ガンダムビルドダイバーズ Behind the scenes 作:ほぼ読み専
「昨日は、その……ごめんなさい」
「えっ……っと、その、気にしないで?」
一端落ち着いて話をしよう──そういうことになった嶺と入院服の少女の二人は、入院患者用の病棟にある談話室のテーブルの一角で向かい合って座っていた。
深々と対面の相手へ頭を下げるのは、女子高生にしてヴァルガの戦闘民族。趣味はプラモデル作りとガンプラバトルの岩永 嶺。
恐縮したように両手をパタパタ振る入院服の美少女は、名前を
嶺としては「次に会ったら必ず
「世間は狭いっていうか……今回はエンカ運がバグってたっていうか……」
「あ、あはは……わかる。MMOでログイン初日にランダムポップするユニークモンスター引き当てる、みたいな?」
「それね。確かに確率はゼロじゃないけど、いやいやありえないでしょって」
お互いにゲーム用語を知っているためか、妙に会話がかみ合う嶺と世那。
自己紹介もして互いの素性を知ったためか、リラックスした様子で力を抜いた世那が椅子に寄りかかりながら朗らかに口を開く。
「はぁー……でもわたしもビックリしちゃった。あなたがあの青いザクのダイバーだったなんて──」
「ザクじゃない」
「へ?」
きょとんとする世那を無視して真顔になった嶺が、GBNで出会った時からずっと気になっていた間違いを指摘する。
「だから、アレ、ザクじゃないの」
「え、でも一つ目だったし──」
「あー……まあそれは、ね? あれはイフリートっていうのよ。元はUC系作品の外伝が元で──」
「え? え? え?」
なんとなく流れで機体の来歴を説明する嶺を、パチパチと瞬きして困惑するように眺める世那。
ガンダムビギナーあるあるの、「二つ目をしたのがガンダム。一つ目をしたのはザクでしょ」というアレだったが、嶺のほうも「オタク特有の早口」というやつで、お互い様という感じだ。
「──っと、ごめん。つい。とにかく、アレはザクじゃないの。桜庭、さんには、その、
ぽかんとした顔をした世那を見て、我に返った嶺が慌てて説明を止める。「やっちゃった……」と恥じ入る嶺だが、
「あ、うん、なんとなくわかる。グッドゲームをした相手に忘れられてたり、間違って覚えられてたりすると悲しいから」
なにか自分でも覚えがあるのか、世那はそんな嶺の態度に理解を示すようにコクコクと頷いて同意を示してくれた。
「……でもガンプラって、ほんっとーに種類多いよねー……VRのロボゲーは前に違うのをやってたけど、それと比べても明らかに種類と数がおかしいもん」
「それがGBNの売りの一つだから……ガンプラならだいたいなんでも機体として読み込めるし、なにより歴史が長いからいろんなガンプラがあるのよ……」
なにせ1979年から続くコンテンツである。
「でも、桜庭さんは随分と上手にガンダムを乗りこなしてたじゃない」
嶺が必殺を期して繰り出した一撃を、分離機構を用いた土壇場での回避で見ごとに捌いた姿は記憶に新しい。
本来ならHGUCガンダムに原作のような分離合体機構も、ましてや内部にコア・ファイターも存在しないが、そこは機体がデジタルデータで再現されているGBN。プラグインという搭乗するガンプラに特定の機能や機構を持たせるプログラムを任意で追加してやれば──特にそれが原作通りのものであれば比較的簡単に──ゲーム内で再現できる。
もちろん性能が凶悪すぎるためにあえて再現されないもの──例えば∀の月光蝶であるとか──はあるが、世那の使っていたコア・ブロックシステムは、安価なプラグインで簡単に再現できる機構の筆頭であった。
「それは、まあ……自機の機体特性を把握するのはロボゲーの基本だから、軽くだけどネットで調べたから……」
「……それで
「しょ、初心者にはちょっと情報量が多すぎるかなー、って……」
「まあ、趣味の、それも興味ない分野ならそうなるよ、うん」
世那の言い分に特に怒ることもなく、そりゃしょうがない、と嶺も同意を示す。実際、過去に出た全てのガンプラの情報を記憶している人間が世界でどれほどいるやら。少なくとも嶺には無理だし、それほどにガンプラというコンテンツは巨大で息の長いものだ。
「最初はね? この手のゲームって
両手で頭を抱えて萎れる世那。いっぽうで、それであれだけ戦えるって凄いな、と嶺は感心していた。
戦った時にも察していたが、やはり世那はガンダム知識に疎かった。だが、
己惚れるわけではないが、レイとてヴァルガ民を名乗る以上、ランキングにすら載らないそこらの凡百ダイバーよりも強い自信がある。
ならば、世那がGBNで戦うために必要な知識を身に着け、自分に合ったカスタムガンプラを駆ればどれほどになるのか──
想像した嶺は思わず背筋がゾクリとする。
しかし、現実とはそうそうままならないものであり、
「あ、でも、
続けて独り言のように世那が呟いた言葉を聞いて、嶺はビシリと固まった。
§
本人がやりたい事と向いている事は必ずしも一致しない、とは誰が言ったのだったか。
「えっと、もともとは借りてた
固まったままの嶺は世那の声に返事を返すことができない。
「明日で退院だから借りたまま自宅に戻るわけにもいかないし。でもそうなると、わたしガンプラ持ってないからGBNで対戦できなくなるじゃない? じゃあ、もういっそ別のゲームに移ろうかな、って」
世那がなぜあの時ガンプラなんぞ持って病院の廊下を歩いていたのか。これが理由だった。硬直した嶺に世那は淡々と語る。その様子にはGBNへの未練など微塵も見られなくて、それがあのギリギリの戦いを演じた相手から言われることに、なんだか嶺はとてつもなく寂しい気持ちになった。
また、彼女は身体的な問題でプラモデル作りのような作業を禁止されている。THE GUNDAM BASE ならばレンタルガンプラもあるのだが、同じく身体的な理由で店舗からのログインは出来ない。
ガンプラがなくともGBNへのログイン自体はできるが、そうなると世那の求めるガンプラバトルは当然ながら出来ないし、ゲーム内で出来る事、行ける場所にも大きな制限がかけられる。なんだかんだ言っても、やはりGBNの主体はガンプラであることは覆せない。
「い、今ならネットで完成品のバトル用ガンプラも買えるけど……」
なんとか再起動した嶺が代案を出すも、
「え……顔も知らない人が作ったガンプラを使うとか、ちょっと、その、怖い……」
「ぁー……そう取るかぁー……」
素人らしい素朴な意見を聞かされてしまい、それを否定することも出来ずにガックリと項垂れる。
世那はこんな事を言っているが、バトル用に調整された完成品のガンプラを扱う市場というのは、今の時代それこそ青天井だ。
GPDの時代からバトル向けにカスタマイズされた高品質、高性能なガンプラには需要があり、商品としてそれらを売りに出しているビルダーや専門業者は存在していた。
GBNによってガンプラバトル人口がさらに増えた現在、その市場は以前にも増して拡大している。
しかし汎用機でもかなり高額の値段が設定されていて、そこに自分のプレイスタイルに合わせたオーダーメイドなどをした日には、それこそ目玉が飛び出すような値段がつくのが当たり前。それでもダイバーの中にはそういうガンプラを大枚はたいて買い付けてでも上を目指す者もいる。
……まあ、ワールドランキングのトップテン圏内に常駐するダイバーたちは、いずれも自作のガンプラを使用しているあたり、ただ高性能なだけのガンプラ頼りでは勝ち上がれないGBNの難しさがあるのだが。
「VRのロボゲはGBNだけじゃないし、
「──私が作るガンプラなら?」
世那の言葉を遮るようにして嶺の放った提案が割り込む。
「──えっ?」
思ってもみなかった言葉を投げかけられた世那は、ぱちくり、とその大きな瞳をまばたきさせる。
「顔も知らない人の作ったのが嫌なら、私が作ったガンプラならどう? それでも、嫌?」
「……えっと、い、嫌じゃ、ない、です」
じっ、と嶺に見つめられたことで若干怯みながらも、世那は相手からの提案を拒否することなく受け入れる。嫌々というわけでもなく、ただ嶺のただならぬ気配に気圧されて、戸惑っているだけのようだ。
「……でも、どうしてそこまで? わたしたち初めて会った……というより遭遇? したのは昨日だし、リアルで知り合ったのは偶然で、それもついさっきなのに」
世那が戸惑うのも当然で、そのことについて聞いてみれば、今度は嶺がしばらく黙り込んだあと、重々しく口を開いて答えた。
「……私が、見てみたいから」
「見たい?」
こてん。と首を傾げる世那を真剣な目で見つめながら嶺は続ける。
「そう。桜庭さんがパチ組み以上の出来のガンプラに乗ったら、どれくらい強くなるのか。それを見てみたいし、対戦もしてみたい。
──それは、ガンプラを作れない世那を哀れんだものなどでは決してなく。
「──へえ。そういう魂胆なんだ。いいの? 敵に塩を送るようなことして」
──GBNで、ヴァルガで戦う一人のダイバーとして、
嶺の意図を察した世那もまた、面白がるように挑発するような返しで答える。
「やるからには全力よ。
己が強者であるという自負が込められた嶺の言葉。それを聞いた病弱な少女はしかし、貧弱な体躯に似合わぬ獰猛な輝きを瞳に宿す。
愛らしい大きな瞳に燃えるのは闘争心という名の炎。赤々と燃えるそれは、電脳仮想空間の中においては彼女もまた一人の戦士なのだと証明する輝き。
嶺も世那もお互いに自然と口角が上がる。
年頃の少女らしからぬ凶暴な笑みは、彼女たちの闘争心の高さを表すようで、
「──あとね、GBNは他のロボゲと違って、戦闘以外でもいろいろと楽しめる要素があるの。それを教えたくて、ね」
その途中で、ふっと顔を逸らして付け加えるように言った嶺の意外な言葉に驚いた世那は、照れているのか横を向いた嶺の顔をまじまじと凝視する。
初対面では高い上背と三白眼によって、どこか怖いような印象を抱いていたのだが、頬を赤らめ明後日のほうを見る嶺の横顔は年相応に可愛らしく映る。
「──そっか。うん。そうまで言ってくれるんなら、やってみる」
知り合ったのはついさっきで、未だ親しいとは決して言えないが、それでも嶺という少女の意外と思えるような一面を目撃した世那は、垣間見せた獰猛さをすっかり引っ込めて、ふにゃりと嬉しそうに微笑んだ。
Tips
・ガンプラ用キャリーケース
ビルドファイターズトライでメイジンが持っていたアタッシュケースや、Re:RISEでヒロト君が腰に付けていたベルトポーチ型のアレ。
アタッシュケースタイプはわかるけど、ベルトポーチはあんな所に付けて大丈夫なのか不安になる。
GPDが廃れたことで需要が落ち込むかに思われたが、ゲーム内でどれだけ機体が破損しても
簡単に言えば緩衝材の詰まった箱なので、様々なコラボ商品、限定デザインが発売されている。