ガンダムビルドダイバーズ Behind the scenes 作:ほぼ読み専
最近のGBNで行われたフォース向けのイベントバトルに、新規フォースを対象としたものがあった。
参加メンバーは五人を上限としての殲滅戦──文字通りどちらかが全滅するまで終わらない形式──のそれは、フォースを組んだばかりのダイバーたちがチームとして連携し、NPDではない
いわばニュービーたちの練習のためのイベントで、その報酬もアクセサリデータひとつという特筆するようなものではなかった。
しかしそこに参加したフォースの中でひときわ注目を集める一団がいた。
【第七士官学校】
【智将】という二つ名を持つ有名ダイバー。軍服を着た二足歩行のフェレットそのままの姿で有名なロンメルが率いるランキング二位のフォース【第七機甲師団】と似た名前の
もちろん彼らがロンメルと無関係なわけがなく、実体は第七機甲師団の下部組織に位置づけられた新人のダイバーのみで構成された支部にあたる。
この第七機甲師団だが、フォースの話題が出た時によく上がるのがランキング一位【AVALON】との比較である。
個々人の戦闘力が突出して目立つAVALONとは異なり、トラップや戦術を積極的に活用しながら連携して戦うことを得意とするのが第七機甲師団とされているのだが、それは決してロンメル
前回開催された最大規模のフォースバトルイベント「第十四回ガンプラフォーストーナメント」の決勝戦にて、
そんな先達に鍛えられた彼ら第七士官学校のダイバーたちは、いわば
というか、一部からは「
約束された勝利──誰もがそう思っていたであろう戦いだったが、ここで番狂わせが起こる。
なんと対戦相手であった【
これには試合を見ていた者たちも驚愕した。勝利したこと自体はもちろんだが、それに加えてビルドダイバーズ側は味方から一人も脱落者を出さないという、
この事件によって無名の新参フォースだったはずのビルドダイバーズは、フォース戦をメインにしているダイバーたちの間で一躍話題となる。智将ロンメルの教え子を破った彼らを下せば自分たちの名が上がると考えたのか、はたまた純粋にその実力が気になったのか……下位ランクのフォースはこぞってビルドダイバーズへ対戦の申し込みを行うように。
レイとセナに声をかけてきたダイバー「ダイフク」の所属するフォースもそんな中のひとつであり、彼らは運よくビルドダイバーズと対戦するチャンスを獲得することができた幸運な者たちだった。しかし好事魔多しというべきか、対戦当日になって二人のメンバーが交通機関のトラブルによって遅刻する事態になってしまう。
「もともとオイラたちは全員ガンダムベースからログインしてるんだけど、今日に限ってメンバーの乗った電車が途中で止まっちまったみたいなんだお」
フォース「量産機魂」。名前が示すように量産機好きが集ったフォースである。
聞けば彼らは全員が中学生だという。学生ダイバーあるあるなのだが、GBNへのログインを最寄りのガンダムベースやフルダイブVR対応のネットカフェのような店舗に頼っていることは多い。特にVRゲームの利用に際しては未成年だと店舗によっては利用を断られることもあるネットカフェよりも、そういった制約なく利用できるガンダムベースから接続している学生が殆どであり、むしろ高校生でGBNの個人用端末を所有しているレイたちのほうがマイノリティなのだ。
席を移動してダイフクのフォースメンバーと相席になった二人は残りの面子を紹介された後、彼からそのように説明された。
「俺とダイフク、それからこっちのパイスー姿の
「彼らとはGBNで知り合ったんです」
金髪の優男ことV・Dと連邦軍のパイロットスーツ一般兵そのままなデッキーと呼ばれる二人がそれぞれ補足を入れる。
「オンラインゲーム特有の問題ねえ」
「わたしもGBNを含めてフルダイブゲームは自宅でプレイしてたから、気にしたことなかったよ」
「まあそんなわけで、今日のフォース戦はどうしても棄権したくなかったんだお。だから二人が参加してくれてすんげー感謝してるんだお」
「ああ、それに関しちゃダイフクの大手柄だったな。リーダーとしても感謝してる」
彼らの事情を聞いて納得するレイとセナにダイフクが改めて礼を言うとV・Dが続く。
「……それに実力のほうも申し分ないですしね」
仲間二人の発言に手元のウィンドウに視線を送りながらデッキーが付け加える。彼の見ていたウィンドウには、ついさっきまでレイたちが周回していたミッションのバトルログが流れていて、宇宙空間でアリアンロッド艦隊を相手に大暴れする二機のガンプラが映し出されていた。
§
コクピットから眼下に広がるのは赤茶けた大地。地平線まで続く様は宇宙世紀に登場したとある場所を思わせて、乾いた風が砂塵を巻き上げるせいで視界が若干悪くなっている。
初めてのフォース戦を行った森林地帯とは全く異なるその様と、まるで現実と錯覚するほど限りなくリアルに近い描画をされるフィールドに、リクはあらためて
原型機と同じく青と白を主体に塗装された機体。その両肩にある円形型スラスターからは絶えず緑の粒子が放出され、それが煌めく尾を引きながら空を舞う姿はよくある推進器によって飛行するのとはまた異なる印象を抱かせる。
「ユッキーの言ったとおり、まるでテキサスコロニーだなあ」
そうして地表を舐めるように低空を飛行するガンプラ、ガンダムダブルオーダイバーエースの中でリクが思わず呟くと、
「てきさすころにー?」
彼のすぐ傍らから少女の声がオウム返しに聞き返す。操縦桿を握る少年に寄り添うようにして立つサラという少女が発したものだった。
『テキサスコロニーっていうのは機動戦士ガンダムの三十七話で登場した、放棄されて荒廃したコロニーのことだよ。ちょうど今いる場所みたいな感じで荒野が広がっているんだ』
彼女の疑問に答えたのは通信ウィンドウに表示された丸眼鏡に大きな帽子の少年。ユッキーとは彼のことで、リクとは同じ中学校の同級生であり友人でもある。
『二人とも雑談はそれくらいにして、あらためて作戦を確認するよ』
リクとユッキーの会話に割って入るようにポップした新たなウィンドウには、少し疲れたような雰囲気の青年の顔が映し出される。リクたちのフォースであるビルドダイバーズ、ニュービーの集まりである彼らの中では貴重なガンプラバトル経験者で熟練のビルダーでもあるコーイチだ。
『事前に説明した通り、このフィールドは遮蔽物となるものが少ない平坦な場所だね。唯一の特徴と言えば中央近くにある巨大なクレバスで、この付近で戦闘をすることになったら充分に注意すること。身を隠す場所がないけどそれは相手も同じだから、このまま索敵網を広げる形で移動して行こうか。もちろん、お互いにすぐカバーに入れる距離を維持してね』
『──つまり、行き当たりばったりでどうにかしろ、ってことでしょ? 変にカッコつけないの』
丁寧に説明するコーイチだったが、それは新たに出現した通信ウィンドウの人物によってバッサリと切って捨てられた。引きつった顔になったコーイチのウィンドウ近くには、覆面をした鋭い目つきの少女の顔がある。ビルドダイバーズの中で唯一のSDガンダム使いであるアヤメだった。
『まあまあアヤメさん。第七士官学校の時みたいな罠が仕掛けやすい地形じゃないから仕方な──うわあっ!?』
『──ッ! 気を付けて! 狙撃だ!』
『チッ……! いったん合流は中止! このままノコノコ向かえば狙い撃たれる! 私は単独で隠れながら狙撃手を探すから、そっちは二人でなんとかして!』
『了解だ。……っ、こっちは遭遇戦に入った! リク君たちも気を付けて!』
フォローをしようとしたユッキーの声が唐突に途切れ、続いてコーイチが緊迫した声で注意を促すのを最後に仲間たちの通信ウィンドウが消滅する。
「ユッキー! コーイチさん!?」
通信が途切れて思わず声をあげたリク。しかし仲間の心配をする彼を嘲笑うようにレーダーが敵機の存在を捕捉した。
「──ッ! 速い!?」
リクが意識をそちらへと向けたその時には、レーダーマップの端にあったはずの敵マーカーと自機の距離がみるみる近づき接敵距離目前にまで近づいてきていた。MSではありえない速度だった。彼自身も高機動タイプのガンプラを愛機としているダイバーだが、それでもこの速さは過去に遭遇した者の中でも類を見ないほど。
そして──、
「……リク」
もうすぐ敵機の目視が可能な距離に近づいたことで緊張に強張るリクの肩に、コクピットに同乗しているサラが手を触れてそっと見上げてくる。その大きな瞳に困惑を宿して。
「サラ? どうかした?」
「気をつけて。あのガンプラ、この子と戦えることを、その、すごく……喜んでる」
「バトルが好きってこと? でもそんなのGBNなら普通のこと──」
《CAUTION!》
「うわっと!?」
いつもとは違う濁すようなサラの言葉が気になって聞き返すも、自機へ迫る攻撃に気づいて慌てて回避動作をとる。機体をバレルロールさせて軸をずらせば、そのすぐ脇を
「あれかっ!」
お返しとばかりにスーパーGNソードⅡで応射するも、相手はリクの放つ射線をかいくぐるように斜め前方への鋭角な軌道を描いては次々と躱していく。
あまりにギリギリを攻める動きのため僅かにビームがその紺青の機体を掠めるも、それが敵機を焼くことはなく
「……ナノラミネートアーマー!? けど、なんて完成度──ぐっ!」
塗装技術が防御力に大きく影響するナノラミネートアーマーを、ここまで高い水準で再現している相手のガンプラの出来に驚く間もなく、地を走る稲妻のような軌道で低空を飛翔する敵機が、両椀に備えた大型の刃を振りかぶり加速を存分に乗せた一撃を見舞う。
『ご名答! キミのバトルログ見たよ! いい動きだった! さあさあ楽しいバトルを始めよう!』
その動きにもなんとか反応してスーパーGNソードⅡを構えることができたリクだったが、敵機の斬撃の重さに思わず呻くと接触回線でもって相手が話しかけてきた。しかし操縦者の声を聞いたリクは困惑する。
「あなたは、誰です!? 今日の相手のフォースは全員が男性ダイバーだったはず……!」
リクとて対戦する以上は相手フォースの情報を事前に仕入れている。今回の対戦相手は自分たちと同じく
だが、彼らが調べたのはあくまで古い情報だった。対戦直前に相手側メンバーが交代する旨の連絡が来ていた事や、それによって変更されたメンバー表の確認を怠っていたのだ。
第七士官学校を破ってからも破竹の勢いでフォースバトルを勝利し続けたことで、無自覚のうちに慢心していたのだろう。このあたりがまだまだニュービーらしい。
両腕にそれぞれ構えたスーパーGNソードⅡで二刀を受けきり、じりじりと押し返そうと操縦桿を押し込みながら詰問するも応えはなく、代わりに敵機は一瞬だけ力を緩めると流れるような動作でダブルオーダイバーエースのコックピット目掛けてサマーソルトを繰り出す。
「──ッ!」
目の前をガンダムフレーム特有のフレーム構造が装甲から覗く足が通過していく。恐ろしい切れ味を誇るシグルブレイドの刀身が脛に装備されたそれを、生来の反射神経でもって機体を僅かに反らしながら後退させてなんとか躱すも、再び距離をとった敵機は鳥を思わせる形のウィングスラスターから吐き出す炎の尾を引きながら、まるで本物の鳥のように自由に空へと舞い上がる。
『あははっ、失礼失礼。自己紹介がまだだったね。わたしはセナ、このコはカイム。フォース「量産機魂」に雇われた傭兵だよ』
今度は接触回線ではなくオープン回線でこちらに声を投げかける相手。
「傭兵……?」
『そ。ちょっとメンバーの都合がつかなくなっちゃったみたいでね。ま、そんなわけで──』
鳥を模したようなウィングスラスターと両椀の大型実体剣が特徴的なガンダムフレームの機体からは、実に楽し気な少女の声が響く。しかし、──
『リーダーの首、置いてってもらおうか!──天誅ッ!』
その声を聞いた瞬間、リクの背筋に鋭く悪寒が駆け抜けた。
「──リクッ、気を付けて!」
サラの呼びかけが聞こえると同時に、荒野の空を我が物顔で飛び回る鳥の魔神から五基のCファンネルが展開されると、それらを伴ってガンダム・カイムは地上のダブルオーダイバーエースに襲い掛かってきた。
§
「よし……
SFSの上で伏せ撃ちの姿勢をした一機のガンプラ。ガンダムUCに登場したEWACジェスタのコックピットで、V・Dは狙撃が失敗しなかった安堵を隠しながら通信を繋ぐ。
『問題なし。多対一は慣れてるからそうそう落とされるつもりはない』
EWACジェスタの両肩に頭部を覆うように装備された大型の電子戦用ユニットは伊達ではなく、通信・索敵機能の強化を中心にビルドされたこのガンプラは、遠方にいる味方、思わぬ形で傭兵として雇われてくれた女性ダイバーの声をしっかりと拾ってくれた。
「そうか。しかし──」
『V・D、彼女たちの対戦ログは見たでしょう? ここは信用して任せましょう。というか、問題なのはダイフクのほうですよ。深追いして単騎でクレバスのほうに行っちゃいましたし、下手したら落っこちてバトルアウトになんて……』
割り込むように挟まれたデッキーの言葉に少しだけ不安を覚えてレーダーマップを見る。するとそこにはエリア中央へ向かう敵のマーカーがひとつと、それを追いかける味方のマーカーがひとつ。
出現地点がランダムとはいえ開始早々に会敵したダイフクが、こちらの指示もろくに聞かずに飛び出していったのは記憶に新しい。
「……いやあ、さすがにそれはないだろ? 常識的に考えて」
『今、少し間がありましたよね?』
「……そんなことはないぞ。つか、お前はさっさとステルス展開しろって」
『はいはい、了解ですよっと』
「幸い敵側に索敵特化はいないみたいだが……見つかるリスクはなるべく避けるべきだろ?」
V・DのEWACジェスタのような通信・索敵機能を強化する
だが、今回のフォース戦のようにチーム戦でかつ開始地点がランダムとなれば話が変わる。敵味方である程度は転送される範囲が分けられてはいるが、それでも下手をすると孤立無援の状態からのスタートになる場合もあり、こういった状況においては通信・索敵機能を強化したガンプラが自軍にいると、味方とのスムーズな合流を支援したり敵の位置を先んじて把握し、孤立している敵機がいれば優先して叩くといった活躍が期待できるのだ。
『こっちの心配よりも索敵よろしく。この試合、ゲームメイカーになるのは
「ああ了解だ。十分に気を付けるさ」
『では僕らはこれで。ご武運を』
デッキーの言葉を最後に移動を始めたV・Dはコンソールに注意を向けながら思わず呟く。
「いやあ、まさか狂犬と呼ばれてたのがあの二人だったとはな」
最近名を上げている新鋭ダイバー「獄炎のオーガ」、彼をヴァルガの遭遇戦とはいえ二人で撃破したことでレイとセナの存在は一部の界隈で知られ始めていた。