原型機よりもマッシブになったシルエットが特徴的などっしりとした外観だが、鈍重そうな見た目にそぐわず、疑似太陽炉特有の赤い粒子を放出しながら飛翔するスピードは高機動機体に迫る速度を出している。
『匂う、匂うぞ……!』
それを操るのは額から二本の角を生やした鬼のような見た目の男。和装に包まれた肉体は筋肉質で、自機とシンクロするように大柄。闘争心をむき出しにした獰猛な笑みからは、まさに「鬼」としか表現できない迫力がある。
彼の名はオーガ。
フォース「百鬼」を率いて打倒チャンピオンを掲げ、個人、フォースランキングともに凄まじい早さで駆けあがっている新進気鋭のダイバーであり──
『美味そうな戦いの匂いだ──!』
一部では「獄炎のオーガ」と呼ばれて恐れられる戦闘狂でもある。
そんな彼がGBNでなにより求めるのは「強者」との充実した戦い。
オーガのプレイスタイルは典型的なバトルジャンキーそのものと言っていいだろう。貪欲に強さを追い続け、闘争心を満たすに足る相手を求めては、日頃からランキング戦やフォース戦を繰り返して常に戦いがいのある相手を求めている。
また、バトルに対して独特のこだわりを持ち、戦いを食事に例える「バトルグルメ」でもある。彼にとって己の強さを引き出す強敵との戦いは心の栄養、極上の精神的食事であり、チャンピオンの打倒を目指すのもランキング戦を戦うのも、全ては
そんなある意味ではレイとセナの二人と似た者同士とも言える戦闘狂は、この先から漂う「強いヤツ」の存在を敏感に感じ取り、これから始まるであろう
§
レイが放った広範囲攻撃によってかなりの数を減らしてはいたが、集まってきたヴァルガ民たちはまだまだ元気だ。
特に機動力を高めるブースト系の機体特性やスキルを持つ者たち、なかでも実力の高い者は、培われた勘と瞬間的に強化された速度でもって高空への離脱に成功しており、それによって地上へと降り注ぐ拡散メガ粒子砲から辛くも逃れられた。
だが忘れてはならない。
敵は
『バカなッ!? トランザムを使っても振り切れないだと!?』
全身を紅色に染めたガンダムスローネツヴァイのダイバーが驚愕する。この乱戦の中で無傷のまま生存していることからわかるとおり、集まったヴァルガ民の中でも高い実力を持っている者の一人であるが、背後から迫る不気味な濃紺の機体は、そんな彼が作り込んだガンプラが切り札の時限強化を使っても食らいついてくる。
トランザム、正しくは「TRANS-AM」と表記するこれは、かつてセナがパチ組みのスサノオで使った、太陽炉という特殊な動力炉を搭載した機体に備わるブースト機能だ。その効果は一定時間、機動力とビーム系攻撃の出力を約三倍にするという破格の性能。しかし一方でガンプラの作り込みが甘ければ発動しても持続せず、逆に機体が自壊してしまうという制限もある諸刃の剣だ。
ちなみに原作では機体のスペックを三倍にするものだったが、GBNで再現するにあたり複数回のナーフを受け、現在はこのような形へと落ち着いているものの、それでも強力な切り札となりえる存在だろう。
そして今、トランザムを発動しても問題なく動けているスローネツヴァイは結構な作り込みがされていると言えるし、通常時の三倍に跳ね上がった機動力に振り回されない操縦者の腕も決して悪くはない。もっと言えばここまで
だが、そんなものは背後から猛スピードで飛んでくる悪魔の前ではなんの慰めにもならない。
大型のウィングスラスターに内蔵された砲身から、D.O.D.S効果を持つビームの牽制射撃を繰り出してこちらの機動を制限し、両手に構える大型の実体剣で獲物を仕留めんと迫るガンダム・カイム。
スローネツヴァイは機体特性である「GN粒子」によって多少のビーム耐性こそあれど、貫通力の高いD.O.D.S効果を持つビームまで防げるほどの性能は期待できずに回避するしかなく、そのせいで彼我の相対距離がみるみる詰まっていく。
『クソっ! 来るんじゃねぇ! ファング!』
ついにしびれを切らしたスローネツヴァイのダイバーは、機体腰部の両サイドにある大型のバインダーから四基ずつ、合計八基の小型攻撃端末を牽制として射出する。
牙という名の通り鋭い切っ先を持ち大気圏内でも使用可能な無線誘導兵器である。それらは主の意思に従い、GN粒子を推進力として後方から追いすがる敵機目掛けて襲い掛かるが──
「Cファンネル!」
カイムの腰背部へ新たに追加されたスラスターに接続されていた五枚のCファンネルもまた、セナの意思に従い翡翠の軌跡を描いて空を駆けると、飛来するファングと正面から激突しては次々とその牙を粉砕して叩き落す。五対八の数的不利も、サイズ差による質量差も歯牙にもかけず八基全てを撃墜してなお、カイムの放ったCファンネルには傷ひとつ付いていない。
『俺の作ったファングがこんな簡単に!?』
丹精込めてスクラッチした自慢の武器が一方的に破壊され、驚愕するスローネツヴァイのダイバー。それは奇しくも以前にセナがキョウヤと戦った時とは真逆の結果であり、この時彼女はなぜレイがあそこまでCファンネルの作り込みに拘るのかをよく理解できた。
しかしそれでは満額回答とはなりえないのがガンプラバトルであり、セナが知らない世界の理であったのだ。
「──なるほどねぇ、レイが拘ってた理由はこういうことか」
相棒の考えを肌で理解して感嘆の声を上げながらも、敵機との距離を踏破したセナは逆手に持った右のレイザーブレイドを横薙ぎにして、すれ違いざまにスローネツヴァイを両断しようと振るう。
『なめんなァ!』
だが、スローネツヴァイも右肩に懸架したGNバスターソードの柄を握り締めると、上段からの振り下ろしで斬撃を受け止める。
GN粒子を纏ったバスターソードの巨大な刀身とレイザーブレイドの翡翠の刃がぶつかりあい、鍔迫り合いの形になったところで、
『墜ちろォ!』
スローネツヴァイは左腕のGNハンドガンでカイムのコックピットを狙おうとする。
「甘いッ!」
しかしその目論見は、下方向から飛来したCファンネルがGNハンドガンの接続部を切断したことで不発に終わり、さらには僅かに態勢を崩した所へセナが巧みな操作で刃を滑らせバスターソードを下方へ往なすと、その力を利用したカイムが一回転。右後ろ回し蹴りを胴体に叩きこむ。
『がッ──!』
「天誅ーッ!」
完全に姿勢を崩した隙を見逃さず、順手に持ち替えたレイザーブレイドががら空きの胴体を横一閃。完全に真っ二つにされたスローネツヴァイはヴァルガの空に爆散した。
終始セナの有利に運ばれた攻防だったが敵はまだまだ沢山いて、今もレイは地上で孤軍奮闘している。
──こんな乱闘騒ぎを起こした
そう思ってセナが機体を翻そうとしたまさにその時、
「──ッ!?」
急速にこちらへ向かってくる赤い機体。
色こそ違えど今さっき討ち取ったスローネツヴァイと同様、GN粒子特有のエフェクトを放出しながら飛来するのは、巨大な二刀の剣を振りかぶったマゼンダカラーのジンクス。
一瞬の判断で相手の斬撃を回避をしようとするも、ジンクスから放たれる強力なプレッシャーを受け、第六感が発した警告に従ったセナは再度レイザーブレイドを逆手に構え、袈裟懸けに振り下ろされた巨大な刃の一撃を受け止める。
──重いッ!
近接戦闘に強く、強靭なはずのガンダム・フレームが軋み、レイザーブレイドが押し込まれる。
スローネツヴァイと似たエフェクトを纏っているということから、おそらく同じ作品のガンプラなのだろうとしかセナには予測できないが、そのパワーは桁違いだった。
『お前かぁッ!』
接触回線によってコックピットに響く荒々しい声。
通信ウィンドウから見える鬼のような外見のダイバーが発する気配と、一合でわかるガンプラの性能の高さから、セナは
Tips
・偽装シート
機体に一時的なステルス効果を付与する使い捨ての道具。
実物の立体物ではなく、ゲーム内で購入できるGBN専用アイテム。
完全に機体を静止した状態でのみ使用でき、汎用レーダーを無効化することができる。移動を行ったり、攻撃と判定される動作を行うと即座に解除される。
使用時には周囲の景色に溶け込む迷彩が自動的に施されるので、目視での発見もある程度は抑止できる。
咄嗟に使うことは難しいので、あらかじめ潜伏場所を定めた待ち伏せに使われる。
無効化できるのは汎用レーダーまでなので、索敵を専門にした機体に積まれている強化レーダーや、
似た効果を持つミラージュコロイドと比較した場合、スキルを必要としないことと機体のエネルギーを消費しない点が挙げられる。