ガンダムビルドダイバーズ Behind the scenes   作:ほぼ読み専

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投稿が大変遅れてしまって申し訳ありません。

再開します。

今現在八話ほどストックがありまして、そこまでは予約投稿しておりますので毎日更新になります。


第四章 対決!マスダイバー
黒の王子様?


 ガンプラビルダーの聖地「ペリシア」。この街があるエリアは砂漠という理由からいつも暑いものだが、現実世界の季節も本格的に夏へと突入したせいか、ゲーム内でも暑さがより増しているように感じられる。

 

「んー! この眺め! やっぱりここは最高ねー!」

 

 しかしそんな暑さも一度街に入ってしまえばすっかり吹き飛んでしまう。ワッパから降りたレイは、運転で固まった体を伸ばし、上機嫌で街中に展示されているガンプラたちを眺める。

 期末考査という苦境を乗り越えたご褒美に、今日はペリシアを回る予定だった。

 

「テストも終わったし、これでガッツリ遊べるねー」

 

 後部座席から飛び降りてレイの横にやってきたセナは、解放感に満ちた清々しい笑顔で友人を見上げる。

 その顔には少しだけ疲労がにじみ出ていた。

 

「……その節は大変お世話になりました」

 

 両手を合わせたレイが神妙な顔で頭を下げる。今回の期末試験で赤点を回避できたのは、セナがつきっきりで勉強を見てくれたからだった。

 

 もともとレイの成績は中間よりやや下という微妙な位置ではあったが、赤点が見えるほど悪いとも言えないものだった。しかし、セナとともにGBNを遊ぶようになってからは……見事に急降下した。株価だったら恐慌が起きていたかもしれないレベルで。

 

「いいよ、そんなの。レイにはカイムを任せてるし、お家の事もあるからね。……ただ、今回はちょっとGBNのほうを頑張りすぎちゃったねー」

「うう……ありがと……」

 

 親友の気遣いに心から感謝して、セナと共にペリシアの街へと歩く。

 

 学生たちがテストに悪戦苦闘している時期でもここは平常運転で、あいかわらず素晴らしい完成度のガンプラたちが立ち並んでいる。

 

「いつ来てもここは壮観ねー」

「前の時とはまた違うのばっかだね」

「ペリシアは展示期間が決まってるから定期的に入れ替わるのよ。噂だとコンテストの受賞歴が凄い一部のビルダーには、年間展示のフリーパスが貰えるとかなんとか」

「へぇー」

 

 以前に来た時セナを置き去りにしたことを反省してか、レイも今回は比較的落ち着いて歩いている。もっともその瞳は普段の三割増しで輝いているが。

 

「あっ、あれガンダムだ」

 

 道中に並ぶガンプラの中に見慣れた機体を見つけたセナが駆け寄っていく。

 RX‐78‐2。通称「初代ガンダム」や「ファースト」などと呼ばれる、かつてのセナがレイに出会うまで使っていた機体。

 

「……んー? でも、なんか違う……」

 

 しかし近くでよく見てみれば違和感をおぼえた。

 なんというか……全体的にオモチャっぽいのだ。チープ、とも言いかえることができる。

 

「これは旧キットの百分の一ガンダムね」

「旧キット?」

 

 セナの隣に立ち、同じようにガンプラを見上げたレイが解説をする。

 

「ガンプラがHGやMGみたいなグレードで区分けされる前、スケールサイズで分けられていた時代のキットよ」

「わたしが使ってたのがHGのやつだね。でも……」

「おもちゃっぽい?」

「うん。すごく動きにくそう。コアファイターもむき出しだし、これ、バトルだと……」

「当然、弱いわね。……でも、これはこれでいいのよ。きっとね」

「……なんで?」

 

 セナの疑問に答えようとしたレイは、ふと視線を感じてそちらを見る。そこには製作者らしいターバンを巻いた老人の男性ダイバーが、シーシャを片手に優しい眼差しを向けていて、彼の姿にレイは祖父の言葉を思い出す。

 

 ――いいか、嶺。バトルに(つえ)ぇガンプラを作るのも大事だけどな、プラモデルってぇのはそれだけが楽しみじゃねぇんだ。

 

「セナもガンプラ作ったことがあるからわかるんじゃない? パッケージにあった見本作例。これはそれに限りなく寄せて作られたものよ」

「説明書とか箱に載ってる写真のやつ?」

「うん。でもね、この作品はそれだけじゃないわ。ビームサーベルの刃をピンクのクリアプラ棒に置き換えてパール塗装がしてある。きっと製作者さんの好みとかこだわりね」

「キラキラしててキレイだけど、竹刀みたいな形してる……」

「これも作例通りの形なのよ。バトル用じゃない。この製作者さんが、こう作りたい! って思った理想のガンダムがこれなのよ」

 

 ――心ん中にしかない自分の理想のモデル。そいつを試行錯誤して作る。失敗したっていい。完成させてみれば愛着が沸くぞ。そんで、作った力作を棚に飾って愛でる。それだけで満たされるし、楽しいもんさ。

 

「って、ゴメン。これは私の完全な想像だわ。忘れて――」

「……つまり、愛だね!」

「あ、愛!? ん、まあ、そう言えば、そう、かな……? さ、さあ、次行こう!」

 

 祖父の事を思い出して勝手に語ってしまった気まずさから、レイはそそくさと立ち去ろうとする。去り際に、こちらへ向けて製作者のおじいちゃんダイバーがにこやかに手を振ってくれた。

 こんな勝手な寸評を聞いてもスルーしてくれる大人な対応に、レイは慌てて立ち止まって一礼してから歩き出す。

 

「そっか。ガンプラを改造するのって、強くするためだけじゃないんだ……みんな自分の中の理想を形にしてるんだ」

 

 以前に訪れた時にはなかった視点を得たセナは、改めて周りの作品たちを眺める。

 前は少し退屈だったこの場所が、戦場(ヴァルガ)のそれとは性質の違う、しかし確かな熱意に満ちた戦いの場だと肌で感じる。

 

「GBNだとどうしてもガンプラはバトル用になりがちだけど、ペリシア(ここ)はそれだけじゃない作品がたくさんあるのよ。だから私はここが気に入ってる――お店が賑やかだった頃を思い出せるから」

「……そっか」

 

 少しだけ目を伏せ、なにかを思い出しているレイの顔を見たセナは、それ以上を追求しなかった。

 

「ガンプラは自由ってことだね! じゃあ、あれも?」

「ああ、あれね」

 

 セナが指さした先にあるのは漆黒の装甲を纏う一機のガンプラ。

 丸みを持つ巨大な肩アーマーが特徴的なシルエットは、ZZに出てきた「クィン・マンサ」を連想させるが、レイはその正体を正確に把握していた。

 

「あれは――ブラックサレナね。きっと」

「聞いたことない名前だけど、黒百合? うーん、わたしが知らないGPシリーズ?」

「セナも詳しくなってきたじゃない。でも残念。ハズレ。そもそもガンダムじゃないもの。というか、ガンダム作品の機体じゃないし」

「えぇー……そんなのアリなの?」

 

 嬉しそうなレイとは反対に、せっかく勉強したのに思わぬ変化球で躱されたセナは不満そうに唇を尖らせる。

 

「展示できてるってことはアリなんでしょうね。それに、ガンプラを素体にして他作品のロボットを再現する、っていうのは昔からあるし、なんならGBNでもそこそこ見かけるよ?」

 

 へぇー、そうなんだ。とセナが言おうとした瞬間だった。

 

「――嬉しいよ。こいつの名前を知ってくれているなんて」

「――ッ!」「おわっ!?」

 

 唐突に背後から声をかけられ、レイとセナは驚いて振り返る。

 セナは全く気配なく自分の背後に立ったことへの警戒。

 レイは急に声をかけられたので普通に驚いて。

 

 二人の背後にはいつの間に近づいてきたのか、一人の男性ダイバーが立っていた。

 

「おっと、すまない。ぶしつけだったね。まさか()()()()を知っている人がいるとは思わなくて、つい」

「……なでしこ?」

「機動戦艦ナデシコ……このブラックサレナが登場したアニメ作品よ。もっとも、これが出てくるのは劇場版のほうだけど……」

「……素晴らしい。君は本当にナデシコを知っているんだね」

 

 突然現れたそのダイバーは、バイザーで隠された目元の下にある口を、にぃっ、と嬉しそうに吊り上げた。

 

 

 

 

 

§

 

 

 

 

 

 テンカワと名乗った彼によれば、展示している機体はまさにブラックサレナを模して作ったガンプラだという。

 

「いや、そのダイバールック見ればわかりますけど」

「そうなの?」

「だってそれ、ナデシコ劇場版の【テンカワ・アキト】まんまだもの」

「これは昔に配信されたコラボミッションで、パーフェクトクリア報酬として配られたアバタースキンなんだ……これでも結構なレアものなんだよ?」

「ダイバーネームのテンカワってそういうことだったんだねー」

 

 機動戦艦ナデシコ。地上波が全二十六話で放送され、その後に劇場版も作られたSFロボットアニメだ。

 テンカワの姿はその劇場版に出てきたメインキャラであり、地上波版の主人公【テンカワ・アキト】そのままで、目元を完全に隠すバイザーに、襟が高く足元まである黒づくめの外套で首から下を完全に覆っている。

 

「実はGBNにログインするのは久しぶりでね。ペリシアには初めて展示したんだが、話しかけようとすると、なぜかほとんどの人が避けてしまうんだ」

 

 ――原作を知らないと不審者にしか見えないからじゃないかな。

 

 とセナは思ったが、彼女にも口に出さない分別はあった。

 

「ナデシコ自体がけっこう昔の作品だし、そもそもここはGBNなんで、やっぱりガンダム以外の作品はどうしても知名度が……」

「うん。そうだね。でも、こうして君たちに出会えた。だからきっと、今日、俺がここで展示をしたことには意味があったんだ」

 

 んな大げさな……とレイは言いかけたが、一日粘って引っかかったのが自分たちだけだという現実と、交換したプロフを嬉しそうに見ているテンカワの姿に何も言えなくなる。

 

 ――GBNだと、ナデシコのフォロワー、少ないんだろうなぁ、きっと。

 

 マイナー作品好きの哀愁がそこにはあった。

 

「レイってガンダム以外でも、ロボットが出てくるアニメとか詳しいからねー」

「あはは……小さい頃からお店の常連さんたちに、いろんな作品のブルーレイボックスとか貸してもらってたから……」

 

 プリキュアを知る前からガンダムを筆頭に、マクロス、ボトムズなどその他往年の名作ロボアニメを視聴し、ジブリ映画の代わりにロボアニメ映画をおおよそ網羅した女子高生。それがイワナガ・レイである。

 教育とは洗脳と紙一重なのである。実に恐ろしいとは思わんかね。

 

「それで、ここからが本題なんだが……実は君たちに折り入って頼みがある」

 

 和やかな会話の途中だったが、初対面の人間から突然の頼み事をされたレイとセナはわずかに身構えた。

 

「頼み、ね……私は、聞くだけは聞いてもいいと思う。ここまで完成度の高い作品を作る人が、わざわざ初対面の相手に頼み事をするなんて気になるから。セナは?」

「聞くだけならタダだからいいと思う。受けるかどうかは内容と報酬次第ってトコかな」

 

 少しの間を置いてからそれぞれが了承の旨を返す。

 

「良かった……頼みたい事というのは、とあるミッションを共に攻略して欲しいというものなんだ」

「ミッション攻略? なんというか……」

「思ったよりフツーだね。でも……」

「Sランクのテンカワさんがクリアできなかったとなると――」

「ああ。挑むミッションの難易度は高い。幾度も挑戦したが、俺ともう一人、パートナーの二人だけではどうやってもクリアは不可能だった」

 

 プロフィールで確認したが、なんとテンカワはSランクのダイバーであった。GBNでも間違いなく上澄みと言える強者。……正直なところ、レイもセナもバトルがしたくてうずうずしている。

 

 しかし、そんな彼でもクリア不可能と聞いても二人はあまり驚かなかった。

 GBNには運営が用意する常設のミッションや、イベント色が強い期間限定のものに加え、過去に彼女たちが挑戦した「終末を召ぶ竜」のようなユーザーが作成したクリエイトミッションも存在している。

 そのため数はもちろんだが難易度も千差万別であるため、たとえSランクといえども、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()では突破できないものなど珍しくもなかったからだ。

 

 しかし――

 

「共に挑んで欲しいミッションの名はロータスチャレンジ。()()()()()()()()()()()()()()()()()、超難関のクリエイトミッションだ」

 

 この一言で風向きが変わる。

 

「へぇ――それはそれは」

「――おもしろそう」

 

 挑戦者気質の狂犬二匹には、これ以上の魅力的な条件などなかった。

 

「……乗り気になってくれたみたいで嬉しいよ。実を言うとね、ペリシア(ここ)でガンプラを展示していたのはナデシコの布教もあるが、実力のあるダイバーを協力者としてスカウトする目的もあったんだよ」

 

 ペリシアに展示するほどの作品を作るダイバーというのは、名の知られている者も多い。たとえ製作者がファイターとして凡人だとしても、彼らのネットワークを頼れば強者(つわもの)を紹介してもらえる可能性もあるとテンカワは判断していた。

 

 もっとも、その目論(もくろ)みは――主に彼の外見(ダイバールック)が原因で――あまり上手くいっていなかったが、結果としてレイたちに出会えたのはある意味で運が良かったのかもしれない。

 

「でも、そうなると――」

「協力するには条件があるね」

 

 しかし、協力すると匂わせるような雰囲気の会話から一転。レイとセナは示し合わせたように「条件」があると告げてきた。

 

「それは、報酬ということかな?」

 

 無謀な挑戦に付き合わせるのだ。成功するかどうかに関わらず、ある程度は前払いも必要だとテンカワも納得しているようだが――

 

「いいえ。報酬は別にそこまで欲しいわけじゃないわ」

「うんうん。そんなのよりもっと気になることがあるからね」

 

 それはこの二人に対して、とんだ勘違いというものだ。

 

 

あなた(そっち)の実力はどれほどのものなのか、戦って(わたし)たちに示してみせて?」

 

 

 全く同じタイミングで、ほとんど異口同音に発された言葉に、一瞬だけ彼は驚いたように止まるが、すぐさま口の端を持ち上げて実に嬉しそうに笑った。




Tips:【機動戦艦ナデシココラボミッション】

GBN黎明期に期間限定で配信されたイベント。
本編をダイジェストで追体験できるストーリー仕立ての連戦ミッションと、劇場版を再現した決戦型のバトルミッションで構成される。

本編のストーリーミッションはそこそこ好評であったが、当時のダイバーたちの心をへし折ったのが劇場版のラストバトルを再現したミッションだった。

北辰と彼の率いる北辰六人衆との戦いを忠実に再現したはいいものの、敵NPD機の強さがバグを疑われるほどに強力で、夜天光+六連×6の合計七機を単独で相手にする内容は、「囲んで棒で叩くとはこういうことだ」とばかりに高度な連携をしてくる。

一定時間が経つと原作再現要素として四機のネームドNPD機が援軍として現れ、六連たちを抑えてくれるため、序盤を生き残れば実質夜天光との一騎討ちとなるが、並みの腕前とガンプラではそのフェーズにたどり着くことも難しかった。

このミッションには隠し要素が存在し、特定の条件を満たして北辰を撃破することでパーフェクトクリアとなり、特殊なアバタースキン(劇場版アキト)を確定で入手できる。

その条件とは「援軍のネームドNPD機が登場する前に敵機を全て撃破する」というもの。
一対七の数的不利に加え、先述したようにイカレた強さの敵を短時間で全滅させるという無理ゲーだったため、この特殊報酬を手に入れられたダイバーはほとんどいなかった。

なお、この条件を達成すると北辰の最後のセリフが変化する。

「よもやここまで練り上げるとは……苔の一念、侮ったか……天晴なり、テンカワ・アキト……」
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