ガンダムビルドダイバーズ Behind the scenes   作:ほぼ読み専

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楽しい日課(なお廃人基準)

 転移した先は光に満ちていた。もっともそれは、太陽光のような暖かな光ではなく──

 

「ぎゃああああ! なんだこれなんだこれ!?」

「無敵が切れる前に高度落として! はやく!」

 

 必殺の威力を秘めたビーム兵器の射線だったが。

 

「よ、よし! なんとか離脱──」

「出待ちの連中が来るよ! 気を抜かない!」

 

 機体を必死に操作して死の光から逃れたドージが、ほっと一息つこうとした直後、彼の煌・ギラーガの真横を恐ろしい速度で鉄杭が飛びぬけていく。MSの背丈に近い長さのそれは、通過する衝撃波だけで機体を揺らしてドージはゾッとする。

 

「あっ、あっぶね! ダインスレイブ!? どこから!?」

「派手な攻撃は囮! 一か所からの攻撃だけに集中しないで! 常に殺気を感じて動く!」

 

 セナがそう言った直後、まるで示し合わせたかのようにして二人に向けた弾幕が襲い掛かる。

 

「ふざっ、ふざけんな! こんな弾幕どうやって──!」

「落ち着いて、密度の薄いところは──」

「──! ここか!」

 

 機体を捻ってスナイパー・ビーム・ライフルの狙撃を躱したドージは、明らかにミサイルが散発的に散って空間が空いているところへ滑り込み──

 

 

 

「──誘い込むブラフだから避けて、そこそこ厚いとこに突っ込む!」

「おまえぇぇぇっ!」

 

 待ってましたとばかりに四方八方から放たれたレーザーに全身を貫かれて爆散した。

 

 撃墜され格納庫へと転移される直前、ドージが見たのは無数の小型弾頭が降り注ぎ、辺り一面を出待ちしていた連中もろとも焦土にするバカみたいに大きな爆発だった。

 

 ガンダム試作二号機(サイサリス)のMLRS仕様。アトミック・バズーカに代わり背部に装備した多連装ロケットの弾頭を、全て()()()にするという頭のイカれた改造をした機体の仕業で、発射した本人もそのあまりの威力の爆発に飲まれて自滅するという二重の意味でイカれた下手人だった。

 

 なお、流石のセナも「あっ、これは無理だね」という呟きとともに、ギャグみたいなキノコ雲の中に消えたことを追記しておく。

 

 ドージにとっての初めてのヴァルガは散々な結果となった。

 

 

 

 

 

§

 

 

 

 

 

「クッソゲーじゃねぇかッ!」

「あははは! いやー、してやられたねー!」

 

 格納庫エリアで地団駄を踏むドージと、なにが可笑しいのかケラケラと笑うセナ。二人の前には頭部と左のウィングスラスター、さらに右腕を喪失したカイムと、右肩から左腰までバッサリと切断された煌・ギラーガ、ボロボロになったそれぞれの愛機の姿がある。

 

「ステルス特化して乱戦中に後ろから斬りかかるとかプライドがねぇのか!」

「そんなもんヴァルガじゃなんの価値もないよ。後ろにも目を付けないと」

「俺はアムロじゃねぇんだよ……」

「でもさ、ドージも()()()()を越えられるようになってきたし、確実に上達してるよ」

 

 初回こそイカれたサイサリスのMLRS仕様にやられたが、その後チャレンジを続けること二十回近く。ドージはヴァルガでのひとつのボーダーを何回か超えることが出来るようになってきていた。

 

 ディメンション全体がフリーバトル状態として設定され、エリアにいるダイバーは同意無しで常時バトルが可能なハードコアディメンション・ヴァルガ。

 

 そこでは日夜ウォーモンガーどもが闘争に明け暮れているわけだが、そんな場所で実力を示すひとつの指針が「三分の壁」である。

 ヴァルガにエリアインして無敵時間が切れてからの三分間。攻撃が最も集中するこの地獄の時間を生き抜くことが出来るか。これが出来るか出来ないかで明確に腕の差がわかるほどに、この「壁」は厚いものであった。

 

「お前は元気だよな……ハイランカーに喧嘩ふっかけてバラバラにされたのに」

「いやー。まさかマギーさんがいるとは……遭遇できてラッキーだったね!」

 

 GBNの頼れるお姉さんであるマギーだが、彼女もまたこのゲームをプレイするダイバーの一人でもある。

 

 今回、ヴァルガに来たのはこのディメンションでの採集イベントのためとのことで、そこへたまたまセナたちが遭遇し……あとは言わずともわかるだろう。

 

「さっ、リベンジにいこうか! 高速修復材はまだまだあるから!」

「……なあ、ちょっといいか?」

 

 それなりの値段がする課金アイテムを、二桁単位でぽんと渡すセナに慄きながらも、ドージは気になった事を質問する。

 

「リスポンキルの対策はわかるようになったけどさ……無敵時間が終わった直後に、最初みたいなのがきたらどうすりゃいいんだ?」

 

 大規模破壊兵器による面制圧。これは無敵時間の間にどうにかして範囲外に逃れるかに全てがかかっている。原作のガンダム世界におけるそれらはえげつない威力を持つが、改造や完成度次第で範囲も威力も盛れるGBNでは、自機の被害も顧みないで威力だけを追求する奇人もいるせいで脅威度はさらに高い。

 

 無敵時間の間はいいが、それが切れればどうやって切り抜ければいいのか。その答えが見つからないドージは、自分では明確な解決策を見つけられない悔しさを堪えてセナに聞いた。

 

 しかし、それを聞かれたセナは聖母のように穏やかな微笑みを浮かべて両手をそっと握り──、

 

 

 

「祈りましょう。乱数の女神に」

 

 

 身も蓋も無い解答をした。

 

 

「……やっぱクソゲーじゃねぇかッ!」

 

 あまりにあまりな答えにドージはキレた。そして理解した。セナのような強者ですら、ヴァルガで生き残れるかは「運」に頼る必要があるのだと。事実、これまでのチャレンジにおいて、彼女が無事に三分の壁を超えられたのは七割程度。他はどうしようもない交通事故のようなもの──避けようがない超範囲攻撃に巻き込まれたり、今しがたのように偶然遭遇したハイランカーに喧嘩を売っての返り討ちである。

 

 いや、後半は自業自得なのだが、「ヴァルガの狂犬」とすら呼ばれる彼女をしても、あの地獄のようなディメンションにおいては()()()()()()()()()()

 それでもこうして笑いながらあの奈落の底へ潜り続けるメンタルこそが、セナを成長させているのだと知った。

 

 曲がりなりにもあの兄を、「獄炎のオーガ」を倒したダイバーの片割れ。

 

 最初こそ反発しか覚えなかったが、彼女の確かな強さと、なにより精神面のタフさを知ったことで、ドージはセナを認めつつあった。

 

 それにひきかえ自分は──

 

「ッ……てかよ、ヴァルガでポイント稼ぐとか、本当に出来るのか?」

「うん?」

 

 先日手に入れたものを思い出し……それを忘れようとして別の話題を振る。

 

「いやな。たまにGBN内のBBSでもそんな話題を見るんだけど……お前でもあんなに簡単に撃墜とかされんのに、そんな上手くいくもんなのかなって」

「んー。まあ、わたしの経験から言えるのは、ギャンブルで大当たりを引くようなもの、かなー」

「ギャンブルぅ?」

 

 年齢的にあまり馴染みのない単語に胡乱な目をするドージ。

 

「そ。たまたま運とタイミングが重なって、ハイランカーや大量にポイントを持った相手を撃墜できて、なおかつ取得したそれを抱えたまま転移ポイントまでたどり着ける……これって相当の幸運じゃない?」

「あの地獄でそんな事おきるのかよ……いや確かにゼロじゃないだろうけど」

 

 ヴァルガは全域が常時フリーバトル状態という性質上、ディメンションを出ない限り戦闘終了扱いにはならず、それによって獲得したポイントも反映されない。また、ダイバーはそこにいるだけで「常にバトルをしている」という扱いであるため、入ったが最後、通常のディメンションのようにコンソールから気軽に転移も出来ない仕様となっている。

 

 唯一そこから生きて出るには、ヴァルガの中にいくつか設置されている転移ポータルまで行かなければならず、当然だがそこにもまた待ち伏せをする連中が陣取っている。

 

「ぶっちゃけ、あそこにいる人たちでポイント稼ぎに固執してるのって、待ち伏せしてる連中だけだと思うよ。だって、ポイント稼ぎするならミッション周回するほうが時間効率がいいもん」

 

 マギーに出された課題をクリアしていたら、あっという間にAランクまで到達したセナは実感を込めて断言する。

 

 ……もっともこれは難関と呼ばれるミッション群を、初見でほぼ百パーセントのクリア率を叩き出すとかいう、頭のおかしいことを前提としたものであるのだが、本人的にはヴァルガで一発当てるよりも遥かに効率が良いと感じていた。

 

「それにNPD機相手のミッションなら、撃墜されてもポイント全損しないからね。ヴァルガは良くも悪くもハイリスクハイリターンだけど……リスクのほうが大きいと思うな」

「……じゃあ、なんでお前はそんなトコに入り浸るんだよ?」

 

 無双ミッションのように俺TUEEEで気持ちよくなれるわけでもなく、ポイント効率がいいわけでもない。PvPの性質上、墜ちたらポイントを全損するリスクもある。

 ドージからすれば到底メリットを見出せないような場所に、なぜこうも嬉々として突撃するのか。確かに強くはなれるだろうが、抱えるリスクが大きすぎる。

 

 リスクにリターンが合わない。合理的ではない。

 

 ──もう、やめてしまえばいい。

 

 ドージの中の冷静な部分が、「付き合ってられるか」と囁く。ここまではズルズルと流されて──課金アイテム(高速修復材)与えられて(押し付けられて)引っ込みがつかなくなって──続けてきたが、別にセナに付き合う理由も彼にはない。

 格納庫エリアは転移に制限があるわけではないから、セナを放って勝手に移動してしまえば、同じフォースではなくフレンド登録もしていない彼女は追ってはこれない。

 

「そんなの決まってんじゃん──」

 

 そんなことをドージが考えているなど知らないセナは、彼の問いに実に楽しそうな笑顔で即答する。

 

 

「──楽しいから!」

 

 

「……ッ、ちょっとの油断で簡単にやられるのに?」

「強いダイバーが沢山いてわくわくするよね!」

 

 こいつは馬鹿だ。そう思った。

 

「交通事故みたいなやられかたするのに?」

「次になにが起きるかわからないって、刺激的でいいスパイスになるよね!」

 

 それもとびっきりのバトル馬鹿。脳みその髄までバトルの事でいっぱいの、認めたくはないが、確かに兄と似た性質を持つタイプのバトル狂いで。

 

「……ったく、お前、ホントにこの──バトル馬鹿がよ」

「誉め言葉として受け取っておこう!」

 

 けど、こんなに楽しそうな、心の底からGBN(このゲーム)を楽しんでいるという顔をされたら、もう何も言い返す気にもならなくて。

 

「しゃーねーなー! こうなったらトコトンまで付き合ってやるよ!」

 

 セナから受け取った高速修復材を自機に使って、ドージは再び愛機に乗り込む。

 

「おっ、やる気まんまんだね! それじゃいこっか!」

 

 そうして、セナがログアウトするまでの間、ドージは彼女につきあってヴァルガに潜り続けた。

 

 数えるのも億劫になるほど撃墜されて、時には理不尽な範囲攻撃に巻き込まれては格納庫に送り返されて──

 

 ──それでも、密かに手に入れたブレイクデカール、その発動キーには最後までドージの指が伸びることはなかった。

 

 

 こんなに楽しそうにしているヤツの隣で、不正ツール(そんなもの)に頼るのは酷くカッコ悪いと思ったから。

 

 

 

 

 

§

 

 

 

 

 

 肩幅くらいに開いた両脚、膝には余裕を持たせて立ち、背筋を伸ばして顎を引く。

 脇が開かないよう注意しながら腕を真っすぐに突き出す。この時、腕や肩の力ではなく腰を入れることを意識することで体幹による捻りで威力を出す。

 これを左右の拳で交互に繰り返す。

 

「シッ! シッ! シ……ッ!」

 

 今レイが行っているのは、いわゆる空手の正拳突きの基本動作だ。

 

 場所は虎武龍のフォースネスト。カンフー映画のセットじみた少林寺道場のような場所の石畳の広場の一角。

 

 正拳突きの他、回し蹴りなど、タイガーウルフやワンから教わった基本的な技の反復練習を黙々と行う。ここ二週間ほどの間におけるレイの日常であった。

 

 なぜ彼女がこんなことをしているのかと言えば、それは現実(リアル)VR(GBN)での身体感覚の()()を矯正するため。

 

 ──武道における「形」とは、言ってしまえば()()()()()()()()である。

 

 先人たちが実戦で経験し、積み上げて編み出した技。それを解析して創意、工夫を加えた結晶。これを繰り返し稽古し、身体に覚えさせることにより同じものを再現できるようにしたもの。

 

 特定の動作を特定の手順で行うことで、習得できれば誰でも同じ技をその身に修めることが出来る。もちろんそのための肉体を作る必要もあるが、そこはVR、この前提は誰でも満たしている。

 

 ならば現実とVR。双方で同じ技を身に付ければ、具体的な感覚の違いが肌で理解できるのではないか。

 

 そこでレイが取り組んでいたのが、現実でも再現可能な基礎的な技の練習であり、これは、現実世界でGPDというガンプラバトルに慣れ親しんでいたレイだからこそ抱える問題を解決するためのアプローチであった。

 

「──フッ!!」

 

 正拳突きを終えたレイは傍らにあるサンドバッグに向き合い──右回し蹴りを叩きこむ。

 

 ──どぱんっ! とでも表現するような重い衝撃音。

 綺麗に腰の入ったそれは見事にサンドバッグを「く」の字にへし曲げ、その重たい身を衝撃で貫き、一瞬水平にまで持ち上がる。現実の彼女の肉体では到底不可能な威力。

 

「──ッ!」

 

 十分にインパクトを伝えたと感じた瞬間、戻した蹴り足をすぐさま軸足とし身体を回転。背中を前に今度は左脚を前に突き出すように後ろ蹴りを繰り出す。

 するとレイの足裏がスイングして戻ってきたサンドバッグの中央にジャストミート。今度は後方に向かって水平に持ち上がった。

 

「──よう。だいぶ()()()()みたいじゃねぇか」

 

 残心を忘れず構えを取るレイに声をかけたのはタイガーウルフだった。

 

「タイガさん。ええ、おかげさまで。自覚してみればよくわかりました」

 

 構えを解いて一礼してからレイが応える。

 

 現実でも同じ「形」の練習をしたことで実感できたのだが、リアルのレイでは今しがたのような()()のある動きは出来ない。体幹をはじめ基礎となる肉体が鍛えられていないのだから当たり前だ。似たような動作は出来てもそこに鋭さはなく、しかもすぐにバテてしまうため回数がこなせない。

 

 翻ってGBNではどうかといえば、まだたった二週間程度だというのにこのような動きが出来るようにまでなった。そこにはゲーム的なアシストは勿論あれども、疲れ知らずの肉体は幾度もの反復練習を可能とし、加えてイメージ通りに教えられた動きをトレースできる。

 ここまで現実(リアル)VR(ゲーム)では身体に違いがあるのかと改めて驚かされる。

 

「リアルとバーチャル、それぞれで動かす身体の違い……そいつを自覚できたのは大きいぜ。特にG()P()D()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 セナが息をするように行うVRアバターへの適合。それをレイはこうして時間をかけてようやく身に付けようとしていた。

 

「というわけで……卒業試験、ってわけでもねぇが」

 

 言いながらコンソールを操作したタイガーウルフから、レイに向けて一通のメッセージが送付される。

 

「──これは……」

 

 それは練習(プラクティス)モード──機体へのダメージはバトル終了後にリセットされ、敗北してもポイントの喪失がない文字通りの「練習」ではあるが──での、タイガーウルフからの対戦申請であった。

 

「ひとつ手合わせしてやる──かかってきな」

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