ガンダムビルドダイバーズ Behind the scenes 作:ほぼ読み専
ひとまずこの章の終わりまで完成しましたので、今日から連続投稿いたします。
本編12話+幕間となりますが、お時間がありましたらお読みいただければ幸いです。
GBNのディメンションは広大で、そこには様々な場所が存在する。
原作世界を忠実に再現したエリアはもちろんだが、GBNオリジナルのディメンションなども存在していて、フルダイブVRきっての高クオリティで描画される世界は、ガンダムにさほど詳しくなくとも、普通に旅をするだけでも十分に楽しめるほどの出来栄えだ。
現実世界を再現したVR観光というものもあるが、
「でっかい肉まんだねー。テレビで見た中華街のやつみたい。リアルだと行ったことないけど」
そう言ってセナが両手に持ったそれにかぶりつく。現実と比較するとどうしても食感も味も落ちるVRの食品だが、現実世界の食事が制限されるセナにとっては貴重な味覚の刺激だった。
背の高いビルが立ち並ぶ都会でありながら、洗練されたオフィス街というよりもどこか雑多な雰囲気のほうが強いのは、道の両脇に連なる屋台や露店のせいだろう。
「ああ、横浜のね。私も行ったことはないなあ」
隣を歩くレイが手に持ったカップの中身をつつきながら応える。こちらはジェラートのようなものだ。GBNでの飲食にあまり馴染めない彼女は、だいたいいつも軽食か飲み物だけを嗜む。
ここはGBN内にあるアジアン・サーバー。その中のエスタニア・エリアと呼ばれる場所にある都市で、二人はとある目的のためにここを訪れていた。
「で、マギーさんの話だとこっからもっと山奥のほうなんだっけ? その『虎武龍』っていうフォースの拠点」
「そうそう。なんでも近接格闘戦を主体にするフォースでランキングは五位。実質GBNでの白兵戦のトップ集団ね」
今回、二人がここを訪れたのはランキング上位のフォース「虎武龍」。さらに言えば、
「楽しみだなー。リーダーのタイガーウルフって人」
それを束ねるフォースリーダーに会う事が目的であった。
GBNきっての情報通であるマギーにセナが頼み込み、接近戦に強いダイバーとして彼を紹介してもらい、今回アポを取り付けることができた。しかし、今までセナと行動を共にしてきたレイはそのことに違和感を覚える。
「珍しいよね。セナが
ことゲームにおけるセナはただただストイックだ。有名ダイバーと知り合ったとてSNSで呟くこともなければ、
ある意味でバトルジャンキーな思考の二人だからこそ、ここまでウマが合ったのだが、セナは先日の獄炎のオーガ戦で少し思うところがあった。
「ん? そだね。でも、今まで我流でやってきたけど、先達がいるなら参考にしてみるのもありかなって」
今までのセナはこれまで培ったゲーム経験から、GBNでのバトルスタイルを構築してきたが、オーガとの戦いでそこにひとつの
というのも彼女がこれまでプレイしてきた他のロボゲーと比較した時、「ガンダム」という作品、ひいては「ガンプラ」という
通常のゲームとの最も大きな相違は、機体の性能が個々人で細かく異なる点だろう。極端な例を出せば、全く同じキットでも作り手が異なれば性能に違いが出てくる。「これとそれの組み合わせだとこういう性能の機体が出来る」という、機体のアセンブルを組めるタイプの対戦型のロボゲーでよくある、
こうした理由から、いかにVRゲームに対して経験豊富なセナであろうとも、GBNというゲームは一筋縄ではいかないのである。ゆえに、ガンプラバトルという未知の遊び、そのコツを掴む端緒になれば、と藁にも縋る思いでマギーを頼ったわけだ。
セナの脳裏にはペリシアで出会った一人のダイバーが蘇る。
──キミの「愛」はどれほどのものかな?
蠱惑的な切れ長の瞳に情熱の炎を宿した麗人。想像の中の彼の視線が今もまだセナを
──見せてあげるよ。わたしの愛を──でも、
「とびっきり重たいから覚悟しておいてよね」
「え? どしたのセナ。胃もたれ? やっぱ肉まん大きすぎた?」
「──んーんっ、違うよ。でも、レイも食べてみる?」
無意識に口から零れた呟きに反応して、こちらを心配そうに見てくる友人に笑顔で返すと、セナは手にしていたそれをレイへと差し出した。
§
ガンプラに乗り込み都市部から離れて、エスタニア・エリアをしばらく進むと、いかにも霊山といった趣きの山が見えてくる。まさに有名なカンフー映画よろしく山頂には少林拳の道場を模した建物が建っていて、これこそが「虎武龍」のフォースネストなのだが……
「えー、ご足労いただいたところ誠に申し訳ありませんが、師範は現在席を外しておりまして……」
「えぇーっ!?」
「タイガーウルフさん、いないんですか?」
門の前で佇むレイとセナに、
「マギーさんから連絡がいっているはずなんですけど……」
虎武龍の中でも幹部に相当する高弟らしいその男性は「ワン・タンメン」と名乗り、フォースリーダーであるタイガーウルフの不在を告げているのだが、実のところはレイとセナに隠してメンバーチャットでタイガーウルフとやりとりをしている。
【ちょっと師範! どこにいるんですか! マギー様を通してアポイント取ってきた人たちをほったらかしにしないでください!】
【い、いやあ、すまん。だが、マギーのヤツもタイミングが悪いんだよ。今はどうしても目を離したくない新人がいるんだからしゃーねーだろ!】
【……
【バ、バカ言ってんじゃねぇ! このタイガーウルフが女相手に、に、逃げるわけねぇだろっ!】
【本当ですかぁ~……?】
【と、とにかくっ! 今の俺ァ手が離せねぇんだ!
【あ、ちょ、師範!?】
「はぁ……」
どうやら一時的にチャット関連の通知を全てオフにしたようで、完全に沈黙したメンバーチャットにワンは思わず溜息が漏れた。
「あー、これは出直したほうがいいかしら」
「うーん、マギーさんは、連絡しておいたわよーって言ってくれてたんだけどなー」
こちらの様子からそんな会話をするレイとセナに気づいたワンは、内心の憤りを心の棚にぶちこんでからにこやかな笑顔を二人に向ける。
「んんっ、失礼しました。実は今しがた師範と連絡を取ってみたのですが、どうも内容に行き違いがあったようでして……」
ワンの言葉を聞いて露骨にがっかりした様子を見せるセナに、しかし彼はこう続けた。
「──ですが、
「それって……」
「へぇ……」
ワンが故意に漏らした闘気を敏感に感じ取った二人の戦士が、実に楽しそうに揃って口角を釣り上げる。
「ええ。お二人にとっても決して無駄にはならない学びがあると思いますよ」
狂犬二人から剥き出しの闘争心を叩きつけられても、なお涼しい顔をするワン・タンメン。名前こそアレながら、彼もまたGBNにおいては強者であり、伊達に虎武龍の中で高弟の位置にいるわけではなかった。
「さ、まずは我々のフォース、虎武龍をご案内いたします。こちらへどうぞ」
そう言って背を向けるワンに続いて。レイとセナは並んで虎武龍の門を潜った。
『ハァッ! セイッ! ハァッ! セイッ!』
フォースメンバー、いやあえてここは「門弟」と言おう。石畳の広場で一糸乱れぬ動きで
「……? うーん?」
「動きにキレもあるし、映画みたいで見ごたえはあるけど……」
それを眺めるレイとセナの表情は感心や物珍しさはあれど、どこか懐疑的なものを含んでいる。
そんな二人はワンに案内されるまま、虎武龍のフォースネストで行われている修行を順に見学していく。
鉄棒に膝をかけ逆さ吊りになった状態で、地面に置かれた瓶から猪口で汲んだ水を腹筋を使って体を起こして吊下げられた桶に入れる。
重りを付けた両腕を前に突きだして空気椅子をしながら、両肩と頭に乗せた皿を落とさないように姿勢をキープする。
フォースネストの入口に続く長い石段を、重りをつけた状態でうさぎ飛びしながら上る。
どこぞのカンフー映画で見たような、見た目のインパクトはあるが効果があるのかわからない──もっと言えば、
──これがランキング五位のフォース?
──こんな
「さて、これでだいたいはご覧になったと思いますが……どうやら疑問がある様子ですね」
そんな感想が顔に出ていたのか、一通り見て回った後にワンから指摘されレイは思わず口ごもった。
案内の途中に、物は試しレイとセナも虎武龍式の修行を体験してみたのだが、特に何かを得るようなこともなく。同じ内容を現実世界でやろうとすれば確かに過酷なのだろうが、GBNはダイバーに疲労や怪我といった身体的な負荷をフィードバックしない仕様のため、特に苦も無く行えてしまう。
なんの肉体的な負荷も無い状態での単純動作の反復は、むしろ精神的な苦痛のほうが大きいほどであった。
「VRで筋トレする意味がわからないかなー」
そうして沈黙するレイを代弁するように放たれたのはセナの一言。
「確かに特定動作を反復すると、スキルを覚えたりステータスが上がったりするゲームはあるよ? けど、GBNって
ゲーム内での強さ、いわゆるプレイヤーキャラの性能というものはGBNにおいてなんら意味を持たない。いや、そもそも元から設定すらされていない。
このゲームにおいて強さとはすなわちガンプラバトルの腕前であり、それを構成するのはガンプラの完成度とそれを元に割り振られる機体パラメータ。そして操るダイバーの力量、プレイヤースキルであるからだ。
「後はわたしがやったことがある運動プログラムみたいな、
セナが挙げた他の例はどちらもGBNには当てはまらず、となれば必然この電子の世界でどれだけ筋トレしようが、それは
「まあ私もGBNで自主練はするけど、それはガンプラに乗ってのものだし……」
「ねー。
レイの言葉に大きく頷くセナだったが、途中でなにかに気づいたように動きが止まる。
「セナ?」
「あー、そういうことか。
訝し気なレイの声に返すことなく、なにやら一人で納得した様子。
「……なにか、お気づきになりましたか?」
「わたしVRゲーは得意なほうだけど、むしろそれが落とし穴だった」
なにか面白いものを見るようなワンの視線を真っ向から捉えてセナは応える。
「GBNと現実。リアルの肉体とアバターの間にある
「ご賢察です」
「えっ、なに、全然わかんないんだけど……」
セナの答えを笑顔で称えるワンとは反対に、なにがなんだかわからない様子のレイ。そんな彼女に向き直ったセナは中空へと視線を投げつつ、己の考えを整理するように丁寧に言葉を並べる。
「えっとね、例えばだけど、わたしって現実だと運動なんて出来ないのはレイは知ってるよね?」
「うん? まあ、それは、ね」
「けど、VRの中、まあGBNでなら、そんなわたしでもさっきの映画みたいな修行だって出来る。けど、それってどれだけアバターを現実に寄せたとしても、
「……?」
セナの説明を聞いても、VRゲームをよく知らないレイは思案顔をしながら首を傾げる。それを見てセナは少し困ったように眉根を寄せて考えたが、とある閃きが彼女の脳裏に降りた。
「んー……あっ! それならさ、こういうのはどう? レイはGPDもやってたんだよね? だったら
レイと付き合うようになってから気になって調べた情報。GBNの前身となった
「──あッ!?」
「おっ、その顔はなにか覚えがあるんだね? それ、その感覚がVRとリアルのズレだよ。で、このフォースの修行ってのは、つまりGBNにおけるダイバーとしての体の動かし方を本人、もっと言えば脳に馴染ませるためのものだったんだ」
「……あー、なるほどねぇ。
セナの解説を聞いて身に覚えがあるレイは深く納得する。
他人には話していなかったが、GBNで行うガンプラバトルにおいて、レイは常に
まるで喉に刺さった小骨のような、努めて気にしないようにしても確かな存在感を持つそれ。GPDの時代には感じなかった妙な感覚。それは確かに彼女の操縦に良くない影響を齎していたのだ。
なんだか言い訳がましく感じてしまい、セナには黙っていたが……
「はぁ~……考えてみればそりゃそうよね。現実で直接操縦するのと、アバターを介して
フルダイブVRに疎いレイには持てなかった視点からの回答に、目から鱗が落ちるとはこのことかと深い溜息が彼女の口から漏れる。
「うーん、でもなぁ」
しかしそんなレイとは異なり、セナは少し落胆した様子で語る。
「それが目的なら、
「おや、それは……理由を聞いてもよろしいでしょうか?」
「身体の感覚をGBNに最適化するってのは、つまり
「えっ……そうなの?」
「うん。だってそうじゃなきゃ、わたしがVRでここまで動けないし……それに、やってきたゲームの中には、
「えぇ……」
セナの話を聞いてドン引きするレイだったが、
「ふむ……では、こういうのはどうですか?」
ワンのほうは何か思うところがあるらしく、視線でついてくるように二人に促す。
しばらく歩いてたどり着いたのは、大きな岩が転がる広場だった。
ガンプラバトルができるくらいの広さを持つそこで、ワンはおもむろに近場の大岩に歩み寄ると、腰を低く落として構え、静かに呼気を絞り──
「──破ッ!」
神速の踏み込みからの掌底。
震脚によって足元の地面を陥没させながら放たれたそれは、岩肌に触れた瞬間、およそ人体がぶつかったとは思えない轟音を響かせ──
「えぇ……」
「おぉーっ!」
文字通りの木っ端微塵に粉砕してみせた。
半身で踏み込んだ姿勢のままだったワンが、残心を解いて二人へと向き直る。彼の姿に特に変化はなく、
「どうでしょう? ……まあ、これがガンプラバトルの役に立つのか、と言われれば一芸の域にしか過ぎませんが……しかし、
人体というものは生物である以上とても柔らかい。どれだけ鍛えたところで少年漫画のような真似はできるはずもなく、普通に考えれば掌底で岩石を破砕することなど叶わない。
だが、ここは
「いやあ……そう言われてもすぐには……」
「なるほどなるほど。GBNは
「えっ」
レイが隣を確かめる暇もなく、元気よく走り出したセナが助走をつけて天高く跳躍し、
「──いや、どんだけ高く跳んでんの!?」
某マスクドライダーよろしく人間離れした高さまで飛び上がり──
「てりゃッ!」
「……ウソでしょ」
空で身体を捻り頭を下に、加えて
「──切り捨て御免!」
空中で加速しながら腰の軍刀を抜刀すると、地面に転がる巨石に上段に構えた刃を振り下ろして──
ぱがんッ! とでも表現するような異音を伴って縦に真っ二つとなった岩石の間を抜けて着地。これは軍刀で切り裂いたのではなく、
「セナってガンダムファイターだったの……?」
唖然とするレイをよそに、おもむろに立ち上がって軍刀を二、三度素振りして確かめたセナは感心したように目を丸くした。
「……おー、GBNってすごーい!
「……私がログインしてるのGBNであってるよね?」
友人があまりにも現実離れしすぎた動きを見せてきたせいで思わず現実逃避しかけるレイ。まあ、いきなり隣でリアル特撮ヒーローをされれば誰だって戸惑うのは無理もない。
「ははは……これはまた……良いものを見せてもらいました」
表情こそ穏やかながらも冷や汗で額を濡らすワン。もしかして自分はとんでもない怪物を生み出してしまったのでは──と内心で危惧するも、フォースリーダーを思い出せば、まあそこまで心配する事でもないかと持ち直す。そもそもGBNではダイバー単体でどれだけ強くとも、それでなにかどうこうなる事もないし。
「ワンさんありがとう! ダイバーだけでここまで出来るなら、バトルの動き方にもまだまだ
GBNというゲームはどこまで出来るのか。その真実の一片をワンによって知らされたことで、ガンプラバトルに対して彼女なりのヒントを得たセナは実に嬉しそうに笑う。
「セナ……うん、そうよね。私も色々気づけた。ワンさん、ありがとうございます」
友人のそんな姿を見たレイもまた、今日の出来事で成長に繋がる道が見えてきた。GPDの経験があったからこその落とし穴だった。操作感の違いと勝手に結論付けて、勝手に限界を設定していた。
「どういたしまして。少しでもお二人の糧になったのなら幸いです」
二人にお礼を言われたワンが、どこかほっとしたような様子でそう返した時──
「ほぉ、なかなか見込みのあるヤツじゃねえか」
力強い男性の声が響く。
レイとセナが見上げた先、太陽を背に人影が舞う。
空中で身を翻した影は先ほどのセナと同様、まるで空気を蹴ったように加速すると一直線にこちらへ飛来する。
「──ハァァッ!!」
「むっ──!」
何かを感じたセナが飛び上がると同時に着弾。今しがた彼女が切り裂いた大岩を蹴りの一撃で粉砕。
もうもうと砂煙が上がるそこには、一人のダイバーが立っていた。
狼とも虎とも言える獣の頭部に毛皮を纏った獣人。
鍛えられた筋肉と隙の無い立ち姿に鋭い眼光。
「師範!」
驚いた様子のワンの一言で誰か理解する。
「もしかして──」
「おう、俺こそがタイガーウルフ。虎武龍のリーダーだ」
レイの呟きに答えるようにこちらを向いたダイバーこそが、二人が求めていた人物だった。
Tips
・フォース「虎武龍」
フォースランキング五位の上位フォース。
GBNきっての近接戦闘に特化したフォースでありながら、この地位にいるのは間違いなく強豪の証。
リーダーのタイガーウルフは近接格闘に特化したバトルスタイルで、「トライファング」の異名をもつ有名なハイランカーでもある。