二千年前のゲームと、ネクロン姉妹の夜更かしのお話。
※魔王学院の不適合者の、根幹に関わる重大なネタバレがあります! 魔王学院原作9章を読み終えていない人はブラウザバック!


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※魔王学院の不適合者の、根幹に関わる重大なネタバレがあります! 魔王学院原作9章を読み終えていない人はブラウザバック!

※本作はピクシブと二重投稿しています。


【魔王学院9章】夜更かしと朝寝坊

 二千年前、神話の時代──。

 遥かなる空に浮かぶ≪破滅の太陽≫に、暴虐の魔王、アノス・ヴォルディゴードは、何度目かの訪問を果たしていた。

 1回目は大量の犠牲者を出し、魔王アノスですら絶大な消耗と引き換えに辿り着いた場所であった。

 しかし、今は違う。≪因縁契機魔力強奪≫により破滅の魔力を奪われ、魔王とのゲームによって≪終滅の神眼≫を奪われた破壊神アベルニユーと≪破滅の太陽≫には、以前ほどの危険性はない。影の状態を保っており、犠牲者を出さずに踏破することが出来る。但しアノス・ヴォルディゴードが征く場合に限るが。

 並みの魔族なら数百回滅んで釣りが来る破壊の闇の中をアノスは歩いて進み、その最奥にて膝を抱えて浮かぶ金髪の少女に声をかける。

 

「よう、破壊神アベルニユー。また来てやったぞ」

 

 すると、ふわふわと浮かんでいた破壊神アベルニユーは、闇の大地に足を下ろした。

 そして不機嫌そうな表情をする。

 

「……まず最初に言うことがあるんじゃないの?」

「ふむ。お前の機嫌が悪いことと関係あるのか?」

 

 むすっと、アベルニユーは頬を膨らませる。

 

「今回はちょっと遅かったじゃない」

「あぁ。それはすまぬ。ディルヘイドでの所用に少々時間がかかった。お前が待ちくたびれていると知っていれば、もっと急いだのだが」

 

 プイッと、アベルニユーはアノスに背を向けた。

 

「待ってなんかいないんだもんっ。神族に比べてだらしないから、呆れてるだけだもんっ」

「神族に比べてだらしない? あぁ」

 

 アベルニユーの言葉から、アノスは神族の規則性について思い当たった。

 

「そういえば≪創造の月≫も≪破滅の太陽≫も、一定の法則で現れ、一定の法則で消え

るな。他の神族にしてもそうだ。出現や権能の発動には、一定の法則がある」

 

 一定の法則とはいっても、天文学的な計算に基づく法則性だ。アノス程の頭脳の持ち主でなければ、深淵を覗くことは出来ない。また、アノス・ヴォルディゴードやシン・レグリアほどの強者から攻撃や妨害を受けると、それに対応する為に、法則が変わったり法則に無い行動を取ったりすることもある。ある意味では、破壊神アベルニユーが≪破滅の太陽≫の権能を振るわなくなったことも、その一例だろう。

 

「魔王様は、夜更かしをしたことはあるかしら?」

 

 アベルニユーが問う。

 

「あるな。夜に呼んだ旅芸人の歌が余りに愉快だったものでな。アンコールを要求し、ついつい予定より寝るのが遅くなってしまった──ということがある」

「朝寝坊をしたことは?」

 

 アノスが答える。

 

「寝起きは良い方ではあるがな。寝られる日は寝たいだけ寝て、起きる気になってから起きる。何せ争いと滅びが絶えぬ世界だ。寝られる日、寝たい日に寝ておかねば、身体が持たぬ」

「私はね、どっちもしたことないの。したくてもできないの」

 

 アベルニユーが掌の上に、灰色の粒子で球体を作る。

 

「満月って、どんな風に地上を照らすのかしら?」

 

 灰色の粒子が四散し、宙に浮かぶ。

 

「星は夜空に、どんな模様を描くのかしら?」

 

 灰色の粒子がまた集まり、男女1組の人影を作る。

 

「朝寝坊をしたら、その分長くて良い夢が見られるのかしら?」

 

 だが、その人影はボロボロと崩れ去った。

 

「私はどれも知らないわ。魔族や人間の体内を血液が回るように、私の神体の中では、秩序が回っている。私の中を回る秩序は、私を規則正しく起こして、規則正しく眠らせるわ」

「夜更かしと朝寝坊がしてみたいか? アベルニユー」

 

 アノスが問う。そして可能性を示した。

 

「満月の夜の下を歩くのは″まだ″難しいだろうが、その心地よい涼しさぐらいは味わえるかもしれぬ。≪終滅の神眼≫より制御が容易い≪破滅の魔眼≫なら、星空をその眼に映すことが出来るかもしれぬ。お前が望むなら──」

 

 アノスの掌の上に、紫の粒子が舞う。それが、抱き締め合う男女の影を創った。

 

「長い長い、恋の夢も、見られるかもしれぬ」

「でも……。どうやって……?」

 

 期待に満ちた丸い眼で、アベルニユーはアノスを見つめた。

 

「またゲームをしよう、アベルニユー。方法はお前が決めるが良い。俺が勝てば、お前の右手と左手の所有権をもらう」

「いっぺんに両手を奪おうとするなんて、魔王様は強欲ね」

「何をほざく。昔からよく言うだろう。『二兎を追う者は、三兎を得る』」

 

 クスクスと、アベルニユーが笑った。

 

「計算がおかしいわ。残り一兎はどこから持ってきたのかしら……?」

「二兎を追う者はそれだけ視野が広くなり、ちらりと残り一兎を見つけるものだ」

「私は全てを滅ぼす破壊神。残り一兎を見つけても滅ぼしてしまうだけ。だから『二兎を追う者は一兎も得ず』よ」

「ならば俺は『二兎を追う者は一兎も得ず』という理不尽を滅ぼしてやる。さあ、ゲームの内容を言うがいい」

 

 するとアベルニユーは、両手の甲を差し出した。

 

「私の両手の甲に、同時に口づけをしてちょうだい。0.1秒、0.01秒、0.00001秒でも誤差があれば、貴方の負けよ」

「ふむ……」

 

 アノスが唸った。

 

「強欲で、矛盾していて、手に負えないかしら?」

「いやなに。簡単過ぎてな。数多の方法の中から、どれを用いるか迷ってしまった。だがそれも決まった」

 

 アノスは自分の体に魔法陣を幾重にも描き、積層した。

 

「≪波身蓋然顕現(ヴェネジアラ)≫」

 

 アノスの身体が一瞬ブレたかと思うと、3つに分かれた。そして三人の≪可能性のアノス・ヴォルディゴード≫が同時に、0.00001秒の誤差もなく、アベルニユーに口づけをする。一人は右手に、一人は左手に、もう一人は彼女の唇に。

 

「これが『二兎を追う者は三兎を得る』だ」

 

 かぁっと、アベルニユーの頬が朱に染まる。

 

「……魔王様は、本当に強欲だわ……。でも、私の唇を、欲しいと思ってくれたの……?」

「お前のその顔を、もう一度見られるならな」

 

 はっ、とアノスの目線に気づいて、アベルニユーは背を向けた。

 

「見てるんじゃないわよっ……馬鹿っ……」

 

 アノスはその背中に言う。

 

「そのままでいいから聞くがいい、アベルニユー。ゲームは俺の勝ちだ。お前の両手の所有権は、俺がもらう。俺の所有権を宿したその右手は、お前を襲う秩序の睡魔を滅ぼす。そして俺の所有権を宿したその左手は、お前の夢を壊す秩序の目覚ましの歯車を、止める。いくらでも、とはいかぬだろうが、夜更かしと朝寝坊を、楽しんでみるといい」

「……ねぇ、魔王様。私も三兎を得たわ」

 

 突然機嫌が直ったらしいアベルニユーは、振り返ってフフッと笑った。

 

「聞きたい?」

「言ってみよ」

「私は夜更かしと、朝寝坊と、魔王様の″手″を得たわ」

 

 愛おしそうに、アベルニユーは自分の手を自分の頬に這わせた。

 

「元は自分の手だろうに」

「所有権が魔王様にあるんだから、これは魔王様の手だわ」

「なるほど、そうに違いあるまい」

 

 破壊神と暴虐の魔王が、互いに笑顔を浮かべる。

 

──その日から、無害な影の≪破滅の太陽≫が、暁の空に上るのが遅くなったという──。

 

 

 

──※──

 

 

 

──それは、魔法の時代の星空の下。

 

「サーシャ」

 

 そう声をかけてサーシャの寝室に入ってきたのは、妹のミーシャである。

 

「そろそろ寝た方がいいと思う」

「あともうちょっとだけ。今日の星空は格別よ?」

 

 まだ寝ずに窓から夜空を見上げていたサーシャは、そう言ってミーシャを誘う。

 トコトコと歩いてきたミーシャは、サーシャの隣からちょこんと顔を覗かせ、姉と同じように夜空を見上げた。

 確かに、雲ひとつ無く空気が澄んだ、良い星空である。

 

「確かに、今日の星空は綺麗」

「でしょー?」

 

 但し、ミーシャは星空の配置を全て覚えてしまっている為、サーシャほどの感動は覚えていない。

 

「でもサーシャ。夜更かしも程々にしないと、また朝寝坊する」

「うー……」

 

 そんなミーシャだから、この部屋に来た本題は忘れていない。

 

「朝って、あれもやらなきゃ、これもやらなきゃで、せわしないじゃない? アレがどうも苦手なのよね……」

「早起きすれば、その分ゆっくりやっても間に合う」

「それは分かるんだけど、やらなきゃいけないことの為に早起きするっていうのが、なーんか抵抗あるのよね……」

「……。」

 

 それはもしかしたら駄目魔族の発想かもしれない、とミーシャは思ったが、それは言わないでおいた。

 そしてその分、自分が早起きして、自分がしっかりしなければとミーシャは考えた。本当によく出来た妹である。

 

「早起きするぐらいなら、徹夜するわ」

「サーシャは夜が好き」

「えぇ、好きよ。夜は良いわよー。静かで、涼しくて、月明かりと星の光で程よく暗くて。寝たら寝たで良い夢が見られて。ミーシャも試しに夜更かししたらいいんだわ」

「私は朝の方が好き。真夜中は苦手」

「そ、そう……」

 

 サーシャがちょっぴり残念そうな顔をするのを、ミーシャの魔眼は見逃さなかった。

 

「でも、今日みたいな夜空で、明日に予定がなかったら。夜更かしするのもいいかもしれない」

 

 ぱあっと、サーシャの顔が明るくなった。

 

「その内、その内よ? 約束だからね!」

「でも、途中で寝るかもしれない。今もちょっと眠い」

 

 ミーシャは眼をゴシゴシする。

 

「ふふん。睡魔なんて私が右手で滅ぼしてやるわ。そしてミーシャが良い夢を見てるのに無理矢理起こそうとする奴がいたら、私が左手で止めてやるわ」

 

 得意気なサーシャを見て、ミーシャがフフッと笑う。

 

「サーシャは頼もしい」

「当たり前よ。 私は貴方のお姉ちゃんなんだから!」

 

 その夜。仲の良い姉妹の夜更かしは、もう少しだけ続いたという──。

 

 

 

 




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