ガンダムビルドダイバーズ Behind the scenes 作:ほぼ読み専
「おい、アレ、見てみろよ」
「……あん? なんだ、ありゃ……まるで
エントランスロビーに設置された大型モニター。現在GBN内で行われているバトルやミッションをランダムに中継するその前に、たまたま通りかかった二人のダイバーが思わず足を止めて見入る。
モニターの一つに映し出されているのは、中堅ランクの稼ぎミッションとしてダイバーたちには有名な「折れた翼」。それに
見たところ目立つ改造をされた様子のないスサノオと、射撃主体に改造されたイフリート改のカスタム機のコンビが、入れ替わり立ち代わり見事な連携で互いの死角をカバーしながら、まるで吸引力の変わらない掃除機がごとく、壁のように迫るNPD機の群れの中を突き進んでいく。
「マジかよ。あのミッション、四人以上でマトモに
「二機ともスゲーいい動き。あれだけ囲まれてて一発も貰ってないどころか、NPD同士の射線合わせてFFさせてるぜ?」
「うわっ、マジだ。NPDってFF回避を優先するはずなのに、いくら案山子みたいつっても相当ギリで避けないとできねーだろ。無改造っぽいスサノオでよくやるわ」
「イフ改のほうはビームマシンガンみてーなの二丁持ちで乱戦してるのに、全くFFしねぇのな。どーいう頭してりゃあんな動きできんだ?」
ミッションの残り時間が五分を切ったのか、画面の中で戦う二機の近くに、ついにアグリッサ装備のイナクトカスタムが飛来してくる。
『ハッハーッ! 見つけたぜぇ! ガァンダムゥ!』
下半身に接続したMAアグリッサが脚部を展開して砂塵を巻き上げ着地する。アンバランスなアラクネのような姿となったイナクトカスタムから、
見上げるほどに巨大なMA相手にも、全く怯まず果敢に斬りかかるスサノオ。それにEXAMを発動して雑魚を一手に引き受けたイフリート改が僚機を援護する。
「おっ、イフ改がEXAM使ったぞ。てか性能エグいな! 完成度高ぇー……」
「おお! スサノオもイナクトの左腕斬り飛ばした! こりゃ決まるか!?」
ディフェンスロッドを装備していたイナクトカスタムの左腕を、スサノオが
「あっ」
「あっ……」
イナクトカスタムが上から叩きつけたソニックブレイドによって、シラヌイの刀身が真っ二つに砕かれて宙を舞った。
§
「セナッ!」
レイが咄嗟に相棒へ声をかける。
雑魚とはいえ無数の敵機を相手に乱戦していたために、パチ組みの完成度では長時間の戦闘には耐えられず、強度が限界にきていたのだろう。
『もらったぜぇ!』
サーシェスの声とともに、振り下ろされたソニックブレイドの切っ先が跳ね上がり、逆袈裟の軌道を描いてセナのスサノオに迫る。
「──っとぉ!」
だが、この程度のアクシデントでやられるほど、セナは可愛げのあるゲーマーではない。
突き出したシラヌイを上から叩き落され、一瞬姿勢を崩したかに見えたが、セナはその力の流れを利用して、機体を前方宙返りの要領で一回転。
「おりゃあ!」
まるで格闘ゲームのような動きで繰り出された浴びせ蹴り。ハンマーのように振り下ろされたスサノオの踵が、振り上げられたソニックブレイドの銃身部分を強打して斬撃の軌道を逸らし、
『なんだとぉ!?』
蹴りの反動を利用して高く跳躍するスサノオ。
「セナ、これを!」
そこにレイのイフリート・アサルトが、腰に懸架していたヒートソードを投擲すると、迷いなくシラヌイを手放したスサノオが、回転しながら飛んできた剣の柄を見事にキャッチ。
『てめっ──うおっ!?』
追撃しようとしたアグリッサだったが、そこへレイが放ったスモークグレネードが着弾。ミノフスキー粒子を含んだ煙幕が
他の機体が持つ武装を使うには、ほんの僅かだがアジャストに時間がかかる。そのための時間を、レイの援護は見事に作り出した。
そして──
「ちぇすとぉー!」
白煙を切り裂き飛び出すのは紅蓮を纏う武士。トランザムを発動させたセナのスサノオが急襲をかける。
左にはマグマのような
二振りの異なる輝きを放つ刃の軌跡が、アグリッサから露出しているイナクトの上半身を×の字に走り、中の戦争屋ごと四分割。
「わっ、わわ、わーッ!」
しかしパチ組みのスサノオでトランザムを発動させた反動は大きく、両腰に接続された
機体の制御が利かなくなったセナはイナクトの爆発に煽られ、空中へと投げ出されてしまう。
動力も推進装置も喪失した今のスサノオに機体を立て直す術はなく。
このままでは地面に叩きつけられる──墜落の衝撃に備えてセナが身構えたその時、
「──まったく。だから言ったでしょ?
飛来した二本のワイヤーが上半身だけになったスサノオを絡めとる。スラスターを全開にさせて空中へ飛び出したイフリート・アサルトが、スクリュー・ウェッブでセナの機体を引き寄せたのだ。
「あはは……ごめん。つい」
ワイヤーを巻き戻したイフリート・アサルトに、抱き留められる形でキャッチされるスサノオ。コックピットの中ではミッションの開始前にレイが注意していた事を思い出したセナが、ごめんごめんとモニターに映る相棒へ両手を合わせて謝る。
そんなセナの姿を困ったように見るレイが、機体を着地させたその時、
【Mission Success!】
コンソールから電子音声が祝福の言葉を告げると、やがてゆっくりと二体のガンプラは、テクスチャに変換され解けていった。
§
「うーん。やっぱりパチ組みだと長時間のミッションは辛いね。二人でミッションちまちまやってたら、セナがDランクに上がったから受けてみたけど。長丁場のミッションだと機体が持たないのは盲点だった……」
アイスカフェラテを一口飲んでから、レイが唸るように言った。
「でもでも、レイのガンプラ、同じパチ組みなのに、
ショッキングピンクの液体の中に、金色の小さな粒が星空のように瞬くという謎のジュースを前に、セナは困り顔の相棒へ嬉しそうに応える。
「……ん。まあ、セナが借りてたガンダムは、多分ニッパーだけで組み立てたヤツだからね。私が持ってきたのは、ゲート跡もそれなりにしっかり処理してるから……」
ここはGBNエントランスロビーにあるフードコートの店内。ミッションを終えた二人は、先ほどのミッション「折れた翼」での疲れを癒すため、しばしの休憩をしていた。
「ちょっとの違いでも、結構変わるんだねえ」
炭酸入りなのか不気味に泡まで立てる液体を、なんの躊躇もなくゴクゴク飲んでみせるセナ。そんな友人の姿にちょっと驚きつつも、レイは手元にホロウィンドウを呼び出すと、スクリーンに指を這わせてスワイプしながらつらつらと眺める。
「今、私たちが受けられる中だと、
「たまにならいいけど、雑草刈り取るみたいな無双系は、飽きるのも早いからねー」
ちなみにだが「折れた翼」は無双系ミッションには分類されない。基本的に自身の生存を最優先とし、その傍らでいかに多くの敵機を撃墜するかという、サバイバルミッションである。
「正直なとこ、Cランクくらいまでなら、ヴァルガでバトるのが一番効率いいんだけど、まだセナの機体が出来てないから……」
「だねぇ。ヴァルガのログイン天誅、病院でガンダムを使ってた時にも、わりと頻繁に避けきれなくてやられてたからねー」
ディメンション全体が常時無制限のフリーバトル状態に設定されているヴァルガでは、転移ゲート付近に居座るモヒカンたちが他のダイバーがエリアインした際に、無敵判定が消えた瞬間を狙っての集中砲火が挨拶代わりに行われている。
セナが「ログイン天誅」と呼んでいるこれは、いわゆる「リスポーンキル」と呼ばれる行為に近いものだった。
「いや、ヴァルガでパチ組み使って、三分の壁を超えてるセナがおかしいんだからね?」
ちなみにこの無敵時間が切れてからの三分間は、最も攻撃が集中する時間として「三分の壁」とも呼ばれ、ヴァルガで生き延びる実力を持つかどうかの目安にもされていた。
「はぁ……それにしても、今までは気にもしなかったけど、いざダイバーポイントを集めようとすると、こんなに貯まらないものだったとは……」
──ダイバーポイント。
GBN内でダイバーに付与されるポイントで、主にミッションやイベントをクリアしたり、PvPに勝利することで獲得できる。これが規定の値まで届くごとにダイバーはランクアップしていく。
また、保有しているポイントはゲーム内で提供される様々なものの交換に、
ダイバーランクを上げることで解禁されるエリアやミッションもあるため、「対人戦ばかりじゃなくて、GBNをもっと楽しもう」と標榜している自称エンジョイ勢のレイとセナにとって、ダイバーポイントの獲得は最優先すべき事だった。
──PvPで勝利すればポイントが入るのならば、対人戦の権化みたいなヴァルガの住民たるレイとセナの二人が、どうしてポイントをあまり獲得していないのか。
それは主にGBNの仕様と、まさに二人がヴァルガ民であることが原因であった。
セナの場合は病院にいた時に使っていたのが仮登録IDで、これには様々な制約が課されている。特にランクに関してはEまでに制限され、仮登録のままだとどれだけポイントを貯めようがそれ以上にランクアップすることはない。
仮登録のIDを正規のアカウントにコンバートすればポイントも引き継がれるのだが、パチ組みのガンプラを使ってヴァルガに潜っていたセナは撃墜されることも多く、たびたびポイントを全損していたため貯蓄はほぼ無いに等しかった。
初めてレイとヴァルガで出会った時は偶然ツキに恵まれていただけで、当時のセナは三分の壁を超えるのにもかなり運頼りな部分が大きかったのだ。
ではレイの場合はというと、ランクアップに必要なポイントが多い事が主な原因で、彼女の言うようにCランクまでなら、ヴァルガで三分の壁を越えられる力があるダイバーであればそこそこ簡単に到達することができる。
それこそ、なかば惰性でヴァルガに潜っていたレイですら、現在Cランクまで到達しているのがその証拠になる。
ランクアップ処理そのものは、ダイバーがランクアップに必要なポイントを満たした瞬間、システムによって必要分のポイントを自動的に消費されてランクが上がる。
この処理はバトル中でも行われるため、通常ミッションではクリアするまで獲得ポイントが反映されないところを、ヴァルガでは誰かを落とせば即座に得られる事と相まって、「腕に自信があるなら」という前提がつくものの、Cランクまでならヴァルガに潜るのがランクアップの最短ルートと言われる理由となっている。
だが、これがBランク以上となると話も変わってくる。
CからBに上がるには、FからCに至るまでの合計よりもなお多くのポイントが要求される。これは、運営側が「Cランクがダイバーとして一人前」という扱いでゲームを設計しているためだ。
それ以上を求めるとなれば要求されるハードルが上がるのは当然である。
レイのランクが示すように、一度のヴァルガ行きでBランクになるまでのポイントを溜めることは難しく、またヴァルガにおいて撃墜された場合は保有ポイントが全損する仕様上、そこでポイントを溜めるには、生きてあの地獄から脱出できなければならない。
そして、「ディメンション全体が常時フリーバトル状態」という仕様のヴァルガでは、他の場所のようにコンソールからの転移を行うことができないため、内部に設置された転移可能ポイントまでたどり着かなくてはならない。
当然ながらそのポイントは住民たちに知られているわけで、そこにもまた待ち伏せをしているモヒカンがたむろしている。これを潜り抜けてポイントをため込んだまま、複数回に渡ってヴァルガから生還する、というのは分の悪いギャンブルのようなものだった。
「セナの個人ランクもDになったし、フォース結成してバトランダム・ミッションやるのもいいんだけど……」
バトランダム・ミッションとは、GBNにおけるフォース──他のMMOで言えばクランに該当するチーム──を対象としたイベントバトルの一種で、フォース同士の対戦イベントであり、勝利したさいに獲得できる
フォースを結成するための条件として「参加メンバーの全員の個人ランクがD以上」とあるが、セナがDランクとなった今、二人でフォースを結成する事は可能なのだが──
「これ、月一でしか開催されないイベントで、今月のは昨日だったんだよねぇ……」
虚ろな瞳で手元のウィンドウを眺めながら、レイがズズーとカフェラテを啜る。なんだか疲れた様子の相棒に少しでも協力しようと、セナも自身の手元にホロウィンドウを展開して情報の検索を始めた。
「お? ねぇレイ、こんなの見つけたんだけど、どうかな?」
「どれどれ? んー、『シャッフル・チームバトル』?」
セナが見つけたそれは、つい最近になって実装されたチームバトルの一種だった。受注したダイバーたちの中からランダム抽選によって選出された五人がひとつのチームを組み、同様に編成された相手チームと対戦するという内容で、フォースに所属していないソロプレイヤーや、フォースを組めないランクの駆け出し向けに、気軽にチーム戦を体験できる事を売りとしている。
「……ん、よさげな感じ……あー、ダメだわ」
シャッフル・チームバトルの概要を読んでいたレイだったが、突然ガックリと項垂れた。
「このミッション、チーム振り分けが完全ランダムで、狙った相手とチーム組めないみたい」
「あ、それはヤだ。レイとチーム組めないなら、やりたくないなー」
はー……と向かい合って溜息をついた二人は、どちらからともなくメニュー表を手に取る。
「私、抹茶アイスにするけどセナは?」
「わたしメガバーガーにするー」
飲食物を注文してからまったく待たされることがないのは、電脳仮想世界が現実に勝っているところと言える。腹は膨れないが、GBNはフルダイブVRの中でもそれなりに味覚の再現に成功しているため、最近は他企業とのコラボによって、様々なメニューが追加されている。
「セナはいろんなVRゲーやってきてるんだよね? なんかいい感じの方法とか知らない?」
「ごめん。わたしってあんまり作業ゲー好きじゃないから、ほとんど対人系しか経験が……」
外見に似合わぬちまちました動作で、スプーンを動かしながらレイが訊ねるも、対面のセナは顔ほどもある大きさのハンバーガーを前にして、しょんぼりとした顔をする。
「……や、私のほうこそごめん。GBNしか知らない私のほうが、もっと詳しくなくちゃなんないんだから……」
片やちまちまと、片や豪快にかぶりつき、しばらく沈黙が続く。
「……んで、まぁ、トリアーエズ……じゃなくてとりあえず」
「……うん」
「私たちが二人とも作業系が嫌いで、NPD相手にするミッションも、あんまり長いのはセナのガンプラが持たない」
「あと、すっごい飽きる」
「ヴァルガに関しては、セナはガンプラの問題で、私の場合はほとんど負け確定のギャンブルになるから却下。となれば……」
小さなアイスを先に食べ終わったレイが、どこか諦念を滲ませた苦笑いでセナを見つめる。
「フォース結成して、地道にフォースバトルしてこっか……」
「それしかないねー……」
二人が受注できるミッションは、現在Cランクであるレイと同じランクのものまでで、それではいまいち物足りない。
対人戦が好きな二人としては、NPDを相手にするよりも、やはり生身の人間相手のほうがモチベーションが上がるわけで。
結局たどり着いたのは、至極無難な回答だった。
Tips
・シャッフル・チームバトル
後に「シャフランダム・ロワイヤル」へとアップデートされる、ランダム編成によるチーム戦形式のミッション。
この時はまだチームを組んでの参加申請もすることができず、味方のメンツは完全なるランダム抽選で、闇鍋具合がより極まって混沌としていた。
「シャフランダム・ロワイヤル」は守次 奏様の作品「ガンダムビルドダイバーズ アナザーテイルズ」からお借りしております。