"Stay, Heaven's Blade" Fate said. “「その天の刃、待たれよ」と『運命』は言った。” 作:haru970
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三月 視点
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その次の日の夕方、私とお兄ちゃんが揃ってランドセルを背負いながら帰ってくると、道場で奇声が上がっていた。
覗いてみると、驚いた事におじさんも剣道着を着ていて相手をしていた。
「メェェェェェン!!」
「ドオォォォォ!!」
バシィン!
そして謎の掛け声と共に二人が持つ竹刀がぶつかり合う。
【戦闘技術を確認。
「?!」
急に【 】の声が頭の中に響きながら、対峙している大河とおじさんの姿が
大河を攻撃/に攻撃される切嗣。
大河の攻撃を弾く/躱す切嗣。
切嗣の反撃に横に飛ぶ/正面から受け止める/受け流す大河。
などなどの景色が
「すげぇ」
時間にしてみれば一瞬だったのかもしれない。 隣のお兄ちゃんの声でハッとした私の前には【 】の声が聞こえる寸前の光景だった。
私はまだ若干混乱している頭を振り、お兄ちゃんと一緒に夕飯の準備に取り掛かる。 何せ大河は大食いの上に運動後。
ただ、私の足取りはどこか危なっかしかったのか、お兄ちゃんが「具合悪そうだから休んどけ」って言われた。
「今日は商店街の魚屋さんが、美味しそうな鮭をサービスしてくれたからこれを焼いて足していいか?」
「うん、別に使う予定は無いよ」
「うわー! 美味しそうー!」
入って来てテーブルの上の献立を見て今もポニーテールが頭の後ろで犬の尻尾みたいにブンブンと揺れ、瞳をキラキラしながら大興奮する藤村大河。
「もう、切嗣さんに道場を貸してもらえるって聞いただけで有頂天だったのに稽古までつけてもらって…………その上こんなに美味しい御飯まで! もう、幸せ! ……いっそ、この家の者になろうかな~?」
そういいながら大河は切嗣の方を上目遣いで見ているのに対して切嗣は「ハハハ」と笑いながらあしらう。
…………………………………………何だか胸がチクチクする。
「なあ、爺さん」
「ん? なんだい、士郎?」
「俺も剣道やりたい」
「ああ、いいよ。 ちゃんと士郎の剣道着と竹刀を用意してあるんだ。 三月の分もね。 もし良かったらで、なんだけど」
「え?」
私は目を見開き、お兄ちゃんの方を見る。
「……………うん。 やってみる」
そしてキラキラとした目をしているお兄ちゃんの顔に、胸がポカポカするので私もやってみようと思った。
その後おじさんに一本入れてしまったのが意外だったのか、何故か私は大河の相手をさせられた。
何だろう? ただ
ただ興奮しながら「この子は天才…いえ神童よ、切嗣さん!」とおじさんに迫っていた大河はキラキラしていた。
でもお腹が空くから
…………………
………………
……………
…………
………
……
…
「……………」
小学校での三月はお弁当を食べながら周りを見る。
少女達は小学生なのに誰が誰を好きで、誰が誰を嫌いとかがハッキリしていて、派閥も存在している。
化粧がどうとか、最近のアイドルはどうだとか、三月にはついて行けなかった話題ばかり。
士郎はあっさりとクラスに溶け込む事が出来たのに対して、三月はそう出来なかった。
彼女の人見知りが以前よりかなり軽減されたというものの、完全ではなく、どこかビクビクとしているのも理由の一つだった。
もう一つとしては、彼女の見た目が周りと比べてあまりにも完璧過ぎて男子は声がかけづらいらしく、女子からは妬みなどの対象になり壁を作られ、距離を取られていた。
これを見ていた士郎は────
「────なあ、藤姉。 友達って、どうやって作るんだ?」
「……………へ?」
剣道大会で圧勝してからも、変わらず衛宮家の道場で稽古に勤しんでいる大河に士郎は問いかける。
士郎は見かねて三月を自分の知人達との仲間に入れようとしているが、他の子達があからさまに嫌そうな表情を浮かべたり、腫物や壊れやすいものを扱うかのような態度を取っていた。
「(確かに
「う~ん、そうねえ…………三月ちゃんはどんな子とお友達になりたいのかな? 後、どんな事が好きなのかな?」
「え?」
士郎はそこで気付く。 三月の事を未だにほぼ何も知らない事を。
確かに会った当初と比べれば良く喋れるようになったし(士郎の口調に似てきているのは気のせいだ、ウン)、家では以前のようにただボーっとしているわけでもなく剣道の修行とかにも付き合ってくれている。
だが結局は全て衛宮家での話。 ましてや必ず自分か藤姉か
三月が自分一人になった所をほとんど見ていない上、自分から行動するのを見た事が無い。
「うーん、どうだろう」
「ねー、ちょっと難しいよねー。先ずはそこからだと思うの。 三月ちゃんがまずどんな人とお友達になりたいかを分かって、その次にそのお友達はどんな人と友達になりたいかを考えてみるの」
「うーん………」
そのようなやり取りをしている間、三月は台所で下ごしらえをしながらテレビを見ていた。
ザクザクザクザクザクザク。
「────では次のニュースです────」
普通はとても危なくて誰もしようとも思えない事を三月は平然とやっていた。
この様に並行思考と行動が出来ると知ったのは先日、切嗣や士郎や大河や藤村組の人達といった大勢の人達の好物や弁当等を用意する時に『全部同時に出来たら時間を短縮出来るか?』とふと思い、やってみたら意外と出来てしまった。
こう、まるで自分が何人もいるかのように思えて、考えて、行動してしまうのだ(何度も誤作動で怪我をしたのは皆には秘密にしている)。
そこからは手探りで試してみるのが時間潰しに繋がり、今では家事全般の上現在のニュースや世間の話題をほぼ同時に一人で出来るようになっていた(タイミングさえ間違えなければ)。
と言うか、してしまう。
何せ【 】の声も並行思考で自動処理出来る事に繋がったのは良いが、まだまだ『
けど、それが無ければ後で
これの応用で以前『知りたいと思って手にしたモノ』の『理解』を抑えられるようになった。
「やあ、三月。 精が出るね」
居間に入ってきた切嗣はどこかから帰って来たばかりなのか、前に見た背広姿だった。
彼の顔は以前に増してやつれていて、痩せ衰えていた。
「お帰りなさい、おじさん」
「ああ、ただいま」
何故か
────この人が死へ近づいていくのを
何故かは分からないし、彼女は知りたいとも思わなかった。
が、切嗣が何回か何処かへ出掛ける事を三月は
以前洗濯物を士郎に任せていたら、手違いで三月の既に洗濯してあった服まで回してしまったのだ。
しかも発覚したのは士郎が「洗濯を回すから洗い物出してくれ」と言い、彼女が自分の部屋のドアからパジャマを渡した後、替えの服を着ようと思った時に気付いた。
替えの服が無いと、パンツ姿のまま居間に入ってきた時は切嗣と士郎も動揺した。
三月は別段気にしていなかったので「今日はこれでもいい」と言ったが二人に断固反対されたので三月は衛宮邸のタンスなどををあさり、女性物を
「────ぁ────」
「わぁ…………」
────切嗣が持っていたお茶を落としてお兄ちゃんと共に口をあんぐりと開けていた。
「大丈夫、
何故自分は『おじさん』ではなく『キリツグ』と言ったのかは三月自身にも分からなかった。
あえて言うのなら、ただ彼女の着ていた服から『
この
だが切嗣は落としたお茶などどうでも良く、気付けば泣きながら三月を抱きしめていた。
「う…………ううぅぅぅぅ……アイリ…………イリヤッ!」
「じ、じいさん?」
士郎は初めて見る切嗣に戸惑い、三月は何が起きたのか分からず、とりあえず慰めようと思い、切嗣の背中を撫でると様々な声と景色と
それはある男が辿った人生で────
────未だに後悔を続ける者の悲惨と悲哀に満ちた物語だった。
その同じ日に切嗣は「少し海外に用事がある」と言い、蔵で支度しているところを三月が目撃して、「手伝う」と言ったところを作業中の切嗣に断れた。
だが切嗣の必死になっている姿に三月は意外に食らいつき、切嗣は思わずイラついた声で彼女に叫ぶ。
「君まで失いたくないんだ、
ビックリして、怯える様子の三月に切嗣は自分が叫んだ事に気付き、やるせない表情で三月にひたすら謝りながら最後に出かける前に一言お願いをした。
「もう、
そこから切嗣は何度も出掛けるようになり、帰ってくる度に身体は弱って行き、やがて立って歩く事もやっとの事で短時間でしか出来ないようになった。
段々と彼が帰って来た後の彼の荷物などの整理を三月が自発的にやり始め、彼がそれを咎める声も弱々しくなっていった。
「じいさん、お帰り」
唇を尖らせ、お兄ちゃんはおじさんに魔術の事で愚痴を零していた。
おじさんが初めて海外から帰ってきて、お兄ちゃんが『魔法使い』のおじさんに魔術を教えてくれと迫った。
最初は断り続けていたけど、お兄ちゃんの熱心な言葉に折れて、今ではおじさんが片手間に教えてくれている。
お兄ちゃんの魔術は
自覚は全く無いが。
私はと言えば初めてここに着いた時におじさんが器具などのモノを使うと、私は
あとおじさんが使える魔術を一通り見聞きした後、私が
「このような芸当は不可能」とか「自然の理を外れている」とかブツブツと独り言を言っていたが私に聞かれても困る。
『やってみよう』と思ったら『出来た』のだから。
あと【 】の声とかの事でも色々とおじさんと相談して試してみたところ、ある程度は自分の意志とかで軽減出来る事が分かった。
おじさんを触っても【 】は無反応だったけど、それは有機物だけに限らず無機物の者も反応する事が分かったのは幸いだった。
通りで何も触っていないのに【 】の声が聞こえて来る訳だ。
最後に『起源弾』って何?と聞いたら固まりすぎて、その時タバコを持っていた指を火傷してしまった。
だって、子供に『銃の弾丸』なんて物を握らせるのはどうかと思う。
しかもそれがおじさん特有の魔術礼装だったのを聞いて、私が今度はビックリした。
とりあえずお兄ちゃんには悪いけど自分の事は秘密にして、お兄ちゃんはお兄ちゃんなりに成長させる方針でおじさんは行くみたい。
『君みたいな子は恐らく何百万、いや何千万に一人の才能だ。比べられたりしたら士郎がいじけてしまうも知れないからね』と言ったので、私はお兄ちゃんの成長具合に合わせている。「これも練習になるしね」とおじさんも言っていたし。
「お兄ちゃんのごはん、テーブルの上にあるから」
「お、サンキュー」
お兄ちゃんがダイニングへと移動し、おじさんが不意に私のいるキッチンまで来て、私にしか聞こえない小声で話しかけてくる。
「ごめんね、三月…………もしかすると、君は気付いているかも知れないけど────
────僕はもう、長くは無い」
三月はいつもの表情を変えず、ただ頷いた。
「私に出来る事はある?」
「士郎の事を頼む。 彼は、僕から見ても少し危なっかしい所があるからね」
「恐らく原因の本人にそう言われても困る」
「ハハハ、手厳しいな」
お兄ちゃんはおじさんに憧れている。崇拝しているといっても過言ではない。
弱い者虐めをしている者がいれば例え上級生や中学生に高校生、果ては大人だろうと喧嘩を挑みに行く。
「でも出来る事はする」
「ああ、ありがとう。 でも……………僕は彼が考えているような大人じゃないんだ」
これも
普通の家庭環境、ましてやこの国の『日本』に『銃』など必要ない。
私が『あの服を着た日』からおじさんは時々私に話をしに来る。
他の誰にも聞かせたくないようなものを。
「僕は、本当は彼に謝らなくてはならないんだ。 彼が家族達を失ったのは僕の所為なんだ。 あの大火災の原因は僕にある。 全部………全部、僕が悪かったんだ」
おじさんは
「うん、
「グスッ………
「それは無いよ、
「み……つき?」
「お兄ちゃんは恨む事は絶対に無い。感謝はすれど、恨むことは無い。 私は………まだまだ何も良く分からない。 だけどこの思いを『表現しなくてはならない』とすれば………『ポカポカしている』と思う。 これはお兄ちゃんも感じている筈」
「ッ…………………ありがとう…………三月」
おじさんは涙を袖で拭き取り、急に真剣な顔で私を見る。
「………何?」
「何時か、君より白い髪で………赤目の女の子が来るかも知れないし、来ないかも知れない」
「???」
「多分、会ったとしても友好的な対面はないと思う…………でも、もし会えたのなら………………どんなに酷い対面でも、どうか……………嫌わないで上げて欲しい。 彼女は…………僕の犯した大きな罪の一つなんだ」
「分かった」
あっさりと三月は頷き、切嗣は一瞬目を見開き、いつもの穏やかな笑みに戻る。
「本当に…………ありがとう、三月」
どこか諦めたような、少しだけ安心したような声で切嗣は感謝の言葉を告げる。
元より身寄りも無く、自分の事さえ何も分からない上、優秀な魔術師で切嗣の魔術を見よう見真似で行使出来るような、怪しい所満点の三月をほぼ無条件で引き取り、世話をしてくれた彼の頼みを三月が聞くのは簡単だった。
…………………
………………
……………
…………
………
……
…
それから数日後、月の綺麗な晩に三人で軒先に腰掛けて話をしていた。
「ええええぇぇぇ?! そんな理由で名前を『三月』にしたのか、じいさん?!」
何と、彼が『三月』という名前は当時、夜になりつつある夜空に浮かんでいた『三日月』から取っていた事が判明した。
「うん、僕も自分のネーミングセンスの酷さは分かっているつもりだよ。 ごめんね、三月?」
「ううん、私は…………この名前を…………嫌ってはいないよ」
「そうか…………」
そこから自然と静かになり数分、お兄ちゃんはおじさんの昔話を聞いた。
「……子供の頃、僕は正義の味方に憧れていたんだ」
「………おじさん?」
不意に雰囲気が変わったおじさんの手を掴むと、酷く冷えていて生気が感じられないのに目を見開く。
まるで壊死した木の枝みたいな感じがしていた。
切嗣は三月に一瞬向き、弱々しく微笑んでから、士郎の方へと向き返す。
「なんだよそれ? 『憧れていた』って、諦めちまったのかよ?!」
「うん。 『
────何で。
三月は胸の奥がザワザワとする感じが膨れ上がった。
「ふぅん………それじゃしょうがないな。 でもしょうがないから────」
────
「────
切嗣を掴む三月の手に力が入る。
「────だからじいさんの夢は、俺に任せろ!」
「そうか………安心、した」
そう言い残し、切嗣は座りながら静かに目を閉じる。
────ケリィはさ、どんな大人になりたいの?
────僕はね、正義の味方になりたいんだ
不意に
────衛宮切嗣、享年34歳で息を引き取った。
…………………
………………
……………
…………
………
……
…
多くの人が大いに泣いた。
お兄ちゃんただ一人を除いて誰もが皆、豪勢に泣いた。
『悲しみ』という感情に皆が浸ってそれが場に溢れて更に皆をもっと泣かせていた。
そうに違いない。
だって、そうでなければ私の涙腺
【告。 『
余談ですが、切嗣のネーミングセンスが酷いと設定してあるのは自分がFate/Zeroで久宇舞弥を聞いた時、「え? もしかして『ひさう………………ま、いいや』から取ったのか?」と思ったからです。
もし楽しんで頂けたら、是非お気に入りや感想、評価等あると嬉しいです!
あと、もう一つの作品の“バカンス”でのケイネスへ合掌。
え? “バカンス”みたいな後書きコントですか? まあ、もし皆さんが良ければこれから入れますが…
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“バカンス”みたいな後書きコントがあった方が良いかが否か
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有り
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無し
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寧ろそれを見に来たんだが(有りと同じ)
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毎日投稿の方が良い
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文章長くても良いから!