"Stay, Heaven's Blade" Fate said. “「その天の刃、待たれよ」と『運命』は言った。” 作:haru970
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セイバー運営、イリヤ、衛宮士郎、アーチャー+ランサー運営 視点
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あれから数分、と言っても士郎達やサーヴァントの皆にすれば数時間ほどにも感じられる数分であった。
何せ周りは蟲、暗闇、蟲、暗闇、蟲、暗闇だらけ。
時間の感覚がおかしくなり始めるぐらいの『呪い』の中に皆は居た。
その皆が明らかに疲労していて、汗を全員が搔き、車はボロボロの状態だった。
凛が少なくなった魔力を補充する為に震える手で何個目になるか分からない宝石を飲み込もうとして、もう一つの手で胃の中身が外に出るのを阻止して無理やり体に飲み込ませた。
士郎は腫れて赤くなり握力が低下していた両手で『投影』した弓に『投影』した矢を構えようとして、震える手が滑って矢を落とし、彼はそれを拾上げて、矢を射る。
三月は狙いを定めず、矢を完璧に引く事もせずただただ矢を構え、弓を射る度に両手から滲み出ていた血が自分とあたりに撒き散らされる。
ランサーも最初は雄叫びなどを上げていたのをやめて、それに使う元気を槍捌きとルーン魔術に振っていた。
アーチャーは初めからほとんど無言だったのが更に静かになり、
そしてセイバーは息を切らせ、髪を束ねていたシニヨンがほぼ解けて彼女の髪の毛が汗によって自身の顔や首に張り付いていた。
ちなみに甲冑姿ではなくドレス姿だった。
これは防御を捨てた訳ではなく、ただ甲冑に回す魔力が無くなっただけの事。
イリヤは運転に全神経を使い、体の機能の事もありほぼアーチャーのように行動が機械化していた。
その姿の皆は先程の凛によって引き出された空元気など微塵も残っておらず、ただ『消耗戦』に挑んでいた戦士達の姿そのものだった。
「……………
「「「「「?!?!?!?!」」」」」
突然セイバーが言い出した事に皆がギョッとして、息を止めた。
こんな状況で車を降りれば、すぐに蟲達の餌食になってしまう。
それはそこの誰もが容易に想像でき、それは人やサーヴァントも関係なかった。
「自殺行為だぞセイバー?!」
「そうよ! 何の意味も無いわ!」
「いいえ。 それは違います、シロウにリン。 こうすれば
セイバーの返事に士郎と凛の口がぴたりと閉じた。
そこには『覚悟を決めた戦士』のセイバーが居たからだ。
セイバーはもとより、死を覚悟していた身で契約を成し、聖杯戦争にその身を投じた。
だがそんな彼女でも士郎や三月、アーチャーといった者達との触れ合いなどで若干『人間』としての心の在り方を取り戻していた為、久しぶりに「目前に迫る死はとても恐ろしいもの」と感じていた。
「死にたくない」。
そう叫びそうになる。
「自分から死神の鎌に首を差し出したくない」。
そう言いたくなる恐怖が確かにあり、騎士である身なのに無様に生にしがみ付きたくなる衝動もあった。
それでも
一人を除いて。
「え? (何で────)」
それは、久しぶりに胸の中が痛むほどザワザワしていた三月だった。
「…………惨い死に方かも知れんぞ、セイバー」
「覚悟の上です、アーチャー」
「それに俺との試合、どうするんだ? 放棄するのかよ?」
「申し訳ありません、ランサー」
「そっか、じゃあ令呪を全部使うわね?」
「ありがとうございます、リン」
「セイバー…………俺は………俺は────!」
「そのような顔をしないで下さい、シロウ。 もとより私は過去の人間、もう既に滅んだ身なのです。 貴方とミツキ達に会えて、私は本当に幸運な者だと思っています」
「セイ………バー………私、貴方と…………色々話をしたかった」
「イリヤスフィール………」
「もっともっとキリツグと…………お母様の話をしたかった………」
「……………」
「前みたいに雪ダルマを作りたかった! 散歩したかった! 一緒に遊びたい! 行かないで、セイバー! 私、お母様たちだけじゃなくて貴方まで失くしたら………私…………私────!」
「
泣きじゃくるイリヤがビクッと跳ねて、セイバーは言葉を続ける。
「私も出来れば、かつてのようにもっと時間を一緒に貴方と過ごしたかったです。 夜でのババ抜きの勝敗も決めないといけなかったですしね」
「…………アレは貴方を素通りするかも………………しれないよ?」
イリヤはそれでも僅かな希望にすがる。
「それは無いですね。 アレは『呪い』であると同時に『聖杯』。 サーヴァントである私を求める筈です。 その分の蟲達が私へと割くでしょう」
だがセイバーの言葉にとうとうそれさえも一刀両断される。
「………………ウ……ウゥゥゥゥ!」
イリヤがとうとう泣き始め、セイバーが優しく後ろから彼女の頭を抱きしめる。
それは、泣く子供をあやす母親の姿に似ていて、三月の胸が更にザワザワした。
「貴方達は生きて、この状況に終止符を打ってください」
そして最後にセイバーは未だに混乱する三月へと向く。
「ミツキ、私は貴方と会えて本当に良かったと思います」
三月の耳朶にドクンドクンとした音がしていた。
それは【 】の声さえも凌駕するほどだった。
────しんぞう の おと が うるさい
「貴方は士郎の次………いえ、最近は彼よりも鍛えがいのある弟子でした」
胸のザワザワとした感じの上にジクジクとした痛みが広がり始める。
────むね が はりさける よう に いたい
「
「ッ!!!」
────ああ……………………………………………………………………
セイバーはシートを蹴って、着地する。
────なにか いますぐ いわないと また こうかい する
「~~~~~~~!!! セイバァァァァァァァァァァァァ!!!!!」
三月はただセイバーと叫ぶ。
既に遠くなっていて、聞こえているかどうかも分からない距離。
だが三月は確かに見た。
セイバーが儚い笑みをしながら一瞬、三月の方を見たのを。
その姿の彼女は────
────
車がドンドンと進み、涙を流す
そして心底悔しそうな顔をする
三月は────
────ただ唖然としていた。
「なんで?」と言う疑問がグルグルと彼女の中で回っていた。
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セイバー 視点
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「ハァ! ハァ! ハァ────!」
セイバーは地面に着地した瞬間、
彼女は皆の前では気丈に振る舞っていたが、彼女の霊核はボロボロで崩壊寸前だった。
アーチャーも宝具を連発していたが、二人の負担の差は歴然としていた。
アーチャーの宝具『ブロークン・ファンタズム』は彼の特性上、連発を可能とする上にそれを想定していた技である為、自己負担が圧倒的に少ない(弾数に一応限りはあるし使う魔力も高いが)。
その反面、セイバーの宝具『エクスカリバー』はここぞという場面で敵を一掃する、
しかもアーチャーとは違い、負担は全てセイバー自身に跳ね返る。
凛と言う優秀なマスターがいて尚、無理をして『エクスカリバー』連発の代償は彼女にとって文字通り致命傷だった。
アーチャーもセイバーの性格上、この事は想定したものの、彼の計算上ではもうとっくに協会に着いていた筈だった。
だがまさか蟲達の増殖がここまで高い事と、『泥』が均等に広がって行く事無く、『聖杯』が彼らサーヴァント達へとまっすぐ来るような『執着心』を持っていた事を甘く見ていた。
最後の『執着心』がセイバーの囮となる行動を後押しした事もあり、アーチャーが仕方なく彼女を行かせた理由の一つだった。
「ボロボロのサーヴァントを無理してでも連れていき、全滅するよりはそのサーヴァントが派手に動き出来るだけ多くの敵を引きつき、道連れにする」。
何とも、
無論、ランサーもこの囮に使えたのだが彼の『
一応投擲も可能だが、アーチャーが教会で放った剣達が『泥』と接触した瞬間、黒く変質して飲み込まれた事を配慮すると、恐らくランサーは一度の投擲で槍を失うだろう。
槍の失ったランサーの戦力的減少は無視できないほどであり、それならばやはりセイバーと自然と矢先が行く。
アーチャーも自身の幅広い、
「ハァ! ハァ! ハァ────! (キリツグは
「地面そのものが蠢いているのでは無いだろうか?」という錯覚にも見える程の蟲達の群れが走っている彼女に迫っていた。
セイバーは近くのビルの屋上に魔力放出で一気に上がり、各場所で燃え盛る新都を眺めた。
「(カムランを思い出させる。 あの時も私は独りになった。 だが今は…………)」
セイバーは胸に空いた手を置き、確かに鼓動する胸と、温かい感覚に包まれていたのを感じる。
それは
「────ッ! 来たか!」
一瞬思いに浸りそうになったセイバーが来たる
ビルの屋上によじ登った
「来い!」
セイバーはギリギリまで待って、引き寄せた後に『
「『エクスカリバー』!!!」
包囲しようとしていた蟲達を宝具の射程範囲内に納め、一気に焼き払う。
またも幻想的な場面が光によって作り出される。
その景色にセイバーはちらりと士郎達の車の方向を見て、笑みを浮かべる。
やはり
「ゴホッ」
ゴポリと血がセイバーの唇の隙間からだらだらと零れ、彼女は左手で脇腹に空いた大きな穴を押さえた。
「(やはり
≪ある程度魔力を確保し、聖杯の疑似降誕。 それを利用して、残っているサーヴァントを殲滅し、真に聖杯を確保する。それが少なくともそこの間桐臓硯
それはアーチャーが説明した、教会での言峰綺礼の言葉だった。
そしてこの『蟲』と『泥』が『間桐臓硯』と『聖杯』ならば、サーヴァントである自分を優先して襲いに来るはずとセイバーは睨んで、アーチャーは
「(恐らく、彼の事ですから私がこのような行動に出るのを防ぐ為ですね)」
そして案の定、それは的中していた。
アーチャーの思惑も、
「(戦力を分散し、別個の場所に潜ませるとは………その状態になりながらも、考えたモノですね)」
何もセイバーの正面に立つ必要はなく、地面から這い出る事や第二、第三派とずらして波状攻撃をかければ良い。
「『エクスカリバー』!!!」
特に、向かって来る敵をまとめてなぎ払う戦法しか取れない彼女のような者にとっては。
「ハァ…………ハァ…………ハァ…………(シロウ、リン、アーチャー、ミツキ、サクラ、ランサー、ライダー、そしてイリヤ…………出来る事ならば……………)」
周りからまた蟲達が押し寄せ始めて、股を着きそうになる半透明のセイバーは何とか踏み止まる。
「『エクス────!』(誰かの為に命を賭けられる者と言う『騎士』ではなく、シロウの言っていた『自分の周りの者達を守る』────)」
セイバーは宝具開放の雄叫びをもう一度上げ、剣を振るう。
足と下半身が消え────
「『────カリバー』!!!(────『正義の』……………『味方』に…………)」
────胸元と腕までもが消え、剣を振るい切られる頃には手首しか残っていなかった。
だがそのおかげで剣から放出される風の刃に、その場に集まった蟲の全てが切り裂かれ、聖剣は屋上に突き刺さり、
「……………………………………………はッ?!」
セイバーがビクリとして、
「ここは……………
そこは数々の騎士の死体や戦争の武具らが地面を覆っていた、セイバーにとっては
「そうですか、私は
彼女は生前、生きている内に契約した為、聖杯戦争で負ける度に
以前、切嗣に令呪を使われて『聖杯』を壊し、自身が消滅した時も
だが────
「(────妙だ、
そう、本来ならセイバーがここで気が付くのはモードレッド卿が聖槍ロンゴミニアドを持ったセイバーを打ち取った直後に戻る筈。
なのにセイバーに死にながら彼女を罵るモードレッド卿の姿はおろか、セイバーの手には聖槍ではなく
「これは、一体────?」
『やあ、君が“セイバー”かい?』
男か女、果ては大人か子供と言った、様々な声帯が混じりあったような声がどこからともなく辺りに響き、セイバーは戦闘態勢に入る。
「誰だ貴様?!」
『あれ? 視えていないのか? 少し待ってくれ────』
暴風のような風が風吹、セイバーは左手で顔を覆い、流れが止むとセイバーの前には────
────
「誰だ、貴様?」
『あー、こうなるか。 ま、いいや。 君は“選定のやり直し”をしたいんだっけ?』
セイバーの肩がピクリと反応すると、影がニヤリとした様な気がセイバーにはした。
『“選定のやり直し” ぐらい、させてあげるよ?』
「…………さっきの問いをもう一度だけする。 貴様は誰だ?」
『あれ? 視て解からない? 君達が考えている“
「ほう? それを私がそう易々と信じると思うか?」
『信じる、信じないは君の自由さ。 さっきのは確認だけ。 では君が何時でも
「貴様、待て! クッ!」
影から眩い光が一気に発し、セイバーは目を閉じるのをギリギリまで我慢したが結局瞑ってしまう。
そして気が付けば────
「
────目の前には
「なッ?!」
セイバー────いや、
そこには
「ん? 今更手の汚れを気にするのかい? 変な子だね、君は」
フードを被った
「貴方は………
「ッ! いやはや参ったなぁ、これは! 僕は名乗った覚えはないんだけどな~…………どれどれ………………何と?! 君は
「ハァ…………貴方は変わらないのですね」
「うん? うん、まあ…………僕も色々あるからね……………決めた!
アルトリアは笑みをしながら────
────『選定の剣』に背を向けた。
「そうか、君は別の者が王をやれば上手くやれると思うのか」
「少なくとも、その可能性はあるでしょう」
こうして
それから年数が経過し────
────統一されなかったブリテンは滅びの一途を辿った。
『選定の剣』を取らなかった日から未だに内乱や、視野の狭い領主達は手尾を取らずに自らの武勲の為に団結せずに外来する敵に応戦し、各個撃破されていった。
それは、アルトリアの住んでいる場所も例外ではなかった。
「ぐああああああ?!」
「ハァァァァァァァァァァァァ!」
「クソ、女のくせに強い!」
「こいつが噂の『女騎士』か!」
そしてブリテンは滅んでいく中、アルトリアの村は夜襲をかけられ、襲われる中で抵抗をしていた。
幸い生前……………いや、『アーサー王』として活躍していた技術や学はあったので女性と言うハンデがありながらもその地では屈指の女戦士として活躍した。
『弱きを助け、害ある強き者達から守る』。
その姿は正に『騎士』だった。
だが『王』ではなく、ただの『人』として生きた彼女には共に戦える仲間は存在せず、最終的に圧倒的数によって押し潰される。
「グッ!」
右手を手首の先から失ったアルトリアは敵に串刺しにされた足と自身の返り血と土煙によって綺麗な見た目は見る目も無かった。
「ハァ、ハァ、ハァ、て………てこずらせやがって」
「へ、へへ………けどやっぱり噂通りの
深手を負っても目麗しい女性に育ったアルトリアは敵に捕まり、文字通り死ぬまで性欲と鬱憤の捌け口として犯され、暴行に会い続けられる日々が続いた。
来る日も来る日も
それは
体の痛覚や触覚といったモノはとうの昔に麻痺していて、彼女は最後の生気体から抜けて行き、重くなる瞼を閉じながら思う。
「他に方法が無かったのか?」と。
そして彼女の視界と共に意識が薄れていく…………………
「それを手にする前に、きちんと考えたほうがいい」