ガンダムビルドダイバーズ Behind the scenes   作:ほぼ読み専

50 / 55
最悪の出会い

 神という存在は不平等で、残酷だ。

 

「ふんふんふ~ん」

 

 タワーマンションの高層階。エアコンの効いた広いリビング。新車の軽自動車と同じくらいの値段がするソファに一人の少女が無造作に寝ころんで、上機嫌に携帯端末を眺めている。

 

 華奢でしなやかな肢体をタイトなTシャツとホットパンツで包み、長い金髪をサイドテールにした十代半ばの子供。

 猫を連想させるツリ目がちの瞳で、櫛名田(クシナダ) 美命(ミコト)はSNSを流し読みしていた。

 

 ソファの前のテーブルには食べかけのホットサンドが放置され、長時間エアコンの冷風にさらされ続けたパンは、すっかり水分を失ってパサパサになっている。それは通いの家政婦が美命のために作り置きしていた夕食の残骸だった。

 

「……チッ、クソリプつけんじゃねーよ雑魚どもが。ブロックブロック」

 

 突然、端正な顔を歪めて美命が画面をタッチする。自身の書き込みに返信がついていたので読んでみれば、その内容は彼女にとって不本意なものであったからだ。

 

【勝ちたいからってこんなの雇うなよな……煽り散らかされて最悪だったわ】

【確かに勝てたけどもう共闘はしたくない】

【オレツエーしたいならソロゲーやってろ。二度とくんな】

【協調性って言葉知ってる?】

 

 先日、依頼されて参加した対戦型VRゲーム。チームを見事優勝へと導いた結果を書いただけなのに、美命へ送られたのは賞賛やねぎらいの言葉ではなく、対戦相手、チームメイト双方からの怨嗟の混じった苦情だった。

 

「はっ……でもまぁ、悪名は無名に勝るって言うし? そう考えれば雑魚どもの嫉妬が見苦しくてウケるわ~」

 

【雑魚がなんか喚いてるけど、ごめんねぇ~。私、負け犬じゃないから犬語わかんないの♪】

 

 感情にまかせてポストを書き散らす。こういうことをするから彼女のアカウントはちょくちょく炎上するのだが、そのたびにアカウントごと削除しては作り直すことを繰り返している。

 

「ま、終わったゲームなんて気にすることないわね」

 

 クソみたいな書き込みをしてスッキリした美命は、流し読みしていた話題にページを戻す。

 

「今やるならやっぱりシャンフロよね~。もうすぐ大型アプデあるし~」

 

 VR戦国時代に突如として現れた神ゲー。

 現代のVR技術水準から数世代先を行く圧倒的な臨場感と、無数に用意されたキャラ育成とサブイベントの深い沼。バグの少ない隙の無いゲームシステム。

 MMORPGというジャンルで一番のシェアを誇り、上位プレイヤーや有名クランの投稿には万単位のイイネがついているものもある。

 

「夏から解禁の新大陸、ここでスタダ決めて最速で新イベ攻略すれば……」

 

 自分が神ゲーの話題の中心になる事を想像し、美命は八重歯が覗く唇の端をニヤリと持ち上げる。

 

 櫛名田 美命という少女は承認欲求の塊だった。注目され、もてはやされることに無上の喜びを覚える。

 自分が活躍するためならば、他者(モブ)のことなど気にもしない。非常に独りよがりで独善的、さらに傲慢でもあった。

 

 愛らしい外見をしているが、中身は承認欲求モンスター。

 

 それが櫛名田 美命を表すのに最も適していた。

 

 これが大言壮語を吐くだけの子供ならば苦笑されて終わりだっただろう。しかし神というのは時に不平等である。

 

「アタシの才能にかかればユニークモンスターだって倒せちゃうかもね~♪」

 

 SNSで敵味方の双方から叩かれてはいたが、美命の活躍がチームを勝利させたのは紛れもない事実であり、この少女には確かに非凡な才能があった。

 

 VR適正という、現代でなければ見つからなかった分野に特化した天才児。

 凪原 リンネというガンプラファイターがどれだけ願っても持ちえなかったものを、美命は生まれた時から授かっていた。

 

 恵まれた生活環境と圧倒的な才能。

 

 神というのは時に不平等で残酷だ。

 

「でもソロでMMOはちょっとね~。誰かアタシについてこれるツレが欲しいけど――」

 

 持っていた端末から鳴り響いた電子音が美命の言葉を止めた。画面には「ママ」と表示されている。

 それを見た美命は、途端に喜色を浮かべて通話ボタンをタッチした。

 

 

「――は~い。ママ?」

『もしもし美命? ごめんね、ちょっと今日も残業で遅くなるから……』

「……あ、うん。わかった」

『それじゃあ――』

「あ、あのねっ! テスト返ってきたんだ! それでね、数学の点数が――」

『その話はまた後でね。美命なら大丈夫ってわかってるからママも安心してるよ。じゃあ切るね』

「……うん。お仕事、頑張ってね」

 

 二分にも満たない親子の会話はそれで終わった。

 外資系に勤める母親は多忙を極め、父親は仕事の都合で年のほとんどを海外で過ごしている。

 

 暗くなった画面を眺めていると、不意に遠くから、風呂が沸いたことを知らせる電子音が聞こえてきた。

 

「……。シャンフロ、誰か誘ってみよっかなぁ~」

 

 通話の切れた端末をソファに放り投げた美命は、そんな独り言をつぶやきながら風呂場へ向かう。

 

 

 神という存在は時に不平等で残酷だ。

 

 その人が最も欲しいものを与えてくれることはほとんどない。

 

 

 

 

 

§

 

 

 

 

 

 GBNの宇宙。漆黒の闇の中に漂う宇宙船のブリッジ内部でくつろいでいたセナは、DMが届いた通知を受け、それを開いてみると。

 

「……んぉ?」

 

 意外な人物からの突拍子もない内容に、思わず、といった具合に間の抜けた声が出た。

 

 強襲装甲艦「イサリビ」

 

 鉄血のオルフェズに登場した宇宙船で、白くリペイントされた船体には、鉄華団のエンブレムに代わり、片目の潰れた猟犬が一輪の花を咥えた意匠のエンブレムが刻まれている。レイとセナが二人でアイデアを出した「ゼラニウム」のフォースエンブレムだ。

 

 「ゼラニウム」のフォースネストとして登録されているそれは、いわゆる課金アイテムだ。

 こういった宇宙船型のフォースネストは、ディメンション内にある島や領地とは異なりゲーム内リソースをあまり食わないためか、BCかリアルマネーさえあれば簡単に手に入れることができる。

 

 ……もっとも、値段もなかなかにお高いため、タッグフォースで使うことは稀だが。

 

 鉄血のオルフェンズを全話視聴したセナが勢いで購入してしまった。

 もちろんポケットマネーでた。

 事後報告を受けたレイは白目になって倒れたが、今ではこうしてありがたく使わせてもらっている。

 

「ただいまー」

 

 セナが微妙な顔をしてホロウィンドウを眺めていると、不意に扉が開いてレイが顔を出す。

 二人が宇宙にいたのは、レイが新たに制作したそれぞれの装備のテストと慣熟訓練を行うためだったからだ。

 

「あ、あー、おかえりー」

「……どったの? セナ」

 

 相棒の妙な声に反応して近づけば、なんとも言えない表情で振り向いてこたえる。

 

「やー、なんか、昔の知り合いからゲームのDM経由でメッセが届いたんだけど……」

「うん」

「GBNなんてやめてシャンフロやろうって……」

「はぁ?」

 

 セナの言葉が理解できず、素っ頓狂な声をあげたレイの顔は、宇宙をバックにした猫のようであった。

 

 

 

 

 

§

 

 

 

 

 

 無数のデブリが漂う宇宙空間。

 

 無残に破壊された大小さまざまな宇宙船の構造物が無音の暗闇に浮かぶさまは、ここでかつて激しい艦隊戦があったことを想像させる。

 ここはGBNに存在するディメンション内にあるエリアのひとつ。互いの合意があればバトルができるフリーエリアと呼ばれる、その中でも主に宇宙空間のデブリ帯を再現した場所だった。

 

「チッ……なんなの、このゲーム。機体性能の差がエグすぎでしょ」

 

 その中でもひときわ巨大なデブリ。艦橋が完全に吹き飛び、艦首が拉げて大破しつつも原型を残す宇宙戦艦。がらんどうになったサラミス級の内部に身をひそめる巨大な人型の影がある。

 全身を暗い紺色で塗装されたガンダムタイプ。【ガンダムMk‐Ⅱ】のティターンズ仕様と呼ばれるガンプラだ。

 

「ありえないありえないありえない……このアタシが、こんな……ッ、対戦メインのゲームなのに運営はバランスってものを考えてんの?」

 

 そのコクピット内で毒づくのはピンクのハロ姿のダイバー。その正体は美命で、これはGBNのアカウントを仮登録してログインした際に与えられる固定のダイバールックだった。

 

【今はGBNにハマってるから無理】

 

 せっかく誘ってやったというのに、返ってきたのはそっけない一文。

 

 かなりイラっとしたが、同時に()()()()()がそれほどまでハマるゲームとやらに多少の興味がわいた。

 ちょうどシャンフロのアプデ日まで暇だったため、ちょっと触ってみるかと思い立ち、近場のガンダムベースからログインすると、チュートリアルを無視してランク無制限のフリーマッチにエントリーした。

 

「――ッ! ヤバっ!」

 

 接近する熱源を感知して鳴り響くアラートを聞き、探知から逃れるために切っていたスラスターへと慌てて火を入れ、機体をサラミスの中から飛び立たせる。

 するとその直後、サラミスの外郭が赤熱して歪み、巨大な穴が開くとともに、高エネルギーを秘めたビームが彼女のいた場所を貫いた。

 

 船体の残骸から外へと飛び出した美命が見たのは、彼方から放たれる一筋の閃光。

 

 美しい光はしかし死神の鎌のごとく、横なぎにサラミスの腹を切り裂くと収束を失って消えていく。

 頭部カメラを最大望遠にして発射先を探せば、サラミスからかなり遠方に大型のビームライフルを両手で構えた人型が見えた。

 

 ……自分なら誰が相手でも勝てると楽観して飛び込んだはいいものの、美命はそこでGBNの洗礼を受けるハメになる。

 

『……仕留め損ねたか』

 

 デフォルトの設定だったために美命のコクピットには対戦している相手の声が聞こえてくる。低い男性と思われる呟きにはわずかな失望と驚きが含まれ、それとともに敵機が持っていた巨大な銃身がバラける。

 銃から分離したいくつかのパーツが本体のMSにドッキングすると、それらはスラスターの噴射炎を吐き出してこちらへと向かってくる様子がサブモニターに映し出された。

 

 ガンダムエアリアル改修型。

 

 水星の魔女における物語後半の主役機体。全体的なディテールアップが施され、本来はトリコロールのカラーリングを原型機たるルブリスに寄せたことで、全体的に白の占める面積が大きくなり、差し色として紫がかったピンクが映える。

 

 相当に作りこまれたガンプラで、美命が乗るレンタルのMk‐Ⅱとの出来は比較にならない。

 美しい光沢仕上げの白い外装が暗闇の中で目を引くが、しかし今の美命にとって、その姿は己の命を狙う白夜叉のように見えていた。

 

「――チッ」

 

 舌打ちをひとつ。

 右手にビームライフル。左手にはリアスカートにマウントされたバズーカを持たせて相手を迎え撃つ美命のMk‐Ⅱ。

 

「残弾が心許ないけど、やるしかないか」

 

 今の彼女が乗るMk‐Ⅱはもともと持っていたシールドを喪失している。それに伴って盾の裏にマウントしていたライフルのエネルギーパックとバズーカの弾頭が収まったカートリッジを失っていた。

 

 速度を落とさずデブリの隙間を縫うようにして近づく敵機に照準を定め、ランダムなリズムでトリガーを引きビームライフルによる牽制射を放つ。

 

 三本の閃光に対してエアリアルが彼女の予測した通りの挙動でそれらを回避した先、そこへ絶妙なタイミングで本命のバズーカから発射された弾頭が置かれるが……

 

『狙いはいいが――甘い』

 

 白い敵機に向かったはずの弾頭が当たる前で炸裂して闇の中に爆炎が広がる。

 

 いつの間にか本体から分離したうちの一基が放った火箭によって弾頭が撃ち落されたのだ。ガンビット。エアリアルに備わったビット兵器の一種で、はじめて見た時から美命が苦戦を強いられている原因だった。

 

「また()()か!」

 

 エアリアルに装備された遠隔操作攻撃端末(ビット兵器)。作りこまれたそれらは小型ながらも恐ろしい威力のビームを放つ。

 初めての対人戦に挑んだ美命は、この厄介な武装によって追い詰められ、サラミスの中へと逃げ込むはめになった事を思い出して憎々し気に吠えた。

 

『――いけ』

 

 だが彼女の心情など相手からすれば知ったことではなく、エアリアルから分離したすべてのガンビットが、円運動を描いてMk‐Ⅱへと殺到する。

 

「ああもう、鬱陶しい!」

 

 十一基の端末と本体のライフル、合計して十二もの火箭から形成される包囲網の中に閉じ込められ、美命は機体を翻して回避に専念するしかない。

 

「そんな()()()()クセに盾貫通するとか反則でしょうがッ!」

 

 なにせ威力なら嫌というほど理解している。バトルの序盤に小型火器だと侮ってシールドで防ごうとし、それをあっさりと貫通されたのだから。

 GBNではガンプラの出来で機体性能に差が出るとは聞いていたが、ここまでとは想定外であり、そこがまた純粋なゲーマーである美命を苛立たせていた。

 

「ウザいウザいウザい!」

 

 牽制の豆鉄砲ではない。すべてが今の自分を撃墜できる必殺の威力を秘めた攻撃。

 

 宇宙という三次元空間の中、上下左右、あらゆる角度から襲い来る閃光。それらを罵声をあげながらもAMBACと巧みなスラスター操作で躱す。

 ひとつのミスが即死につながる状況でありながらも、驚くべきことに彼女のMk‐Ⅱは一度もその身を焼かれることなく一人で踊り続けている。

 反撃こそ出来ていないが、その動きはとても今日初めてガンプラバトルをする者とは思えないほどのキレがある。

 

『素組みのガンプラでやるじゃないか』

 

 対戦相手のダイバーが思わず感心したような声を漏らすが――

 

「――()()()()()()

 

 当の本人はイラつきのあまりに脳の血管が切れそうになっていた。

 

 ガンプラバトルでの機体操縦は思考操作を主体にして行う。これは操るガンプラが実機だったGPDから変わらないが、フルダイブVRのGBNへと移行してガンプラが純粋なデータになったことで、操縦者の能力によっては人間じみた繊細な動きすら可能になった。

 今の美命の動きも彼女の圧倒的なVR適正とゲームセンスによって成り立っている。

 

 だが、その才ゆえに美命は致命的な違和感と鈍重さをMk‐Ⅱに感じてしまう。相手ダイバーの言葉通り、素組みのガンプラでは彼女の技量とセンスに機体の性能が追いつけていないのだ。

 

「ああもうおっそい! ()()()もズレが出やがってこのポンコツ!」

 

 まるで手足に重しを着けられたような。あるいは水中で動いているかのような意識と動きのズレ。0.1秒未満にすぎない遅延はしかし、対戦ゲームにおいては致命的だった。

 

「クソッ! ()()()()()()()()()()

 

 事実そういった枷によって本来ならば反撃をねじ込めたはずのタイミングを逃してしまう。この事が余計に美命の中にある焦燥を煽り、イラつきを加速させる。悪循環だった。

 

(でもビット兵器ならいつかは――)

 

 しかし美命はそこらの凡百の雑魚プレイヤーとは違う。

 

 心が怒りに支配されつつも思考は常に冷静に。特にVRでの思考操作はメンタルの影響を受けやすい。数々のVRゲームで対戦を勝ってきた美命にとって、感情と思考を分離するのはもはや本能に近く、意識せずとも彼女の操縦にはわずかの狂いもない。

 

 いや、それどころか時間がたつごとにMk‐Ⅱの回避がより洗練されている。

 

 ()()()()()()()()――このわずかな時間で。

 

 美命の才能は伊達ではなく、レイに「VRゲームの申し子」と呼ばれたセナをも上回るものだった。

 

「そろそろ頃合いのはず――」

『思いのほかしぶといな……』

 

 相手の呟きが聞こえ、()()が合図だと察知すると同時、Mk‐Ⅱを包囲していたガンビットたちからの火箭が途絶える。

 

「――きたッ!」

 

 無線式の遠隔操作端末に共通する弱点。ある程度の時間使用すると、一度本体に戻してエネルギーなり推進剤なりを補給しなければならない。いわゆるリチャージが必要であり、ロボゲーというジャンルにおけるお約束のリスク。その共通認識はガンプラバトルでも同じであった。

 

 そして美命はこの瞬間をこそ待っていた。

 

「――ひとつ!」

 

 ロックオンマーカーのレクティルが重なる前にトリガーを三回タップ。

 方向転換のためわずかに動きを止めたガンビットのひとつ。それを三本の閃光うちのひとつが貫いた。

 

 すでに美命の中でMk‐Ⅱの遅延に対する感覚のアジャストは終わっている。機体の反応がポンコツならプレイヤーがそれに合わせればいい。簡単なことだ。実現できれば、という枕詞がつくが。

 

『……なっ』

 

 驚く相手の声に呼応するように挙動に躊躇いの出たガンビットたち。マニュアルによる思考操作の弊害だ。

 その揺らぎは僅かであったが、美命にとっては充分な()であった。

 

「――ふたつ!」

 

 手近なひとつへ頭部のバルカンポッドから銃弾を浴びせてバランスを崩させ、すかさずバズーカを叩き込む。

 

「いま――ッ!」

 

 爆炎に包まれた対象には目もくれず、さらに少し遠くのガンビットへ向けビームライフルを投げつける。まるで槍のように水平に飛んだ鉄塊は見事命中し、質量差による衝撃で忌々しい小型火器の動きを止めた。

 

「――みっつ! よっつ!」

 

 衝突による反発でライフルがガンビットから離れる前に、すかさずバルカンを己の銃へと叩き込む。

 残弾が一発となったエネルギーパックへ銃弾が命中したことで、内包していたエネルギーが解放され、それは爆発となって付近を漂うもう一基のガンビットも巻き込んでひとつの花火となる。

 

「みたかクソビットが!」

『……っ、調子に、のるなよ!』

 

 さらなる戦果を求めた美命がバズーカの照準を合わせるために一瞬だけMk‐Ⅱの動きを止めた瞬間、バズーカを持った左腕をエアリアルが放ったビームが貫く。

 

「しまっ――」

 

 爆発、衝撃。

 

 左肩で起きた爆発が運悪くバズーカの残弾を巻き込み大きな爆炎が暗闇を照らす。まるでガンビットに宿るカブンの子らが、先ほど自分が辿ったのと同じ運命へとMk‐Ⅱを引き込むかのようだった。

 

「くっそ、よくも――」

 

 広がった爆炎を割いて吹き飛ぶMk‐Ⅱ。だが美命の意地か、制御を失ってデブリに衝突する直前、機体を立て直して着地。それを足場としてエアリアルへ向かって飛ぶ。

 

『――まだやる気か』

 

 美命がまだ生きていることを確認すると、残ったガンビットを装着してビットオンフォームとなったエアリアルは、上昇した機動力でこちらへ接近しながら手持ちのライフルを撃ってくる。

 

 偏差射撃を交えた死の火箭を、偏った機体バランスと戦いながら全身のアポジモーターを駆使してどうにか躱していく。

 

 すでにガタガタののはずの敵機(Mk‐Ⅱ)。頭部のビームバルカンも交えた牽制射を行うエアリアルの中で、ティターンズの先兵たるガンダムの動きを見たダイバーの男は驚きに目を見開く。

 

 ――止まらない。

 

 最小限の動きでこちらの銃撃を回避しながら接近してくるMk‐Ⅱのマニューバが、ここへきてさらに磨きがかかっている。それもハッキリと実感できるほどにだ。

 

(恐ろしいヤツだ。天才、ってのはいるもんなんだな……しかし、)

 

『いいかげん鬱陶しい。もう……落ちろ!』

「アンタが落ちなさいよ……!」

 

 ついにクロスレンジに至った両者が、まるで鏡合わせのような動作でそれぞれのバックパックに装備されたビーム・サーベルを引き抜いた。

 

 残った右腕で振り下ろされるMk‐Ⅱのビーム刃を、こちらも左手で抜刀したビーム・サーベルで受け止めるエアリアル。

 

 紫桃色と蒼色の光がぶつかり合い、漆黒の中に鮮やかな閃光の華が咲く。

 

 ――しかし鍔迫り合いとなったのは僅かな時間だった。

 

「こ、の、ポンコツぅ――!!」

 

 純粋な力比べ。この局面において、ガンプラバトルの残酷な一面が美命に牙をむく。

 

 キットそのままの素組みの機体と十全に手を加えられたカスタム機体、両者の間にある性能の差によって紫桃色の光は蒼い光によって弾き飛ばされ、白い死神の携えた蒼い刃がMk‐Ⅱの首へと食い込むと、次の瞬間、頭部を切り飛ばした。

 

「――! メインカメラが――」

 

 頭部を喪失したことで一瞬だけ外の映像が途切れ、それによってさすがの美命も思考操作に刹那のラグが生まれる。

 ただちにサブカメラが起動し、外の映像を映し出した時には――

 

「――チッ!」

 

 ――もう詰んでいた。

 

『……終わりだ』

 

 リチャージを終えて再び本体から分離したガンビットから向けられる七門の銃口。

 咄嗟に射線を読んで逃げ場を探すも、美命の優れたセンスは回避がすでに不可能だと告げていて、思わず盛大な舌打ちをする。

 それと同時に放たれたビームたちがMk‐Ⅱの四肢を焼き切った。達磨にされたMSなど少し上等な棺桶と変わらない。

 

「……クソゲーが」

 

 そんなガンダムのコクピットへと照準を定めるのは白いエアリアル。改修前よりも凛々しくなった頭部のフェイスパーツは、今の美命にはどこか凄みを感じさせる怖さがあった。

 

『グッドゲーム。ガンプラの出来が同じならわからなかったが、これはガンプラバトルだからな――』

 

 美命だけに聞こえた続く相手の言葉を追いかけるように、コクピットを閃光が包み込んだ。

 

 

 

 

 

§

 

 

 

 

 

「ザッケンナコラー!」

 

 ゲームからログアウトするなり美命はキレた。

 

 ここはガンダムベースのログインルーム。言うまでもなく公共の場であり、隣の席には今まさにGBNへとログインするために腰を下ろした少年がいたが、そんなものお構いなしだ。

 

 ヘッドセットをむしり取るようにして取っ払い、怒りのままに目の前に置かれたMk‐Ⅱ(ガンプラ)をひっ掴んで席を立つと、筐体の椅子をつま先で思い切り蹴とばす。

 

「なぁ~にが、『操縦の腕はいいが素組みじゃ話にならない』だっつーの! クソが! クソゲーが! 死ね! 死んで詫びろ! ゲームだったら純粋なプレイヤースキルで勝負させなさいよ!」

 

 サイドアップテールにまとめた金髪を振り乱し、ショートパンツから伸びた長い脚で「げしっげしっ」と幾度も筐体へと蹴りを入れる。VR用のゲームチェアが並ぶ部屋には美命の罵声が木霊し、周囲の人間がなんだなんだと視線を向けるが、あまりの剣幕に誰も注意することができない。

 

 ついに隣の少年が「スタッフの人呼んでこなきゃ……」と腰を浮かせかけたところで、少女はピタリと動きを止めた。

 

「……はぁ~、あ ほ く さ 。二度とやらんわ、こんなクソゲー」

 

 急に正気を取り戻したようにフラットな声になった美命は、そのまま何事も無かったかのようにログインルームを出て行った。

 

 スタッフを呼ぼうとしていた少年の耳に、「なにあれ、怖……」「ヤバ~……」という周囲の呟きが聞こえてくる。幸い誰も美命の蛮行を撮影する者はいなかった。……誰でも野生の狂暴な猿が間近で暴れていれば、呑気に写真や動画を撮ろうとはしない。ログインルームがあまり広くなかったのが幸いした。

 

 そんな事を知る由もない美命は、預けていた手荷物をロッカーから取り出し、受付カウンターでレンタルしていたダイバーギアとガンプラを返却する。そのさいに受付のスタッフから、「ログインルームで大きな声を出すのは控えてください」との注意をされるが、右から左に聞き流してカウンターから逃走した。

 

「ガンプラ、ねぇ」

 

 そのまま帰るのもなんだか癪なので、ガンダムベースに併設されているショップゾーンになんとなく足を運んではみるが……

 

「うげっ……」

 

 通路の棚に山と積まれた商品(ガンプラ)を見て、あからさまに顔をしかめると、そそくさと店を出た。

 

「アセンブルの選択肢が多いのはいいけどさあ……いくらなんでも多すぎ。わっけわかんない。ビギナーに優しくなさすぎ」

 

 空調の効いた店内から一歩外に出ると、蒸し暑い空気が体にまとわりつく。

 

「はぁ……おもちゃの出来栄えで性能が決まるとか意味わかんない。ゲームならゲーム内で完結させなさいよね」

 

 不快な暑さにイライラしつつ、携帯端末を片手に見ながら駅までの道を歩く。

 

「……これ、元は数千円でしょ? ボッタクリじゃない」

 

 端末のブラウザに表示されているのは、カスタムガンプラの販売サイト。

 ふと先ほどの対戦が気になって調べてみれば……出るわ出るわ。美命にはガンプラの良し悪しなどわからないが、とりあえず市場が活発なのは肌で感じた。

 

「ゲーム内課金なら納得できるけどさぁ……」

 

 美命の家は裕福だが、彼女とて()()()()に、それも他人の手の入ったモノに五桁の金額をぽんと出そうとは思えない。

 

「ま、もう二度とログインしないから関係ないけどねー」

 

 ブラウザを閉じて端末をポケットに入れようとしたまさにその時、ぽこん、という気の抜けた音がした。メッセージアプリの着信音だった。

 

「……チッ、誰よ、ウザいわね」

 

 タイミングの悪さに舌打ちをして、しぶしぶ端末を確認する。この着信音はゲームでの傭兵依頼を受け付けているDMを、アプリへ転送してきた時に設定していたものだからだった。

 

「――あァ?」

 

 いつも通りの傭兵依頼のDM。そう思って開いてみれば想定通りのものだったが……対象のゲームが問題だった。

 

「……よりによってこれぇ?」

 

 助っ人依頼のゲームはGBN。今まさに美命がクソゲー認定したタイトルで、あまりの間の悪さに怒りを通り越して呆れの境地に至った。

 

「――ふっ、くくくっ……」

 

 まるで狙っていたかのような出来事に、思わず吹き出してしまう。

 

「いいわ、話くらい聞いてやるわよ」

 

 自分に傭兵を頼んでまでこんなクソゲーを勝ちたいヤツの顔を見てやろう。

 GBNをこき下ろす気まんまんと、怖いもの見たさで美命は依頼を受ける旨を即座に返した。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。