ガンダムビルドダイバーズ Behind the scenes   作:ほぼ読み専

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愛戦士

 その男性ダイバーに対するセナの率直な第一印象は、「なんかエロい人」だった。

 

 しかし、これではあまりにも明け透けなので、言い換えるとするなら「妖艶」が一番当てはまるだろうか。

 

 細身の体つきに褐色の肌。流れるような薄紫色の長髪からは狐を思わせる三角形の耳が出ている。

 ペリシアの中東風の街並みに良く馴染む、ゆったりとした作りの服装は上半身が大胆に開いていて、エキゾチックで危険な色香を纏っている。

 切れ長の瞳はセナを興味深そうに見つめ、その形のせいなのか流し目をされているようにも感じてしまう。涼やかな細面の美男だった。

 

「えーっと……」

「さっきから随分と熱心に見ていてくれたみたいだけれど、なにか気になったのかな?」

 

 今までに会ったことのないタイプのためか、どうやって話を切り出したものか迷うセナに、先んじて男性のほうから話題を振ってきた。

 

「そのー、ガンプラには詳しくないんですけど、前にベアッガイフェスで見かけたから……」

「ああ、あのフェスか……」

「あと、じっくり見てたら、なんか作品から熱意? みたいなのが伝わってきたっていうか」

「……ふむ。参考までに聞きたいんだけれど、どういう所を見てそう感じたんだい?」

 

 最初こそ涼やかだった目元が熱意の(くだり)を聞いた途端に少しの熱を帯びる。そんな相手の変化にセナも気づいてはいたが、どこぞのゲームでもあるまいし、街中でダイバーをどうこうすることは出来ないことを知っていたため、特に気にせず聞かれたことへ素直に答える。

 

「普通のガンプラより小さいのに、みんな凄く丁寧に作ってあるところ……かな。手に持ってる小物ひとつにしても、すごく細かく作り込んであるから……妥協してる所がいっこもないって、そう感じたから?」

「妥協していない、か。しかし人に見られる作品を作るならば、それは当然じゃないのかい?」

「ん? ……んー。それとはちょっと違う、かも?」

 

 男性の解答は世間に作品を公開する者として、ある意味で模範的とも言えるもの。しかし、セナは彼の言葉と、なにより自分の感想にどうしても違和感を覚えた。

 

「んー……」

 

 もう一度作品を見てみる。ひとつひとつ丁寧に作り込まれたプチッガイ。小さなモデルであるにも関わらず、一体一体の個性が際立ち、その作り込みの凄さはこの箱庭の中で彼らが本当に生きていると思わせるほど。その姿から感じるのは、作り手の熱意、情熱……外れてはいない、と思う。しかしなにかが違う。しっくりこない。形は似ているが嵌らない、微妙に異なるパズルのピースのように。

 

 それはもっと純粋で、もっとプリミティブ(根源的)なもの──

 

「あ──」

 

 そこで彼女の鋭い感性はひとつの天啓を得る。

 

「──愛が込められてる」

「……!」

 

 呟くようにセナが発した言葉を聞いた男性の狐耳が、ピン、と動いた。

 

「うん。それだ。人に良く見られたいとか、評価されたいとかじゃない。本当にこの子たちが好きなんだっていう思いがある」

 

 それはセナにとっても身近なものだったからこそ得た答えだった。レイが作ったガンダム・カイムから感じていたものと同じ思い。製作者の、作品に対する、愛。

 

「そっか、だから──」

 

 いつも見ている己の愛機から感じていたのと同じものをこの作品からも感じ取った。だからここまで目を引いた。感情を素直に言語化できた事ですっきりしたセナだったが──そこでふと、相手が沈黙していることに気が付いた。

 

「あのー……」

 

 素人目線で見当違いなことを言って呆れさせてしまったか。そんな心配をしていたセナだったが──

 

「──素晴らしいっ!」

「へ?」

 

 目をキラキラと輝かせた彼に迫られて、思わず開いた口から気の抜けた返事をした。……殺気がなかったために反応できなかった、とも言う。

 

「君もまた愛を理解している人なのだね! 嬉しいよ!」

 

 満面の笑顔でセナの手を握って情熱的に語る。そこに最初に感じた涼やかな雰囲気は微塵もなく、ただただ溢れる熱を持っていた。急激なテンションの変化に戸惑うセナはなすがままだ。

 

「……おっと、私としたことが、いささか礼節に欠けていたね。失礼」

「ん。いや。だいじょーぶです」

 

 立ち尽くすセナに気づいて、冷静さを取り戻した男性が謝罪する。自然な動作で手を離して、彼女に向き直ると柔和に微笑んだ。

 

「そういえばまだ名乗ってもいなかったね。私はシャフリヤール。シャフリ、とでも呼んでくれたまえ」

「セナです」

「うん、セナ君だね。よろしく。ああ、今日は良き日だ。愛を理解してくれるダイバーと出会えたのだから」

「えっと、そこまで言われるほどのものでもないと思う、よ? レイの作るガンプラと似た雰囲気があるなーって感じただけで……さっきも言ったけど、わたしガンプラ詳しくないし」

 

 彼女にしては珍しくわたわたとした様子で答えるセナだったが、シャフリは気にすることもなくゆるく頭を振る。

 

「技術的な薀蓄や知識は問題ではないよ。君が私の作品を見て、そこに愛を感じてくれたことが大事なのさ」

「はぁ……」

「それに、君が愛を感じる作品を作るレイという人は、良いビルダーみたいだね」

「──! うん! そう! レイがわたしのために作ってくれたカイムは凄いんだ!」

 

 シャフリの「愛」に対する思い入れに気圧され気味だったセナだが、親友を褒められたことで力強く頷く。

 

「聞いたことがない機体名だが、察するに君の専用機かな?」

「当たり! すっごく強くてカッコイイよ!」

「そこまで言われてしまうと興味がわくね……よければ見せてもらってもいいかい?」

 

 嬉しそうに話していたセナだったが、シャフリからお願いされた内容を聞いて少し身構えてしまう。

 

「それは……」

 

 それというのもGBNというゲームにおいて、見知らぬ他人にガンプラのデータを見せる事はレイから厳重に注意されていたからだ。見せるならばフレンドかフォースメンバーのような()()。または互いのダイバープロフィールを確認してからにしろ、と。

 ガンプラバトルにおいて自機のデータとは、他のゲームで例えるならキャラビルドの詳細に相当する。搭載武装から得意戦術が推測されてしまうし、隠し腕のような秘匿装備が丸裸にされてしまうのは、PvPにおいて致命的であるのは言うまでもない。

 

「……プロフ、見せてくれるなら」

 

 やや警戒ぎみに声を落として返すセナ。

 ダイバープロフィールというのは偽造がかなり難しく、いわゆる(かた)りがほぼ不可能とされている。ゲスト用アカウントを除いて、複数アカウントが持てないGBNではこれの信頼度はかなり高い。

 

「おっと、すまない。重ね重ね失礼をしてしまったね。ペリシア(ここ)の流儀に慣れ過ぎてしまっていたようだ」

 

 僅かに眉を寄せて困ったように笑うシャフリ。ペリシアにおいて作品を展示する場合、展示パネルには作品詳細とともに製作者の簡易プロフィール──ダイバーネーム、ID、所属フォース──が併記されている。ゆえにこのエリアでは初対面のダイバー同士が、気軽に互いのガンプラについて意見交換をすることができるのである。

 

「どうぞ。これが私のダイバープロフィールだ」

 

 本来ならそこにある展示パネルを見ればすむのだが、GBN初心者のセナはそれを知らなかった。「あまりガンプラに詳しくない」という彼女の言から、それを推測したシャフリは特に指摘するでもなく、にこやかに己のダイバー情報を表示させると、セナへ向けて空間ディスプレイを裏返した。

 

「へー……えっ!?」

 

 彼から渡されたプロフィール。それをつらつら見ていたセナの瞳が大きくなる。ダイバー間で交換されるプロフィールの情報はより詳細で、ネームやIDの他に個人や所属フォースのランキング順位も記載されているのだが──

 

 シャフリヤール。

 

 この目の前の優男こそ、フォースランキング三位の「SIMURUG」を率いるハイランクダイバーの一角であったのだから。

 

 

 

 

 

§

 

 

 

 

 

 ペリシアの強い日差しを考慮してか、パラソルを備えたテーブル席。とあるカフェの屋外にあるそこにセナたちの姿はあった。立ち話もなんだとシャフリヤールが誘ってくれたのだ。

 

「ほう、これは……オリジナルのガンダム・フレームタイプかな。AGE-1レイザーを装甲に使っているデザインも良い。クリアパーツの仕上げも丁寧だし、デカールやメタルパーツの使いかたも上手だ」

 

 レイが持てる技量と情熱を注ぎ込んだ渾身のガンプラは、シャフリヤールの目にもよい出来の作品だと写ったようで、彼は注文した飲み物にも手をつけず、熱心にカイムのデータを眺めている。ガンプラへの愛ゆえに、他人の作品に対しても辛口な彼にしては珍しいことであった。

 

「ガンダム・フレーム、鉄血のオルフェンズのガンダムはソロモン七十二柱の悪魔がモチーフで、カイムはツグミの姿に鋭い剣を持つというが……上手くイメージを捉えている」

 

 セナから許可を得てカイムの対戦ログも視聴しているが、その動きはまさに鳥の魔人を連想させる。シャフリヤールはマニューバから完成度を正確に推測できるが、彼の目を持ってしてもこの機体はハイランカーの駆るガンプラに匹敵していた。

 

「こうしたい、という明確なコンセプトと世界観、それを実現する堅実な製作技術──」

 

 作り手の思想と理想が込められ、それを実現するだけの技術もある。高機動な機体設計と武装を見れば、操縦者は近接戦闘が得意なタイプであるとわかる。まさにこの少女のためだけに作り上げられた特別(ワンオフ)

 熟練の職人が丹精こめて仕上げた「カタナ」に通じる美しさを、シャフリヤールはそのガンプラに見た。

 

「──実に、美しい」

 

 シャフリヤールというダイバーを知る者がこの場にいれば、驚愕間違いなしのべた褒めだった。

 

「うんっ! カイムはすっごくカッコイイ! レイがわたしのために作ってくれた大切な──」

 

 自慢の愛機、そう続けようとしたセナだったが何かを思い出したのか、続く言葉を飲み込んでしまった。

 

「どうかしたのかい?」

「……カイムは、凄い。凄く、強いガンプラなのに……レイはそう思ってないみたい」

 

 先ほどまでの快活な姿は鳴りを潜め、しゅんとした様子でセナが俯く。そんな彼女を見たシャフリヤールは、ふむ、と静かに息をつくと僅かに共感を込めて問いかける。

 

「……製作者本人が出来に満足していない、ということかな?」

「その……」

 

 展示された作品からもわかる通り、彼自身も卓越したビルダーである。だからこそか、その問はまさに正鵠を得ていた。

 

 セナはシャフリヤールに話すべきか躊躇する。初対面の相手に推測とはいえ友人の内心に踏み込んだ内容。しかし、彼の作品とそれに対する姿勢、さらにプロフィールから伝わる実力と、これまでの会話で感じた彼のひととなりを信じてみようと思った。

 

「最近ね、バトルで勝てなくてずっと悩んでるみたい……ペリシアに来たのも、レイの気分転換のためだし」

 

 初めて出来た友人が、セナ(自分)のためだけに心血を注いで機体を作ってくれているという事実は単純に嬉しい。しかし、思い出すのはフォースネストでカイムの改修プランを語っていた時の親友の瞳。

 ガンプラ作りに関しては身体的な理由により、セナは努力することすら否定されている。だから永遠にレイの抱える苦悩を理解も共感もできない。そのことに、どうしようもないもどかしさを覚える。

 

「なんだか、追い詰められているみたいで心配なんだ……」

 

 シャフリヤールに打ち明けたのは、彼のような優れたビルダーなら、()()()()()()、レイと同じ視点を持つ人なら、答えをくれることを期待していたというのもある。

 手元のカップを見つめて俯くセナからは見えなかったが、シャフリヤールは彼女の期待するとおり、覚えのある悩みに苦笑を漏らして答えた。

 

「それはね──()()、というものだよ」

「え?」

 

 突然の言葉に戸惑うセナ。それを見たシャフリヤールは悪戯っぽく笑う。

 

「いや。プライド、と呼ぶべきかな。ビルダーが抱える(さが)だよ」

「プライド……」

「ああ。これだけの作品を作るビルダーだ。その技術を身につけるのには長い時間と、相応の苦労や努力があっただろう。だからこそ、作り上げたものには自信と誇りを持つ。愛を抱く。そうやって煮詰まるのもまた、ビルダーなら誰しもが通る道だが……()()()()()()()()()()()()()()()()()。それに、こうして気分転換をしようとする程度には、君のビルダーは己を客観視できている。あまり心配せずとも大丈夫だろう」

 

 そこで言葉を区切って彼はコーヒーを口にすると、少しの間を置いて続けた。

 

「私から言えるのは、バトルで勝つためにはファイターである君の愛もまた重要になる、ということかな」

「愛?」

 

 え、また? と顔に出たセナ。

 

「そう。ガンプラバトルはファイターが自分の機体への理解をより深めることでも強くなれる。可動域、反応速度、武装の再使用時間と色々あるが、包括的に考えれば自機に対する理解度。さらに拡張させれば、対峙する相手の性能やギミックを見抜く観察眼……即ちガンプラへの愛が強いほうが勝つ、とも言える」

 

 持論だけどね。とシャフリヤールは片目を閉じて付け加える。

 

「まして君たちは分業制だ。ビルダーの愛とファイターの愛。その二つが揃わなければ、ガンプラバトルを制するのは難しいだろうね……さて、君の愛はどれほどのものかな?」

 

 頬杖をついて揶揄うように微笑むシャフリヤール。しかしその切れ長の瞳に隠された闘志を敏感に感じたセナは獰猛に──嬉しそうに、笑う。

 

「──ありがとう、シャフリさん。そして、見ててね。証明してあげる。わたしが一番カイム(この子)を上手く扱えるってこと」

「ああ。楽しみにしているよ」

 

「約束。待っててね──()()()()()()()()()()()

 

 ぞわり、と、彼女の空気が変わるのをシャフリヤールは肌で感じた。

 

「ふっ……私としても君と戦場で愛を語らう日が待ち遠しいよ」

 

 しかしそこは流石のハイランカー。セナの発する闘争心に全く怯むこともなく、こちらも嬉しそうに笑顔を返すシャフリヤール。もっとも、彼の場合は純粋な闘争心の中に、前途ある若武者を見守るような心持ちも含まれてはいるが。

 

「そろそろ行くね。話、聞いてくれてありがとう。それじゃ!」

「こちらこそ。愛のあるガンプラを見せてくれて感謝しているよ」

 

 席から立ち上がりペリシアの雑踏に紛れていくセナを見送る。やがてその背中が見えなくなるとシャフリヤールは小さく呟いた。

 

「無邪気な子猫かと思えば、とんだ猛獣だったねえ……まさか、彼女が()()()()の片割れだったとは」

 

 彼が見た戦闘ログの中には、先日ヴァルガで大立ち回りをしたものも含まれていた。

 

 ──ヴァルガの狂犬。

 

 最近のランキング戦を賑わす新鋭、獄炎のオーガを二対一のフリーバトルとはいえ撃破した無名のタッグ。そんな彼女たちはGBNの掲示板において、耳ざとい者たちに存在を知られるようになっていた。

 数多のヴァルガ民(モヒカン)を巻き込んで乱戦を引き起こしていたのだ。目撃者がそれなりにいても不思議ではない。

 

「リク君たちといい、先が楽しみだ」

 

 ブレイクデカールと呼ばれる違法ツールが横行し、先行きを不安視されているGBN。その中にあっても、彼女や先日出会った少年たちのような有望なルーキーは参入してきている。その事実が嬉しく、また頼もしい。

 

 彼もまた上機嫌に席を立つと、セナとは反対方向へ歩き出してペリシアの人並みへと消えていった。




シャフリヤールのエミュ難しい……
愛、愛とはいったい……
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