ガンダムビルドダイバーズ Behind the scenes 作:ほぼ読み専
『間もなく、フォース【ロータス】主催によるチャレンジミッション、ロータスチャレンジが開始されます。今回のチャレンジャーはフォース【ゼラニウム】と【ネルガル】のアライアンスです』
GBNのセントラルエリア、その中心にあるロビータワーに電子音声によるアナウンスが流れる。これは非戦闘エリアのみであるが、ほぼ全域のディメンションへ向けて放送されている。
クリエイトミッションは、主催者の申請が通れば、このように公式が開始の知らせを流してくれるのだ。もっとも、都度申請しなければならないため、ロータスチャレンジのようが大がかりのものでなければ、滅多にアナウンスが流れることはないが。
それを聞いた多くのダイバーたちが中継を観戦しようと、手元にホロウィンドウを展開しては興味深そうに待機する。
なにせロータスチャレンジはこれまでクリアした者がいない。チャンピオンですら未だに攻略法を模索している難攻不落の要塞に、今回の挑戦者たちはどう挑むのかと注目が集まるのも自然な事だった。
「……さぁて、あのラビアン・クラブをどう攻略するのか。見せてもらうぜ、レイ」
周りのダイバーに交じって、同じようにホロウィンドウを眺めているタイガーウルフは、どこかワクワクしたように呟く。
女性が少し苦手な彼としても、短期間とはいえ稽古をつけた
「おや、今回の挑戦者たちは知り合いなのかい?」
腕組みをして観戦の態勢に入ったタイガーウルフへ声をかけたのは、狐の耳と尾を持つ褐色の美青年。最近になってダイバールックを公開した、有名ビルダーのシャフリヤールだった。
「まあな。ゼラニウムの二人にはちょっと稽古をつけたんだよ」
「ほう。そうなのかい。それはそれは……」
少しだけ誇らしそうに語るタイガーウルフだったが、
「その二人が脳筋にならなければいいがね」
からかうようにシャフリヤールが続けた言葉で額に青筋を浮かべた。
「んだとテメェ――」
「ふっ、なんだい? やるのか?」
顔を合わせれば喧嘩をする関係の二人である。即座にお互いを睨んで臨戦態勢で向き合った。
「はーい! そ・こ・ま・で。そろそろ始まるんだから、いい子にしなさいな」
しかしそんな二人の首に屈強な腕が回されて強引に引き寄せられる。GBNのお節介お姉さんことマギーだった。
「さぁ、セナちゃん。アナタがどこまで至ったのか。アタシにも見せてちょうだい」
マギーの視線の先には、オーブ連合首長国のマスドライバー【カグヤ】が写し出されていた。
§
――ミッションの開始時間が迫っている。
『各員、準備はいいかい?』
『……はい。大丈夫です』
『おっけー』
『頑張ろうね、アキト』
問いかけるテンカワの声に対して、通信ウィンドウからはそれぞれが返事を返す。少し緊張しているレイ、いつも通りのセナ、こちらを気遣うラピス。皆それぞれやる気に満ち溢れている。
『このチャレンジを成功させれば、ダイバーたちの間に俺たちの名前が、使っているガンプラの話題がのぼるだろう。そうすればナデシコを知るきっかけになってくれる……はずだ』
『そこは言い切ろうよアキト』
テンカワがこのチャレンジに挑む理由、それはひとえに自分の好きな作品の布教のためだった。しかし土壇場になって、成功するかは別として、果たしてこれは効果があるのかという不安が首をもたげてしまう。
『いや……』
『もー。ほら、カウントダウン、はじまるわよ。……大丈夫だから』
ロールプレイを崩してまで励ましてくれる妻の姿に、強張っていた体から過度な緊張が抜けていく。あと一歩を踏み出すのにテンカワが躊躇する時、彼女はいつも励まして応援してくれる。
そんな二人の姿をレイとセナもどこか微笑ましく見守り、そして――
5、4、3、2、1――
『ありがとうラピス――テイクオフ!』
『了解。
カウントゼロと同時に艦後方の巨大なGNドライヴから爆発的な粒子が放出され、船体を勢いよく前方へと押し出す。
格納庫から出てマスドライバーのレールに沿って加速していく宇宙船は特徴的なシルエットをしていた。
槍の穂先のような形状をした船体。後部にはブリッジを内臓していると思しきリング状の主翼のようなものを備えている。
「なんだあの宇宙船。見たことない形だな……」
「あんなのあったっけ?」
その姿を見た多くのダイバーたちは口々に疑問をとなえる。
……無理もない。この
機動戦艦ユーチャリス。
これもまた劇場版ナデシコに登場した宇宙戦艦だった。
劇中では宇宙戦艦でありながらも、ラピス・ラズリによるワンオペで運用されていた特殊な船で、今レイたちが乗っているのはテンカワが二年以上の歳月をかけ、ラピスのために作成した渾身のフルスクラッチモデル。
動力にPGサイズの太陽炉を採用することで、バトルにも耐えうる運用を可能にした文字通りの愛の結晶であった。
マスドライバーから打ち上げられた船体は、そのままさらに速度を上げてGBNの空を駆け上がってゆく――
「おいおい、随分と早ぇな……」
「……なるほど、GBNで供給されているデータシャトルではなく、自作したものを使ったのか。しかし、大したものだよこれは」
ユーチャリスの速度に驚くタイガーウルフだったが、凄腕のビルダーであるシャフリヤールは、すぐさま速さのからくりに気づいた。
「……確かに早いわ。けど、やっぱりシャトルと比べて大きいせいかしら。十分を切れるかギリギリってところね……」
マギーの懸念通り、ユーチャリスが熱圏に到達したのは開始から九分五十五秒。
確かに今までのデータシャトルよりも劇的に早いものの、それでもラビアン・クラブの攻略にはあまり時間をかけられない。
『……ほう、早いではないか』
ラビアン・クラブの付近で待機していたマーメイドガンダムの中、敵影を補足したロータス卿は
「シミュレーション通りの時間ね……じゃあ、手筈通り、まずは私がいくわ――イフリート・ゲヘナ、出ます!」
ユーチャリスの船体後部からレイのイフリート・ゲヘナが出撃する。
『一機のみだと……? まさかそれで我がラビアン・クラブを落とすつもりか? まぁいい――戦闘開始だ! 総員かかれ!』
宇宙戦艦は確かに脅威だが、出てきたガンプラはたったの一体。これはいくらなんでも無謀ではないのか。ロータス卿が訝しみながらも防衛部隊へ迎撃を命じると、待機していたNPD機たちが、雲霞のごとくユーチャリスとイフリート・ゲヘナめがけて押し寄せる。
しかし、レイとラピスに焦る様子はまったくない。
「じゃ、いくわよ――ラピスさん!」
「了解。
ユーチャリスの船体下部。そこに隠されるようにして接続されていた兵器が、自動操縦でイフリート・ゲヘナの背後まで飛翔すると、機体背部へとドッキングする。
「初手から飛ばしていくわよ!」
イフリート・ゲヘナの背後へ接続したのは、ガンダムseedに登場したM.E.T.E.O.R.と呼ばれる大型兵装ユニット。
それも――
「――
動力をMGサイズの太陽炉に置き換えた、レイの特別製カスタムだった。
§
ミーティアユニットとは、MSの背部に合体することで、機動力と火力を大幅に強化するアームドモジュールである。
『味方第一部隊、二十パーセントにまで減少!』
『第一防衛線、突破されます!』
そのコンセプトは以前にレイが挙げたオーキスに近く、それでいてサイズはやや小さく、ユーチャリスにぎりぎり搭載できる大きさになっている。まさに今回のミッションに最適な装備だった。
『バカな! 三十秒とたっていないんだぞ!』
次々に上がる被害報告に、ロータス卿の側近である赤いマーメイドガンダムが慌てたように声を荒げる。
ロータス側の防衛部隊はイカだのカニだの、いずれも海洋生物にガンダムの顔を張り付けたような、なんともふざけた見た目をしているが、これは原作のGガンダムにも登場したマーメイドガンダムの試作機たちである。
確かに操縦はNPD任せではあるが、数というのはそれだけで脅威となる。
しかし――
「おらおらおらおらー! さっさと道を開けろぉーッ!」
縦横無尽。獅子奮迅。
ミーティアを装備したイフリート・ゲヘナは、まさにヤキン・ドゥーエ戦のフリーダムよろしく暴れに暴れていた。
本体側面とアームユニットから放たれる高エネルギー収束火線砲。テールスタビライザーから発射される対艦ミサイル。またアームユニット先端から発振される巨大なビームソードによって防衛網をどんどんと食い破っていき、レイが開けた穴をユーチャリスが悠然と進んでいく。
NPD機の攻撃はGN粒子による重量軽減効果と、トランザムによる圧倒的な速度によって振り切られ、ほとんど効果が見られなかった。
防衛部隊のNPD機たちを、まるで草刈りするかのごとく刈り取る様は、一方的なワンサイドゲーム。
今この戦場においてレイの操るイフリート・ゲヘナは、完璧な王者として君臨していた。
ミーティア自体が百メートル近い巨大なユニットであるが、MGサイズのGNドライヴから生成される粒子量は圧倒的で、装備された数多の火器をフル稼働させても問題なく戦闘ができている。
かつて、セナのガンプラを作るべく用意したMGサイズのGNドライヴ。ダブルオーから拝借したそれを、メインユニット両舷にあったエンジンと置き換えたものが今回レイが使用しているミーティアの正体。しかも、過去の経験――HGサイズのガンプラに無理やり乗せようと試行錯誤したこと――からツインドライヴシステムの搭載にも成功していた。
――このGNドライヴ、かなり気合いれて作りこんでたからね。取っといてよかったわ。
セナがガンダムフレームを気に入ったこともあり、お蔵入りをしていた作品が日の目を見たことが実は嬉しいレイだった。
『ええい、NPD機とはいえこの数を相手になんという――!』
『落ち着け!
『その通り! こちらへ近づけば要塞からの支援砲撃と合わせて包囲殲滅してやれ!』
側近の赤と黒のマーメイドガンダムたちが言いあい、それをロータス卿が諫める間にも、レイたちは防衛網の第二部隊を突破した。ここまでで一分未満である。驚異的な進軍速度だ。
「……そろそろね。セナ、テンカワさん。準備はいい?」
快進撃を続けるレイだったが、ラビアン・クラブからの迎撃が始まるギリギリ手前でわずかに進軍速度を落とす。
「ああ。もちろん」
「待ちくたびれたよ!」
通信ウィンドウから二人の返事を聞いたラピスがコンソールを操作する。
「目標地点に到達。MSコンテナ、分離します」
ユーチャリスの槍の穂先のような船体前方、その上下に挟むように取り付けられた二基のコンテナが接続を解除され、船体から離れていく。
中に格納されているのは、MSコンテナの名の通り、カイムとブラックサレナだ。
「じゃ、いくわよラピスさん――高濃度圧縮粒子、完全解放!」
「グラビティブラスト、チャージ完了。全砲門を開放します」
原作再現のためMSの格納数が一機しかないユーチャリス。そのため、イフリート・ゲヘナ以外の二機はこのようにして運搬するしかなく。今までラピスが攻撃に参加しなかったのは、ガンプラを格納したコンテナのせいで射線が遮られていたからだった。
だが、その枷が外された今、この花の名前を冠した船は、花弁を広げるようにして咲き誇る。
『――敵艦に高エネルギー反応!!』
ロータス卿の耳に要塞からの警告が届いた時にはもう遅かった。
「フルブラスト――ッ!!」
「四連装グラビティブラスト、発射――!」
イフリート・ゲヘナのミーティアから放たれた二つの閃光と、ユーチャリスのGNブラスターから伸びた四本の光が、幾重にも敷かれた防衛部隊のど真ん中に風穴をこじ開ける。
「今よ! アキト!」
「セナ! 任せた!」
二人の声に呼応するように、コンテナが内側から弾けるようにして開いた。
「まっかせて! よっしゃー! いっくぞー!」
「二人ともよくやってくれた――突撃する!」
膨大な数のNPD機の壁に穿たれた小さな穴。すぐに塞がれてしまうそこへ、コンテナから飛び出た二つの機影が飛び込んでいく。
『新たな敵機が出現!』
「いぃーやっほーぅ!」
防衛部隊の放つ弾幕の中を飛翔するガンダム・カイム。その姿は普段のものとは異なっていた。
例えるならリ・ガズィがBWSを装備した形態が近いだろうか。うつ伏せになった機体の前方に機首のようなパーツを備え、背部に接続された追加装甲には、主翼と大型のブースターユニットが装備されている。
今回のミッションに挑むにあたり、レイが作り上げたカイム専用の追加装備だった。
『撃ち落せ!』
『だ、だめです! 速度が速すぎて、NPD機では――!』
「そんな攻撃、あたらないよー!」
人型のMSとは異なる、戦闘機のような形態のガンダム・カイムは、当然ながら操作性も異なっているはず。しかし、セナはまるでそんな事を意に介することなく、自由自在に宇宙を駆けていく。
ピッチやロールを駆使した戦闘機動はとても付け焼刃とは思えないが、それもそのはず、セナの技術はかつてプレイしていた【ネフィリム・ホロウ】で、人型と飛行形態を切り替える機体、【カワセミビルド】を使っていた経験で培われたものだったからだ。
「どいたどいたー!」
機首に備えたビームバルカンが進路上にいたアンコウ型のNPD機を撃破する。BWSを参考にしたこの装備は、機動力の強化だけではなく火力面でも強化されている。
『対空迎撃――!』
しかしロータス側も黙って見ているつもりはない。ラビアン・クラブの射程圏へ入ってきたカイム目掛けて、要塞のいたる所に設置された砲台から迎撃のビームが雨あられと降り注ぐ。巨大要塞から放たれるそれは、数も威力も通常サイズのガンプラが持つ火器とは比べものにならない。
さらに加えて、防衛部隊からのミサイル群のおまけつきだ。
回避する余地を与えない密度の弾幕は、高速で飛行するカイムをあっという間に飲み込んでいく。
『どれだけ速かろうが、この密度の弾幕ならば!』
もはやビームの壁とでもいえる破壊の嵐へ、突っ込む形になったカイムを見た黒いマーメイドガンダムが吠える。撃墜を確信した彼だったが――
『バ、バカな――!?』
装甲表面が多少煤けた程度で、他に目立った損傷のないカイムの姿を見て驚愕する。
「ふっふーん! この
カイムに装備された追加装甲、それはガンダム・グレモリーに使われているナノラミネートコート。ナノラミネートアーマーを上回る、物理攻撃にも高い防御性能を持つ装甲だった。
主に機体前面を中心に装備されたそれらは、ラビアン・クラブからのビームや、ナノラミネートアーマーの弱点である物理攻撃にも高い耐性を持つ。
「テンカワさんが前払いで出してくれたプラグインの中にあったからね。有効に使わせてもらったわ」
ロータスチャレンジの報酬としてレイたちが提案したのはプラグインの譲渡だった。
GBNでのプラグインの重要性に気づいたはいいものの、これまでの彼女たちはあまり熱心に収集してこなかったため、レアなものはあまり持っておらず、そのため古参プレイヤーであるテンカワなら、と思っての条件だった。
『……ふ、よくぞここまで抜けてきた。しかし、このロータスチャレンジは甘くないぞ! 防衛部隊の半分を突出した二機の迎撃にまわせ! ――私も出る!』
ロータス卿のマーメイドガンダムが三又の
すると、ラビアン・クラブに近い位置にいたNPD機の半数が、すぐさま回頭してセナたちを追撃しはじめる。統率された動きは、いかな状況でも冷静に指令を聞き、実行するNPDの強みだ。
「セナ君、後ろの連中はまかせてくれ。ここまでくれば十分だ」
カイムの後方に付き従ってきたブラックサレナからテンカワの通信が聞こえる。
「了解! じゃあわたしはIフィールド発生器を目指すね!」
機首を持ち上げ旋回して上昇していくカイムの影から現れたブラックサレナもまた、レイたちが初めて見た時とは異なっていた。
カイムと同様に追加装備をされ、鳥のような姿をしたブラックサレナは、これまた劇場版に出てきた【高機動ユニット】を装備したものになっている。
背部に機首のようなパーツと、肩部を覆うような巨大なアーマーには大推力のブースターが備えられ、高速飛行するカイムへ追従できていた。
『妙なガンプラだが――ここは通さん!』
真っすぐにラビアン・クラブを目指すブラックサレナへ向けて、はるか遠方からロータス卿が手にした鉾を投げつける。一見すると目立つ特徴のない武器だが、ランク相応に高性能な彼のマーメイドガンダムが放てば恐ろしい射程を持つ一撃必殺の攻撃になる。
「いいや! 押し通らせてもらう!」
テンカワが叫ぶとブラックサレナの周囲にGNフィールドが形成され、ロータス卿の鉾を受け止め、弾き飛ばした。
『……なんと!』
「……最大出力でどうにか、か。流石だ」
驚愕するロータス卿だが、テンカワもまた危機一髪の状況に苦笑いする。セナを先行させたのは、ブラックサレナのGN粒子を温存するため。ナノラミネートアーマーとは異なり、GNフィールドを常時展開しての吶喊は、後のテンカワの継戦能力に不安を抱えることになるからだった。
「だが、ここまで近づけば、もうそれを心配する必要もない!」
テンカワがコンソールを操作すると、ブラックサレナに装備された追加装甲が次々とパージされ、慣性によって背後に流れていく。それは追撃してきた防衛部隊のNPD機に衝突し、多数を巻き込む玉突き事故を起こす。
さらに――
「起爆!」
原作再現のため追加装甲に仕込んでいた爆薬が一斉に爆発し、味方同士で衝突して固まっていた追撃部隊を爆炎が包み込んだ。
『――
「もちろんプランはあるさ。しかし、まずは貴方を落とす! ロータス卿!」
『吠えたな小僧!』
追加装甲を脱ぎ捨てて、本来の姿になったブラックサレナと、黄金の銛を携えた半魚人のような姿のマーメイドガンダムが対峙する。
ラビアン・クラブからの迎撃の砲火が降り注ぐなか、ロータスチャレンジはいよいよ佳境へと突入していく。
残り時間は三分にさしかかろうとしていた――
Tips:【ロータスチャレンジ】
大規模フォースを率いるロータスが主催する超高難易度のクリエイトミッション。
この時はまだ機雷群が設置されておらず、純粋にNPD機と要塞ラビアン・クラブの攻略がメインだった。