TS転生系Vtuber、時々ダークヒーロー【第一部完結】 作:ムーンフォックス
ん?ああ
おそろしく早いチラシの裏から「特殊タグ練習」って検索して有志の方がある程度のテンプレを作ってくれていてそれを使ってお手軽に自分の好きな画面を再現──俺でなきゃ見逃しちゃうね
しじみさんの話を纏めると、こうだ。
彼女は少し前にとある企業からスカウトされた。現代でVtuberを雇い、運営する企業というのはもはや珍しいものでは無い。
しかもその企業は有名な所らしく、少なくともその会社に入れば今よりは登録者、同接共に上がれるのが見込めるということだった。
だが企業に所属するVtuberも良い所ばかりではない。例えば収入の何割かは企業が持っていったりするし──何より、今のアバターを捨てなければいけない。
もし彼女が企業に所属するのならば、必然的に淡水しじみという存在は引退をしなければいけない。そういう契約なのだ。
だから彼女は今迷っていた──俺とのコラボ配信までは、だ。
だが俺の言葉が引き金になったのか、それとも他の要因で腹を決めたのか──とにかく彼女は今決めたのだ。
淡水しじみを引退し、新たな新天地へ旅立つという事実に。
……長すぎてなに言ってるかよくわからない?
今日は、しじみさんが置かれてる状況について、知っておこう。
企業は魅力的だね! じゃ!
終わりだと思った? 残念! 終わりじゃありませんでした!
何はともあれ、苦悩した末に選んだというのならば、俺としては引き留めることはできない。彼女もまた彼女の、新たな道を切り開こうとしているのだろう。
近い内にそういった諸々の事情を伏せた上での引退配信を行うらしい。淡水しじみとしての彼女と話せる時間は残り少ない。
引退──しじみさんの言葉が、改めて重くのしかかった。
……べっ別に話相手がいなくなって寂しいなんて思ってないんだからね!
「これって情報漏洩よな……久しぶりにやらかしたわ……」
マンションの一室に中に更に設置された様々なモニター蔓延る防音室で、とある配信者はそう独りごちた。
だがやがて思い出したかのようにスマホを起動し、手慣れた動作でマックスを開く。
調べるワードは常に変わることが無い──『淡水しじみ』、それが彼女の配信する際のユーザー名である。
出てきたポストの一つ一つに丁寧にいいねボタンを押していく。このように反応すれば視聴者は『淡水しじみ』という単語をポストに含めることで、彼女が反応を返してくれると気づき、さらに発信してくれるからだ。
そのポストの三割ほどが、いつもは見かけないアカウントが発してるものだと気付く。プロフィール欄に飛んでみればやはり、果喪鳴をフォローしているリスナーだった。
コラボの成果は十分に出ている。登録者も増えた。良いことだ。
ここ最近の果喪鳴の成長は凄まじい。理由はやはり、いついかなる時でも視聴者を引き寄せるそのカリスマ性だろう。初めてコラボした時は4桁にすら到達しなかった筈の登録者が、今や二倍以上の差がついている。
だがそれは埋もれていた原石が発掘されただけ、それを発掘したのは自分、良いことだ。
よーいドンで互いに配信を開始すれば、同時接続数で勝るのは果喪鳴だ。それは己が視聴者に面白さを提供できず、満足させれなかった結果なのだ。視聴者に退屈でつまらない時間を提供するくらいならば、いっそ自分は配信をせず視聴者を果喪鳴に集中させてあげるべきなのだ。そうすれば視聴者は退屈することは無い。良いことだ。
そう、これは良いことなのだ。
良いこと、であるというのに。
「……ムカつく」
嫉妬してしまう。
醜い嫉妬というのはわかっている。そんな醜い思考になる自身のことを思うだけで、自分が嫌いになってしまう。
ドココの画面を開き果喪鳴とのメッセージを見る。裏表など存在しない純然たる思いの文面の数々。これを見せられて一体どこで彼女の人格や性格を恨めようか、いや恨める筈も無い。
どうして自分はこんななのだろうか、数字にばかり目が眩み、本当に重要視すべき仲間には、いつも一方的な憎悪を向けてしまう。
そんなんだから今の自分はこうなっている。かつての会社の上司のいつもの愚痴に怒りをふと抑えられなくなり、後先も考えること無くぶん殴り、逃げ出し、その先で手に入れた貴重な仲間にさえこうして牙を向けている。
どうして自分はこんな風に生まれてしまったのか。こんな風に他者に嫉妬するしかできないというのならば──
「力、欲しい?」
「……誰やねん、警察呼ぶぞコラ」
「うん、それは困っちゃうかな」
背後からそんな声が聞こえた。疲れが最近溜まってた、きっとそれに起因する幻覚と幻聴だろう。振り返って声の主を見た。幻覚では無かった。誰かがベッドに腰掛けていた。
見慣れぬ姿だった。体表は人のような色をしておらず、喋る言語はどこまでも人で、体躯は子供のようで、しかしこんな芸当は大人であろうとできる筈も無く。それはもはや、人の形をした化物としか言いようがなかった。
「うん、自己紹介からかな? 僕の名前はセラスト──いやこういうのってコトを済ませた後の方が色々と良いよね?」
次の瞬間には
抵抗……無意味だろう。何より、生きようとする気力が湧かなかった。
「ゴメンね、ヴァントガゼルをおびき寄せるために、君の交友関係が少し必要なんだ」
「…………」
遠のく意識、思い浮かぶこれまでの26年間の人生。走馬灯であろうか。どこまでもムカつく人生だった。
ムカつく両親、ムカつく友達、ムカつく先輩、ムカつく教師、ムカつく就職、ムカつく面接官、ムカつく同僚、ムカつく上司、ムカつく暴力、ムカつく退職、ムカつく再就職、ムカつく視聴者、ムカつくコラボ相手。
そして何よりもムカつくのは自分自身。
生きにくい性格をしてたから、こうして誰にも心配されることなく一人で死にかけている。
どこまでもムカつく人生だった。それだけだ。この気持ちを晴らす方法なんてものはどこにも無く、それを解消する方法などはどこにも無く──
「ぁ……っだ、な」
諦めて命を終わろうとした時に走馬灯が写す、言霊。ムカつくコラボ相手が発した言葉だった。だが
「はぃ、しん……せぇな……」
何故だろうか、
今はとにかく、配信がしたい。
そうだ。配信すれば、嫌なことムカつくこと一切を忘れられた。なんでそれを忘れたのだろう。
ムカついてムカついて、それ以上に配信がしたくて。
死が怖い、死が恐ろしい。
配信がしたい。
───死にたくない。
朦朧とする意識の中で手に持つそれを操作する。
最後に開いていた画面はこれで、操作できるのがこれが精一杯、あとはただ、送信ボタンを押すだけ。
「うん? ……ああ、そういうことね」
だけだというのに、その希望が眼前の敵に取り上げられた。無機質な表情で画面を見つめ──やがて首元の力が緩められた。
「賭けてみる? これで本当に彼女が来てくれるのか」
「ぁか、ぅえっ! く、来る…!?」
「うん? 知らなかったの? こいつがヴァントガゼルの正体──はい送信」
「カモメちゃんが……?」
助けての4文字が果喪鳴へと届く、既読の機能が無いため届いてるかは判然としない。
ヴァントガゼルの正体についての困惑は隠せないが、それは死を前にすれば些末な問題であろう。
1秒と2秒が過ぎて、1分が恐らく経過した。
反応は、返ってこない。
「うん、反応無し」
スマホが粉々に破壊された。首に力が集中し始める。
「無駄な苦労、ご苦労さん」
ああ、自分は無様に嘲笑られ死ぬ。
本当の想いに気づいたと言うのに。
無常な現実を切り拓いてくれるヒーローなんているわけなかったのだ。
現実を受け止めて目を瞑る。
黒い閃光の後、窓ガラスが割れた。割れたガラスで光が乱反射を繰り返す中で、彼女を掴んでいたセラストの腕が一瞬にして切断されていた。
「……カモメ、ちゃん」
思わずその名を呟く。
無常な現実を切り拓いてくれるダークヒーローの名前を。
「何やってんだてめえッ!!」
『怪人28号』
DARK-HERO
「なんで来れるかなぁ……ヴァントガゼル!!」
ヴァントガゼルがセラストの四肢を断ったのは、それから数秒も経たなかった時だ。
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今回使用した特殊タグであるYoutubeチャット欄、RTA画面及び知っておこうは自作のものとなります。
ここから自由に使用することが可能です。他にも様々な特殊タグを作成していますので、興味があれば積極的に使っていだけると嬉しいです。
また本文中のようつべの特殊タグ、ハーメルンの特殊タグ及びXの検索画面の特殊タグはアネモネ様の「特殊タグ詰め合わせ」を参考にさせていただきました。
アネモネ様にこの場を借りてお礼申し上げます。本当にありがとうございます。
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