ガンダムビルドダイバーズ Behind the scenes   作:ほぼ読み専

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無頼と蛮族

 セナが無事にハイペリオンを仕留めた一方で、剣鬼こと武雷を相手取っているヤクト・ドーガは追い込まれていた。

 

『……嬢ちゃん、やるもんだねぃ あっしとここまで()()()とは』

「ハンッ! そいつはどーも! 伊達に百鬼の主力を張ってないって、ねッ!」

 

 何度目かもわからぬほどの衝突。目が慣れてきたこともあってか、武雷の放つ神速の居合いを危なげなくフェダーイン・ライフルから発振したビーム刃で受け止める。

 

『百鬼ってこたぁ、あのオーガんトコのかい。そりゃあ強ぇわけだわ』

「ああ、覚えときな! 百鬼のローズ! それがアタシさ!」

 

 マゼンダカラーのヤクト・ドーガのダイバー、ローズは威勢よく吠える。しかしその表情は決して明るくはない。

 

 武装面からしてそもそもローズのヤクト・ドーガ、ヤクト・ドーガ・ソーンはレイのイフリート・ゲヘナと似たような、中距離戦を主体にしたガンプラだ。

 銃床にあたる部分からビーム刃が展開できるとはいえ、フェダーイン・ライフルは近距離での取り回しが良い武器とはいえず、ファンネルもまた機体同士が接近していてはその真価を発揮できない。

 

「チィッ──!」

 

 強引に鍔迫り合いを解きバックブースト。同時にリキャストの終わったミサイルを、左肩のファンネル・ポート・シールドから引き撃ちして距離を取ろうとするも──

 

『逃がさねぇ、──よっ!』

 

 脚部スラスターを用いた神速の踏み込み。持続性こそ短いが、短距離での瞬発力に優れた武雷はローズを己の間合いから逃がさない。これによって思うように間合いが取れず、自慢のファンネルも封じられていた。

 

「──ッ! しつこい男は、嫌われるよ!」

 

 展開機構を再現し、発射口を金属パーツに換えて作り込まれたローズのファンネルは、例えナノラミネートアーマーであろうとも火線を集中させれば貫通させることが出来るパラメータを持つ。

 しかし、それは最初の攻防で相手も承知しているためか、こうしてクロスレンジを維持し続けてくる。

 

『そうかい。ま、ジジイには関係のねぇこった!』

「ジジイを自称するなら、縁側で茶でも啜ってな!」

『へっ、最近の年寄りはな、サブカル趣味のやつも結構いるんだぜぃ』

 

 そう言って再び居合いの構えを取った武雷が、瞬間的にスラスターを点火して一歩を踏み込む。

 

 ──来る!

 

 これまでのやり取りでほぼ完璧に斬撃のタイミングを把握していたローズは、その軌道上にビーム刃を滑り込ませ──

 

『──遅ぇ』

 

 ばちり──、と武雷の鞘から紫電が走った瞬間。ヤクト・ドーガ・ソーンの右肩に刃がするりと入り込む。

 

 ヤクト・ドーガ・ソーンの右肩にはギラドーガと同型のシールドを装備している。これは積層したプラ板でフルスクラッチされたもので、耐ビームコーティングまでされて防御力のパラメータも相当に強固なはず。

 しかし、ローズの右側面へと通過していく武雷によって振り抜かれた刃は、その守りを容易く突破してみせた。

 

「な──、」

 

 肩部のシールドごと右上腕が斬り飛ばされ、宙を舞うフェダーイン・ライフル。

 

『──超電磁抜刀、紫電』

 

 ガンダム・バエルの改造機であるガンダム・武雷。本来はレールガンを備えるウィングスラスターは、推進器を兼ねた「鞘」として改造されサブアームによって腰部に装備されている。

 そして、このレールガンの機構を流用、()()()()()()()()()電磁力を利用して撃ち放たれるのが超電磁抜刀──武雷のダイバー「モンジューロ」が作り上げた、ガンプラバトルにおける専用の抜刀術であった。

 

『何事も、慣れた頃が一番危ないって──なッ!』

 

 ローズが己の居合いのスピードに慣れた頃合いを見計らい、より速い抜刀術でもって裏をかいたモンジューロは、フレキシブルに可動する腰部のスラスターを用いて無理やり武雷を反転させると、弐の太刀として上段から刃を振り下ろす。

 

「──ナメ、るなァッ!」

『おおっとぉ! こいつぁ、おでれーた(驚いた)! 大したモンだぜ!』

 

 しかしその攻撃を、ローズは左腰部のヒートナイフ付きビームサーベルを逆手で抜いて受けて見せた。

 

「ぐぅぅぅ!」

 

 だが、状況は芳しくない。

 片手と両手。力の差は明確。まして膂力に優れるバエルの改造機である武雷はパワーもかなり高い。

 

『悪あがきもここまでさぁ……押し切らせてもらうぜぇ!』

 

 徐々に押し込まれる刀の切っ先が、まさにヤクト・ドーガ・ソーンのコクピットを切り裂こうと迫ったその時。

 

『──むっ!?』

 

 突如飛来した翡翠の刃が武雷に襲い掛かる。

 その数は五つ。

 

 躊躇いなく鍔迫り合いを解き離脱を図る武雷。しかし同時に動きを予測した偏差射撃が、D.O.D.S効果を持つ螺旋状のビームがその回避先へと放たれる。

 

『──チェァッ!』

 

 当たり前のように切り払いによってそれを凌ぐモンジューロだったが、対峙した相手を見て目を細めた。

 

「おおー、良い反応! さあさあ、今度はわたしが相手だよ! 存分にやろう!」

 

 VRだというのに全身の肌が泡立つようなこの感覚。別のゲームで身につけた彼の第六感が危険を告げる。

 倫理観や善性を浜に埋めてきたような幕末の世界(ゲーム)を思い出させる、ある意味では懐かしいこの()()は──。

 

『はっ! まさかまさか。GBN(こんなトコ)で出会うたぁ、人生ってのはまっこと──おもしれぇ』

 

 自分と同じ世界を生きた、生粋の戦闘狂。

 

 セナの乗るガンダム・カイムが巨大な刃の切っ先を武雷へ向けて降り立った。

 

 

 

 

 

§

 

 

 

 

 

 モンジューロの武雷を相手にしたセナとローズの戦いは二人の有利に進んでいた。

 

 セナは一騎討かのように言っていたが、彼女が味方である以上はローズが援護しない理由はない。

 

「こりゃ驚いたね」

 

 奇しくも先ほどのモンジューロと似たような言葉がローズの口から零れ出る。あの金ぴかハイペリオンを墜とした事から近接戦闘の実力は疑っていなかった。しかし、即席のタッグを組んでみれば、言葉で打ち合わせをするまでもなくローズの動きに合わせてきたのには驚かされる。

 

 前衛をセナのカイムに任せて、右腕を喪失したヤクト・ドーガ・ソーンは後衛として援護に回っているのだが、とにかくセナの動きがローズにとって()()()()()

 

 敵機に貼り付いて攻撃を引き受けるのは前衛として当然だが、こちらの射撃リズムや狙いまである程度察知して、ローズが合図を出す前にタイミング良く射線を開けてくれる。

 

 今もローズが射撃の位置取りを終わったまさにその瞬間、合わせたように武雷の前からカイムが離脱する。

 

『おうおう、()()()()のは女でも嫌われるぜぇ?』

「敵からの罵倒は誉め言葉!」

「ハッ! それこそジジイにモテても嬉しかないねぇ!」

 

 そこへ纏わりつくようにして展開した三基のファンネルから襲い来る火線を、頭部の三度傘に似せたパーツで巧みに防御しながらモンジューロが毒づく。

 

「よそ見は厳禁天誅!」

『──ッ! たくよぉ、若ぇのが寄ってたかって……敬老精神は、ねぇのか──ッと!』

 

 追撃のフェダーイン・ライフルによる射撃を回避した先、ローズの()()()を言わずとも理解して先回りしていたセナが待ち構えて斬りかかる。

 質量で勝るレイザーブレイドの一撃を細身の刀身で往なして距離を取り、脚部のスラスターを吹かしてセナを迂回しローズを狙おうとするモンジューロに、地面スレスレを飛翔するカイムが肉薄して離れない。

 

「随分と()()()()()()に慣れてるね」

「まあね! 似た感じの戦い方する友達と一緒にやってるから!」

 

 セナが前衛として武雷に貼り付くことで解禁されたローズのファンネルがその威力を発揮し、カイムの白兵戦能力と合わせて着実にモンジューロを追い詰めている。

 

 ローズのヤクト・ドーガ・ソーンはHGUCのヤクト・ドーガ、そのクェス・パラヤ専用機をカスタムしたガンプラだ。

 

 元は両肩に合計して六基備えているファンネル・ビットを敢えて半数に減らし、右肩のファンネル・ポート・シールドを格闘にも耐えうる強固な積層シールドに換装している。

 一見、手数を減らす改悪にも思えるが、これには明確な利点がある。

 

 それはファンネルの持続時間の長さとして表れていて、セナが合流してから展開したローズのファンネルは、未だにエネルギーも推進剤も尽きることなく飛び回っている。

 ドラグーンやファングのように()()()にすることなく、通常考えられるものを大きく上回る長時間の運用が可能。それが彼女の扱うファンネルの特徴だった。

 

 GBNにおいて一体のガンプラに割り振れるパラメータというリソースは有限である。で、あるならば必要とする装備を最低限に絞り、そこへ積めるだけのリソースを注ぎ込んで運用するのもまたひとつの正解なのだろう。

 

 足し算ではなく引き算による機体性能の洗練とダイバーへの最適化。それは奇しくもモンジューロの武雷と似通ったコンセプトであった。

 

『シィ──ッ!』

 

 武雷の抜き打ちが袈裟斬りの軌道でカイムを襲う。

 

()()()()()()()()()()

 

 一瞬の間にレイザーブレイドを両腕部に装着させたカイムが、腕を交差させてその斬撃を受け止める。

 

『チィッ──!?』

 

 振り下ろした刃が受け止められ、咄嗟に刀身を引こうとしたモンジューロだったが、その瞳が驚きで見開かれた。

 

「逃がさない、よぉ!」

『テメッ、こしゃくな真似を──!』

 

 ぎりぎりぎり。

 交差させた両椀を締めることで、レイザーブレイドの間に挟み込んだ武雷の太刀を固めたセナが不敵に笑う。

 

「いい加減──、往生しな!」

「天誅ッ!」

 

 三基のファンネル・ビットと五枚のCファンネルが逃げ場のない包囲を作りだし、モンジューロのガンダム・武雷をその内へ捉えようと──

 

『──やぁれやれ。こうなっちゃ仕方ねぇ』

 

 ──阿頼耶識、リミッター解除。

 

 武雷のカメラアイが紅蓮に輝くと同時に、カイムのコクピットを衝撃が揺さぶる。

 

「ぐっ!?」

『老体にゃ辛ぇが……ちと気張るとしますか!』

 

 太刀から手を放した武雷が瞬時に一歩バックステップすると、くるりと機体を回転させてミドルキックにも似た蹴りを放ったのだ。

 まさか得物を手放すとは思わなかったために意表を突かれたセナは、脚部のスラスターを併用したそれをまともに胴体側面へ受けてしまい、機体が吹き飛ぶ衝撃で武雷の太刀を落としてしまう。

 

「……ッ! 逃がすかッ!」

 

 まるで格闘家のような軽快な動作で一歩踏み込み、宙に浮いた得物を掴んだ武雷に対し、斜め後方に泳ぐ機体を立て直しながらセナもまた阿頼耶識のリミッターを解除。

 順手に持ち替えた右腕のレイザーブレイドを叩きつけるように振り下ろすが、()()()と僅かに半歩、自然な動作で武雷が横に動いたことで簡単に躱され──。

 

『あらよっと』

「──ッ!?」

 

 すれ違いざま、まるで手品のように、最小の動きで武雷の振るった太刀がカイムの右腕の装甲の隙間、手首の関節をピンポイントで切り裂いた。

 その動作は例えるなら剣道の小手打ちに似ているが……()()()()()()()()()()()

 

 まさに人さながらの動き。セナはガンプラであるはずの武雷に人間の姿を幻視する。

 

『老骨に鞭打って教えてやるよ。阿頼耶識(こいつ)の強みを』

 

 

 

 

 

§

 

 

 

 

 

 阿頼耶識システム。

 

 鉄血のオルフェンズが出典の操縦システムで、GBNにおいてはブースト機能、機体性能を一時的に引き上げる効果を持つ系統のプラグインとして扱われる。厳密にはMSをはじめとした機動兵器の操縦に用いられる有機デバイスシステムなのだが、そこはゲーム的な都合で変更されている。

 

 話を戻せばこのような時限強化系は他のガンダム作品でもそこそこ見られ、GBNで有名なのは00のトランザムだろうか。

 

 他にもEXAM、NT-D、n_i_t_r_o、FXバースト、明鏡止水……上げればキリがないが、時間限定の機体強化というものは、ガンダムに限らずともロボット作品ではメジャーな存在であるため、歴史の長いガンダム作品では実に様々なものが考えられてきた。

 

 では、これらはGBNにおいてどう落とし込まれているのか。名前が異なるだけで内容は同じなのか。

 

 もちろんそこはGBN。きちんと差別化が図られている。

 

 ここで説明すると長くなるため、今回取り上げるのは阿頼耶識に限定するが、このシステムの最大の特徴は「機体の追従性の上昇」にある。

 原作にあるように人体さながら、己の手足のようにMSを、ガンプラを操れるようになる。GBNの操縦は基本的に思考操作が主だが、阿頼耶識はこれに輪をかけて追従性が上昇して、使()()()()()()()まさに「人機一体」となれる可能性を持つ。

 

 しかしこれは欠点でもある。ダイバーの動きをそのまま再現するということは、()()()()()()()()()()()()を理解していなければ、その利点を活かすことが出来ないという事でもあるのだから。

 

 機体性能の上昇はあくまで副次的な効果で、本命は追従性の上昇にある阿頼耶識システムは、ブースト系プラグインの中でも癖が強く利用者はあまり多くない。

 

 だが、もしこれが他のVRゲーム。特にロボットに()()()()、対人戦に特化したゲームに精通するプレイヤーが使うとなれば話が変わる。

 

 そう。例えばこの二人。セナとモンジューロのように、幕末の世界で己の身ひとつに得物を携えて戦ってきたようなVRゲーマーなどがまさにそうだろう。

 

 

 

 

 

§

 

 

 

 

 

『かかッ! やはりか! 嬢ちゃん。おめぇ、()()経験者だな? しかも結構やり込んでただろ』

「それがどうした天誅!」

 

 何度目かのカイムの斬撃を回避する武雷のコクピットの中で、モンジューロが楽し気に笑う。ここまでの攻防でのカイムの動き、MSというよりも剣客と呼ぶのが相応しい人体を意識したそれを見て、彼の中で予測が確信に変わった。

 

『なぁに、()()のお仲間と会えて、ちと嬉しくなっただけさぁ』

「じゃあとっととわたしに斬られて幕末に戻れ!」

 

 地に伏せるような姿勢から鎌のようにカイムの足首を刈り取ろうとする武雷の足払いを、短く跳躍して避けたセナが武雷の頭部目掛けて踵を突き出す。ヒールバンカーを撃ち出そうとして伸ばされたカイムの蹴りだったが、片手を地面に突き腕一本で機体をバク転させ距離を放したモンジューロには届かない。

 

 まるで軽業師のような動きは、重力の軛が存在しないとはいえ、あまりにも異常だった。

 

「アタシも忘れるんじゃないよッ!」

 

 着地を狙ったローズのファンネルによる射撃が武雷を襲う。だが、まるで()()()()を分かっていたように、空中で太刀を片手で振ってビームを切り払う。

 

『つれないねぇ。ここまで阿頼耶識を使いこなすやつにゃあ出会ったことがねぇ。へっ、まるきり幕末で戦ってるみたいで、こっちは懐かしくって涙が出てくるってぇのに』

「……阿頼耶識を使ってるからって、なんてデタラメな動きを……」

 

 悔しさを滲ませながらもローズの声音には驚きが多分に含まれていた。

 

『まァ、確かに。G()P()D()()()()()()()()()()()()。実機じゃなくて()()()()()()()()だからこそ、だなぁ』

 

 人体には実に二百六十以上もの関節があり、劇中のMSはともかくとしても、それをガンプラで再現することは不可能に近い。

 であれば、阿頼耶識を用いても人体と同様の動きは不可能なのではないか。と思うだろうが、ここはG()B()N()である。

 ガンプラがデータとして存在するこの電子の世界では、差し替え変形しかできないガンプラが「変形」のプラグインを差せば完全変形ができるように、ゲームとしての融通が利く世界なのだ。

 

『実機バトルじゃなくなって、緊張感が無ぇってぇヤツもいるが、あっしみたいなのにはGBN(こっち)のほうが相性がいい。なんせ、GBNの阿頼耶識は()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 随分と饒舌に、楽しそうに喋るモンジューロ。しかしそんな彼の操る武雷にリミッターを解除してから、一太刀も浴びせることが出来ないでいるセナは戦闘機動を行いながらも考えを巡らせる。

 

 ──機体性能の差? 否。高機動機でありながら、あのオーガのジンクスと正面から打ち合えるカイムは、贔屓目を抜きにしても武雷に劣っているとは思わない。

 

 ──操縦技術? 可能性としては有力だが、ここまで対峙した感触ではそこまで彼我の差があるとは感じていない。なにより互いに阿頼耶識を搭載したガンプラ同士の戦いである。これはつまり、殆どあのチャンバラゲームと同じ状態での戦いとも言える。モンジューロは確かに手練れの剣客だが、あのゲームで悪名を轟かせるランカーたちほどの動きではない。

 

「……」

『悩んでるみてぇだなぁ。ま、ここは先達らしく、ちっと教えを授けてやる……おめぇさんの得物、MS相手にゃちとデカすぎるぜ』

 

 薙ぎ払うように振るわれたレイザーブレイドを屈んで紙一重で躱した武雷が、三日月を描くような逆袈裟を放てば、カイムはCファンネルでそれを防ぐ。

 

『質量武器に速度を乗せて叩きつける。一撃必殺……確かに有効だぁ。()()()()ってぇ前提が付くが、な』

 

 火花を散らしながら太刀を振り抜き、一足飛びで間合いを取る武雷。

 

『お前ぇさん、他のロボゲもやってたクチだろ? 動きでわかるぜ。阿頼耶識と近いのは……()()()()あたりか? だがよ、アレとGBN(こっち)は仕様が違う。開発が違うんだからな。あんましアテにするのはどうかと思うぜ』

「……どういう、」

 

 距離を詰めようとするカイムを摺り足にも似た独特な挙動で惑わせ、セナが斬りかかろうとした瞬間、彼女の意識の隙間をするりと抜けるようなタイミングで踏み込み、カイムの脇を武雷が抜けて行く。

 

 ──無拍子、と呼ばれる技術だ。

 

『あとは、まぁ、プラグインだな。ガンプラの出来はいいが、ソフト(そっち)の詰めが甘ぇ』

 

 武雷の脚が岩盤を踏み砕き、セナが反応するより早く、武雷の脚部に装備されたスラスターから膨大な噴射炎が吹き出す。

 

「──ッ!」

『──敵の言葉を素直に聞きすぎたな』

 

 モンジューロの狙いを瞬時に見抜いたセナが機体を翻すも、既に剣鬼は音すら置き去りにするようにして飛び出していた。

 

 会敵時に見せた異様な歩幅の歩法をもって武雷がローズに迫る。リミッターを解除したことで機体性能が上昇した移動速度は、ただでさえ高速だった踏み込み、「瞬歩」をさらに加速させる。

 

「捉え、られない!?」

 

 ランダムな軌道で小惑星を縦横無尽に駆ける武雷に、バックブーストを全開にしながら、ファンネルで迎撃を目論むローズは驚きに目を見開く。彼女は知らない事だが、今まさに、あの金ぴかハイペリオンのダイバーと似たような体験をしている。

 

 あまりにも素早く、かつ大きな移動距離による武雷の瞬歩はヤクト・ドーガ・ソーンのカメラを振り回し、ロックオンどころかその姿を視界の端で追従するのがやっとだ。

 狙いがつけられなければ自慢のファンネルも意味をなさない。

 

「待てーッ!」

 

 ウィングスラスターから爆発的な炎を吹き出しながらカイムが横方向から武雷に迫るが、

 

『──残念。一歩足りなかったな』

 

 腰部の鞘を兼ねたスラスターバインダー。それがサブアームによって武雷の()()()()()()()()

 

「……ハッ! また抜刀術かい! なんとかのひとつ覚えだねッ!」

 

 リミッターを解除した武雷の速度は脅威だったが、今この瞬間、自機と正対した瞬間ならば対処は出来ると踏んだローズは、己を奮い立たせるよう強気に言い放つ。

 

 勝算はある。散々見てきたモンジューロの抜刀術。初見の紫電はその速度で意表を突かれこそしたが、あれ以上の速さを出そうとすれば機体が持たないだろう。

 

 相手の得物のリーチは把握済み。ならば後はタイミングを合わせるだけ──そう考え、フェダーイン・ライフルで受けようとビーム刃を発振しようとした瞬間──

 

『──超電磁抜刀、轟雷』

「──ッ! 避けて!」

 

 ──セナの逼迫した叫びに反射的に身体が動いて機体を半身に翻す。

 

「なッ──、きゃぁぁぁぁッ!?」

 

 だがそんなローズの対応を嘲笑うようにして、ヤクト・ドーガ・ソーンの左腕が肩から切り落とされ──、否、()()()()()()て衝撃で機体が大きく吹き飛ばされた。

 

 きりもみしながら吹き飛んだヤクト・ドーガ・ソーンは、小惑星の地面を幾度も跳ねながら転がり、全身を岩礁に削られながら力なく横たわった。

 

 ──それは武雷の太刀の間合い、その遥か外からの斬撃。否、()()()だった。

 

 小惑星の大地に巨大な裂創を刻んだ縦一文字の振り下ろし。技を放った武雷の刃は、その刀身が鍔元近くまで岩石の地に沈んで見えなくなっている。

 

 「片手による横方向の打ち払い」である紫電と異なる、()()()()()()()()()()は、リミッターを解除した影響なのか、()()()()()()()()はわからないが、振り下ろしによって発生した衝撃が()()()()となってローズに襲い掛かったのだ。

 

 速度と攻撃範囲を犠牲にした威力特化の一撃。それが轟雷の真髄。

 

『──くはっ、ちとズレたか……あっしも耄碌したもんだ』

「このおッ!」

『おおっとぉ! 鬼が来ちまった!』

 

 レイザーブレイドを振りかざして迫るカイムから逃げるようにして、「おー怖ぇ怖ぇ」とふざけた調子で武雷を跳躍させるモンジューロ。

 

()()()勝負はもうついたみてぇだからな。()()()はとっとと尻尾を巻いてとんずらさせてもらうぜぇ』

「よくやってくれた! ポイントSは有利を取った! このまま戦線を押し上げるぞ!」

 

 モンジューロの言葉をセナたちが理解するより早く友軍からの通信が入り、ここでの戦闘の決着がついたことを知る。

 

『じゃーなー、おっかない娘っこども』

「あっ、待てー!」

『待てと言われて待つ阿呆はいねぇってなぁ。レイドやるならもっと広い視点を持つこった』

 

 わざわざオープンチャンネルを開いてこちらを煽る通信を送りながら、武雷は小惑星の周辺に漂うデブリを足場として跳躍を繰り返て戦域を離脱。通信に気取られたセナが気づいた時には既に遅く、その機影はみるみる遠ざかって行ってしまう。

 足場を蹴る瞬間に合わせてスラスターを使う様はルウムでの赤い彗星がごとき動きで、その鮮やかな逃げっぷりは貫禄すらあった。

 

「次会ったら絶対天誅してやるーッ! ……顔覚えたからな」

 

 あまりの悔しさにコクピットで地団駄を踏むセナ。

 

「ハァ……全く。アタシとしたことが、なんてザマ……」

 

 ローズのほうも今の戦闘で思う所があったのか、悔しさを打ち払うようにして雑に髪をかきあげるが、気持ちを切り替えてセナに向けて通信ウィンドウを開く。

 

「ねぇ、あんた。助かったよ。正直、アタシ一人じゃやられてた」

「……ああ、うん。こっちこそ。援護ありがと」

「これもなにかの縁ってやつかね。……よければこの後、ウチのフォースに来てみないかい? アンタなら大将も気に入りそうだ」

 

 「アタシはこのザマだからこれ以上は戦えないしね」というローズの言葉と共に、セナに送られてきたのはフレンド申請。

 

「わたしはもうちょっと粘ってみるよ。……このモヤモヤをスッキリさせたいし」

 

 フレンド申請を受諾したセナはそれだけ告げると小惑星の大地を飛び立つ。それを見送るローズは、フレンド申請を受けたことで自動送信されたセナのプロフィールを見る。

 

「……ありゃ、もうフォースに入ってたのかい。でもま、強いヤツとは繋がりがあったほうが楽しいか……って、ん?」

 

 プロフィール欄のダイバーネーム。それを見て、初めてあのガンダム・フレームに乗るダイバーの名前を知ったローズは以前に見たバトルログを思い出す。

 

「セナ……そういえば、確かこの前ヴァルガで大将が戦ったとか言ってたような」

 

 百鬼ではメンバーのバトルログは自由に閲覧できる。もちろんリーダーのオーガのものも例外はなく、そのオーガがヴァルガでレイとセナと戦った最後の場面で、レイが叫んだセナの名前をローズは覚えていた。

 

「……なるほど。あれがヴァルガの狂犬ってわけ」

 

 戦うにしろ、同盟(アライアンス)を結ぶにしろ、どちらに転んでも面白いことになる。

 

 百鬼に所属する女傑は口の端を吊り上げて、実に楽しそうに笑った。

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