"Stay, Heaven's Blade" Fate said. “「その天の刃、待たれよ」と『運命』は言った。” 作:haru970
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セイバー運営、アーチャー運営 視点
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居間にて士郎は正座を凛にされていた。
三月は凛の怒りが少しでも収まるならと思い、高級な方のお茶と茶菓子の用意をいそいそとしていた。
「で? 昨日アサシンに襲われたと聞いたのだけど?」
「あ、ああそうだな────」
「────『ああそうだな』じゃ! ないわよ!」
「で、でも失敗に終わったんだし、これからはより警戒────」
「────そういう問題じゃない!」
「リン、気持ちは大変良く分かりますが落ち着いてください」
「遠坂さん、遠坂さん! 落ち着いて! ほら、ほら! 高級な方のお茶葉を使いました!! それに茶菓子も!」
「ハッ?! そ、そうね。 一瞬我を忘れたわ。 お父様を思い出すのよ、『常に余裕を持って優雅たれ』。 優雅たれ優雅たれ優雅たれ優雅たれ優雅たれ────」
最後の方をぼそぼそと深呼吸をして、お茶を啜りながら凛は独り言を続けてから士郎をもう一度見た。
「で? 本当にアサシンだったの?」
「えっと、実は…俺は見ていないんだ」
「見たのは私です、リン。 そして
「という事はアサシンが
「あれ? 俺、遠坂に話したっけ?」
「三月が相談しに来たのよ。 それにあんた、昨日何かしたでしょ? 『強化』以外に」
士郎がジト目で三月を見ると『ごっめ~ん☆』と言うような困った顔をし、手を合わせ、士郎に頭を下げていた。
士郎は朝の出来事を思い出し、顔を赤くして三月から目を逸らして凛に答える。
「ッ………『投影』だよ。 昨日は短剣を『投影』したんだ」
「~~~~~」
凛は冷めた視線と「こいつ、マジか?呆れた」といった表情で唸り声を出す。
「わ、悪い! 前回遠坂に話していなかったのは今回が初めて成功した例だからなんだ!」
「へ? でも、『投影』は初めてじゃないんでしょ?」
「あ、ああ。 でも外見が似ているだけで、中身は空洞………と言うか空っぽなんだ。 だからじいさんは“『投影』はやめて『強化』に集中しろ、その方が使えるから”って言ってたんだ」
「うん、そうね。 私も同じ事を言っていたわ………ところで衛宮君、その姿という事はお昼の用意中かしら? 時間も時間だし、ご一緒するわ」
「え、な、おい、ちょっと────」
「────良いじゃない兄さん。 たまには桜達以外と一緒に食べましょうよ」
「三月?」
士郎は三月の目を見ると────
『遠坂さんの機嫌を直す為に協力しなさい!』
『何でそうなるのさ?!』
『このまま返そうとしたら絶っっっっっっっっっっっ対兄さんが後悔するような事になるわ! 主にネチネチとした仕返しを!』
『うげ、それはそれでメンドイ』
『もう一人分の食事で済むのなら安いでしょ?!』
アイコンタクトは一瞬、そして決断(?)も一瞬。
『触らぬ神小悪魔に祟りなし』。
「……ま、今更もう一人分増やしても大差ないか」
「私も手伝うから! と言うか桜なかなか帰って来ないね?」
「ん? ああ、今日は遠出するって言っていたから昼は別々だ」
「ふーん?」
…………………
………………
……………
…………
………
……
…
そしてお昼ご飯の後、士郎達は未だに続く昏睡者と行方不明者事件の事に話し合っていた。
状況の整理と、今後の方針について。
「キャスターがいないのにこの事件が続くという事は、彼女以外にこれらを行っていた。 今の状況で考えられるのはキャスターのしようとしていた事を誰かが引き継いだ。 または何か別の理由でしている。 聖杯戦争と関係しているか否かはまだ不明だけどほぼ関係しているわね、タイミング的に」
「そうだな………魔術でこんな事をするのは確か足りない魔力を補う為だろ?」
「そうね。 それが単なる『貯蔵』か、『行使』の為かはまだ分からないけどこの事件すべてがそれと関わっているのなら厄介な事に変わりは無いわ」
「事件は全部夜の間に起きているんだっけ?」
「ええ、だから私とアーチャーは夜の巡回に回っているのだけど………」
「あ、そう言えば慎二君に声をかけたら?」
「ああ! そう言えば慎二達も夜、遠坂みたいな事をしているんだっけ? アイツにも協力して貰おう」
「え゛」
「??? どうしたの、遠坂さん? 何か物凄い顔になっているけど」
「いや、相も変わらずあのワカメの事を高くかっているなーって…」
「それほどアイツの事嫌いなのか?」
「嫌いと言うか、苦手と言うか………………」
「………わかった、取り敢えず俺とセイバーも明日からは夜の巡回に回る事にしよう。 もし事件の犯人らしき奴がいたら対処するか、互いを呼ぶかにして。 そして慎二に会ったらこの事を伝えるってどうだ?」
「そ、それなら…………まあ良いかな?」
「あ。 士郎、私は? やっぱりコアラ抱き?」
「え? 何でそうなるのさ? そもそも三月には────」
「────一緒に連れた方が良いわよ? 昨日のサーヴァントを『アサシン』と仮定して、一度狙われたのならばまだ狙われている可能性大よ。 同じサーヴァントの近くにいた方が良いわ。 それにある程度衛宮君よりは魔術が使える三月がいた方が戦略的に有利よ」
「よし。 じゃあ時間も時間だし、晩御飯の用意を」
士郎はチラチラと凛の方を見る。
「時間も遅くなって来ているようだし、晩御飯の用意を」
士郎はまたチラチラと凛の方を見る。 が、彼女は依然と動く気配が無い。
「(あ、ヤな予感)」
「あら、私にお気になさらずに衛宮君。 と言うか手伝いましょうか?」
「ちょ、どういう事だ?」
「もうお昼もご馳走になったし、この時間だから晩御飯もご一緒してもあまり変わらないじゃない?」
「いやだから…………後で桜が帰って来て、その上に藤姉が来る予定だからな? 二人の説得は遠坂がやれよ?」
「あら、そんなの想定内よ?」
「兄さん」
士郎は声をかけた三月の方を期待の目で見る。
もしかしてこの状況の打破を────
「────胃薬持ってくるわ」
そしてガクリと肩が落ちる+胃が痛くなる士郎に三月が胃薬を持ってきて、晩御飯の用意を手伝う。
そして玄関が開く音に、凛が迎えに行くと────
「ただいまー……あ、誰かの靴────え? と、遠坂…先輩?」
「あら、お帰りなさい桜。 バッグ持つの、手伝いましょうか?」
「な、何で…………」
玄関から聞こえてくる桜の痛々しい声に士郎は胃を手で押さえる。
「三月……俺また胃が痛くなってきた」
「兄さん、私が用意しておくから休んでいたらどう?」
「…わりぃな、三月。 お言葉に甘えるよ」
そして居間で休む士郎は時折三月の方を見ると、彼女の背中姿で金髪のツインテールがキッチンでユラユラ動いていたのをボーっと見る。
ガタン!
ダイニングの襖を勢いよく開けながら士郎に桜は迫る。
「あ、あの、先輩?! 遠坂先輩が────」
「────あ、ああ。 おかえり桜。 遠坂は俺の体調が悪いって三月から聞いたんだ」
「ええ。 そういう事で、今日の晩御飯は私もご一緒するわ」
桜は納得しているような、納得していないような顔で士郎、凛、三月、士郎、と視線を動かしていた。
「あ! で、でも今日は藤村先生も────」
「────たっだいま~!」
「あら、『噂をすれば何とやら』っていうのかしら?」
三月が鍋をダイニングのちゃぶ台に乗せるというタイミングでご機嫌な大河がそこに姿を現す。
「お帰り藤姉~」
「は~い、三月ちゃん! 今日のメニューは何~?」
「お帰り藤姉、今夜は鍋だよ」
「うおっほー! やった~! 士郎最高~!」
「お、お帰りなさい…藤村先生」
「うん、桜ちゃんは今日も可愛いな~」
「お邪魔しています、藤村先生」
「ええ、遠坂さ……ん………も?」
座った大河がギギギギギと言う効果音を出すような動きで首を回し、ぎごちなく凛の方を見る。
「……………」
またもギギギギギと言う効果音が出そうな首の回し方で今度は士郎の方へと向く。
「………………………………し・ろ・う?」
「は、話せばわかる藤姉!」
「士郎はもう毎度毎度毎度────!」
「────藤村先生、それを続ける前に。 無礼を承知で申し上げるのですが、今日は夕飯をご馳走になっているだけなのですが? 藤村先生こそ、衛宮君の家にチャイムも無しに上がるのは教師としてどうかと」
「わ、わ、私は…私はこの家の監督役なんです! 士郎とみt────衛宮君達のお父さんから任されているんですから、家族も同然なの!」
「そうなんですか。 あと先生? 呼びにくいのでしたら無理をなさらずに。 別に先生が衛宮君をどう呼ぼうと私には関係ありませんから」
「……………………………………………………えー、遠坂さん? も、もしかして桜ちゃんや三月ちゃん達から
「先生のご想像にお任せします♡」
狼狽え始める大河に対して、凛はニッコリと、実にいい笑顔と共に大河に答えた。
そして桜を見る大河に、桜はブンブンと首を力強く横に振り、次に大河は三月を見た。
そして三月の目は泳いでいたのだった。
『三月ちゃん、後でお話があります』
『自分は無実です!』
『だまらっしゃい、後で面貸せやゴラァァァァ!』
『ひぃぃぃぃん!』
と言うアイコンタクト会話が三月と大河の間に流れた。
そして夕食後、少なくとも皿洗いはしたいと言う士郎が皿を割る。 このような事は大河もビックリで、「もしかして遠坂さんと言う部外者がいるから緊張しているのでは?」と挑発的に大河が凛に向けて言った。 そして見かねていた凛が変わると言い、士郎と桜は断るが凛は「ご馳走になったのだし、せめてこれ位はしたい」という事で話は終わった。
その後、三月がガミガミと大河に説教を受けている間に士郎は風呂から暗い、月光で照らされた廊下に出ると庭の近くで外の雪を見ていた凛の姿があった。
やはり『ミス・パーフェクト』の二つ名は伊達ではなく、士郎は思わずその姿に見惚れていた。
そして
「(何なんだ今日は? 今までこういう風に考えた事なかったのに…………やっぱり朝の
「? あら衛宮君。 そろそろ帰ろうかと思っていたんだけど……少し話をしないかしら?」
そこで士郎と凛は話す。
魔術師として育った凛。
一般人として育った士郎。
「自分は快楽主義者」で楽しくなければやらない、と主張する凛。
「自分はじいさんのような『
そして彼にとって魔術は『楽しい』ではなく『
そして彼女は驚愕する。
「じゃ、じゃあ何?! 貴方は自分の為に魔術を習ったんじゃ無いの?!」
「え? あ、いや、自分の為じゃないのか結局これって? 誰かの為になれれば、俺だって嬉しいんだから」
「……衛宮君、良い? それは『嬉しい』であって『楽しい』とは違うのよ? 貴方自身は『楽しい』って思った事とか無いの?」
「…………」
士郎は考える。 深く考える。
それは………
『考えては駄目だ』と子供の頃は思っていた。
あんなに大勢の人が死んで、自分だけが楽しんで生きるなんて、虫の良すぎる話と思っていた。
でも今いざとなって、面と向かい、そう聞かれると……………
「…………分からない。 分からないよ、遠坂。 俺に、そんな資格はあるのか?」
「衛宮君…………………………………………あーもうー! どうして
「と、遠坂?」
「『似てる、似てる』とは思っていたけど、ここまで来るともう『同じ』よ! 見ているこっちが痛いわ!」
そう言い残し、凛はドスドスと何処に行く。
困惑し続ける士郎を残して。
「???」
その後、士郎は何時も通り、夜の訓練に励んでいた。 『強化』の最適化と速度上昇を。
ただ、三月が以前にも言った通り進歩は前から芳しくなかった上に、今夜は体の動きが鈍かったので『強化』をする物体を持つ事もままならなかったほどに。
「シロウ、今夜も魔術の鍛錬ですか?」
そこにセイバーが現れた。
「まあ、欠かさずやれって言うのがじいさんの教えだったからな。 というか教えてくれたのはそれだけだったから…」
「何? では、キリツグは魔術師としての知識も在り方も教授されてはいないのですか?」
「ああ、本人は言っていた。『自分は魔術師らしくない』って。 ほんと、初めて会った時は『頼れる大人』の雰囲気が不思議なくらい子供っぽい部分があった。 『楽しむ時は思いっきり楽しめ』なんて言って、子供みたいにはしゃいでいたし………でも、自由で全然魔術師っぽくなくても……俺にとってはじいさんこそが本当の『魔法使い』だったんだ………うん、言葉にするなら『憧れていた』かな?」
「シロウ、貴方の身体の調子は?」
「………やっぱり気になる程、か。 恐らく、昨夜の『投影』の反動だと思う」
土蔵の入り口にアーチャーが現れ、セイバーはすぐに自分を彼と士郎の間に入れ、警戒する。
「『投影』をしたと凛から聞いてはいたが、やはりそうか」
「何用だ、アーチャー? 我らはまだ不可侵の条約を結んでいる筈」
「凛に頼まれ事をされて帰って来たら話し声が聞こえたものでな」
「用件はなんだよ、アーチャー。 お前の事だから『話し声が聞こえて来たからただ挨拶しに来た』って訳でもないんだろう?」
「珍しく話が早いな。 何、力になれるかもしれんだけの事。 感覚が鈍く、胴体感覚が動く度にずれているのだろう?」
アーチャーが士郎へと歩くが、セイバーは微動だにせず、警告を出す。
「止まれ、アーチャー。それ以上進むのならば相応の覚悟をしてもらおう」
「良い、セイバー。 もしこいつが俺に害を成すのならワザワザ声何か掛けたりしないさ」
「フ、つくづく今日は珍しく話が早いな。 何かあったのか?」
一瞬今日の朝の三月と、さっき会った凛の姿達が脳裏を過ぎる。
「な、何でもない!」
「??? さて、背中を見せて貰えないだろうか?」
士郎はシャツを脱ぐと、アーチャーは自分の手を士郎の背中に合わせる。
「ほう、やはりしぶとい奴だな。 壊死していると思ったが、単に閉じていたものを開いただけか。 お前の状態は一時的なものだ」
「グッ…閉じていたものが…開いた?」
「要するに、本来使われる筈の回路がお前の中で今までずっと眠っていて、放棄されていたのだ。そしてその回路に全開で魔力を通した結果、回路そのものが驚いている状態。 これでお前の回路は現役に戻った、という事だ。 フン!」
「ウグッ?!」
アーチャーが魔力を士郎に流すと、緑色の線みたいな模様が一時的に士郎の身体を巡り、消える。
アーチャーは「自分の仕事は終わった」と言うかのように土蔵を後にしようとする。
「数日もすれば回復するだろう。 そして体が万全に動ける頃には以前よりは幾分マシな魔術師になっているだろうさ」
「………詳しいのですね、アーチャー」
セイバーの言葉にアーチャーが歩みを止める。
「似たような経験が私自身にあって、な。 初めは片腕を持っていかれそうになった」
「アーチャー…………」
「礼は…………言わねえぞ…………」
「それこそこちらにとってはいい迷惑だ…………エミヤシロウ、お前の『理想』は何だ?」
「アーチャー?」
「……………」
「……いや、良い。 忘れてくれ」
「待て、アーチャー! お前は…お前は何の為に戦っているんだ?」
そのまま歩こうとしたアーチャーが振り返らずにまた止まる。
「お前は『願いは無い』と言った、でもこの聖杯戦争に召喚された。 だったら────!」
「────知れた事。 私の戦う意義はただ己の為のみ。 そういうお前はどうだ、エミヤシロウ?」
「…俺の…」
「お前の欲望が『誰も傷つけない』という『理想』であるのなら勝手にしろ。 ただしそれが本当に『お前自身』の欲望ならばな。 自分の意志で戦うのならその罪も罰も全て自分が生み出したもので、背負う事すら『理想』の内だ」
「俺自身の…………」
「だがそれが借り物の意志……『欲望』であるのなら、お前の唱える『理想』は『空想』に堕ちるだろう。 どんな戦いには理由がいる。 だがそれは『理想』であってはならない、決して。 何故ならその為に戦うのなら救えるのは『理想』だけだ、そしてそこに『人』を助ける道はない。 戦う意義とは『何かを助けたい』という『願望』だ」
ここで初めてアーチャーは士郎に振りかえり、彼の目は士郎の目を見る。
「少なくともお前にとってはそうだろう、エミヤシロウ? だが『他者による救い』は『救い』ではない。 そんなものは金貨と同じで、使えば持ち手が変わるようなだけだ。 確かに誰かを救うなどという望みは達成出来るだろう。 だがそこに『お前自身を救う』という望みが無い。 よってお前はお前のものでない、『借り物の理想』を抱いては死ぬまでその行為を繰り返す。 だから『無意味』なんだ、お前の『理想』は。 人助けの果てには何もない。 結局他人も自分も救えない、偽りのような人生が待っているだけだ。 そんな者には理想を抱きながら溺死する末路が待っている」
アーチャーは今度こそ土蔵を後にし、姿を消し、士郎は拳を強く握る。
「……………そんなの…」
「シロウ?」
「そんなの、結局
士郎は半分八つ当たりのように叫び、半分はアーチャーの指摘した「借り物の理想」こそ『要因不足』の一つと彼は感じ始めた。
そしてこの後、凛も衛宮邸に泊まる事になったと知る士郎。
「何でさ?! というか何時の間にそんな話になったのさ?!」
そこには凛が私服姿で腕を組み、勝ち誇ったような顔で士郎を見ていた。
ドヤ顔とも言う。
「アーチャーに宿泊道具一式を持ってこさせたの。それに藤村先生の許可もちゃんと貰ってあるから」
「え? ちょ、待てって────」
「────私は右の客間を借りるわ~」
肩をがっくりと落とす士郎。
そして二人からは見えない周り角では不服そうな桜がこの会話を聞いていた。
彼女は拳を胸近くで握り締めながらその場を後にした。
三月は流石に疲れが感じ始めていたのか就寝する用意を既に始めて、士郎は今夜の魔術の鍛錬を続けるのはやめた方が良いと感じたのか、土蔵で修理していたストーブを地味に魔術無しで取り掛かっていた。
≪私の戦う意義はただ己の為のみだ。 そういうお前はどうだ、エミヤシロウ?≫
未だに士郎の頭をグルグルと回るアーチャーの言葉を一旦忘れようと始めたストーブ修理だが、逆に土蔵だった為考えさせられる士郎。
≪お前はお前のものでない、『借り物の理想』を抱いては死ぬまでその行為を繰り返す。 だから『無意味』なんだ、お前の『理想』は。 人助けの果てには何もない。 結局他人も自分も救えない、偽りのような人生が待っているだけだ。 そんな者には理想を抱きながら溺死する末路が待っている≫
これにより彼は更に集中してストーブを何とか修理する事に成功し、試していた所に閉まっていた土蔵の扉に誰かがノックをする。
コンコン。
「(あれ? 三月かな?)はい?」
士郎がそう思い、土蔵の扉を開けると────
「あ、先輩。 まだ起きていますか?」
────そこには何時もの制服姿の桜…………ではなく私服の桜が立っていて、白をメインカラーとした服が雪が降る闇夜の中で輝いている月のような景色に士郎はドキリとした。
「ぁ…」
「? 先輩?」
「あ、ああ。 すまない桜。 寒いから中に入ってくれ。(な、何なんだ本当に今日は? 桜が制服じゃない服を着て、土蔵にいる……それだけなのに……)」
≪桜ちゃんってさ~、E-カップなんだって~!≫
桜が中に入り、士郎は
「あ、そのストーブ直ったんですね?」
「ッ! あ、ああ。 最初はもうボロボロすぎて三月と俺が二人掛かりで直していたんだけど、三月が危なっかしくて途中からは俺一人で続けたんだ」
「三月先輩が『危なっかしい』、ですか?」
「ああ、何というか………自分の事を蔑ろにするような事をし始めていたんだ。 こう、『一度何かすると決めたらやる』って感じでさ」
「…………三月先輩
「『
「そうですよ? 物分かりが良いようで、実は
「あー、確かに。 三月が色々とすまなかったな、桜」
「あら、私は三月先輩だけではなく先輩の事も言っていたんですけど?」
「え? 最後の方もか?」
「そうですよ?」
桜がクスクスと笑う、士郎は恥ずかしそうに苦笑いする。
「………私、昔は『本当の気持ち』を言わなければ周りは全部上手く行くと、思っていたんです。 でも…………先輩達のおかげで少し勇気をもらって頑張れたんです」
「桜?」
「先輩……………藤村先生に昔聞いた事なんですけど………三月先輩だけじゃなくて、先輩も養子なんですよね? この家に他所から引き取られて……」
「? そうだけど?」
「その…………先輩………………
「………………『解離性健忘』」
聞きなれない単語に桜は顔を士郎に向け、キョトンとする。
「か、かいり…?」
「『解離性健忘』。医者が言うには『記憶喪失』の類だそうだ」
桜の目が見開いて士郎の顔から視線が外されず、ただ彼を見ていた。
「そ、それは────」
「────俺の場合はまだ覚えているモノもあったけど三月の場合、当時
「……………わ、私………知らなかった………です…………」
「まあ、言いふらす事でもないからな」
「でも…………その…………
「ん? この家の事か?」
「…………………はい」
「(あれ、これって遠坂にも聞かれたな?) そうだな………………分からない。
「……………
「ああ…………子供っぽいかな?」
「いいえ、私には………『かっこいい』ですよ?」
それから二人は黙り込み、桜がまた口を開ける。
「もう一つ、訊いていいですか先輩?」
「ああ、いいぞ」
「先輩は……皆の幸せの為に自分の知っている誰かが大怪我したりして、それが無ければ皆が不幸になるとしたらどう思いますか?」
「俺は怒る」
士郎がほぼ即答して、話を続ける。
「それで皆が幸せになるのは嘘だ。 だって、少なくとも『俺』は不幸だ」
「え。 で、でもそうしなければ────」
「────なら他の方法を探すまでだ」
「…………それでも…………方法が無かったら?」
「だったらそうさせない為に頑張るだけだ」
「先輩?」
士郎が多少の苛立ちを込めた声に桜が気になり声をかけるが、士郎はただスト-ブを見ていた。
「自分の出来る事を全部やって、頑張れば必ず方法はある筈なんだ。(そうだ、諦めたらそこで全部終わりなんだ! だったらそうなら無い様に立ち回るだけだ! 『
「先輩……………」
ストーブを力強く睨む士郎を桜はどこか切ない表情で沈んでいたのを士郎は気付かなかった。
「………(ああ、やっぱり
そのまま静かな時間が通り、流石に夜遅くなってきたので桜は何時もの様に衛宮邸に泊まり、士郎は自分の部屋に戻り就寝する前にセイバーに声をかける。
「セイバー、いるか?」
襖を士郎が開けるとそこには二の布団があり、ババ抜きをセイバーとしていたパジャマ姿の三月がいた。
「あ、兄さんヤッホー」
「お疲れ様です、シロウ。 どうしたのですか?」
項垂れる士郎をセイバーが心配する。
「…………何で三月がここに? というか今朝もそうだったな?」
「ああ、うん。セイバーがこうした方が良いって」
「…………何でか聞いていいかセイバー? 朝はビックリしたぞ?」
「ハイ。 アサシン…またはそれに類する程の気配を遮断する敵がまだいると分かった以上、マスタであるシロウと一度は狙われたミツキも守らねばならないと思っての事で、私が彼女に提案しました。 伝えるのが遅れて申し訳ない、シロウ」
「そ、そうか。(今朝のはセイバーの所為だったのか…………)」
「ごめんねセイバー、私って寝相悪かったでしょ?」
「…(いや、あれは『悪い』どころじゃなかった気がする)」
「いえ、気にする事はありませんミツキ。 寧ろ健康の証と思っていますので」
「……(確かに前よりは健康的な肌────じゃなくて!)こ、今度からは先に言ってくれないかな?!」
「ハイ、もちろんですシロウ」
「じゃあお休み、兄さん!」
そしてその夜、隣でキャッキャッと騒ぐ三月の声が気になって士郎はその夜も寝るのが遅くなったが不思議とその間アーチャーの言葉が頭に浮かび来なかった。
作者:ほなお休み
ウェイバー(バカンス体):な?! ちょ、ちょっと待ってくれよ!
作者:うるさいぞ『もやし』! 眠いねん!
三月(バカンス体):あー、『あの子』に会えないからムカついてるんでしょ? ウェイバー君は
ウェイバー(バカンス体):ち、違うからな!
作者/三月(バカンス体):ハイハイ
ウェイバー(バカンス体):バカにしやがって! バカにしやがって!