ガンダムビルドダイバーズ Behind the scenes   作:ほぼ読み専

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強くなるために

 突如現れた虎武龍のリーダーを名乗る獣人のダイバーはタイガーウルフ。レイとセナが探していた当人だった。

 

「ま、細かい話は後にして、まずはこいつだ」

 

 そんな彼が最初にしたことは、特殊な仕様のバトルモードを立ち上げること。

 

 彼の背後にポリゴンが集い、形成されいく。

 

 やがてそれは一体のMSの形となった。

 

「リーオー?」

 

 訝し気にその名を呼ぶレイ。

 おそらくはダイバーが乗っていないNPD機。四角いカメラアイが特徴的なモスグリーンの機体はガンダムWにて登場した量産機だった。

 

「おう。お前ら二人にはコイツを相手してもらう──ただし!」

 

 咄嗟にガンプラを呼び出そうとしたレイの動きを制するように、タイガーウルフは続けざまに信じられないことを言い放つ。

 

()()()()()()()()()

 

 彼が叫ぶやいなや跳躍すると、レイとセナ、それとリーオーを囲むようにしてバトルフィールドを示すドームが出現してフィールドを区切る。

 

「お前たちは学んだはずだ。GBNでのダイバーの可能性を! それを俺に見せてみろ!」

「はぁっ!?」

「あ、ちなみに負けたらダイバーポイントも失うから気を付けろよ」

 

 レイが文句を言おうにもタイガーウルフは既にドームの外だ。いくらゲームとはいえ、彼もまた意味のわからない身体能力をしている。

 

「おおっ! 大物狩り(ジャイアントキリング)か! いいねぇ! アクションゲームのお約束だ!」

 

 隣で楽しそうに瞳を輝かせる友人をつとめて視界に入れないようにしながらレイは考える。

 

「くっ……確かに人間がMSを相手に戦うエピソードはあるけど……ええい、わかった! やってやるわ!」

 

 手持ちのアイテムからダイバーが使える武装を呼び出しながらレイが吠える。気分はさながらIGLOOでザクを生身で相手にした連邦軍歩兵部隊のそれ。絶望しながらも決して諦めなかった彼らの精神に、この時の彼女は強い敬意を抱いた。

 

「ではいくぞ! ダイバーファイト! レディー、ゴー!」

 

 その掛け声にはいちガンダムファンとして一言申したいレイだったが敵は待ってくれない。

 

『……』

 

 ヴン、とモノアイに光が灯ると、右手に持った小型のビームライフルを構えるリーオー。

 

「あっ、ヤバ……」

 

 人間に向けるにはあまりに大きすぎる銃口に、光が収束してゆく様を見て咄嗟にレイは叫ぶ。

 

「セナッ!」

「まずは回避に徹してパターンを覚える! これが基本っ! レイも最初は出来るだけ逃げ回って行動パターンを引き出して!」

 

 しかしてレイの心配は杞憂に終わる。てっきり突撃すると思っていたセナの反応はといえば実に冷静であり、彼女がVRゲームにおいては自分と比較にならない経験者であることを、レイはこの時に思い出した。

 

「了、解っ!」

 

 セナに倣って彼女と逆方向へ飛び出した直後、ビームが飛来して大地を大きく抉って砂ぼこりを撒き散らす。

 

「ぶわっ! ……げほっげほっ! くぅぅ、やっぱサイズ差がエグいって!」

 

 断続的に襲い来るピンク色のビーム弾を、現実よりも速度の出る足でなんとか躱して走る、走る、走る。

 

「……確かに現実より足が速い」

 

 そんな中、レイは確かにGBNとリアルでの違いを実感した。

 銃口の向きから射線を予測して走るルートを選んでいるが、現実でのレイの肉体では速度が足りず、とっくの昔にビームの餌食になっている。

 

「なるほどね……これが、VRと、リアルの、違いっ!」

 

 右に、左に、意図してジグザグに、時にはフェイントも交えて。

 GBNの中で全力疾走などしたことがなかった彼女にとって、これは確かな発見となる。

 

「これなら戦える──!」

 

 GBNはあくまで仮想現実。現実に似せてはいるが、あくまで似ているだけ。

 

 人が空を舞ったり、大岩を砕いたりだってできる仮想の世界なのだ。

 

 現に自分もさっきから重そうなバズーカを肩にしょって走っているのに、重さを全く感じず息切れもしていないではないか。

 

「だったらぁっ!」

 

 敵の遠距離攻撃のパターンは覚えた。

 このリーオー、どうやら遠距離の敵に対しては手持ちのビームライフルを放つだけで他に攻撃手段はないようだ。さらにその射撃テンポも一定で、規定回数射撃すると必ず一度射撃を止めるタイミングがある。

 加えてシールドを装備していないことから、近接兵装(ビームサーベル)もないと予想できる。

 

「これでぇ!」

 

 射撃が止まるタイミングを計り、リーオーの上半身めがけてバズーカを放つ。レイが使ったのは08小隊でシロー・アマダが使用していたものと同じそれ。MSを倒した実績があるゆえに選んでいたものだ。

 

『……!』

 

 弾着の瞬間、リーオーが身を捻ったため、着弾位置こそ右肩となったが大きく花開いた爆炎は相手の目をくらませると同時に、相棒にチャンスを伝える役目を果たす。

 

「──隙ありィッ!」

 

 そうしてレイがリーオーの注意を引けば、その隙を見たセナが果敢に切り込んでいく。

 軍刀を両手持ちにして姿勢を低く疾走する様は、軍服の藍色もあって地上スレスレを飛ぶ燕のよう。

 

 ぎゃりりりっ! という金属同士がこすれ合う不快な音を響かせながら、セナの軍刀がリーオーの踝部分、装甲に覆われていない剥き出しの関節を切り裂く。

 

『……っ!?』

 

 バランスを失い倒れそうになるリーオーは咄嗟に踏ん張ろうとするも──

 

「08小隊式MSの倒し方ァ!」

 

 いつの間にかリーオーの近くまで走り込んでいたレイが仰向けのスライディングで股下に潜り込み、股関節へ向けてバズーカを発射。

 踏ん張ろうと片足を地面から離していたリーオーの股下で爆発が起こり、その巨体を一瞬だけ僅かに跳ねさせると、そのままバランスを崩して転倒する。

 

 仰向けとなったリーオーが起き上がろうと左手を地面に着いた時、そのカメラアイはひとつの影を空に捉えた。

 

「でりゃあぁぁっ!」

 

 跳躍と呼ぶには恐ろしい高さに飛び上がったセナが空中で身を捻り、落下の速度を乗せて放たれた渾身の突きがリーオーのカメラアイを貫く。

 鍔元まで刺さった軍刀を引き抜いてセナが離脱すると同時に、リーオーの頭部から紫電が放たれると爆発が起きた。

 

 カメラアイに大穴を開けられたリーオーはそれでも立ち上がろうとするが、片足を上げた瞬間、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「初代ガンダムの十四話。時間よ、とまれ。それに出てきた時限爆弾よ。あのガンダムのシールドさえも()()()()()()()威力は伊達じゃないわ」

 

 GBNには様々な劇中アイテムが実装されている。

 

 レイが用いたのはゲーム内において、いわゆるジョークグッズに分類される類のものだが、「ダイバーが直接ガンプラに貼り付けることで、とんでもない威力を発揮する」という、劇中のシーンを再現するためのアイテムである。

 

 威力こそ折り紙付きだが、実用性はもちろん皆無だ。

 

 なにせ、ダイバーが、直接、ガンプラに貼り付ける。という条件があまりにも限定的かつ厳しい。戦闘機動をしているガンプラに生身のダイバーが近寄るなど自殺行為もいいところ。

 レイもミッション報酬として得られたものを記念としていくつか持っていただけだったのが、ここにきて思わぬ形で活躍することになるとは思わなかった。彼女が生身でMSの相手をする、となった際に咄嗟に参考にしたのが08小隊と初代のエピソードだったからこそ存在を思い出すことができた。

 

 片足を失い立ち上がることが出来なくなったリーオーだが、それでもまだ闘志は衰えておらず上半身を起こしてビームライフルで狙いを付けようとする。

 

 が、今度はライフルを握った腕の肘が爆発し、足と同様に千切れて脱落。

 

「仕掛けた、爆弾がっ、一個なわけ、ないでしょっ!」

 

 そう啖呵を切ってレイは走ると、倒れ込むリーオーに対して回り込み、両手にそれぞれ持った対戦車榴弾(RPG)をコクピット目掛けて発射する。

 

 二つの弾頭が同時に着弾し大きな爆発が起きるも、リーオーは未だ健在。

 

「リーオーだけに()()()()()()()ってわけ? でも残念ね──セナ、あとはお願い」

 

 爆風から距離を取るように後退したレイと入れ替わるように、彼女の頭上を飛び越えた小さな影がリーオーに迫る。

 

「天誅っ!」

 

 それは再度跳躍したセナで、空中で前方宙返りをして狙いを定めると、放たれた矢のように得物の切っ先を突き出して降下。レイのRPGによって亀裂の入ったコクピットの装甲へと軍刀を突き立てた。

 

 ずぶり、と確かに()()()を貫いた感触が手に伝わってくる。

 

 ()()()()──。

 

 セナがそう感じると同時にリーオーの動きが止まる。

 

 今度こそ完全に沈黙した巨人が力なく大地に倒れた。

 

 

 

 

 

§

 

 

 

 

 

「おうおう、やるじゃあねぇか。まさか完全勝利するとは思ってなかったぜ」

 

 戦いを終えた二人をタイガーウルフは純粋な賞賛で称える。

 

「セナっつったか。お前さんは身体操作に関しちゃ言うこたねぇ。後はガンプラバトルの経験値を稼いで、それに併せて機体の強化をしていけばいいだろう」

 

 リーオーとの戦いでセナが見せた動きから、タイガーウルフは彼女がVRにおいてのアバター操作に熟達していることを見抜いていた。足りない部分があるとすれば、機体性能はもちろんガンプラバトル特有の駆け引きなど、実践部分での経験が物を言う分野だろう。

 

「で、レイ。お前のほうは、知識や戦術は見事なもんだが……まだGBNに身体が馴染んでねぇな」

「……そう、ですね。正直、今の今まで実感がなかったです」

 

 タイガーウルフの指摘にレイはぎくりと体を硬直させる。自覚があるだけに彼の言葉は深く刺さった。

 

「でも、ここまで違うんなら、確かに現実とズレが出てくるのもわかります。時々、GPDでは出来てたマニューバが上手くいかないこともありましたから」

「──ああ、お前さん、元GPD勢か。そりゃ苦労するぜ。現実とVRじゃ身体感覚が違うからな。GPDで鳴らした腕もGBN(ここ)じゃイチから鍛え直しだ」

「うぅ……」

 

 少しの納得と、同情が多分に含まれたタイガーウルフの言葉にレイはがくりと項垂れる。

 

 薄々自覚はあった。だが、日々ルーティーンのようにヴァルガで無差別対戦を繰り返していた時には見て見ぬフリをしていた。あの頃は惰性でガンプラバトルを行っていたから、GBNで思った動きができなくとも、()()()()()()()と割り切ってしまっていた。

 

 しかし、今。再び()()()ガンプラバトルに取り組むようになったことで、レイはこの問題と正面から向き合わないとならない。

 

「ま、今のお前さんに虎武龍(ココ)は丁度いい。GBNに身体を慣らすってことなら、下手にバトルばかりするより……そうだな、学校の体育みたいに体を動かして、現実との違いを覚えたほうがいい」

「ええと、それはつまり……」

「ん? ……ああ、そうだ。施設の中は好きに使いな。メンバーじゃなくとも、ここは強くなりたい奴が勝手に己を鍛える場所だからな」

 

 フォースに入らずともフォースネストの設備を使わせてくれるという、なんとも太っ腹な事を提案してくれるタイガーウルフ。

 

「……ありがとうございます。お言葉に甘えて、しばらくお世話になります」

 

 決意を込めてレイが応える。

 

 負けられないライバルがすぐ傍にいる。だからこれは、いわば意地だ。

 

 初めてできた同年代の友人で、同じ趣味を共有する仲間で、GPDで遊んでいた時にはついぞ得られなかったもので──だからこそ誰より負けたくない存在。

 

 傍らの彼女(セナ)の顔を見れば、にこやかな笑顔を向けてくれる。混じりけのない親愛の笑顔を。

 

 ──この子を失望させたくない。

 

 カイムが完成してから行うようになったセナとのタイマンバトル。数日に一度は行うそれは、最近だと負け越すことが多くなっている。

 GBNのガンプラバトルに行き詰まりを感じていたのはセナだけではなかったのだ。

 

「というわけでセナ。私は少し虎武龍にお世話になるから、その間は自由にしてて」

「えー……。うーん、でも、しょうがないか。レイが強くなるために必要なんだもんね」

「勿論リアルでカイムの調整もやるから、完全に会わなくなるわけじゃないわ。ちょっとGBNで別行動するようになるだけ」

 

 レイの言葉を聞いたセナは、うーん、と顎に人差し指を当てると、何かを閃いたようにひとつ頷く。

 

「いわゆる修行パートだね!」

「ま、まあ、間違ってはいないけどさ。身も蓋も無い……」

「じゃあその間、わたしもガンガン戦ってもっともっと強くなる!」

 

 にこにこと無垢な笑顔で物騒なことを宣うセナに、敵わないなぁ、とレイは苦笑する。ことゲームに関してセナはナチュラルに貪欲で向上心に際限がない。ガンプラバトルを長く続けているレイにしても、ここまでの手合いは出会ったことがなかったほどに。

 

 こうしてレイとセナはそれぞれ異なるアプローチで強さを模索していくことになる。




Tips

・GBNのゲーム内アイテム

 作中に登場した様々な小物たちが再現されている。
 ほとんどファンアイテム的な扱いだが、武器類は実際に使うこともできる。ただしそれらの武器は対人用のものが殆どのため、ガンプラバトルでは基本的に使い物にならない。
 使用条件さえ満たせばレイが用いた爆弾のようにMSを破壊する事が出来る者も存在してはいる。
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