"Stay, Heaven's Blade" Fate said. “「その天の刃、待たれよ」と『運命』は言った。” 作:haru970
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衛宮切嗣 視点
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『不思議な子だ』。
それが衛宮切嗣の第一印象だった。
その小さな体と、無気力な表情はどこかかつて会ったばかりの『彼女』を切嗣に連想させていた。
ただ『彼女』と違い、『外部の世界を怖がっている』事。 現に『三月』は道中ずっと切嗣の後ろで隠れるようにひっしりとついてきながら、小鹿のように震えていた。
いや、『外部の世界を怖がっている』という事ではなく極端に他者との『触れ合いが怖い』のだろう。
切嗣以外の者が三月の手を取ろうとすると、怯えている顔と共にその場からすぐに逃げようとする。 なので手続きや移動中三月はずっと切嗣から離れなかった。
そして町の北寄りにある純和風建築の屋敷で、『調べものがある』と切嗣は言い、三月を説得して居間に置いて蔵からトランクを持ち出し居間へと戻ると中から子供二人分の声が聞こえてきた。
「怖がる気持ちは分かる。忘れろって言って、忘れられるもんじゃないってのも分かるさ。 けど、いつまでも震えながら現実逃避してたって仕方が無いだろ? ……まあ、困ったことがあったら何でも言えよ。一応……家族になるわけだし」
「…かぞく?」
「いや、だって俺達二人とも養子になるわけだし」
「かぞく……………」
「じゃあ、考えといてくれ」
士郎が居間から出て、入れ替わりに入ってきた切嗣が声を掛けた。
「ごめんね。 士郎に先を越されたけど僕達は家族だ。だから、何でも相談して欲しい。僕に出来る事があれば、何でも言ってくれ」
三月はただ静かに切嗣の目を見る。 長い沈黙が続くのならと思い、トランクを開けようとする切嗣に三月の次に言う言葉で止まる。
「……………………………………こえが、きこえる」
「『こえ』、かい?」
「おとこのひと、おんなのひと、こども、あかちゃん、いぬやねこ。 みんな、みーんななにかさけんでいるの」
「…………………」
「
一旦止めた手を切嗣は動かし、ちゃぶ台の上に置いて行く。
その数々の器具や無機物を見て三月はキョトンとする。
「?」
「質問ばかりでごめんね? でも、もうちょっと付き合って欲しい」
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士郎 視点
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『人形みたいに綺麗な子だ』。
それが衛宮士郎の印象だった。
自分とは歳が一緒位の筈なのに、手足は細く、金髪と白に近い肌と寝ている顔も整って『コレは等身大の人形だ』と言われても全く疑問に感じない程だった。
そして目を開けると、そこにはサファイアのような青い眼が周りを見回した。
本当に、まるで人形の硝子の目みたいだった。
目が一瞬合った時にはドキリとした。
ただいざ起きると不可解な行動をしたり、急に叫んだり、震えたりと忙しい奴だったと、そして────
『────ああ、こいつも俺のように“アレ”を生き残ったんだな────』
────と士郎は思った
そして彼は彼なりに気遣いをした後、切嗣が何か色々と三月と話し込んでいる間に士郎は屋敷を探検して、寝ようとすると隣の部屋からうなされる声が聞こえて、士郎が中を見ると布団の上で毛布の中で丸まり『カタツムリ状態』で震えている三月がいた。
「う…………うぅぅぅ……………」
「おい」
ビクっと三月の体が反応して、毛布の下から彼女がジッと士郎を見る。
「大丈夫じゃなかったら俺達を頼っていいんだぞ?」
「………………」
それでもただジッと見ているだけの三月に士郎はイラついたのか、照れていたのか視線を外しながら頭をかく。
「じいさんも大人だし、お…………俺もお前の『お兄ちゃん』だからな」
「………お…………にい……ちゃん?」
「ああ。 俺達は家族で…………俺が先に養子になったからお前より『上』だろ?」
『先に引き取られたから自分の方が上』。
大人からしてみればなんとまあ、子供らしい考えというか、何というか。
ただ、これは士郎なりの気遣いの一つだった。
何せ彼の前にいる少女は『何も知らない』。
自分の家族、親戚、故郷、好きなもの、嫌いなものも自分の名前も。
士郎も同じくあの大火災を生き残ったが彼にはまだそれより以前の『記憶』がある。
それに対して三月は『無い』。
「………………じゃ、じゃあな。 おやすみ」
まだずっと見られるのは恥ずかしいのか士郎は踵を返して自分の部屋に帰ろうとすると、服が引っ張られる。
「え?」
士郎が後ろを振り向くと、三月が彼のシャツを後ろから摘まんでいた。
「……………」
「な、なんだ?」
「いっしょに……………」
「……………ちぇ。しょうがねえな、『妹』の頼みだからな。これは」
そう言い三月と一緒に添い寝する(渋々していると演技をしながら自分が照れているのを隠す為に)。
「………………あったかい」
「そういうお前は冷たいな」
三月は背中同士を当てている士郎の温もりを。
士郎は三月の冷えている背中を。
そうして夜が更けていく中、切嗣は久しぶりにタバコを吸いながら夜空を見ながら考える。
「(………『アレ』は………
そう考えたところで切嗣の胸がズキリと痛む。
「………何を考えているんだ、僕は。 それは『
タバコがフィルターだけになり、彼は携帯灰皿に捨てて夜空をぼんやりとただ静かに見続けた。
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三月 視点
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その日から何となく考えがまとまったのか、かなり落ち着いた。
次の日からの私にキリツグとシロウは動揺していた姿に少し……何と言うのだろう?
……胸がポカポカした。
未だに【 】の声は聞こえてくるけど、うるさくは無くなった。
せいぜいがひそひそ話程度だ。
これも
そして同じ『小学校』を通うことになり、切嗣が言うには隣の藤村家のお世話になったらしい。
「三月ー、味噌を出してくれないかー?」
「白と赤味噌どっちー?」
「両方」
「はい、お兄ちゃん」
「お、サンキュー」
ちなみに今は
最初は料理ができないから
「三月、洗濯物を見てくれるか?」
「うん」
後洗濯。 お兄ちゃんとおじさんは洗濯機の使い方が不得手………とか言うレベルではなく、単純にお兄ちゃんは使い方が分からず、おじさんは適当すぎる。
流石に黒い靴下と白いシャツを一緒に洗濯するのは無いと思う。
そしてこれにも私はびっくり、何と洗濯機の使い方を手探りで説明書を手に取って読むと【 】の声のようにするりと情報が頭の中に浮かんできて、すごく助かった。
そこからは私が洗濯して、他の二人と一緒に洗濯物を干す。
この時も胸が干した布団みたいにポカポカしたのをよく覚えている。
「ふわぁ、おはよう」
「おはよう、おじさん」
「おはよう、じいさん」
丁度洗濯具合の確認から居間に帰ってくると欠伸混じりにおじさんが着物姿で入って来る。
最初に見た背広姿よりこっちの方が良いと言ったら苦笑いをしながら頭を撫でた。
「二人共、学校の宿題はやったのかい?」
「当たり前だろ。ちゃ~んと、終わらせたぜ。 な、三月?」
「う、うん」
「?」
胸を張りながら元気に返事をするお兄ちゃんと違って遠慮するような態度の私を見ておじさんは「?」を上げる顔をする。
それはそうかもしれない。 だって言えないじゃん。
『
そう、ことごとく私は
あまりモノを知らない私でもこれは異常だとわかる。
だから何とかその場、その場で納得がいくような説明をする。
でも『天才』呼ばわりはちょっと………………
「そう言えば、お隣の大河ちゃん。今度の週末、剣道の大会に出るそうだよ」
「へー」
「すごいね」
『大河ちゃん』、もとい『藤村大河』。 お隣の人の娘さんでまだ会った回数は片手で数えるくらいだけど、おじさんとは結構会っているみたい。
「僕らに応援に来て欲しいそうだよ」
「そうなんだ、じゃあ弁当を多めに作らないとな!」
「はは、そういう士郎は、予定は無いんだね。 三月は?」
「無いけど」
「じゃあ、決まりだね」
「でも剣道かー」
「ねえおじさん、週末の大会までここの道場を貸したら? 学校と部活の後でも練習とか出来るように」
「ああ、それはいい考えかもしれないね。 後で会った時にでも提案してみるよ、三月」
おじさんの顔がニコリと笑いを私に向けると、何故か胸の奥がチクリとした。
と言う訳でもう少しで『藤村大河』の出番です。
今更だけど彼女のポ二ーテール姿は魅力的ですね。